本、読みませう!

0018 夜は千の目をもつ

あらすじ:

星のふる晩、青年刑事ショーンは、川に身を投げようとしている娘を救った。彼女の父親が死を予言されたというのだ。予言者は今まで正確きわまりない予言をしてきた謎の人物だという。父親は実業家であり財産家だった。犯罪計画の匂いがありはしまいか?ショーンの要請で警察の捜査が開始された。 

著者:

ウィリアム・アイリッシュ

発行:

創元推理文庫
[お薦め度] ☆☆☆☆☆☆☆
 

 サスペンスの元祖アイリッシュの作品もこれまでに6冊読み終えました。7冊目となる今回は「夜は千の目をもつ」です。

 このタイトルを見ると coltrane の「coltrane sound」の1曲目か、もしくは deep rumba の同名タイトルアルバムか、もしくは自分のやってたバンドの b.b.s. に月1投稿してたコラムを思い出しますが、いつ見ても「コルトレーンサウンド」の、ジャケットの顔は崩れてきてます(どうでもいいんですが…  ついでに stitt plays bird も崩れてきてます… )。

 しかし1945年の作品とは思えない出だしです。橋の欄干に若く美しい女性が今にも飛び下りようと佇んでいる… そんなシーンから始まります。それを間一髪救った刑事が渦中に巻き込まれていきます。
 前半は女性が飛び下りようとするまでのいきさつ、後半はその後の危機を刑事と女性の2人と警察とで乗り越えようとする… そんな内容です。

 しかし今回は所謂推理物、とは異なる展開で、そのエンディングも今時っぽい後味を残します。
発表されてから60年たち、若干『ん… 』と思う部分も無くも無いですが、全体的には非常に巧妙で飽きさせない文章です。また「彼は窓辺にいた。胸元のポケットに折れ曲がったまま1本だけ残っていたタバコをふかしていた。」と云うように、後で説明が来るような文章が結構あるのですが、そのあたりに訳者の英文を敢えて意識したと思わせられる工夫が感じられるようにも思います。

 相変わらずの心理的描写の巧さと話の疾走感に今後もアイリッシュ楽しみです。

 


0017 四日間の奇蹟

あらすじ:

脳に障害を負った少女とピアニストの道を閉ざされた青年が山奥の診療所で遭遇する不思議な出来事巧みな筆力で描く感動のファンタジー。 

著者:

朝倉卓弥

発行:

宝島社
[お薦め度] ☆☆☆☆☆☆
 

 「このミス」って云うコンテストがある事を、書店でこの本を見て知りました。
そのコンテストのコンセプトを知って、この初代優勝と云うことと、その時チラッと見た内容がピアニスト云々… とあり、少し気になったので読んでみる事にした。

 例によって評価があまりに高いのと、中に身障者が出て来ると云う事もあり、できれば最初かた悲しいと分かっているものは、本でも映画でもドラマでも見たく無い質(たち)なので、買ってから若干読むのに躊躇しましたが、読むものに生じる片寄りを何とかしたいと云うのもあって読み始めました。

 最初こそしばらく退屈な感じでしたが、主人公のピアノを弾くシーンの曲に関する表現には、この作者が音楽にかなり造詣が深い人だろうと思わせられる筆力に引込まれました。ほんと上手い。よく音楽を知ってるな… と思わされました。
そして中ほどで起こる大事件から話はすごい勢いで進みます。

 このあたりは、ぐだぐだした説明を極力排除し会話や思考を中心とした展開で、読む側を主人公とオーバーラップさせるような方法をとりクライマックスへと導いていきます。
さすがに最後は話が見えましたが、それでも「どうなるんやろう?」的な『読みたい』心をかなりの勢いであおる良く出来た作品でした。

 今、石田由理子はん等で映画が公開されるようですが、果たして映像になってどの程度のもんになるのか楽しみでもあります。
 今後のこの人の作品にも期待ですね。

 


0016 お艶殺し・金色の死

あらすじ:

駿河屋の一人娘お艶と奉公人新助は雪の夜駆け落ちした。幸せを求めた道行きだったが…
 「お艶殺し」
文学とは何か、芸術とは何かを探究する幼馴染みの行く末は… 「金色の死」 

著者:

谷崎潤一郎

発行:

中公文庫
[お薦め度] ☆☆☆☆☆☆
 

 今さら谷崎を読むとは思ってなかったのですが、乱歩が「幻影城」でを褒めていた「金色の死」を含むいくつか作品は機会があれば読みたいと思っていたのです。

 乱歩が読んだ時代と云うか「金色の死」自体が発表された時代を考えると、当然今ほど情報が溢れてない中での「この発想」、本当に畏れ入ってしまいます。クライマックスはとても奇抜ですし、その伏線となる主人公2人の成長過程のそれぞれの会話や考え方などの文章も『さすが…』としかいいようのないくらい知的で、そして諄さを一切許さないかのような無駄の省き具合を感じる文章にも畏れ入ります。

 内容が奇抜だと紹介しすぎる「あらすじ」のせいか、読む者の必要以上の期待のせいか、ネット等で見る感想には辛口で評価の低いものが多いですが、そんな先入観なしに冷静に向き合ってみると、充分すごい作品だと云う事が感じられると思います。

 そして、もう1つの「お艶殺し」も面白かったです。

 この話では、女性の隠れた生態と云うか、谷崎は細雪やその他の作品でも女性の内面を描くのに長けてると云う印象がありますが、この作品もそういう性質を持つ一つと言えると思います。
 大店の子供として我が侭放題に育った器量良しの娘が奉公人と駆け落ち、しかし駆け落ちを手引きした店出入りの者に裏切られ2人は離れ離れになる。その後男はさんざんな中なんとか生き延びていくが、同じ頃女は男を失ったと思い割り切った生活を始めていく。そうしてようやく出会った時の女には、駆け落ちした頃の面影はなく全く別の何かが… 
 その後出会った2人の顛末は物凄いスピードで展開され読者を一気に結末まで導きます。
 いや〜さすがです。2編あわせて読んでみて、やはり「天才」と云われるはずやな〜と改めて思わせられました。

 


0015 ブレードランナー2 -レプリカントの墓標-

あらすじ:

デッカードは愕然とした。外星から地球へ逃亡してきたレプリカントは6人いて、5人は死んだが、あと1人がまだ生きている。そのレプリカントを探しだして処分してほしい… という愛するレイチェルそっくりの女性、タイレル社の総帥サラ・タイレルの拒めない申し出をうけ、逃亡レプリカントを命がけで捜索しはじめる… P・K・ディック原作、R・スコット監督の映画『ブレードランナー』の待望の続篇。

著者:

K・W・ジーター

発行:

新潮文庫

[お薦め度] ☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 映画「ブレードランナー」の続編をディック亡き後、ジーターが引き受けて書かれた作品。
 映画のデッカードとレイチェルのその後、タイレル・コーポレーションの総帥エルドン・タイレルの姪で、レイチェルの原型(テンプラント)になったサラ・タイレルが
登場。逃亡したネクサス6型レプリカントは始末した5体だけではなく、もう1体残っていると云う情報からデッカードは再び LA に戻ることになる。
 さらに1作目でお馴染みのキャラ、デッカードと同じブレードランナーのデイヴ・ホールデンや、殺したはずのレプリカント?ロイ・バティ、テディベアのファジー大佐に乗ったセバスチャン、レプリカント?プリス、デッカードらブレードランナーを仕切る警察官の上司ブライアント、などが再び登場し、それだけでもワクワクさせられます。
 話自体も結構おもしろくよく考えられていて、かなり映画を意識したストーリ−展開がなされているます。その分ディック本来の作品にあるような風合は少なくイメージしやすい文章で綴られています。そういう中にもディックがずっとテーマとしてきた「人間とは?」と云う大きな流れはしっかり受け継がれています。
 シリーズもんと思って、あまり期待してなかったのも良かったのか個人的にはかなり楽しめました。ジーターは3作目も書いてるようなので早くそれも読みたいもんです。
 いや!その前に「ブレードランナー」を再度観直すのが先かな…

 


0014 一九三四年 冬 ― 乱歩

あらすじ:

昭和九年冬、江戸川乱歩はスランプに陥り麻布のホテルに隠る。滞在中の探偵小説マニアの外国人人妻に惹かれたり、従業員の中国人美青年の妖しさにも惑わされながら、短編を執筆し始める。乱歩も脱帽の妖しい作中作を織込み、昭和ブームの昨今にぴったりな昭和初期の懐かしさも見事に描いた作品。山本周五郎賞受賞作。

著者:

久世 光彦

発行:

新潮文庫

[お薦め度] ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 この人の名前は作家と云うよりはTV番組の演出家としての方が馴染みがありました。不確かですが、パペポTVのテロップでも見たような記憶が何となくあります。ま、当然もっと古くから活躍されてるようですが、個人的には「久世っぴ」≒「畑 政憲」&「ミック・ジャガー」と云う公式が脳裏を離れないんですが…(爆)。
 しかし良く出来てます。こんな作品がある事自体全く知らなかったのが自分でもビックリで、推理もん好き、もしくは乱歩好きにはまたとない、読み乍らあちこちでニンマリさせられる作品です。
 乱歩を主人公に物語を書く事自体、非常に斬新に思いますし、話の中で執筆される作品もいい味出してますし、その上泊まっているホテルでも怪しい出来事起こる、と云う、乱歩ファンならずとも充分にワクワクさせられる内容です。また乱歩自身の生態も、本人をよく知っているか、あるいは相当好きでないと分らないくらい細かく描写されていて、人間乱歩がとても興味深く浮き彫りにされています。
 また終りの井上ひさしさんの解説もウィットに飛んでいて面白く、本当にスミからスミまで捨て所のないいい作品です。

 


0013 俳優のノート

あらすじ:

舞台『リア王』出演決定からの2年。緻密なプランと身辺の出来事を綴ったノートは8冊に及んだ。血縁とは? 死とは? 戯曲にのめり込み格闘する間に、長女が出産し、友が死んだ。重なる、劇と現実。やがて俳優にリアの血が流れ出す。映画界から文壇まで多彩な交友録も含め初めて明かされる、壮絶な役作りの秘密。

著者:

山崎 努

発行:

文春文庫

[お薦め度] ☆☆☆☆☆☆
 

 新国立劇場のこけら落し公演「リア王」での山崎努さんの役作りを、1997年7月14日から最終日の翌年2月3日まで綴られた日記です。
 はじめにこの本を見つけた時「へぇ〜山崎努も本出してるんや…」とエッセイ的なもんやろな〜と思ってましたが、ところがどっこい でありました。いや〜解説や紹介文にもあるように、ほんとアマチュアとかプロに関わらず、およそ創作と云われる何らかに関わる多くの人にとっては、読後必ず某かの強い印象を残すであろう… そんな本です。
 
最初に山崎努さんを何で知ったかは忘れましたが(多分何らかの映画でしょう…)、なんせその特徴ある顔付は1度見ただけで忘れらませんでした。出演作で記憶に新しいのは、一連の伊丹作品ではないかと思います。マルサでのステッキをつきながら登場する悪役(強烈でした)、たんぽぽでのカーボーイハット姿のラーメン職人なども個性的でした。
 ちょうどそれと同じ頃だったかと思いますが黒沢作品が大量にビデオになったんで、慌てて「天国と地獄」を見たのも思い出します。これはぼくの癖のようですが、演技や話や、三船も山崎も若いな〜とかはもちろんなんですが、この頃の東京の街並にも今と大分違うな〜とやたら感心したもんです。

 ま、それはいいとして…。
 前々から何かにつけ目にし耳にする「上杉鷹山」について読みたいと思ってたら、藤沢周平さんが「漆の実のみのる国」で書いてると知り早速読み始めました。しかし終わりにある解説に本稿の執筆状況があり、藤沢さんが亡くなるギリギリのとこで書かれた作品と云う事はそこで初めて知りました。
 下巻を読み終った時に「ん!?これで終り?」と思ったのですが、そう思わされた背景にはこのような状況があったのか…と思うと同時に、本当は米沢藩の経済が立直るまでを綴りたかっただろうな…とも思ったけど、この時点では米沢がその後復興に成功したかどうか知らなかったので調べてみました。

 例えば9月23日の日記で、芝居における俳優と演出との関係を語っています。「批評性(演出)も独創性(俳優)も全て生身の登場人物の中に溶け込んでいなければならない。それは演出の力でもない、演技の力でもない。両方が響きあった結果なのだ。」とあります。これは音楽にも言えるな〜と、奏者と演出と曲で。所謂その響き合いに至るまでの双方の解釈が大事とそう思えます。

 また12月1日の日記には「自分の役を中心に戯曲を読むと云う俳優の悪癖が多少とも矯正できるはずだからである。他の役を理解しなければ自分の役も理解できないのだ。」と云うところも、これまた音楽にも言えて、他のパートが何をしているのか知らなければ自分も理解できてないと、ただ音楽の場合、楽器の奏法を知る事も多少含まれますが、それよりはどういった演奏をしているか、を知る事が重要な訳です。
 それらの事は役者で云えばストーリーが、音楽家で云えば曲の構成が頭に入っていて初めてできる事なので、そう考えると如何に普段、当たり前でいてもっとも重要な土台にあたるストーリー部分を疎かにしてる事が多いか… と感じさせられたり、キャパオーバーな時は自分もそう云う傾向にあるな… と戒められたり そんな思いであります。

 もっと様々な深い事が書かれているので、気になった人は是非一読下さい。もちろん本編を知らなくても、斯く云う私が読んでないので問題ないです。でも読み終ると本編の「リア王」読まんとな〜と云う気持ちが生まれて来ますよ!今、自分がそうですし…

 


0012 漆の実のみのる国

あらすじ:

一汁一菜に甘んじつつ財政改革に心血そそいだ上杉鷹山と執政たちの無私の心と苦悩を描き、藤沢さんの遺書とさえよばれた傑作長篇。

著者:

藤沢 周平

発行:

文春文庫

[お薦め度] ☆☆☆☆☆☆
 
 前々から何かにつけ目にし耳にする「上杉鷹山」について読みたいと思ってたら、藤沢周平さんが「漆の実のみのる国」で書いてると知り早速読み始めました。しかし終わりにある解説に本稿の執筆状況があり、藤沢さんが亡くなるギリギリのとこで書かれた作品と云う事はそこで初めて知りました。
 下巻を読み終った時に「ん!?これで終り?」と思ったのですが、そう思わされた背景にはこのような状況があったのか…と思うと同時に、本当は米沢藩の経済が立直るまでを綴りたかっただろうな…とも思ったけど、この時点では米沢がその後復興に成功したかどうか知らなかったので調べてみました。

 小姓頭 莅戸(のぞぎ)善政は1度失脚した後、鷹山引退後に再度中老職として登用され、第2期の寛政改革が莅戸の構想によって進められ,上書箱の設置,代官制度の改革,財政再建16ヵ年計画,広範な国産奨励策などを実施し、その結果、養蚕業・織物業が著しく発展し、財政および農村復興の基盤となった とありました。
 こう見てくると、時間さえあれば、やっぱり最後まで書きたかっただろうなと改めて思わせられます。

 しかし、それでもこの作品の随所にすばらしい文章があります。

 一つは危機的な藩財政の要因のひとつであった当時実権を握っていた、森平右衛門 を家老達が決死の覚悟で追い詰めるシーンです。緊張感迸ります!
 もう一つは治憲(鷹山)が先代に代わり藩主となってすぐ緊縮財政政策を実行しようしますが、本来藩主に忠実であるべき家老らの猛反対にあい、彼等に藩主としての権力を奪われかけそうになるシーンで、その藩主引き降ろし評議の場も、かなりワクワクします。
両シーン共すばらしく、息もつかせぬタッチ&鬼気迫る文章で、藤沢さんの実力が溢れ出ています!

 他にも藩主と領民の情の熱さを著し読者の琴線を鳴らす泣ける箇所も多々あります。そういうふうに思えば思うほど本当に残念…と読者としてもつくづく思います。
 しかし今となっては望んでも叶わない事だし、グダグダ云っても仕方ないので、この作品に勝るとも劣らない同じような感動を味わえる、その他の作品をさらに読みたい、とそのように思います。

 

 


0011 パーキーパットの日々

あらすじ:

火星生物との戦争でかつての豊かな生活を奪われ、地上の放射能から逃れて地下シェルターで暮らすしかない人類に残された、たったひとつの楽しみとは?……表題作ほか、処女短篇「ウーブ身重く横たわる」など、ディックの初期から後期にいたるまでの、選りすぐりの傑作短篇十篇を収録。

著者:

フィリップ・K・ディック

発行:

ハヤカワ文庫

[お薦め度] ☆☆☆☆☆
 
 長篇を山のように読み残してますが、たまには気分を変えて短編集を読んでみました。

 この前に読んだ「フィリップ・K・ディック リポート」でお歴々が「ディックは短編にこそ妙がある…」的な意見が意外と多かった事から繰り上げて読んでみた訳です。

 で、どうだったか?と言えば、なるほど評判通りのおもしろさです。いくつか取り上げてみます。
 まずは「変種第二号」、東西の対決を終結させる目的で世界中に撒いたアンドロイド兵器は、独自に進化して人間そっくりに成長し人間の存在自体をおびやかす…。映画「スクリーマーズ」の原作。映画は覚えてないけど、原作はハラハラさせられます。

「報酬」は、「movie」でも取り上げたペイチェックの原作。プロジェクトに関与していた期間の記憶を消すという条件で、巨額の契約をした特殊技術者が、契約満了時に実際に手にしていたのは5つのがらくたのみ。だまされたのか? 映画ではさらにいくつかの要素プラスして、もう少し内容を複雑にしていますが、原作の時点でも充分おもしろい作品です!

「にせもの」は、映画「クローン」の原作。映画は、配役や予算の問題、あるいはその他映画界の諸事情により振り回された結果からか、所謂B級に入ると思われます。でも話の着眼点はすばらしく読むに値するでしょう!

 その他も印象的なおもしろい話となっています。短いだけに複雑すぎず自然と楽しめるので、1度長篇を読み「降参!」と思ってた方も、今1度騙されたと思って読んでみるると、改めてディックの凄さが分るでしょう!

 

next