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ツアーにもキーボードと女性コーラスが加わるということで、さらにライヴでの表現に広がりが出せていたと思ったのですが、具体的に彼女の存在はどのようにバンドに影響していますか? Tom:女性ヴォーカルやキーボードが不可欠な曲もあるから、彼女がサポートしてくれることによってステージで再現できる曲も増えたし、とても助かっているよ。例えば、『クラリティ』の1曲目に入っている“テーブル・フォー・グラシーズ”という曲は彼女のヘルプがなければ絶対にできないような曲だよね。全体的には、彼女の存在のおかげでライヴが間延びしなくて済む、という利点もある。新鮮味が加わる、というか。 そう言えば、『クラリティ』ではキーボードやストリングスやリズムマシーンが導入され、“グッバイ・スカイ・ハーバー”での16分におよぶ展開など、様々なサウンド展開が聞かれました。最新作ではまた少しシンプルな作風に戻っていますが、いつか再び凝ったサウンド作りを追求したいと思いますか? Tom:そういう気持ちもあることは確かだよ。先のことは分からないけどね。実際に次作のための準備でスタジオに入るようになるまで、どうなるか分からないところがあるんだ。スタジオに行けば、いろんな楽器があちこちに転がっているから、偶然に何かこれまでと違う要素が入り込む可能性は大アリだね。 Rick:『クラリティ』を作った頃はキャピトルというメジャーなレーベルに所属していたから、予算もあったし、スタジオでの時間もいっぱいとれたんだ。だから、いろんなことを試す余裕があったんだよ。でも、『ブリード・アメリカン』を作った時はレーベルも決まってなくて、自費でレコーディングしていたから時間も限られていてね。レコーディングに入る前に簡単なプリ・プロダクションを済ませておいて、素早くレコーディングできるように心がけたぐらいだったんだ。そうすればスタジオ代が安く済むから(笑)。 Tom:それに、やっぱり音楽の方向性としてもよりシンプルな方向に行こうとしていたのも確かだよ。ストレートなアルバムが作りたいと思って完成させたアルバムだったんだ。 わかりました。では次にヘヴィでシリアスな質問です(笑)。キャピトルと比べてドリームワークスはどうですか? Tom:(笑)そんなにシリアスなことでもないよ。ドリームワークスの方が断然いいね。キャピトルは13階建てのビルにぎっしりスタッフが入っているような大会社で、それに比べたらドリームワークスの方が小さくて居心地がいい。ドリームワークスのオフィスに行っても、ほとんど全員の顔を知っているぐらいだよ。所属アーティストもそんなに多くなくて、新しいバンドと仕事をすることを楽しんでいるような人達なんだ。 Rick:アーティストが少ないからこそ、ドリームワークスのスタッフは集中力があるね。焦点を絞った仕事ができている。大会社になってしまうと、スタッフも気が散漫になりがちじゃない? ドリームワークスはコミュニケーションがちゃんとできているよ。スタッフ間はもちろん、アーティストとのコミュニケーションについてもね。キャピトルの時は、何かを相談しても、その人で止まってしまうようなことばっかりで、なかなか物事が進まずにイライラさせられたんだ。その点、ドリームワークスはとてもフットワークが軽くて、やるべきことをきちんとわきまえているレーベルだよ。 なるほど。それにしてもキャピトル時代にあれだけ酷い目にあったのに、それでもまたメジャーと契約しよう、ドリームワークスを信用してみよう、という気持ちになれたのは何故ですか? Rick:ドリームワークスのスタッフと実際に会って話してみて、人柄やレーベルの雰囲気が良かったと思えたんだ。 Tom:他にもアトランティックやRCAなど、結構いろんなレーベルの人とコンタクトをとったりしてたんだよ。みんなナイスガイな人達だったけど、ドリームワークスのスタッフが一番だったね。僕達を誘ってくれたA& Rが特にいいやつなんだ。 Rick:それに、ドリームワークスのスタッフの経歴も凄いからね。ワーナー・ブラザースを創った人もいたり、ゲフィンを立ち上げた人もいたりしてね。みんな経験豊かなスタッフだから安心していられるんだ。もうひとつのポイントは、ドリームワークスは私企業で、株主がいないこと。他の大会社は株主を喜ばせるために売りに徹してしまう傾向がある。だからバンドが育たない。そういう、その場しのぎのやり方は嫌だよね。僕達はまだ発展途上にあるバンドだから、ドリームワークスのようにバンドの将来のキャリアまで見据えた行動を取ってくれるレーベルが理想なんだよね。 パンク・バンドとメジャー・レーベルは必ずしも相性がいいものでありませんよね。これまでメジャーと契約して失敗してしまったパンク・バンドは数え切れないし、一方でインディーだからこそ実力を発揮できているバンドもたくさんいます。あなたたちはメジャー・レーベルと付き合っていくにあたって、どういう点に気をつけていこうと考えていますか? Tom:メジャーのひとつの大きな利点である国際性がきちんと打ち出されているかどうか、という点には注意しているよ。つまり、アメリカ国内だけじゃなくて、日本やヨーロッパ地域での活動、世界展開がちゃんとできるような環境を作ってくれるかどうか、という点は重要だと思う。それとやっぱり、バンドの意向をちゃんと汲み取って理解してくれているかどうかももちろん重要だね。ある日テレビを付けたら、ペプシを持ってる自分が映っていたら嫌だからさー。バンドが嫌がるようなことはしてほしくないな。 そういえば昨夜のライヴ(東京公演初日)前、サウンドチェックの時にローディーの人がベースで、アット・ザ・ドライヴ・インの“enfilade”を弾いていました。それを聴いた会場が一瞬盛り上がってたのが面白くて、やがて寂しき……って感じだったのですが、別れた一方(スパルタ)とはレーベルメイトになったし、もう一方(マーズ・ヴォルタ)とはマネージャーが同じみたいですし、分裂してからの彼らと話をする機会はありましたか? どうしてあんなことになってしまったのだと思いますか? Tom:今、僕達についてくれているヘンリーというローディーは、以前はアット・ザ・ドライヴ・インのギター・テクをやっていたんだ。で、アット・ザ・ドライヴ・インが解散の件でゴタゴタしていた時期にヘンリーが仕事からあぶれてしまったので「僕達のツアーについてきてくれない?」って頼んだんだよ。それはおいといて、僕達はアット・ザ・ドライヴ・インとツアーしたこともあるし、仲もよかったから、彼らの幸運を祈っているよ。今後の活動が楽しみだね。 アット・ザ・ドライヴ・インがメジャーと契約したのは早すぎた、という意見についてはどう思いますか? Tom:いや、そんなこともないと個人的には思うけどね。彼らも僕達と同時期の95年あたりから活動しているし、メジャーと契約するまでバンド結成から4〜5年は経っていたからね。彼らがプレッシャーを感じてメジャーと契約を交わしたとは思わないよ。彼らが自ら判断して取った行動なんだから。僕達から見れば、メジャーうんぬんの話でこじれたわけじゃなくて、ツアーをしすぎて、メンバーの人間関係が少しギクシャクしてしまっていたように見えたなあ。 Rick:僕も解散の直接の原因は分からないけど、彼らがツアーしすぎていたのは確かだね。ライヴ・バンドとしては最近では右に出るバンドがいなかったぐらい、最高のステージを見せてくれるバンドだったよね……解散は惜しまれるけど、彼らの今後に期待するよ。 Tom:あ、A.F.I.というバンドがアット・ザ・ドライヴ・インと共通するようなライヴ感を持ったバンドで、凄くいいライヴを見せてくれるバンドだから、チェックすることをお薦めするよ。 逆に、あなた方は、これまでバンドを続けてくるうえで遭遇してきた困難を、どうやって乗り越えてきたのでしょう。 Tom:僕達は解散の危機に直面したことがない平和なバンドだと言えるかもしれない。多くの人はきっと、キャピトルに切られた時「解散するんじゃないか?」と思っただろうけど、僕達自身にとってはキャピトルと切れたことは逆に喜ばしいことだったんだ。キャピトルは僕達に対して誠意を見せていなかったからね。何もしてくれなかったし。かなりハードなツアーに出ていても、サポートしてくれなかったりとかね。まあ、もともと友達同士で始めたバンドだったしね。 Rick:たぶん、僕達のように本当に何も問題がなくて平和なバンドは珍しいんだろうね。でも、僕達の絆はそれほど固いものなんだ。 頼もしい! さて、アット・ザ・ドライヴ・インも2つに別れてしまったとはいえ、それぞれのプロジェクトが始動しているし、ゲット・アップ・キッズやホット・ウォーター・ミュージックとか、地方から出て来たバンドもそれぞれのやり方で頑張っています。こうした動きがアメリカのミュージック・シーンをもっと刺激的なものにしてくれるはずだと感じているのですが、自分達でもそうした役割の一端を担っているのだという自覚はありますか? Tom:共感できるバンドや仲のいいバンドがようやく注目を集め始めたのは本当に喜ばしいことだよ。ホット・ウォーター・ミュージックも今やラジオでかかるぐらいになってきたしね。たぶん、ニュー・メタル的なバンドにみんな飽き飽きしてきた頃なんじゃないかな。 Rick:たしかに、ニュー・メタルはもう古い感じになってきたね。 Tom:僕達は最近ずっとツアーに出ているから、今アメリカ国内で何が注目を浴びているのか?とか、最新の流行事情に関してはあんまり知らないんだ。今回、日本に来る前にもヨーロッパをツアーしていたしね。この後アメリカ・ツアーに出ればもう少し状況が見えてくると思うけど。
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