|
先日ウェブストアも立ち上がりましたが、昨今のインディペンデント・ミュージック・シーンを見ると、ダウンロード版を安く、気に入ってくれた人や熱心なファンには追ってCDやアナログなどマテリアルを買ってもらう形式が増えてきているようです。あなたがたもそうしていく方針ですか? Alessandro:今は皆がとにかく生き残りに奮闘している大変な時期で、正しいやり方って存在しないんだよね。正直、ラジオとかのプロモーション方法があるのは知ってるけど、僕達にとってそれは正しい道だと思えないんだ。ラジオや特定のプロモーション会社にお金を払ったとしても、彼らがやることは、せいぜい積み上げられたCDの一番上に僕達のCDを置いて、DJが最初に聴くようにしてくれるとか、それぐらいのもので、結局DJが気に入ってくれなかったらプレイされることはないんだよ。6週間毎のキャンペーンのために3000ドルから5000ドル払うみたいだけど、大きなレーベルならともかく、僕達みたいなバンドにとっては最善の方法とは思えないんだよね。そう考えると、やっぱりオンライン・マーケティングがベストじゃないかな。僕達が載るべきだと思うウェブサイトを見つけて、そこにバナーやリンクを貼ってもらう。可能だったらレビューを載せてもらったりもしてね。それがクリックされるかどうかはその人次第だけど、少なくとも見てもらえる場所にあるわけだから、今はとにかくそれをあらゆる場所に出したい。で、僕らのルックスにひかれてクリックする人もいるだろうし(笑)、僕がNINに在籍していた経緯で興味を持ってくれる人もいるだろうし、曲のメロディを気に入ってくれる人もいるだろうし。でも惹かれない人達に無理に押し付けるつもりはないんだ。ラジオで200回も同じ曲を流して、それで好きにさせるようなやり方はしたくないんだよ。本当に音楽が良ければ、たとえ1人か2人でも興味を持ってもらえるものだって、僕は信じてる。興味を持ってもらえなければ、それは好みに合わないっていうだけで、そういう人達を変えてまで聴いて欲しいとは思わないんだ。これだけ世の中に音楽が出回ってるんだから、全ての人々に、それぞれ気に入る音楽があるはずだからね。 なるほど。 Alessandro:僕は、他の人と比べて事情通ではないけれど、音楽ビジネスは激しく変化していて、過去に通用していたことが通用しなくなってきてる。だから、僕に特別なバックグラウンドがなくても関係ないんだ。20年のキャリアを持つ人と、ほぼ同じレベルにいることになるんだよね。ただ僕が反対していて、戦おうとしていることがあって、そのために僕らはこうやって作品をリリースしているんだけど、皆に音楽がタダで手に入るものだとは思って欲しくないんだ。NINがやったように、音楽はタダであるべきだとは思わないんだよ。僕にとってそれは音楽が盗まれてしまっているという状況に対する諦めでしかない。トレントは無料で音楽を発表したけど、正直それは皆が学ぶべきことではないと思う。レーベルのバックアップを受けて、すでに億万長者になった彼にとっては簡単なことだよ。そのお金を稼いだレーベルを今の彼は軽視しているけどね。ある家庭で育って、その家庭にもういられないぐらい成長してしまって、出て行くしかなくなったっていう典型的な例だと思う。ただし、そうなったのは家族のせいじゃなくて、単に出て行く時期が来たってことなんだ。音楽を無料にするっていう方法は「とにかく何かを試みた」という点ではいいことだったけど、そこからは間違ったメッセージも伝わってしまったんじゃないかな。音楽ファンやリスナーに、音楽が無料であるべきだと思わせるのが正しいことだとは思えないんだよね。アナログ盤を買ってくれたら、デモやデジタル・ダウンロードをあげるっていうのは筋が通った考え方だけど、最初からタダであることを望まれるべきじゃない。僕はNINで貯めたお金をこのバンドに使うことができるからラッキーな方だけど、他のローカル・バンド達はそうじゃないしさ。トレントは無料でアルバムを出した後ツアーに出て、それはすごく成功した。でも、そういうことが実行できるバンドは決して多くないのが実情なんだ。だから僕は皆が音楽を聴く時に、この音楽が出来るまでにはお金もかかっているんだってことを理解して欲しいと思ってる。 はい。 Alessandro:僕だって音楽を盗むこともあるから、僕達の音楽が盗まれるのに対して抗議したりはしないよ。でも僕は、気に入ったものは後で必ず買うようにしているんだ。特に今は、アナログ盤を発売するのにレコード・プレイヤーを持ってないのは偽善的だと思ってターンテーブルを購入したから、デジタルで持っていない音楽はヴァイナルで買うようにしてるよ。アナログって本当に別の世界なんだよね。iPodではたくさんのものを1度に聴けて、もし流れてる曲が気に入らなければスキップしてしまえばいいけど、CDウォークマンで音楽を聴いてる時は、そのアルバムが気に入らなくても他にCDを持っていなかったら、とにかくまたそのアルバムを聴くしかない。で、そうしてるうちに、アルバムのいいところを新たに見つけたりすることもあるんだ。そして、お気に入りのアルバムになったりする。だけど、今はそういうことがなくなってしまって、聴き手が集中する時間も昔よりずっと短くなってるよね。で、ヴァイナルはまず、プレイヤーの前にいなきゃならないし、辛抱強く聴いて、さらに面を変えなきゃいけない。それで結局アルバム全体をちゃんと体験することになる。本当は、そうであるべきなんだ。しかも聴きながら大きなジャケットを手にとって見て楽しめるしさ。だから今アナログが少しずつカムバックを果たしているのには理由があると思う。最近では大手のレーベルもアナログをまたリリースするようになってきたよ。 さて、今後は、テキサスとフロリダで2つショウがある他、七夕にはニューヨークでピーター・マーフィーと対バンするそうですね。この話はどのようにして決まったのでしょう? Alessandro:ピーター・マーフィーとは、3年前にバウハウスとNINが対バンした時に会って、それで友達になったんだ。すごくフレンドリーでクールな人でさ。その時点で僕の音楽を彼に聴かせたりはしなかったんだけど、たぶんアーロン・ノースが彼に(バディヘッドからリリースされた)『Enemies & Immigrants』のコピーを渡したんじゃないかな……僕から直接「これが自分の作品です」って手渡すことはできなくて。そういうことになるとすごくシャイになっちゃうんだよね。で、僕がNINに参加した最後のツアーで、ピーターがゲストに登場して2曲いっしょにやったんだけど、翌日になって彼が、僕がバンドを離れることを聞いたって話しかけてきて、「君が自分自身の音楽をやっていこうとしているのは正しい選択だと思う」って言ってくれたんだ。「モッドウィールムードの大ファンだから」とも、ね。そんなことを言われるなんて予想もしてなかったことだから、もう本当に嬉しかったな。やがてピーターのマネージャーから、彼が僕らといっしょにショウをやりたがってるっていう連絡が届いて、それで、彼のニューヨーク公演の日程はフロリダでのライヴのすぐ後だから、そのまま飛行機で行けば近いし、実現しやすかったこともあって、すぐにOKしたんだよ。 いい話ですね。さて、このツアーを終えて以降、今年後半の大まかな予定はどんな感じになっていますか? Alessandro:まずはモッドウィールムードの効果的なプロモーションを探して、それに力を入れる予定だよ。特にネット上でね。それから10月ぐらいに、またショウをやりたいと思ってる。7〜8月はもし家にいられたら、新曲作りをするよ。計画としては、作曲とレコーディングとマスタリングを年末までに終わらせて、来年の早いうちにはニュー・アルバムを出したいんだ。できれば次はEPを3枚出すんじゃなくて、10インチのビニール盤を最初に1枚、その後でもう1枚リリースして、最終的にその2枚を合わせたボックス・セットにできたらいいなとか考えてるんだけど、かなりコストがかかるから、どうなるかはまだ分からないね。それから同時にブラインドオールドフリークの『2』も作りたい。そっちは僕1人で猫達と一緒に部屋にこもれば曲が出来てくるから、ずっと簡単なんだよね(笑)。 (笑)ブラインドオールドフリークについても、幾つか質問させてください。初の作品集『1』が出ましたが、このアルバムはどのようにして作られたのでしょう? Alessandro:2004年にBUCHLAが発売されて以来すっかり惚れ込んでしまってね。MIで教えている時にHPで詳細を見て、すごく惹き付けられて、2007年の1月に最初のBUCHLAを購入したんだ。実際に初めて見たのはNINの“The Hand That Feeds”のヴィデオ撮影でBUCHLAを借りた時で、撮影には2日間かかったんだけど、撮影場所にそれを置いて行きたくなかったから、一晩持ち帰らせてもらって、その夜は一晩中眠らずにプレイしてレコーディングしたよ。こんな風に僕に呼びかけてくるマシーン/楽器に出会ったのは初めてだった。それで3年後のツアー中に、前金を支払って手に入れたんだ。BUCHLAでは作曲だけするようにしてる。一番の心配は、これが単に高価なノイズの箱で、この機会を使って僕ができることなんてそんなに無いんじゃないか?ってことだった。でも驚いたことに、このマシーンは独自のサウンドを持ってるけど、マシーンから出るムードを決めるのはユーザーなんだ。モッドウィールムードの“madrid-changes”とかは、BUCHLAで全部作ってからヴォーカルを加えたんだよ。そして、他の曲がブラインドオールドフリークの『1』になったんだけど、その大半はNINの2008年のツアー中にレコーディングしたんだ。今は『2』を仕上げてるところなんだけど、それもそのツアー中のセッションで作ったものだよ。『1』は全て1テイクで、それをCD-Rに100枚焼いてカナダ・ツアーに持って行った。『2』も同じようにCD-Rに焼いて作るつもりだけど、今度はツアーする時間がないしショウをやるかどうか分からないから、オンラインで発売する予定。その他にも、メイン・アルバムを2枚は出す計画で、そのうち1枚は全部BUCHLAで作るけど、今度はアルバムのコンセプトを最初から念頭において作曲/レコーディングする。そしてもう1枚はエレクロニカ・ミュージックで、ずっと前からやりたかったことなんだけど、BUCHLAだけに制限せずに、他のミュージシャンにもプレイしてもらうんだ。もう5〜6曲ほど作曲してあって、あとは演奏してくれる人達に送って音を加えてもらえばいいだけの状態だよ。今のところは、これまで通りインディペンデント・リリースになると思うけど、次はデジタル・リリースだけじゃなくて、何か実体版も発表したいと考えてる。『Ghosts』のボックス・セットを作った会社とか、ELUVIUMのビニール盤ボックス・セットを作ったTemporary Residentsっていう会社があって、後者は昔のフォトアルバムみたいなボックス・セットで、すごく綺麗なんだ。200ドルぐらいになっちゃって高くつくけど、アナログ盤を7枚も収納できるし、いつかそういうものを作りたいな。あと、限定盤のカセットとかもね。 ちなみに『1』は、あなたのおじいさんに捧げられていますね。 Alessandro:祖父は4ヵ月ほど前に他界したんだ。母方の祖父なんだけど、僕は父方より母方の両親と親しくしてて、毎週末のように会ってた。それと僕の母が大学に通い始めた時、代わりに僕の世話をしてくれたんだよ。子供の頃は祖父から戦争についてとか色々な話を聞いたりしたし、僕にとってはすごく近い存在だった。で、『1』は僕が初めて、自分ひとりだけで作った作品だから、おじいさんに捧げたいと思ったんだ。
|