本、読みませう!

0010 暁の死線

あらすじ:

故郷に背をむけて大都会ニョーヨークの虜となったダンサー稼業の女のまえに、突然姿を現わした男。彼は偶然にも女の同郷で実家も隣りだった。その彼が殺人の嫌疑に問われている。その潔白を証明するため2人は限られた時間の中で無実を証明しようとする。深夜のニューヨークで必死の捜査を試みる孤独な若い二人の行く末は。『幻の女』と並ぶアイリッシュの代表作とされています。

著者:

ウィリアム・アイリッシュ

発行:

創元推理文庫

[お薦め度] ☆☆☆☆
 

 再びアイリッシュです。私的な事ですが、できるだけ時代順に読もうとしているのと、推理以外のものも好きなのでなかなかこの稿も進みませんが、そんな中でも今回はわりと早めにここに書くことが出来ました。

 折しもTV地上波では火曜深夜(正確には水曜未明…「未明」って正確なんか!?笑!)「24」なるハラハラドキドキもんのサスペンスドラマが放映されてますが、この本を読んだ事のある方は、まさにその原点を見たように感じたのではないでしょうか!?各章の扉に時計があり、その時計の時刻が章ごとに刻一刻と進んでいく中、主人公が巻き込まれた問題を克服しようとする展開はまさにそのままでしょう!

 書かれた時代もあるのか、主人公2人の都会に対する気持ちの描写には一昔前っぽい感じがあったり、その他の部分でも何ケ所か古いな…と思わせられるところが多少あるにはあります。

 しかし、そうした時代背景を加味して読めば、話の展開はやはり見事と言えるでしょう!出来心からお金を盗んでしまうが、やはり良心の呵責を覚えお金を返しに行きます。ところが、返しに行った屋敷で死体を発見してしまい殺人事件にまで巻き込まれます。このままでは盗みだけでなく殺人にも問われる事になってしまうので、殺人事件とは無関係である事をなんとか自分で証明しようと、現場が警察か誰かに発見されるであろう朝を期限に自ら捜査を進めていきます。その捜査過程の文章表現が惹き込まれます!まず現場で数々の証拠を見つけていく瞬間瞬間の心理描写、犯人と思しき人物を特定し追い詰めていく展開、行き詰まった捜査を何とかするため、すでに誰かに発見されていて戻れば身に危険が及ぶかも知れない現場に、さらなるヒントを求めて人目を忍んでいくシーンのハラハラ感、そしていよいよ核心に迫る中、主人公2人に最大のピンチが訪れ…などなど、どれをとっても眉唾もんです!

 さすがアイリッシュ!読後、早く次の作品を読みたいと思う気持ちが自然に涌いて来ます!でもやっぱり違うもんを間に挟むんですが…。

 


0009 落日の宴 勘定奉行 川路聖謨

あらすじ:

開国を迫るロシア使節プチャーチンに一歩もひるむことなく幕末の日本を守った男がいた。軽輩の身から勘定奉行にまで登りつめ、自らを厳しく律して日露和親条約を締結する。軍事・経済・外交のいずれも劣る我が国を聡明さと誠実さで激動の時代から救った誇り高き幕史の豊かな人間性を鮮やかに描く!

著者:

吉村 昭

発行:

講談社文庫

[お薦め度] ☆☆☆☆☆
 

 日露和親条約と言えば「なんかあったな〜日米とか日英とか色々・・・」って感じで、日露やから「確かプチャーチンとか言うのが来て当時の日本が結ばされた条約・・・」と、その程度のイメージを持ってるぐらいではないでしょうか?

 しかし改めて考えると、そんな簡単な時代ではなかった事が誰にもわかる訳で、こういう本を読むとさらにその考えが浮き彫りにされてきます。プチャーチンってのが来たらしい・・・これを知ってる人は多いけど、その条約交渉期間中に日本で大地震に遭遇し、下田で停泊してた船を津波で廃船にしないといけないほどの被害を受け帰れなくなり、プチャーチンはしばらく日本に滞在する事になってたり、当時日本は鎖国してた訳で、そのような事情でロシア人(と言うか外国人全般)の上陸はもちろん滞在など前例があるはずもなく、突然起こったこの事態に幕府の役人が江戸と下田を右往左往するその慌て様なども、残念ながらあまり知られていないと思います。本当は、そういう事実をひとつでも多く知ることが、これらの出来事を単に「○○○年○○条約締結」と言う、ただ記憶するためのものとしてでなく、もっとイメージを鮮明にし、本当に興味深い事だと思うことに繋がるのでしょう。また、このあたりの時代の出来事1つ1つは、そうなるのに充分価値のある出来事ばかりだと、こういう歴史小説を読むといつも思わせられます。

 長崎、下田における川路の日露条約交渉の描写はすばらしく、以前読んだ「ポーツマスの旗」での小村寿太郎の緊迫感ある会議の席にも通じる、吉村さん一流の文章に、今回ももちろん感動させられました。
 川路は江戸時代の身分制の中で異例とも言える出世をし、聡明で誠実な日本人の鏡(当時のですかね…残念ながら)のような人柄と、国(幕府)を愛する思いを常に持って大局に望んで来たが、、外圧や、国内の攘夷派、開国派、朝廷派、との間に起こる大きな流れに巻き込まれていきます・・・。しかし、その後の明治に通じる外交の礎を手探りで作っていった、この時代の最重要人物の1人と言える、そう思います。

 


0008 日本語相談

あらすじ:

「週刊朝日」の読者からの質問に答える連載コラムを本にしたもの。このコラムは大野晋、丸谷才一、大岡信、井上ひさしの四人の回り持ちで、その一巻。週刊誌という媒体の性格から気楽に読むという書かれ方ですが、内容はきちんとした学問的根拠と日常生活の観察に基づくしっかりしたものです。意外と知ってると思ってた事も違った意味がったり等目から鱗の発見もありますよ〜!

著者:

井上 ひさし

発行:

朝日新聞文庫

[お薦め度] ☆☆☆☆
 

 井上さんの本を最初に読んだのは何か?と思い本棚を調べてみたけど、なにせ狭いスペースなため、どっかに片付けてしまったようで、どれが最初かわからん状態でした。なんとなく浮かぶのは「どん松五郎の生涯」とかやったかな?などと思ったりします(違うかも知れんです、はい)。しかし、この人の凄さは凄まじく子供の時見てたと親に言われる「ひょっこり瓢箪島」もそうだし、た〜くさんの演劇や、伊能忠敬みたいな歴史もん、そして今回のような日本語に関するものまで、ものすごい幅と言うか、すごい同時進行と言うか、で行われている仕事に、ただただ脱帽してしまいます。

 どちらかと言えば国語は嫌いではなかったので、いまだに本も好きなんでしょうが、自分の言葉等は、その時に読んでるものの受け売りが多かったりして恥ずかしい限りです。ま、なんとか楽しんで自分の言葉である日本語について知りたい、と言う思いから、でも勉強っぽくないものを、と少しづつでも読もうと試みているような有り様です。

 ここには1つ1つの質問を、わかりやすい例等を使って解説されてますが、如何せん読んだ端から忘れるような次第です。ま、しかしそんな私も最近は疑問に思ったら控えて調べると言う癖をつけるようにしています。日本語に限らずそうする事が語学の理解へ一歩でも近づく事になるだろうと・・・。
 

 


0007 黒いアリバイ

あらすじ:

芸能人の人気とりのために猛獣である豹をつれて街を散歩するという、ばかげた企画が行われる。その結果当然のように豹は逃げ出す事に・・・。警察等の必死の捜索にも関わらず豹は見つからず、そうこうしているうちに、一人の女性がズタズタに引き裂かれて殺され、また次ぎの女性が・・・、と連続殺人事件が続いていく。

著者:

ウィリアム・アイリッシュ

発行:

創元推理文庫

[お薦め度] ☆☆☆☆
 

 アイリッシュの「黒い」シリーズは有名らしいですが、この話は始めが多少間延びしてるように感じられます。最初に殺人が起こり、その描写に文字数を割きすぎなのか、あるいは日本語訳が少し古いからか、どうも惹き付けられないような気がします。訳者も今見直しをすると、もっといい言い回しをしてくれたろうと思います。外国ものは、こういう時いつも思いますが、自分で原文が読めると伝わりやすいのかも・・・。映画の字幕でも聞こえる言葉と訳に違和感を覚える事ありますよね!?あんな感じなんでしょう。この作品の殺しのシーンでも、ほんとはもっと鮮烈なイメージを読者にあたえる表現がされてるのかも知れません。

 しかし数件の事件が起こってから、クライマックスへ向かうあたりは、読むのを止める事ができないほど、スリルとサスペンス(自分の方が言い回し古いですが・・・)が充満してきて、「どうなんのやろう???」と一気に読ませるあたりはさすがです!アイリッシュ独特の心理描写はこの作品でも秀逸です!

 普通の推理小説の謎解きに飽きて、話全体で楽しみたい人にはアイリッシュはお薦めです!
 

 


0006 乱歩の幻影

原作:

日下三蔵 編

著者:

高木彬光・山田風太郎・角田喜久雄・竹本健治・中井英夫・蘭 光生・服部 正・芦辺 拓・島田荘司・中島河太郎

発行:

ちくま文庫

[お薦め度] ☆☆☆☆☆☆☆
 

 個人的には江戸川乱歩といえば、小学校の図書室に並んでいる「少年探偵シリーズ」を思いだします。確か当時テレビでも小林少年が活躍する30分くらいの連続ドラマを放映してたという記憶がうっすらあって、そのせいもあってか図書室の「少年探偵シリーズ」を借りて読むのが流行っていました。いつも借りたい本が誰かに借りられていて、なかなか読めず、自分で買う事にしたのを覚えています。

 しかし私自身は乱歩作品をたくさん読んだ方ではなく、どちらかと言えば横溝正史をかなり読みました。これも今考えると中学の終りから高校にかけて、作品が石坂浩二主演で映画化されたり、テレビでも「横溝正史シリーズ」(このドラマのエンディング曲が好きやったんですが、覚えてる人いるかなあ...?)なる古谷一行が金田一耕助に扮するドラマなどが次々に作られた影響なのかなあ...と思います。しかしそういった映像よりも原作が、もっとおもしろかったイメージはしっかり残っています。

 この作品は、乱歩を愛する作家達が、乱歩風な作品を書いたものを集めて作られているという、乱歩だからこそありうる楽しい企画と思います。
 

 


0005 吉村 昭 / 桜田門外の変(上・下)

あらすじ: 1860年3月3日、江戸城桜田門外で、安政の大獄、無勅許の開国等で独断専行する井伊大老が暗殺される。その襲撃の指揮者 関 鉄之介 を主人公に事件後の逃亡と、その運命を時代の流れとともに・・・。

著者:

吉村 昭

発行:

新潮文庫

[お薦め度] ☆☆☆☆☆☆☆

 

 東京に旅行に行ったり、天皇さんの行事などで、たまにこの門の名前を今でも聞いたりしますよね。でもやっぱりこの門の名前では井伊大老暗殺の話を思い浮かべるでしょう。

 しかし、水戸は先進思想を持つ優秀な藩と言うイメージが強かったんですが、やはりいくら優秀な人材がいても、今よりは遥かに情報の少ない状態で様々な局面に対する判断は行うのは非常に難しかったのだろうと、水戸藩にも幕府にも感じました。

 それにしても蛮社の獄を思わせるような、この当時の水戸藩への圧政は、この小説の主人公が水戸藩士な事もあり感情も移入されるのか、とても厳しすぎるように思えます。ま、そういう書き方で水戸藩が井伊大老を暗殺せずにはいれなくなった気持ちを巧みに表現されているのかも知れないですが・・・。

 この中で特に印象に残ってるシーンは襲撃のシーンで、その凄まじさが文章から溢れています!刀を使うと言う事で浮かぶのは、やはりテレビのチャンバラですが、実際にはああではなく、刀は1度斬り付けると歯毀れをおこすし、いつも相手の刃をうまく鍔で受けれる訳でもないため、襲撃の現場の雪の上に、たくさんの切断された指が落ちていたらしいのです。その部分の表現は異様にリアルで、おそろしいのと凄いのとで何とも言えない気持ちにさせられます。

 襲撃後、メンバーは散り散りに日本各地を逃げ回るのですが、その逃げる側の心理描写(吉村さんの逃亡に関する表現は高野長英などでも抜群です。「長英逃亡」)、追い詰められて行く表現も実にすばらしく息もつかせぬ迫力で描かれています!
 

 


0004 吉村 昭 / 生麦事件(上・下)

あらすじ:

 1862年9月14日、横浜郊外生麦村で薩摩藩島津久光の大名行列に騎馬のイギリス人4人が遭遇、このうち1名を斬殺、これに対し憤ったイギリスは艦隊を派遣し鹿児島湾で戦争となる。勝敗は明白と思われたが、イギリス側は思いのほか甚大な被害を受け、国内外の世論にも批判されていた。また薩摩藩はあきらかな技術力の差をこの戦争でさらに思い知って、お互い講和を決断する方向となり・・・。

著者:

吉村 昭

発行:

新潮文庫

[お薦め度] ☆☆☆☆☆☆
 このタイトルを見ると、高校の歴史の授業や浪人時代を思い出す人も多いと思います。ぼくも、もともと歴史が好きだった訳ではなかったのですが、こういう小説を読む事で全く見方が変わりました。「何年に何あった?」という所謂暗記系は今もさっぱりですが、このあたりの時代の大きな動きを感じるだけで充分面白いと言う事が発見でき、それまでなかった新たな視点を持つ事ができると思います。
 で、この話は御存じのように薩摩藩の参勤交代を邪魔?したイギリス人が無礼打ちにあい、それに端を発して薩英戦争になるという話で、教科書とかだとそれだけで終り!って感じですが、吉村さんが調べあげると、生麦村の事件目撃者の証言や、この事件以前からの外国人の日本における立ち居振舞いからの流れや、戦争に至るにあたって、イギリス海軍のスピードと大名行列の薩摩への帰国に対する焦りや、鹿児島湾での息詰る興亡をへて、イギリス、薩摩、幕府3者の思惑飛び交う講和会議での駆け引き(こういう、ひやひや、やきもきする駆け引き描写は小村寿太郎が主人公の「ポーツマスの旗」などでも味わえます!)など、ぞくぞくする展開で描かれています。

 当然小説なので、登場人物の心理描写や記録にない言葉など創作部分はありますが、そういう部分を極力抑えた吉村さんの表現は、当時まさにそうあったろうと思わせられるし、大げさに言うと登場人物の息吹きまで感じるように思われます。

 
 

 


0003 谷口ジロー / 坊ちゃんの時代 シリーズ5作品

原作:

関川夏央

著者:

谷口ジロー

発行:

[お薦め度] ☆☆☆☆
 

 初めてこの人の作品と出会ったのは中学か高校の頃「週刊 漫画アクション」の誌上で「坊っちゃんの時代」というタイトルで原作は関川夏央氏でした。題名通り明治時代の夏目漱石を扱った話しで、その画の綿密さ、人物描写、カット割等、これまでの人には感じられないものをそこに感じました。それから色々な作品を読んでますが、この最初に出会った作品が単行本となって5冊になって出たので紹介したいと思ったのです。最初に紹介するには少し話的には難しいかも知れないですが、全体を流れる空気感だけでもこのシリーズはいいです!

 他の作品にももっともっといいものがありますので、その内また取り上げたいと思います。

 
 

 


0002 吉村 昭 / アメリカ彦蔵

著者:

吉村 昭

発行:

新潮文庫

あらすじ: 嘉永三年、十三歳の彦太郎(のちの彦蔵)は船乗りとして初航海で破船漂流する。アメリカ船に救助された彦蔵らは、鎖国政策により帰国を阻まれやむなく渡米する。多くの米国人の知己を得た彦蔵は、洗礼を受け米国に帰化。そして遂に通訳として九年ぶりに故国に帰還し、日米外交の前線に立つ・・・。(文庫裏面あらすじより)
[お薦め度] ☆☆☆☆☆
 このての話ではジョン万次郎が有名ですが、今回この本を読んでいると、この時代にこういう目にあった日本人が意外に多い事に驚きました。

 それにしてもこの話はおもしろく、吉村さんの筆運びがすばらしいのはもちろん、初の船出で遭難しアメリカへ連れて行かれ、時代が良かったのか親切な人に恵まれ教育も受けさせてもらい、さらにはリンカーンをはじめ3人の大統領にも会うという、おそらく日本人として初めての人であるところにも興味をそそられます。

 尊王攘夷って?とか10代の頃思ってる時期もありましたが、こういう外からの視点でみると非常にわかりやすいものですし、興味深いものに感じます。

 確か吉村さんの作品で最初に読んだのは「冬の鷹」という前野良沢が、ターヘルアナトミアという医学書をオランダ語から日本語に翻訳し解体新書を作る話だったと思いますが、そこでも辞書のない時代に翻訳するという苦労がひしひしと伝わって来た事を今も覚えています。
 主人公の葛藤や感動が読者にひびくという点が一貫されている吉村さんの作品、ぼくは大好きですし今後も他の作品を読んでいきたいと思っています。

 


 

0001 井上ひさし / 四千万歩の男  全5巻

   

著者:

井上ひさし

発行:

講談社文庫

[お薦め度] ☆☆☆☆☆☆☆
 
 これは言わずと知れた日本地図を作った人「伊能忠敬」の話なんですが、かなりおもしろいです。旅での出来事はもちろん、かなり年をとってから天文の勉強を始めたことや、旅のお金をかなりの割合で私財を投入してることや、奥さんがとても若くて美しい人だったこと等々、地図作り以外の部分でもとても魅力的な人なのです!ただ全5冊な上に1冊が500〜600ページあるというげっぷもんの量なので、この量に不安を覚える方は厳しいかと思われます。参考としては、司馬遼太郎 著「竜馬がゆく」を読み切れた人なら全く問題なく余裕で読了可能と思われます。

 

 
 

 

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