08 June 1995
実はこれまで、僕は人前で自分がボン・ジョヴィのファンであると言ったことはほとんどない。もちろんデビュー曲の 『夜明けのランナウェイ』 がチャートに入った瞬間からの付き合いだし、その後もアルバムを発表する度に全部耳を通してきた。だが、正面切って「俺はボン・ジョヴィが好きなんだっ!」などと言ったことはきっとない。飲んだ席ですらそれはない。それどころか、彼らをハードロックライフの原点に挙げるSくんや、いつだって「ジョンがジョンが」とおっしゃるKさんを蔑んできたような部分すらある。(ごめんね。)
しかしそれは、もちろん、本心からの行為ではなかった。
多分、彼らのアイドルバンド的なイメージが頭の片隅にあって、「恥ずかしい」という気持ちがあったのだろう。でもそんな偽りの愛ももうおしまい。僕は今や、正々堂々とボン・ジョヴィのファンであることを世界に向かって公言できる。のみならず、僕にとってもっとも大切なロックバンドの1つであることを。
僕の目を覚まさせてくれたのは94年の暮れ、ラジオから流れてきた
"Always" だった。何気なく聴いていた僕だが、これがチャート上で大ロングセラーになろうとしていたことは知っていたし、前作
"KEEP THE FAITH" でのセールス低迷ぶりも知っていたから興味はあった。でも、「所詮ボン・ジョヴィのバラードだし」
という気持ちがあったのは否定できない。
だが、それは単なるバラードではなかった。
…歌の持つ力は、聴き手の側の環境によって全然違ったベクトルにも向かうものだが、この日の僕はまさに "Always" を心から受け入れる状態になっていたのだ。
「♪お前を取り戻せるなら、命を賭けたっていい、いつまでもお前を愛し続けるよ…」
頬を張り飛ばされたような気がした。いったい俺は今まで何をしていたんだ? どこに目を、耳をつけて生きてきたんだ? こんな歯の浮くようなフレーズを、心を込めて歌えるのは世界広しと言えどもジョン・ボン・ジョヴィしかいないじゃないか。こんな凄いバンドと同じ時代に生きてるのに、どうして無理に目をそらそうとしてるんだ?
それからというもの、溢れる涙も拭わず、"I'll Be There For You" や "In These Arms" を聴き返しまくった。すんでのところでロックへの情熱を失いかけていた自分に、再び熱い気持ちを思い出させてくれた彼らには、本当に感謝している。今やボン・ジョヴィは、僕がロックを聴き続ける理由のひとつなのだ。
というわけで、ようやくリリースされた待望のニューアルバム先行シングル盤のレビュウをしてみます。
"This Ain't A Love Song"。イギリス盤は2種類のCDがリリースされました。タイトル曲以外に合計5曲もの新曲(アルバムには未収録)が聴けることになります。しかも、そのいずれもが「何でこれがアルバムから落ちちゃうの???」っていうような佳曲ばかり。基本的にアウトテイクなので、プロダクションは8割方の完成度ですが、それでもやっぱりいい曲。凡百のバンドなら、このうちの1曲でも書ければ万歳!でアルバムに収録しちゃうような曲を、ジョンは実に何気なく口ずさんでいるのです。
まず、"Lonely At The Top" は、ややスローでアコースティックギター主体の優しい曲。このテンポのバラードを書かせたらやっぱりジョン/リッチーって天下一品のソングライターチームです。デイヴィッド・ブライアンの白玉系キーボードがうま〜く後ろから盛り上げます。
"The End" はアルバムに入ってたら絶対にライヴのラスト用の曲として重宝されるに違いないタイプ。「♪僕らはみんな、最後には一緒になるんだよ」っていう爽やかでポジティヴなコーラスは、大合唱になる様がもう目に浮かぶくらい。
"When She Comes" は新しいメンバーの Hugh MacDonald のうねり気味のベースラインが印象的な、少しホロ苦いコーラスメロディを持つ曲。実はこれに限らず、全ての曲で
Hugh のベースはすごくいい感じで鳴っています。ライヴで見てみたいな。
お次の "Wedding Day" にはもう参りました。名曲。
昔の彼女が別の男と結婚することになったのですが、その結婚式に行けなかったジョンが彼女との過去を回想し、これからの生活を見つめるという設定なのですが、熱くストーリィを歌い上げるジョンのヴォーカルといい、ギターソロの後にダイナミックに盛り上がる大サビが用意されている構成といい、完全に全身ツボ押されまくり状態。全てのボン・ジョヴィファンは必聴!です。
最後の "Prostitute" は珍しくヘヴィなトーンのギター&ベースリフでスタート。曲全体を覆うダークなトーンが怪しげですごくいい感じ。♪今夜は俺がお前の Prostitute になってやるぜ、というメッセージも何だか意味深。これは「売春婦」じゃなくて「売春夫」と訳してあげるべきなんでしょうね(笑)。
というわけで、タイトル曲も含めて全6曲、アルバムの前にファンの皆さんに届けられたEPといった趣。僕はこれから新作
"THESE DAYS" のリリース日までこれらを聴きまくることになりそうです。
November 2001 追記
ボン・ジョヴィが好きであることをカミングアウトしてからもう6年か…
自分も6年歳をとりましたし、ジョンもリッチーもそうです。いろいろなことがありましたし、これからもいろいろなことがあるはず。その時々に、きっと僕はボン・ジョヴィの曲を口ずさんで、その曲と思い出とを結び付けていくのでしょう。95年の夏を振り返った時に、僕の心の中でボン・ジョヴィが占めるスペースはここには書ききれないくらい大きなものがあります。
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