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なるほど。ちなみに"Mur Mur"っていうタイトルは? 田渕:ドラムの人がつけました。 わりとタイトルは他のメンバーに任せちゃったり? 田渕:そういう曲も多いですね。あいこんにつけてもらったり、秀樹君につけてもらったりしてます(笑)。なんか、バンド名とか曲名とか、そういうの考えるの苦手です。 それで曲名は、歌詞とは直接つながらないような感じで、英語の単語がぼんぼんっとくっついたものになっているんですね。 田渕:そのせいだと思う。私がつけると多分、「ええ?」って感じになるはず。自分でつけたのは"Bakadana~"とか(笑)。あとは1曲目……それしかない(笑)。 アルバムのタイトルにもなってる1曲目の"I Dedicate D Chord"は、どういうふうにしてつけたのですか? 田渕:これは「ギターのコードでDを捧げるって、英語でなんて言うの?」って、あいこんに聞きました(笑)。 ただ、日本語訳になると「Dのコードはくれてやる」ってなってますよね。 田渕:あれ、紙資料にしか書いてないですよ。 実際の気持ち的にはどうなんですか。やっぱり「くれてやる」って感じ? 田渕:どうかなぁ。すごい抽象的な話で(笑)。「くれてやる」って感じ……そうですかね。 ファンとしては、さっきの「かわいい」じゃないですけど、「捧げます」的な感じに惹かれて近づいてみると、実は「くれてやる」みたいな面も見れて、その裏切られ感がまた快感みたいな、そういう構図が表現者としての田渕さんにはあるんじゃないかなと思ったりするんですが。 小林:そうだねぇ(笑)。 田渕:ひひひひひ〜(笑)。どうなんだ。それはもう、そう思っていただけたら嬉しいですね(笑)。 (笑)。ところで、歌詞カードについてるイラストも、田渕さんが自分で描いたそうですが、これをやろうと思ったのは? 田渕:いや、これはヴォーカルを録る時、自分がメインのヴォーカルを録った後あいこんが入れ替わりでブースに入って、コーラスを歌う時があるんですよ。そん時に何か面白い絵でも描いたら喜んでくれるかなぁって、それで描いてみた絵です(笑)。 曲を絵で説明しようと思って? 小林:イメージだよね。 田渕:イメージ画を描いといたって感じで。 で、小林さんはその絵を見せられて。 小林:すごいステキと思った。これ絶対CDの中に使おうって(笑)。この絵が歌詞の、ただのコピー用紙のはじっこに鉛筆でフッて描いてあって、すごいイイですよね(笑)。 この絵の人って、頭が大きめに丸くぽんってあって、体もちゃんと肉厚な感じで。けっこう珍しいですよね。体は1本線で描いちゃう人も多いじゃないですか。 小林:これはチャコちゃんなんでしょ? 違うの? 田渕:まぁ、どれも僕のようで僕でないようなっていう(笑)。 歌の主人公だと、自分の一部のようであり、そうでもないようなものでもありっていう感じなんでしょうね。 田渕:自分のような自分でないようなっていう感じです。 なんか、アメリカとかでUFOに捕まった人が証言する時に「宇宙人がこんなでした」っていうのを描いて説明してる絵を思い浮かべてしまいました。 小林:ははははは! 田渕:緑色みたい(笑)。私この絵よく描くんですよ。人を書く時はいっつもこれです。ギターマガジンのイラストにもよく出てくる。 小林:でもさ、具体的にチャコちゃんになってる時もあるよね。 田渕:うん。顔は描いてないんだけどね。いっつも描かないし。 小林:描かないのがまたイイと思う。 さて、今作ではコーラスも魅力のひとつなんですが、これはどういう風に作っているんですか? 田渕:「サビはコーラスあったらイイなぁ」とか言って、「歌ってみて」って、「ハハハ〜」って歌ったら「フフフ〜」って、すぐ付けてくれるから、「ああイイねぇ」って。「ああイイねぇ、そんな感じそんな感じ」って(笑)。「最高だよ〜」(笑)。 バンド内のそういうやりとりは全員参加で? 田渕:そうですね。アレンジとかも結構みんなでするし、私がせっかくいろいろ考えてきても「なくてイイんじゃない?」って言われたりもするし(笑)。「ハ、ハイ」って。みんなワーって言い合ってやってます。 田渕さん的には、自分で引っ張ってくワンマンバンドって感じよりも、そういうバンド然としたバンドっていうのが理想型ですか? 田渕:そうですね。理想のカタチです。だから同じ年の人達と組みたいと思ったし。 バンドのイメージは最初から、女子が2人いてギターを弾いて、っていうようなイメージで? 田渕:女の子がもう1人いて、っていうのを考えてました。もう1人女の子がいるとイイなぁって。ホームページでも書きましたけど、かわいこちゃんがいると僕ちゃん頑張っちゃう、って感じなんだよね(笑)。 それで小林さんが、すぐ思い浮かんだと。 田渕:最初は普通にベースの女の子を誘おうって思ったんだけど、福岡にいる子だから無理だなぁって。で、ベースじゃなくても、ギターでもいいなって思って、小林さん誘ったんです。 なるほど。さて、今回のCDでは、プロデューサーの力はかなり大きかったと思うんです。 田渕:そう思います。 で、吉村さんがどのようにプロデュースの手腕を発揮したのか、その現場の状況にすごく興味があるのですが。 小林:すごい、デキるプロデューサーだよね。 田渕:ほんと。みんな、宇宙人とか思ってるかもしれないけど(笑)。でもなんか、すごい的確です。 小林:天才です! 田渕:やっぱ耳がすごいですね。音楽に関して、そういう耳のよさは本当にすごい。私にはまるでわかんない、って感じです。一緒に録ってくれたエンジニアのウエキ君も、吉村さんとは何度かレコーディングやってる人だったんで、プロデューサーとエンジニアの相性も大きかったと思います。 エンジニアの方が、吉村さんの言葉をきちんと解すことができて。 田渕:そうそうそうそう。吉村さんの言ってることをちゃんと的確に理解して音に出来る人だったし、その吉村さんもトドルのことをちゃんとよく考えてやってくれてたし。 具体的には? 演奏に関してアドバイスをくれたりとか。 田渕:演奏に関しては「もうちょっと熱っぽくなんないで、さらっとやった方がいいんじゃない」とか、そういう大まかなことだったんですが、ヴォーカルとかは、きちっと細かく「これがイイ、このテイクがイイ」みたいな感じで。私もヴォーカルちゃんと録るなんてあんまりなかったんで、マイクにもうちょっと近付いた方がいいよとか、そういう初歩的な話から(笑)。それで、もうミックスの時はエンジニアと2人でずっと篭って(笑)。 小林:すっごい優しかったよね。やりやすいっていうか、自然に楽しくできて、いい感じのとこが出せるみたいな。バンドのいいとこを、ちゃんとわかってくれてると思うし。 歌を本格的に今回やってみて、いかがでした? 田渕:へたくそだなぁと思いましたけど(笑)。「あれ、もうちょっとイイと思ってたんだけどなぁ」みたいな。難しかったですね。でもまぁそん時は、おおざっぱでイイやと僕は思ってました。 その心意気がマジで素晴らしいですよ。最近の音楽って、きっちり修正してある「商品」しかないじゃないですか。 田渕:そういうのがイヤだったんですよね、私。希望としては、聴いて「ええ〜」っていうくらいがイイんじゃないかって思ってたけど、そこを吉村さんが「ここはイイけど、ここはちょっと」っていうのを、ちゃんと判断してくれて。 80年代初期の歌謡曲にはまだあった、ヴィヴィッドな歌声がここに!とか思いましたよ。 田渕:歌謡曲って、アイドルものとか?(笑)「あの〜子は〜どこ〜の子〜♪」みたいな? 小林:ははははは。 そりゃ古すぎますよ(笑)。いちおう自分は80年代の人なので……。 小林:じゃあ、菊地桃子とかですか? そうそう。 田渕:すごい危ういですよね(笑)。 でも、歌の本来の魅力って、そっちにあると思ってる世代なんです。 田渕:私も、そういう方がなんかこう、耳を奪われますね。おお〜っていうような。 たぶん、当時の男子、今は30代後半になってますけど、それが原体験として刻み込まれた世代にとっては、トドルはグッとくるんじゃないかな。 田渕:そこをターゲットにしたワケじゃな〜い(笑)。 (笑)。 小林:でも確かに、収まりよく歌おうと思えば歌えると思うんですけど、なんかハミ出ちゃってる感じがイイっていうか。ちょっと頑張り過ぎちゃってる、みたいのがイイよね(笑)。 田渕:いいよね。そういうところは残したいと思う(笑)。小林さんのギターもね(笑)、一歩遅れたみたいなとこも、やっぱりそのまま残したいです。 別に、逆手にとってるとかいうことじゃなくって、本当にそういうところから伝わる表現ってあるはずなんですよ。だから、いやぁよかったなあ本当に、こういうレコードが21世紀にも出来て。 田渕:あっ、すごい褒められてる(笑)。
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