THE ROAD TO WEMBLEY (2)
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第2回:英国の誇り! ウェンブリーに落ちた特大の雷/Thunder 編 16時30分。 7万人が次第にウェンブリー・スタジアムを埋め尽くしていきます。東京ドームより遥かに大きいのです。どのくらいの規模か想像してみてください。もちろん屋根なしの屋外会場。頭上にはどこまでも灰色に曇ったロンドンの空が広がっています。この3日間で延べ20万人以上が集う、ある意味モンスターズ・オブ・ロックと言っても過言ではないイベント。 会場の興奮が昂ぶってくると、だんだんと空気に張り詰めるテンションの高さが肌でピリピリと感じられるようになります。意味もなくある場所から歓声が上がり、それがどんどん隣に波及していって、スタジアム全体が蜂の巣をつついたような大騒ぎになったり。スタンド席からごく自然発生的にウェーブが起こり、僕の席をも通過していくので、もちろん両手を高く挙げて波に加わります。ウェーブが巨大な会場にゆっくりと円を描きながら1周する度に、地を揺るがすような大拍手が沸き起こります。そしてそのままウェーブはぐるりと2周、3周、4周していきます。すごい! バンドだけじゃなくて、7万人の観客全員で今日のライヴを作り上げていくんだなあ。そう実感して、こちらもアドレナリン全開状態です。 …16時45分、急にBGMがフェードアウトし、巨大なPAシステムからあの曲のイントロが! そう、AC/DC の "Thunderstruck"! ワーッという大歓声と共に、ぎゅうぎゅう詰めのアリーナ席からさーっと一斉に手が挙がり、頭上で曲に合わせて手拍子が始まります。「一斉に」ですよ。僕はちょっと上の席から見ていたので、もうひたすら壮観でした。ウェンブリー・スタジアムでのコンサートを記録したライヴビデオはジェネシスやクイーンなどがリリースしていますが、あの様子を思い出してみてください。アリーナ一面を埋める手、手、手。そして曲に合わせて "Thunder! Thunder!" の連呼。個人的にも AC/DC で最も思い入れある曲なので、頭ガンガンに振りまくってしまいます。フルコーラス、十分に会場を沸かせた後、"BEHIND CLOSED DOORS" アルバムジャケットのバックドロップの前にいよいよサンダーが登場! ここでちょっとだけお断りしておきますと、この日のライヴは誰が何と言おうと、あくまでも「ボン・ジョヴィの前座」。以前この LONDON CALLING でレポートした春のツアーとはオープニング曲からして全然異なる(こないだは "We Will Rock You" でしたね)ものです。はっきりとフェスティヴァル参加用に組んだセット。彼ら自身その辺は十分に意識していた、というのはこれから紹介するセットリストからも一目瞭然です。 まず赤のタータンチェックのスーツに身を包んだダニー・ボウズが、堂々とステージ中央に仁王立ち。熱狂する観客を前に、マイクスタンドを頭上に振りかざし、それを振り下ろすと同時にバンドが「ジャン!」と一音。 くーっ、カッコ良すぎるぅ〜。なんて絵になる男なんだ。しーんと静まり返った客を前にさらに2度、3度。そしてそのままハリー・ジェイムズが力強く叩き出すビートが "Dirty Love" のギターリフを呼び出します! 「えっ、もうコイツをやっちゃうの!?」 すっかり意表を突かれたオープニングによろけつつも、これだけ巨大な会場でいきなりテンションを上げていくためには、代表曲から入らなきゃダメだってこと、彼らにも分かってるんですよね。最も知名度の高い曲のひとつだけに、観客のコーラス合唱はすごいものがあります。例の "Na na na...." のパート歌わせ大会もあるにはありますが、3回くらいでさっさと終わり、しつこくない。ノリを生むための「引き」も憎いほど心得ています。 そのままなだれ込んだ "River of Pain"。泣かせます。個人的には "BEHIND CLOSED DOORS" アルバムを買って以来、頭の中で流れる回数が一番多い曲です。でも、ダニーが煽らないとすぐに手拍子を忘れて傍観者モードになってしまうオーディエンスたちだったりして。良くも悪くも前座。今日はみんな、徹底的にボン・ジョヴィを見に来てるんですよ。 3曲目はルーク・モーリーの弾くアコギのイントロに拍手が起こります。アリーナ席最前列では手を挙げてゆっくりと左右に振る姿も。そう、1stからのバラード、"Love Walked In"。盛り上げに盛り上げて、エンディング寸前でぴたっと演奏を止める。黄色い歓声を挙げる女の子たちに向かって「静かに!」と呼びかけるダニー。そして会場が静まったところで、再び激しいアウトロへなだれ込む演奏。うひゃー、かっこいい。 続いてハリーが早いビートを刻み始めます。長いドラムイントロに、会場はまた一斉に頭上で手拍子開始。「何だっけ、何だっけこれ?」 5月のロンドン公演では明らかに聴かれなかったこのイントロ、でも絶対に知っている。だって身体が勝手に反応してるから。ルークの明快なギターリフが入ってきたところで、その身体に電流が流れてしまいました。分かった! "Gimme Some Lovin'" のハイスピード・ヴァージョンだっ! 古くは Steve Winwood が在籍した Spencer Davis Group の67年全米7位の大ヒット。サンダーが1stでカヴァーした時にはあまりのハマり具合にびっくりしたものですが、このライヴヴァージョンはまたまた素晴らしい出来。スリリングなハモンドオルガンも加えて、ダニーのヴォーカルが一段と弾けます。スタジアムライヴではポピュラーなカヴァー曲を演奏して沸かせるのはお約束とはいえ(結果としてこの日の参加4バンドすべてがカヴァー曲をプレイしました)、これはもうすっかり自分たちの曲にしてしまっている様子。 さてお次はアコギのイントロから、静かに歌い上げる大曲 "Low Life In High Places"。心にじわーんと染み渡ります。でも、悲しいかないくら良い歌とはいえ、前座2番手でこんな大曲を演奏されても、ウェンブリーの7万人全員の注意をずっと引き付けておくことはできないのです。例えば、ラストでバンドが演奏を止め、ダニーの独壇場となってブルージィなヴォーカルのアドリブを聴かせるわけです。1人ステージに立ち尽くし、下を向いて無言のまま、何分間も微動だにせずじっと心を集中していましたが、ここもお客さんにはウケていたとはいえライヴの流れは途切れちゃってましたし。それより、うつむく彼の頭頂部付近がスクリーンに大写しになった際に、心なしか「薄い」ものを感じてしまったのは内緒にしておく方向で。 まあそれは置いとくにしても、こういう曲はバンドの息遣いが聞こえるような小さなホールでプレイしてこそ、という部分もありますから、この日唯一の選曲ミスと言えなくもありません。それじゃあまりにも可哀想なので、きっと日本公演では涙を誘う名曲になるでしょう、と書いておくことにします。しかしそんな憂さを吹き飛ばすような "Ball And Chain" の元気なイントロに再びニコニコ。ダニーはスタンド席のあちこちを指差して、"Stand up, please!" と呼び掛けています。メインアクトに向けて力を温存していたスタンド席もじわりじわりと立ち上がり始め、いよいよエンジン全開か? "Ball And Chain" が終わりに差しかかったところでキーボードから流れてきたエレピのフレーズは、何と! エマーソン・レイク&パーマーの傑作『展覧会の絵』のラストを飾る "Nutrocker"、「くるみ割り人形」じゃないですか! 7万人の観客共々、僕もここで完全に切れてしまいました。EL&P大好きなのです。ベース、ドラムスともに完コピで、みんな大ウケです。こんなのもやれるんだね〜。そのまま大R&Rジャム大会に突入し、ダニーはウェンブリーの巨大なステージを左の袖から右の袖まで一直線に全力疾走! 思わず見てる自分も拳を握り締めてしまう! 大歓声と大拍手に包まれて、凍える夏の寒空からウェンブリーに落ちた特大の雷は大団円を迎えました。 時計を見ると17時30分。たったの6曲+αではありましたが、演奏を終了して5人肩を組み、深々と頭を下げる姿がとても印象に残るラストでした。 さて、実はこの日のサンダーを、僕は激しく評価したい。 というのは、5月に見た彼らは、ほんのちょっとだけとはいえ「この程度なの?」という思いを拭えなかったから。救われたのは、実はアンコールの "Dirty Love" に辿り着いてからだったのです。 つまり、例えば5月のライヴで彼らは椅子を持ち出してアコースティック・セットをやったわけですが、その際長々と「次の曲の背景は…」などと事細かに、回りくどく説明に入っていたのです。そこで歌われた歌の社会的メッセージの是非などはとりあえず置いとくとしても、善良なサンダーのファンたちにしてみれば、例えば家庭内暴力/DVはいけないことだとか、そんなことはライヴの場でいちいち言われなくてもよく分かってると思うのです。事実、ダニーが "Am I making you feel uncomfortable?" と尋ねたのに対し、ロンドンでは明らかに "YES!!!" の声が上がっていたもの。それはお客さんが彼らに何を求めていて、何を求めていないかを端的に表していました。 確かにサンダーのソングライティングの幅はとても広がっているし、"'Til The River Runs Dry" や "It Happened In This Town" は感動的な名曲です。でも、少なくともライヴの場においてはくどくど落ち込ませるサンダーではなくて、ひたすら楽しくて、時の経つのも忘れるような思い出を提供してくれてもいいんじゃないのかな、と。上記の曲たちも、黙ってやってくれれば逆により説得力を増すかもしれません。そして彼らならではの底抜けに楽しいライヴを見せてもらえれば、彼らが憂えるところの醜い犯罪なんかは世の中から少しずつ消えていくのではないか、とも思うのだけれど、甘いかなあ? ともかく、短い持ち時間を存分に使ってエンターテインメントの真髄を究めた本日のサンダーは素晴らしかった! アメリカ勢3組に囲まれても全くひけを取らない堂々としたステージングに、大英帝国の誇りを見せつけられた思いです。彼らはきっと、この会場でヘッドライナーを務める日が来る。そんな確信が僕の心に芽生えたのでした… (続く) January 2002 追記 残念ながら、僕の「確信」が実現しないうちに Thunder は解散してしまいました。彼らをもっともよく理解し、愛を注いだのは日本のオーディエンスだったのかもしれません。きっと再結成することもあるでしょう。その時にもきっと変わらぬ勇姿を見せてくれることを願いつつ、気長に待つことにしています… |
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