Extreme @ Hammersmith Apollo


2 July 1995

 昨日メンズウェアをマーキーで見たばっかりだというのに、今日はハマースミス・アポロでエクストリーム。その前のヴァネッサ・メイ@ロイヤル・アルバート・ホールから数えると3日連続でコンサートに足を運んでる自分。ただ、この日のライヴレポートは書くのが非常にためらわれます。どうしてここまでためらわれるのか、僕の心中を察していただければ幸いです。正直言ってこのレポート、これから行われる来日公演に行かないお方や、何を読もうと動じないという筋金入りのエクストリーム好き以外にはちょっとオススメできません。



 …曇ったロンドンの空の下をアポロに向かって急ぐ僕らファンには、久々に激しい雨が降りつけていました。満員の会場に辿り着いて雨を振り払いながら、まずはギネスをハーフパイント。ふう。落ち着いた。

 前座は新人の Steamboat Band。開演前の場内BGMがレニー・クラヴィッツの "MAMA SAID" アルバムかけっぱなし、ということからも分かるとおりのレトログレッシヴなバンド。ズブズブの南部サウンドで、要するにブラック・クロウズの贋物、さらにはハンブル・パイの贋物であるわけですが、個性が弱過ぎるのが致命的でした。黒烏以降多いんだよね〜、この手の中途半端なブルーズロックバンド。続く本編エクストリームの開演前BGMは何と! パット・トラヴァース・バンドの超名盤 "LIVE! GO FOR WHAT YOU KNOW"。パット・スロールのギターもトミー・アルドリッヂの豪快なドラムも大好きなライヴ盤なので、こっちも勝手にノリノリです。しかもA面が終わったところでチープ・トリックのベスト盤流しに切り替わり。これってきっとヌーノの趣味なんだろうな〜。ニヤニヤ。

 と、ここまでは良かったのですが…

 本編に関していうと、基本的にほとんど4作目 "WAITING FOR THE PUNCHLINE" からの選曲。ステージ上にはアンプとモニターしかなく、バックドロップすらないシンプルなセットに、照明も必要最小限です。ダークで重いリフで幕を開け、ひたすらヘヴィな新作からの楽曲を畳み掛けます。ゲイリー・シェローンは身軽にステージ狭しと飛び回り、3月のクイーンズライク公演でのジェフ・テイトを凌ぐ怪しげなパントマイム風の演技を。はっきり言ってすごく浮いてるし、妙な感じ。新しいドラマーのマイク・マンジーニも「切れる」というよりは「重い」ドラムを叩いています。ゲイリーが感情を込めて歌うのでなく、全編に渡ってひたすら絶叫モードなので、聴いていてかなりツライものがあります。もっといいヴォーカルが歌える人のはずなのに。それともヌーノにそう指示されて従ってるのかな? それともヤケっぱちなのか? 残念ながら、メンバー全員が音楽的に同じ方向を向いているとはちょっと思えない、ちぐはぐでバラバラな演奏になってしまっていたのです。"No Respect" とか "Cynical" とかネガティヴなメッセージを持つ曲が多いのもマイナス印象。

 4枚目のアルバムを何回聴いても、ヌーノが何をやろうとしていることが一体何なのか、今ひとつ分かりかねた自分としては、ライヴでそれをハッキリと示してくれることをとても期待していたのです。アルバムの音だけでは気に入ることができなくても、ライヴを見て初めて良さが分かり、その後大好きになるアルバムってありますから。でもこの日のエクストリームを見たら、それがますます分からなくなってしまって… これは僕にとっては結構珍しい体験でした。

 曲順にしても、いきなり2曲目で "Get The Funk Out" を出しちゃう?? "PORNOGRAFFITTI" を代表する大ノリナンバーですよ。"III SIDES TO EVERY STORY" (好き!)からも、"Rest In Peace" はいいとして、他に "Cupid's Dead""Am I Ever Gonna Change?" を選ぶかなあ? 他にもいい曲あるじゃない。重いよ。暗いよこれじゃ。一番盛り上がり、大合唱になるのはどうしても2ndからの2大ヒット曲、"More Than Words" "Hole Hearted"。ヌーノがダブルネックを抱えて登場しての擬似アンプラグド・セットで演奏されたそれらは、「このバラードのバンド」 というイメージがいかにロンドン(というより世界中?)に浸透してしまっているかを端的に表していました。アンプラグドを挟んだタイミングも結構中途半端なところだったし、アレンジも大幅に変わっていて、なかなか微妙な盛り上がりだったかもしれません。

 確かにヌーノのギターソロは素晴らしかった。曲の途中でもソロに入ると会場の歓声の厚みが全然違うのです。ベーシストと2人でフロントに並んでの超高速ユニゾンフレーズも文句なしにカッコよかった。でも、ヘヴィでダークな雰囲気はアンコールまで貫き通され、結局ファンキーで楽しいエクストリームの姿は一瞬たりとも見せてくれませんでした。彼らはよっぽど徹底的にこれまでのカラーを払拭しようとしているようです。1ファンに過ぎない僕はその極端過ぎる変化に対応できるかどうか、まだ自信がありません。すっかり煙に巻かれた気分…。というより、バンドが何をやりたいのかが(僕のようなリスナーには)はっきり見えなかったという点が致命的。ゴメンナサイ、好きなバンドだけに厳しい評価になってしまうのです。心中お察しくださいませ。だからこそ、ぜひ日本公演では僕には見えなかった 「今のエクストリーム」 の素晴らしさを完全に表現しきって皆さんをアッと言わせてほしい。彼らならやってくれる、その実力を持っているはずだと思うのです。

 帰りの電車の中で、日本人のファンたちが 「スゲー良かったよ今日のエクストリーム。ヌーノ最高〜」 とか言い合っているのを聴いて、さらに落ち込みながら家路につきました。


May 2002 追記

 ライヴを見ての悪い予感は的中してしまいました。ご存知のようにこのアルバムを最後にエクストリームは解散、ヌーノはソロに、ゲイリーはしばらくしてヴァン・ヘイレンにスカウトされるもアルバム1枚で解雇されます。一時は頂点を極めたバンドだけに、凋落ぶりを見るのは辛いものがありました。


MUSIC / BBS / DIARY / HOME