|
なるほど。では、アルバムについての話を訊きたいと思います。まず、今回のサード・アルバムにセルフ・タイトルをつけたのはどうしてですか? Brendan:第一に、他にぴったりだと思えるタイトルが見つからなかったから。それに僕達はこれまでブロークン・ソーシャル・シーンというバンドの人生や生命のようなものを体験してきたわけで、このアルバムはその経験をひとつのチャプターにまとめた作品になったから、セルフ・タイトル以外はあまりピンと来なかったんだ。 John:セルフ・タイトルって、自分達の存在を世の中に自己紹介するという意味では普通はデビュー・アルバムにつけられるよね。でも、このバンドは初めから「バンド」として始まったグループではないから、僕達自身もどんなグループなのか知らなかった部分がたくさんあったんだ。トロントでライヴをやって注目を浴び、ツアーが2年半も続くような経験を初めてして、それを凝縮したのが今作なんだよ。僕達としても今作のレコーディングを通じて、ブロークン・ソーシャル・シーンとはどんなバンドなのかが分かるようになってきたんだ。だからこそ満を持して、やっとみんなにも自己紹介出来るというか(笑)。 Brendan:結成当時は日本のタワーレコードでインストア・ライヴをするなんて想像だにしてなかった。だから、ブロークン・ソーシャル・シーンをより多くの人に知ってもらう機会を与えられたのがこのアルバムだってことで、いわゆる入門盤になると思うし、それでセルフ・タイトルにしたって理由もある。 わかりました。さて、このバンドにはメンバーが大勢いますよね。それに、ソングライティングとレコーディングを同時進行で行なっているそうですが、現場はかなり混沌とした雰囲気になってるのではないでしょうか? Brendan:うん、出来るだけ色々と最小限に抑えるよう努めてる。大所帯だと演奏ミスとかってどうしても避けられないことではあるけど、メンバーが増え続けている状況に全員が理解を示しているんだ。それに少人数でもカオス状態になることだってあるだろ(笑)? John:このバンドのメンバーは全員、作詞作曲が出来て、他のバンドではリーダーを務めてる人もいる。その全員が、お互いの才能をリスペクトしているから一緒に続けていられるんだよね。みんなメンバーひとりひとりが何かしらの貢献をしてくれるってちゃんと分かってる。そりゃもちろん最終的な決断を下す時は大変だけど、クリエイティヴな面ではメンバー全員分のアイディアがあるおかげでかえってやり易いこともあるんだ。ソングライティングの最中ってのは、流れに身を任せてお互いの反応を楽しむものなんだよね。サウンドをまとめるのは労力のいる作業だけれど、思うほど難しくもない。これだけの人数が揃えばそれだけの利点もあるんだよ。 ちなみに、ブレンダンが今作のレコーディングに関して「素晴らしい瞬間もあれば、残酷な瞬間もあった」と言っていましたが、その言葉の意味についてもう少し詳しく説明してもらえますか? Brendan:レコーディングってのは残酷にもなり得るってことなんだ。全員が同じマインドを持っているわけじゃないし、そういう状況で何かを作り出すのは時に厳しかったりもする。でも、同時に美しい瞬間もあるんだ。それって人生全般にも共通することじゃないかな。 出来上がった音の印象では、混沌とした雰囲気も感じさせつつ、単なる混乱ではなく幸福に満ちているようなサウンドになっていると思いました。祝祭空間とも呼べるようなこのサウンドはどこから生まれてくるのだと思いますか? Brendan:さっきも言ったように、自分達に正直な音楽を作ろうとしてるからだろうね。今作は祝福に満ちた楽曲ばかりではないにせよ、僕らは人生を楽しんだり祝福したいと思ってる。音だけを聴いてると、色んな音の断片が耳に突き刺さってくるように感じるかもしれないけど、楽曲として最終的にまとまったところでは、リスナーに至福や苦悩といった音楽に欠かせない要素を感じ取ってもらえればいいと思ってる。 わかりました。さて、今後はどんなふうに活動していきたいと考えていますか? Brendan:夏にはフジロックに出演するかもしれないし、その後にもクラブでライヴが出来ればいいなと思ってる。それも全て、日本のファンの反応次第なんだけどね。今のところ、日本のリスナーはすごく理解を示してくれていると思う。何せ僕達は一般大衆ではなく、違いの分かる人達に向かって音楽をやってるわけで、そんな僕達の音楽を気に入ってくれる人達がいてくれることには非常に感謝している。とにかく、これからもこの音楽の旅が続いていくと思うし、うまく進むよう力を注いでいくつもりだよ。 昨日のインストア・イベントにはたくさんの人が来てましたし、あれだけ大勢の人が集まることも珍しいので、ブレイクの兆しを感じています。 Brendan:もうそろそろって感じだよね(笑)。 実際に演奏してみてどうでしたか? John:最高だったよ。すごく楽しかった。自然な形で演奏出来たと思う。 Brendan:レコード店の中という限られた状況の中で、普段やってるライヴに限りなく近い雰囲気を感じ取ってもらえたんじゃないかな。 異例の長時間イベントになってましたもんね(笑)。では最後の質問です。資料には「僕達は壊れた社会の風景の一部なんだ」というブレンダンの発言が載っていますが、これはどういった意図で言った言葉なのでしょう? Brendan:それ、僕が言ったの(笑)? うーん、単純に比喩的な表現を使いたかっただけかもしれない。ブロークン・ソーシャル・シーンは単なるバンドじゃなくて、メンバーである僕達の生い立ちはもちろん、サポートしてくれた人達のそれをも含めた巨大なファミリーなんだ。それぞれの奥さんやガールフレンドや旦那さん、子ども達に両親、友人の映画監督や作家、その他のアーティスト達、そしてプロモーターやレコード店の関係者、僕達の音楽を広めてくれたDJや音楽ライターの人達、その全員がこのバンドの仲間だと思ってる。でさ、みんな人それぞれに壊れた部分も持ってると思うんだよね。で、それほどシリアスな意味じゃなしに、言わば「ブロークン・ソーシャル・シーン」ってタイトルのコメディなんだよ。壊れた社会があってこれからも壊れ続けていく、みたいな。多分そういうことが言いたかったのかもしれない。
|