小説

著:やまももけんじ

『 方舟がキミを運ぶね 』

第八章 星の少女

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第八章 〜星の少女〜
P.2 

「なぁ、お前今度は玉子焼き何日続いてんだよ。ヘビになっちゃうぞ。」

「いいじゃんか、僕は玉子好きなんだ。ご飯にも合うし体にもいいんだって母さん言ってたし。」

「にしてもさぁ、楽しみだよな。俺の想像だと、髪が長くてちょっと化粧なんかしてるマセてる女じゃないかって思うんだよ。せいたろうはどんな子だと思う?」

「う〜ん、どうだろう。僕は髪の毛短いと思うな。ほら、漫画のスケバン刑事みたいな子だったら面白いと思うけどさ。」

「ははは、それいいな!そしたらピストルズにますますピッタリだよ、パンクでかっこいいじゃんか。そしたら本当に誘っちゃおうかな、ははは。」

空を見ていると、いよいよ雨が降りそうな空へ変わってきていた。風が時々突風のように吹いてる。晴れの日も好きだけど、曇りの日も少しだけ好きだ。白と黒の雲がごちゃ混ぜになって灰色の景色。空が暗くなる、なんか少しだけワクワクするんだ。お爺ちゃんが言ってた言葉を振り返ってみる。話せない、それは自分だったらどうなんだろう、どんな気持ちなんだろうって考える。でも17歳の僕には想像つかなかった。チャイムぎりぎりにクラスに着いた僕はバッグにお弁当を戻しながら、冷静にクラスを見回した。女子も男子も「磯野かんな」を待っていた。きっとそれは、悪いことじゃない。誰も知らなかったんだから。磯野かんなさんを。

お爺ちゃんがトビラを開けて入ってきた。クラスが一気に騒がしくなる。周りを見渡してため息をもらしたように見えた。でもそれは僕以外、誰も見てなかった。静かにするように、おちつくように、ひとしきり注意しているのを、ひじをついて鉛筆の先をジッと見ながら静かになるのを待ってた。ようやく落ち着いて、お爺ちゃんが言った。

「では紹介します。今日からこのクラスの仲間になる、磯野かんなさんだ。磯野さん、入ってきなさい。」

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