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その頃地元には、どういったローカルな音楽シーンがあったんですか?

James:シーンはあったんだけど、自分が出入りできる年になった頃には、もう存在してなかったんだよね。当時は全ての年齢層向けのライヴ・ショウっていうのがあまりなくて、ほとんどのバンドが18歳未満お断りの場所でライヴをやってたんだ。で、やっと18になってみると、確かにデトロイトにはバンドがプレイできる場所はいろいろあったんだけど、ローカルな音楽シーンっていうのはもうそんなに存在してなかったんだよ。ニューヨークに引っ越したお陰で、そんな環境も変わったけどね。実は、エレクトリック・シックスのディック・ヴァレンタインとは大学が一緒だったんだけど、デトロイトに残るなんて正気じゃないって思ったよ(笑)。

デトロイトに残っても大した活動はできないのに、って?

James:そう、確かにガレージ・ロック・シーンはあったけど、すごくちっぽけなシーンだったからね。全てのショウが、ほんの30バンド程度の中でまわってる、みたいな。そういう中に僕がやってるような音楽が入り込む余地は、全く無いと思ったんだ。デトロイトじゃ、エレクトロニック・ミュージックかガレージ・ミュージックしか、選択肢がないんだよ。ずっと前からそういう状況なんだ。それ以外のタイプのバンドなんて、一握りしかいないわけ。

デトロイト・テクノ・シーンについては、当時はどうだったんですか? 世界的に有名なシーンですけど。

James:実は大学に入るまで、全く接触がなかったんだ。ハマったこともないしね。当時としては革新的なことをやってたことについては、もちろん評価してるけど、もともとダンス・ミュージックって、あんまり聴かないんだ。もっとメロディと歌主体のロックの方が好きだからね。

分かりました。さて次に、あなた方が、どのような形で曲作りをしているのか教えてください。

James:方法はふたつあって、ひとつは、アパートの自分の部屋に閉じこもって、コンピュータの前に座って、浮かんでくるアイディアをどんどんコンピュータに入れていく、というやり方。

プログラミングを主体に?

James:っていうか、ギターやキーボードで弾いたものを、コンピュータに録音するんだけど、そのデモが、大した変更もなくそのまま曲になるケースがほとんどなんだよ。最初に頭に浮かんだ通りの曲に仕上がることもあるしね。で、もうひとつのやり方が、自宅のリハーサル・ルームに全員で集まって、ジャムりながらアイディアを出し合って曲を作っていくっていう、伝統的なやり方。で、レコーディングの時そいつを持ってきて、スタジオで発展させられるかどうかを見てみるんだけど、メインの作業は自宅だね。あと最近、3つ目の方法っていうのが出てきて、最新作(『Let's Build A Fire』)の時に、レコーディングしながら曲を書いていくっていうのを初めて経験したんだ。アルバムが完成する1ヶ月前くらいまで、影も形もなくて、スタジオで作業しながら書いた曲があったんだよ。だから3パターンだね(笑)。

その3パターンの代表みたいな曲を、それぞれ教えてもらえますか?

James:1曲目がスタジオでレコーディング中に書いた曲だよ。確かアルバムが出来上がる1〜2ヶ月前に書いたんだ。2曲目はバンド全員のジャム・セッションから生まれた曲。3曲目はコンピューターで作ったデモが基になってて、4曲目はまたバンドのセッション、5曲目はコンピュータのデモ、6曲目もデモ。7曲目はバンドで作った曲だけど、レコーディングしたことがなかったんだ。

ちゃんとした形になるまでいってなかったってことですか?

James:そう、完全にバンドで作った曲なんだけど、アコースティックだけの状態で止まっててね。今回もう1度トライしてみようってことになって、ようやくレコーディングに至ったわけ。8曲目もバンドで作った曲で、9曲目はデモで、確か10曲目はレコーディング中に作ったんじゃなかったかな。11曲目と12曲目はバンド、13曲目はデモ、14曲目はバンド全員で作った。ちなみに、ジャム・セッションのシチュエーションは、僕よりももう1人のソングライターであるパトリックの得意分野なんだよね。僕は逆に、1人で書く方が得意なんだ。何故だかは分かんないけどね。

じゃあ、レコーディングしながら書いた初めてのパターンは、1曲目と10曲目?

James:そう、10曲目なんかはレコーディングしながらどんどん形を変えていった典型的な曲で、最初は1パートしかなかったのに、レコーディングが終わってみると4パートの曲に発展してたんだ。それから7曲目は、何かが欠けてると思って、後から少し直したんだよ。

いったんアルバムが完成した後で?

James:そう。ドラム・セットをスタジオからニューヨークの僕のアパートに持ち込んで、そこでドラムの音を改めてレコーディングしたりしたんだ。お隣さん達にはすごい迷惑かけちゃったけどね。その時点でプロパーなスタジオに戻るなんて不可能だと思ったからさ……。でも、そんな風に、スタジオに入ってから作りはしたけど未だに完成に至ってない曲っていうのが、まだ幾つか残ってるんだよ。

そういった曲は、先にライヴでプレイしてたりもするんですか?

James:うん。

じゃあ、その中でさらに曲を発展させていく、と。

James:そう、っていうか、そもそも僕らはライヴでどうプレイするかなんて全く考えずにレコードを作ってる場合がほとんどなんだ。だから曲によっては、後からライヴ向けにどんどん変更を加えていく可能性があるわけ。方法を模索しながらの、チャレンジングな作業になるけどね。まだプレイしたことのない自分の曲を、改めてライヴ向けに身につけなきゃならないわけだから(苦笑)。

じゃあ、後でライヴでやる時どうするかってことに一切とらわれないでレコードを作ってるわけですね。

James:そう、その時点では、ただ面白い曲にしたいとしか考えてないんだ。でも例えば3曲目なんか、ホントに色んな展開があって、色んなことが起きてる曲だけど、それでもライヴでそのままプレイする方法を何とか見つけ出したと思ってるよ。サンプラーをたくさん使わなきゃならなかったり、ベーシストがキーボードを弾かなきゃならなかったり、確かにチャレンジングではあるけどね。レコーディングの時点では、誰も「これはライヴで再現するのに一苦労しそうだ」なんて全く考えてなかったよ。わざわざそんな風に不必要な制限を設けてもしょうがないし、作ってる時はそんなこと気にせず、とにかくいいものを作る、それに尽きるからね。

なるほどね。アメリカのインディー・バンドって、ほとんどライヴ志向というか、演奏そのもののノリを重視するタイプのバンドが多いと思うんですよ。そんな中で、あなた方は逆にデジタルでエレクトロニックなサウンドの加工というものに重きを置いているところがユニークですよね。自分達が他のバンドとちょっと違うアプローチをとっているという自覚は、どのくらいありますか?

James:ユニークかどうかは分かんないけど、確かに珍しいだろうとは思うよ。でも最近は家にいてコンピューターで作業できるし、こういうやり方にどんどん傾きつつあると思う。家でやれば、スタジオ代を払わなくていいから、時間を気にせず色んなことを実験できるしね。このアルバムも、ほぼ1年かけて作ったけど、みんなで集まるのなんてせいぜい週に1回で、時には全く集合しないこともあったくらいなんだ。でも時間をかけて作ったお陰で、どういったことがやれるか考える時間もたっぷりあった。スタジオだとすごく金もかかるし、腰を落ち着けて時間をある意味で浪費するっていうことが、なかなかできないわけ。時間の浪費=金の浪費になるからね。僕ら程度のレヴェルのバンドは、そんなに金持ってないのがほとんどだから大変だよ。レディオヘッドなら金の心配なんてしなくていいから、好きなだけの時間スタジオに閉じこもって、好きなだけ実験してられるだろうけど、インディー/アンダーグラウンド・バンドには、そんな金銭的余裕はないからね。だから非メジャー系のバンドの多くが、スタジオに入るとナマ録りに近い形で、次から次へと量産しようとするんじゃないかな。限られた時間しか借りられないから、そうするしかしょうがないっていうか。だから、コンピューターで家でじっくり作るバンドは、だんだん増えてきてるんじゃないかと思うよ。

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