第八章 〜星の少女〜
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音が消える。クラスがこんなに一つになるのは珍しかった。僕も、誰しもトビラを見つめていた。どんな子なんだろう、それはもう、「喋ることが出来ない子」ではなく、「どんな可愛い子なんだろう」という事に変わっていた。トビラがゆっくりと開く。そして一人の女の子が入ってきた。そして音が消えるよりもっと静かになった。
知ってる?どんな暗い夜でも、木の枝はもっと暗く見えること。枝として見える。枝として分かるんだ。小さい頃、町の明かりが無い山の中へキャンプに行った時、父さんが星を見せてくれたんだけど、僕には星より、その黒い枝の方が記憶に残った。あぁ、夜の暗さよりも暗いものがあるんだってその時に知った。
今はまさにそんな感じだった。静かなのは、耳で聞こえる音が無くなった時で、本当の音が無い世界って言うのは、心の中で何も考えられない時なんだって分かった。今はもう、僕も含めて、常に鳴り響いている方舟の音さえ誰も聞こえていないだろう。あれだけ待っていた瞬間なのに、男子も女子も何も言わなかった。その子は確かに喋らなかった。でも皆が見入ったのはそこじゃなかった。
「では紹介します、磯野かんなさんだ。少し紹介したが、皆、今日から仲良くしていこう。」
お爺ちゃんの言葉も誰も聞いていなかった。磯野さんは、小柄で細かった。でもそれも皆は見ていない。僕も最初は驚いた、驚かずにはいられなかった。