THE ROAD TO WEMBLEY (3)
WEMBLEY (1) (2) (3) (4) (5) | |
第3回:アメリカン・ハードロックの至宝!/Van Halen 編 17時45分。 夕方、って印象ですか? 実は全然違うのです。ここロンドンは今頃の季節ですと午後9時前後まで日が暮れません。緯度が高い上に夏時間を採用しているため、午後7時8時なんてまだ真っ昼間の明るさなのです。 ステージ上ではサンダーのセットを分解して運び出すクルーとヴァン・ヘイレンの機材を据え付けるクルーが忙しく交錯しています。実は僕自身、以前ライヴ会場でアルバイトをしていたことがあって、イングヴェイ・マルムスティーンの "FIRE AND ICE" ツアー@日本武道館の時、前座のサヴァタージのセットをバラしてイングヴェイのバンド用のドラムスなどを運び込んだことがあります。ステージ上での作業は時間に追われていますが、そのかたわらチラリと見やった満員の日本武道館客席はやはり圧倒的でした。(こんなにたくさんの人々を前にライヴをやるっていうのは、ほとんどドラッグに近い陶酔感をもたらすのかも…)なんて、ふと思ったり。 さてさて、アレックス・ヴァン・ヘイレンの独特のドラムセット、背後に巨大なゴング/銅鑼を備えたあのセットが完成していくのを見ると、未だ見ぬアメリカンHRのビッグ・ブランド【VAN HALEN】への期待が嫌が応にも高まるというものです。あまりのギャラの高さからここ数作のアルバムツアーでは日本の地を踏むことがありませんでしたので、ここで観られるなんて超ラッキー!と思っていましたが、今回の "BALANCE" ツアーは来日公演も決定したそうで。でもサンダーの時にも書いたとおり、今日はあくまでボン・ジョヴィの前座。アルバムツアーとは位置付けも曲順も全く異なります。 実はこの 「前座問題」 についてはひと悶着ありました。サミー・ヘイガーがロック雑誌 KERRANG! などに語ったところによると、ボン・ジョヴィ側のマネジメントは当初 「ダブルヘッドラインということで…」 と打診してきたらしい。そりゃそうです。だって天下のヴァン・ヘイレンですよ。しかし蓋を開けてみると、完全に 『ボン・ジョヴィ+その他豪華前座バンド』 の扱いになっている。サミー激怒です。多分エディもカチンと来てるでしょう。 でもでもでも。 ここヨーロッパでは、少なくとも90年代半ばの現在における人気度・知名度・集客力は圧倒的にボン・ジョヴィ>>ヴァン・ヘイレンなんですよね。最後は人気がモノをいう。市場の論理かくあるべし。もちろん米国に戻ったら立場逆転です。"BALANCE" は相変わらず全米初登場1位だし、"THESE DAYS" は健闘してるとはいえ及ばない。アメリカでやるなら当然大トリはヴァン・ヘイレンになるでしょう。しかしここはロンドン。あくまでもロンドン。 …大丈夫、ヴァン・ヘイレンは「オトナのバンド」でした。どんなライヴをやってくれたかというと… 17時55分。 怪しげなお経のような効果音がぞわぞわとウェンブリーに鳴り響く中、音に合わせて "BALANCE" アルバムの海外盤ジャケット写真(シャム双生児の)が舞台バックドロップとしてせり上がってきます。そしてもうイキナリ上半身裸!で、いつも通りの白い鉢巻きみたいなヘッドバンドをしたアレックス・ヴァン・ヘイレンが現れて、観客に向かって手を挙げます。あのねえアレックス、今日は信じられないくらい寒い日なんだけどさあ(笑)。 続いてマイケル・アンソニー、エディ、サミーが一気に飛び出し、7万人のオーディエンスが狂ったように暴れ出すのを前に、"The Seventh Seal" がスタート! サミーはブラックジーンズの上に紫の長袖パーカーを羽織ってる。最新作の冒頭を飾るこの思いきりヘヴィなナンバーで、サミーはもう凄まじいとしか言いようのない素晴らしい喉を披露。ああ、本当にサミーのファンで良かった。ひたすらカッコいい。完全にミーハーモードに突入です。彼の声ははっきり言ってロック界の至宝。単なる上手いヴォーカリストとしか思っていない方は、ぜひ今度の来日公演に足を運んで生で体験してみてください。そんじょそこらの若造には出せない、物凄いど迫力。デイヴ・リー・ロスのお株を奪う、両足を広げての高いジャンプ姿など、とても今年で48歳になる男には見えません。途中でパーカーを脱ぎ捨てると、白のTシャツの上に黒いタンクトップを重ね着していて、実はとてもスリムなのが分かります。昨年までの写真ではややお腹が出ていたので、その後身体を絞ったのでしょう。 2曲目はエディのギターで幕を開ける "Runaround"。前作 "FOR UNLAWFUL CARNAL KNOWLEDGE" の中でも特にキャッチーだったナンバーです。しかし、そのエディは実は最近腰を痛めて手術したとかで、ヨタヨタと歩きながらのプレイ。お世辞にもかっこいいとは言えません。しかも短く刈り上げた髪に加えて髭も生やし、最近の写真を確認していなければ一見誰だか分からないくらい。マイケル・アンソニーのバックコーラスが良く伸びる声でサミーをサポートします。エディもかなり歌えますからこのバンドはコーラスがしっかりしてますよね。その魅力はライヴでも存分に楽しめます。サミーが客を煽る様子なんかもう心憎いくらいに上手くて、「スタジアム・ライヴなら俺たちに任せろ」 と言わんばかりの余裕ぶり。 "This place is fuckin' GREAT!!!" と叫ぶサミーのMCを、僕を含む大観衆の歓声がかき消し、それをさらに3曲目の "Aftershock" のイントロがかき消していきます。エディはあまり動けないとはいえ、ギターソロになると巨大スクリーンの映像がすかさず彼の手元をズームアップ。この辺り、観客にとっての見どころもバッチリ押さえてる。スタジアム全員が、スクリーン上で展開される人間業とは思えぬ指さばきに釘付け。細くて身軽そうなサミーがステージ上を所狭しと走り回り、超ハイジャンプを見せる背後で、実はアレックス・ヴァン・ヘイレンの首にも白いギプスのようなものがはめられているのに気付きました。鞭打ち症? 兄弟揃って怪我するとはまた仲がいいことです(笑) もうお客さんは完全にノリノリ。「さあて今日はちと古めのヴァン・ヘイレンもやるぜ。ひょっとして君たちが初めて聴く曲かもしれんけどな!(笑)」 というサミーの言葉に導かれてエディが繰り出すイントロは、ああ、衝撃のデビュー作から "Ain't Talkin' 'Bout Love"! もうイントロだけでメロメロになってしまう自分。サミーも好む数少ない初期VHの曲ながら、どうにも会場が盛り上がらない! 本当に彼のMC通り、誰も知らないという雰囲気でした。ただ1人、スタンド席後ろで狂ったように歌いまくっていた怪しげな日本人、それが僕でした… 「よーし、次は "OU812" アルバムからの曲をやるぜ。みんな、ビッグVのマークを作って俺に見せてくれ!」 そう言ってサミーが両手で作る 「ビッグV」 がスクリーンに大写しになり、"When It's Love" のシンセイントロが流れる中、会場の全員が一斉にさーっと両手を挙げてVマークを作ります。壮観! ちなみにどうやって作るかというと、まず両手グーの状態からそれぞれ親指・人指し指・小指の3本を立てます。両手を近づけ、親指どうし、人差し指どうしをくっつけて上に挙げます。ハイ出来上がり! この辺の新しめの曲はそれなりに知られているみたいで、コーラスは大合唱になりました。 続いて、来ました来ました "Panama"! ハイ、大好きな曲。デイヴ時代の曲にしては比較的オリジナルに忠実にメロディを歌うサミーが印象的。間奏部分では観客と "Yeah!" "Yeah!" のコール&レスポンスを挟んで、凄まじいシャウトを聴かせます。どんなに叫んでもビクともしない声。いったいどういう喉をしてるんだろ? 演奏もぐんぐん加速して白熱し、最後にはサミーも床に大の字にのびちゃいました。 お次は最新作 "BALANCE" アルバム本編のラストを締める "Feelin'"。切なく、物悲しいナンバー。サミーの歌唱力が最大限に発揮される佳曲です。床にのびちゃった所から上半身だけ起こして、訴えるように、思いきり情感を込めて歌い上げます。じーん… コーラスはパワフルで、スタジアム専用パワー・バラッドという感じ。間奏部分から次第に演奏のテンポが走り出し、緊迫感が増します。エディのソロの運指の速さには思わず目を見張るものが。今回のライヴの白眉とも言えるヴォーカル&演奏でした。 "…Ladies and gentlemen, here's EDDIE VAN HALEN!!!" サミーの紹介により、お待ちかねエディのギターソロコーナーに突入。とにかくひたすら速くて正確なライトハンド奏法の嵐! 巨大スクリーンに大写しになる彼の指先に7万人が口をあんぐり開けて見入ってしまいます。「見世物としてのヴァン・ヘイレン」 というオーディエンスのニーズにも十分に応える商品性の高さ。流石です。大歓声に包まれてニッコリ笑うエディの顔は、デビュー時から全く変わらない無邪気さで輝いていました。 さーてトレードマークの真っ赤なTシャツに着替えて飛び出してきたサミーを迎え撃ったのはエディのギターリフ。ジャ ジャジャジャジャン! "You Really Got Me" だっ! 観客たちのこのキレ具合をどう表現すればいいのでしょう。衝撃のデビュー作からの大ヒット曲にして、英国の誇る The Kinks のカヴァーでもあります。それをこの地で演奏してしまう。観客席は最初から最後まで手拍子と合唱の連続でした。続く "Dreams" と "Why Can't This Be Love" はアルバム "5150" からの選曲ですね。特に後者の独特のイントロに対する反応は凄まじいもので、スタジアムが揺れるとはこのことか、という感じ。僕も大好きな曲なので歌いまくります。 お次は赤Tシャツの Mr. Red ことサミー・ヘイガーが赤いギターを抱えて走り回るスピーディな "There's Only One Way To Rock"。ソロアルバムからの曲ですが、サミーはもともとイギリスでは非常に人気のあるシンガーでした。ハマースミスでの名演を収めたライヴ盤もリリースしているくらい。それにしても元気な人だな〜。この曲の間奏では自らギターソロを弾きまくり、エディ・ヴァン・ヘイレンとソロを応酬し合うのですが、このサミーのリードギターがまた非常にカッコいいので参っちゃいます。観客の興奮が最高点に達したまさにその時、ウェンブリー・スタジアムをつんざくような分厚いシンセサイザーのイントロが鳴り響きました。そう、ラストはこれしかない、"Jump"! まさに壮絶。7万人全員総立ち。手拍子の嵐。鼓膜が破れるような大合唱。そしてサビに合わせてみんなで一斉にジャンプ! なぜだか全く分かりませんが、不覚にもここで涙が流れるのを止められませんでした。アルバム "1984" はちょうど洋楽聴き始めの中学1年生の終わり頃に体験した衝撃的な作品。それから11年。その間には楽しいこと、辛いこと、本当にいろいろなことがありました。それがまさかイギリスはロンドンで、この曲を遂にライヴで体験している自分。ヴォーカリストは当時と替わりましたが、いろいろなホロ苦い思い出を一瞬にしてフラッシュバックさせる、そんな実に素晴らしいライヴだったのです。最後にスタジアムを埋めたロックファンを見渡し、最高の笑顔を見せてくれたサミー・ヘイガー、彼こそは真のアメリカン・ロックの星だっ! これで Montrose の "Bad Motor Scooter" やってくれたらマジで死んでもいいところでしたが、贅沢は言わないことにします… ちなみに、アメリカではヴァン・ヘイレンのライヴの名物になっている 「女の子のファンたちが着てる下着を脱いでどんどんステージに投げ込む」 という展開は、ここロンドンでは見られませんでした。保守的だから…というよりは、信じられないくらい寒い日だったから、と思う。思いたい(笑)。しかし、新作 "BALANCE" のプロモーションをしたい気持ちを痛いくらいに感じましたが敢えてそうせず、ボン・ジョヴィの前座という立場をわきまえて盛り上げに徹するグレイテスト・ヒッツ的選曲にしたヴァン・ヘイレンのプロ意識には本当に頭が下がります。真に凄いバンドというのは、こういうことができる人たちだと思うのです。 終了したのは19時ちょうど。 驚くべきことにあのヴァン・ヘイレンでさえもアンコールをする権利はなく、すぐに引っ込んでしまいます。なぜならばメインアクトはいよいよこの次のバンドだから… (続く) Van Halen @ Wembley Stadium, 24 Jun. 1995 1. The Seventh Seal 2. Runaround 3. Aftershock 4. Ain't Talkin' 'Bout Love 5. When It's Love 6. Panama 7. Feelin' 8. Eddie Van Halen - Guitar Solo 9. You Really Got Me 10. Dreams 11. Why Can't This Be Love 12. There's Only One Way To Rock 13. Jump January 2002 追記 今やとっくにサミーも脱退し、元 Extreme のゲイリー・シェローンも1枚きりでおしまい。エディ・ヴァン・ヘイレン自身が癌との闘病中とあって、この次のアルバムがいつ聴けるのか、まったく見えないヴァン・ヘイレン。今にして思えば、この "BALANCE" アルバム発表後のライヴは貴重なチャンスだったのかも。今でも大好きで、よくアルバムを引っ張り出して聴くバンドだけに、無事活動を再開する日を楽しみに待ちたいと思っています。 |
|