1 July 1995
"I'll Manage Somehow" に続く2nd シングル "Daydreamer" が全英チャート初登場14位と大ブレイクの Menswe@r
のクラブギグをマーキーで見てきましたのでご報告。何といっても今一番輝いている
『ネオ・モッズの最終兵器』 です。マーキーはこれ以上は無理というくらいのぎゅうぎゅう詰め。まだシングル2枚だけ、アルバムすらリリースしてないってのに、どういうことなの?
開演前から興奮していた観客も、冴えない前座が2つも続くとさすがに疲れてきます。特に今日のオーディエンスは20代の男の子と、Shampoo
みたいなカッコしたティーンの女の子がメインなので、忍耐とも寛容とも一切無縁。1階のフロア前方に、それこそ
Shampoo の2人そっくりの女の子が来ていて、周りのロンドンっ子たちもザワついていたのだけれど、案外ホンモノの Shampoo だったかも。片っぽが Menswe@r のメンバーと恋仲なのはご存知のとおり。
さていよいよ彼らの登場。客電が落ち、会場に
Take That の "Back For Good" が流れると、場内はくすくす笑いに包まれます。「こんなアイドルものを聴いてるのかい、ロンドンは?」
っていう Menswe@r 一流のジョークなのだけれど、なかなか冴えてるなあ。
そしてメンバー5人がステージに立った時の 「華」 を文字で伝えるのは困難を極めます! 特にヴォーカルのジョニー・ディーンの伊達オトコぶり、ダンディズム全開ぶりには開いた口が塞がらず。ほんとにファッション誌から飛び出してきたモデルみたい。毎日鏡の前で何時間も費やしてるんだろうな… 長身を赤基調のタータンチェックの5つボタン超細身スーツに包んで登場。もちろんボタンは上から下まで全部留めて。これまた細くて長い手を伸ばし、ナルシズム全開でポーズをとる姿に狭い会場は男の子女の子の悲鳴の嵐。すごい熱気。
前方の女の子たちが 「全員」 ジョニーに向かって手を伸ばしている姿を想像してみてくださいよ。しかもライヴの間中ずっと、です。実際、最前列の子たちはステージに接してますからジョニーの脚や靴やスーツに触りまくってキャーキャー言ってるわけで。よく
「手が届きそうな」 って言いますが、ここでのライヴは本当に一番好きなアーティストに手が届くんです。
演奏曲は11曲+アンコール2曲。きっとこれから発売されるアルバムに収録される曲たちだったのでしょう。1stシングルだった
"I'll Manage Somehow" を惜しげもなく2曲目に繰り出し、ぎっしり詰まったフロアは大騒ぎで上下に大きくジャンプしまくります。押しつぶされる〜。これは本当によくできた曲。一瞬でオーディエンスを狂わせる魔力を持っています。限定5,000枚リリースだったので、既にロンドンではほとんど手に入らないレアアイテム。
演奏自体は、確かにめちゃくちゃ上手いわけじゃない。ヴォーカルも、声量はそれなりにあるけど音程はやっぱり時々不安。それでも何だか、ポール・ウェラーのデビュー時もこんな感じだったのかなと思わせるカッコ良さはビシビシと伝わってきちゃって。悲しいかな、1970年生まれの自分はモッズにしろパンクにしろ、素晴らしいムーヴメントをほとんど体験できなかったわけで。ようやく体験したマンチェ・ブームがトホホな終焉を迎えた今、UKロックシーンに期待するものは本当に大きいのです。Blur
や Oasis のアルバムの信じられないほどの素晴らしい出来。Radiohead
の醒めた視点。そしてこの Menswe@r のファッショナブルなダンディズム。
全部ひっくるめて、生で体験してこそ!などと考えているうちに、曲は進んで2ndシングルの
"Daydreamer" へ。先週のBBCテレビ番組 TOP OF THE POPS
にも出演し、リップシンクでエセ伊達を極めるスタジオライヴを見せてくれた彼ら。ジョニーが 「TOP OF THE POPS は見てくれたかい?」 と尋ねると、会場全員が "YEEEAAAHHH!!!"。ギターのサイモン(今日が誕生日。みんなで "Happy Birthday" を歌いました)がすかさずマイクに向かって
"Boom Boom Boom" の一節を歌って爆笑を誘います。同じ日にTV出演したダサいダンス系の
The Outhere Brothers の全英#1ヒットですね。
日本にもCDシングルが大量入荷し始めた頃だと思いますが、こちらではラジオでもかかりまくった
"Daydreamer" の浸透度はハンパじゃありません。サビはジョニーが思いっきりポーズをとりながらこちらにマイクを向けるので、全員で 「♪ぶりぃず でぃいぱあ / だいどり〜ま〜っ!」
の大コーラス。そう言えばジョニーのMC "Lovely
day, isn't it?" も 「ラヴリィ
ダイ」
って感じで。僕も最近は少しずつエイをアイと発音する訛りが板についてきたかな?
ラストはジョニーがマイクスタンドを振り上げて床に叩きつけ、バンドも嵐の如く演奏を済ませてさっさと引き揚げます。こちらも何だか妙にスカッとした気分。火照った身体を冷ますべく、終電まで夜の
Leicester Square や Piccadilly Circus
をぶらついて帰ります。人ごみでごった返す夜の繁華街。「今を生きてる」 って感覚が強烈に身体中を貫いた夜。
…というわけで、ちと誉めちぎり過ぎたかな?という彼らでしたが。実際のところどうなんだよって聞かれれば、それはそれは精巧に出来たマガイモノをつかまされたって言わざるを得ないと思うのです。全ての要素があらかじめ入念に用意されている完璧な演出に対して、今さらキャーじゃないっつーの。
でも、じゃあマガイモノで一体何が悪いのか?
ロックを聴くにあたって、いちいち 「これは本物」 「これは贋物」 と色分けしていくことにどれほどの意味があるというのか?
まあそれがお仕事の方もいらっしゃるでしょうから、事の是非は置いとくとしても、僕にはそんなことしながら音楽を聴いている時間はない。ゴメンナサイ。そんな暇があったら1つでもたくさんのギグに足を運び、1枚でもたくさんのCDを聴いていることでしょう。基本的にロックは模倣/繰り返しの要素を持っているようですから、これから先も
Menswe@r のようなバンドは何度も何度も出現してくると思うのです。The
Who のようなとか、The Jam のようなと言い換えても同じこと。でも25歳という自分の年齢で、しかも幸運なことにこのロンドンの空気を吸いながら接することができるチャンスは今この瞬間しか存在しないし、僕にとってその対象は
Menswe@r でしかなかった。少なくとも1995年7月1日の夜においては。
彼らのとるポーズはある種の人たちには吐き気を催すかもしれない。一定の効果を狙って行った行為がまさに予期したとおりの結果をもたらした時の 「してやったり」 という感情は、僕個人にとってはもっともイヤらしいものだったりする。だけどそれは同時に、人間にとってもっとも強烈な陶酔感をもたらしてくれることも間違いないでしょう? それをいちいち否定して回るのも馬鹿馬鹿しいし、正直疲れる。誰だって、自分の一番愛する相手に喜んでもらおうと思ってした行為が裏目に出てフラれたとして、それが嬉しい人なんていないわけで。やっぱり喜んでもらおうと思って何かをしてあげたら、狙ったとおりに喜んでもらいたいのです。だから自分は、狙いがミエミエの人々にはほとんど憐れみに近いねじれた愛情を感じてしまう。…例えば Stone Temple Pilots
とか。
…まあそんなわけで、演奏云々はともかくとして僕は彼らのライヴを心底楽しんだし、これは久々にナーイスな夜だったのです。 帰りにピカデリーのタワーレコードで買ったCDは、The
Cardigans の "LIFE"。渋谷系っぽい北欧メロディに、茶髪でルーズソックスをグシュグシュにたるませた女子高生がタムロする懐かしのセンター街の光景がフラッシュバックしました。
February 2002 追記
1st アルバムの "NUISANCE" までは何とか勢いを保った彼らですが、急速に失速していきます。2ndを何とかリリースしますが、その後はほとんど噂を聞かなくなってしまいました。もちろんこの手のロックは旬の時に楽しむのが正解。自分自身では95年、彼らを含むブリットポップのムーヴメントを思いきり楽しみました。本当に残ったバンドは数えるほどですが、玉石混交ぶりもまたインチキぽくていい感じだったと思います。
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