Vanessa-Mae @ Royal Albert Hall


30 June 1995

 見てまいりました、ヴァネッサ・メイ

 彼女はまだ16歳、シンガポール生まれでロンドン育ちのヴァイオリン奏者。クラシック音楽界で神童と騒がれ、10歳でオーケストラと共演、12歳からは海外ツアーにも出ていたとか。それがこの春、ポピュラー音楽にクロスオーバーした "THE VIOLIN PLAYER" アルバムをリリースして、ポップス/ジャズ/ソウルなど幅広いスタイルの演奏を聴かせて大ヒット。

 このアルバムからのシングルヒットは次の通り。

"Toccata And Fugue" (UK#16/95)
"Red Hot" (UK#37/95)
"Classical Gas" (UK#41/95)

 ロイヤル・アルバート・ホールの会場の様子は、5月にキング・クリムゾンを見た時のレポートでお伝えしちゃったし、今日のコンサートはライヴ録音&ヴィデオ・シューティングされちゃったので、そのうちライヴアルバム/ヴィデオの形で日の目を見るかもしれません。そんなわけで、さくっと軽くレビュウしましょう。



 はっきり言って、やっぱり神童かもしれない。
 天才少女の片鱗をそこかしこに感じさせるライヴでした。基本的にはとてもショウアップされたステージ。ドラム/ギター/サックスなどのバンドをバックに、銀ラメの超ミニのワンピースドレスをひらひらさせて黒人ダンサーたちと踊りながらヴァイオリンを弾きまくります。もちろん途中にはクラシックファンのためのコーナーもあり。ブラックの巻きスカートを着用して、ヴァイオリン4本+ヴィオラ+チェロ+ピアノをバックに、パガニーニなんかの超絶技巧モノを聴かせたりも。

 "THE VIOLIN PLAYER" アルバムの楽曲はスタジオ盤よりも何倍も説得力がありましたし、ライヴならではのカヴァー曲も楽しめました。例えば Rednex の "Cotton Eye Joe"、Michael Jackson の "Black Or White"、Whitney Houston の "I Will Always Love You" なんかを無邪気に弾きまくるヴァネッサの可愛いことといったら。特に Whitney のあのコブシ回しをヴァイオリンで完全に再現したのにはびっくり。

 ヴァイオリンという楽器は極めて空気振動系・共鳴系の楽器ですから、レコードで聴くのと、ライヴで直接振動する空気を体験するのとでは生々しさが全然違います。ライヴを見て、あらためて惚れ直しました。ちなみにすごくおしゃべりな女の子で、ニコニコしながら1曲ごとに過剰なくらい細かく解説&雑談してくれるんです。演奏中のテンションとの落差が大きくて、テクニックはすごいけどやっぱり16歳の女の子なんだなあと。もちろん彼女の若さと現代に対する豊かな感性が、小難しくなりがちなクラシック音楽界に新風を吹きこんでいるわけで。

 アンコールは大ヒット曲 「トッカータとフーガ ニ短調」 で盛り上がります。曲の途中でステージから飛び降りて客席の間を走り抜け、場内騒然。僕の見ている席のほんの1メートル前までやって来てソロを弾きまくってくれました。近くで見ると上半身などすごく華奢で、まだまだ発達途上。もう少しで手が伸びるところだった…(^_^;)\('_') オイオイ

 ライヴ映像が出た時、ヴァネッサの後ろで目がうつろな日本人がいたらそれが僕である可能性大。


February 2002 追記

 この時のライヴは、"Vanessa-Mae: Red Hot Live at Royal Albert Hall" としてビデオ発売されています。残念ながらまだ見たことがないので、僕が出演しているかどうかは分からないわけですが、それはともかくとして、この後ヴァネッサはポップフィールドではそれほど大きなヒットは飛ばしていません。98年には "STORM" というポップアルバムを発表していますし、これら以外にもクラシックものは何枚もリリースしている彼女ですが、どうにも中途半端な位置に追い込まれているような。ただ、Janet Jackson の "VELVET ROPE" のオープニングで、チューブラー・ベルズのリフに乗って素晴らしいヴァイオリンソロを弾いていたのは印象に残っています。

 滞在中にクラシック好きな英国老婦人とヴァネッサについて話す機会がありました。「あの子は本当に神童だったのに、一体何なの、あの短いスカートは。ヴァイオリンを弾くのに肌を露出する必要なんてありません!」 と苦々しく呟いた彼女の表情が忘れられません。「いや実は先週、ロイヤルアルバートホールで見てきたばっかりなんすけど…」 とはついに切り出せずじまい。ちなみに、この日ヴァネッサの前座を務めたキキ・ディーもすばらしいアコースティック・ライヴを聴かせてくれたことを追記しておきます。


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