震撼! The Tea Party @ The Marquee


31 May 1995

 5月31日の Marquee Club での The Tea Party のライヴ。

 それは単に観に行ったとか聴きに行ったとかいう表現を完全に超越した、『体験 / Experience』 という言葉こそが相応しい、凄まじいものでした。これまでにも無数のバンドがここ Marquee から大舞台に羽ばたいていきました。しばしば新人バンドの『登竜門』といわれる所以です。彼らもそんなことは百も承知でしょう。だが、それにしてはあまりにも堂に入った、ふてぶてしいまでの大胆不敵な構え、そして演奏ぶり。

 Marquee はクラブチッタ川崎の3分の2あるかどうか、という本当に小さいクラブなのですが、ぎっしり埋まった数百人のロンドンっ子が固唾を呑んで見守る中、ヴォーカル/ギターの Jeff Martin の声の深さ、重さが僕らを完全に金縛りにしてしまう。「呪文をかけられた / Spellbound」という言葉がありますが、まさにそんな状態です。全盛期の Jim Morrison (The Doors) がリードギタリストも兼ねていたら、まさにこんな存在だったのではないかと思わせるカリスマ性。

 アルバムで聴いているだけでは半信半疑だったギタープレイの数々が、間違いなく僕の目の前で再現されています。よりリアルに、何倍も迫力を増して。目を閉じたまま、指先だけが弦を自在に操り、新しい音が次々と生み出されていく様はまさに神懸り的。

 ギター系の楽器は10本近く用意されており、曲ごとに取り替えていきます。楽曲の中の「ここぞ!」という部分で、まったく見たこともない中央アジア系弦楽器を引っ張り出して持ち替えては完全に弾きこなしている様子や、時にはギターを置いて自らもパーカッションを叩きながら民族音楽的なリズムを重ねていく様子からは、東洋風のアプローチを趣味で半端にやっているなんてものじゃなく、完全に腰までどっぷり浸かっている姿が窺い知れます。

 ベースのJeff Burrows は左利き。何故か左利きのベーシストで嫌いなプレイヤーはいないのですが、彼の構えっぷりも完全に好みです。アルバムの分厚いサウンドを再現できるのか半信半疑でしたが、キーボードが必要なパートでは鍵盤を弾きながら、足でペダルを踏んでベースラインを実に的確に鳴らしていくのです。ピアノや、左手でレバーを回して空気を送り込む小さな手こぎオルガンに座る時にも、ちゃんと足はベースペダルを踏み続けています。

 ドラムスの Stuart Chatwood が叩き出すヘヴィなビートとパーカッション的な演奏法のミックスは、例えば Stone Temple Pilots の "CORE" アルバムなどでも聴かれましたが、呪術的な妖しさを伴っている点ではこちらの方がはるかに上。

 トリオ編成のバンドには何故か本能的にとても惹かれます。Rush、King's X といったバンドたちがオフに入っていることを考えると、この The Tea Party は現在もっとも素晴らしいロックトリオといっていいんじゃないだろうか。ぴったりと「息を合わせる」という行為はメンバーの数が増えるほど困難になるものですが、トリオではそれが最大限に活きてくるみたい。

 安易に「トリップ」なんて言葉を使いたくはない。例えば Monster Magnet はいいバンドだと思うけれど、あの程度のサイケっぽさでは到底トリップはできないから。しかし、この夜の Marquee にいた約300人のオーディエンスは、完全に「トリップ」していたのです。凄いものを体験してしまった。きっと今夜のマーキーでの演奏は今後 The Tea Party が語られるときに、伝説として語り継がれていくのだろう、そんな歴史的な瞬間を見てしまった思いです。

 日本のレコード会社の目も節穴じゃないでしょうから、きっとこれからプッシュされていくのではないかと思います。とにかく、まずは聴いてみてください。そして、たった3人の人間に何ができるのか、人間のヴォーカル/声というものがどれほど感情を込めることができる楽器なのか、少しでも感じてもらえればと思います。 …というわけで、個人的には今年前半のベストディスクは決定してしまったのでした。"THE EDGES OF TWILIGHT" - The Tea Party。

(意味不明なライヴレポートですみません。音楽を文字メディアに置き換えるのって、やっぱり相当無理がありますよね…)



多少落ち着いて、補足を。


 上のレポートは、ライヴ直後の震えるような感動をそのまま書きつけたものでしたが、あれじゃあんまりなんでこれから多少補足してみますね。


 とにかく凄かったのです…。前座が終わって、本編開演前の場内BGMが Soundgarden の "SUPERUNKNOWN" アルバムかけっぱなしで、それだけで自分は完全に切れそうになってました。"♪ Alive is the superunknown..." のコーラス部分はロンドンっ子も合唱していたようです。アルバムレビューの時にちょっと触れた、Jeff Martin と Chris Cornell との共通性もこれで実証されたかな?

 左利きがいる3ピースバンドといえば例えば King's X がありますが、同じように The Tea Party も実に絵になる男たちでした。ベース/キーボードの Jeff Burrows がやたら細身で寡黙な男っぽいのも好印象。

 客電が落ちてから、中央アジア方面の遊牧民族のような音楽がしゃんしゃんしゃん…と流れてくる中、小さなステージにメンバーが静かに出てきて暗闇の中でそれぞれの楽器を構えます。もうこの時点でカリスマ、といか確信犯的な感じ。ライヴの間、こちらのお客さんはぺちゃくちゃウルサイってのはこれまでのレポートの中でも何度か書きましたよね。それが、しーんと水を打ったように静まり返って、口をあんぐりと開けたまま引き込まれているのです。観客の頭の中でこちら側とあちら側を隔てている薄い壁に、一斉にパリっとヒビが入る音が聞こえるような、そんな感じすらしました。それが「トリップ」という言葉で表現したかったことなのですけれど…

 例えば、楽曲が爆裂する展開の中、Jeff Martin が後ろからやおら弓を取り出して、ギターの弦に当ててヴァイオリン奏法でソロを弾いたりするわけですが、普通ならシラケちゃいそうでしょう? それがもうみんな息を呑んで見守る状態で、あまりにも華麗な左手のヴィブラートなんかに魅せられてしまったのです。奏法そのものが見世物となるべきではなくて、その奏法を用いて奏でられるソロプレイこそが評価されるべきだと思っていますが、もちろんソロ自体も完璧だったのです。クラシック音楽はともかく、ブルースを基調とする音楽においては、一瞬の衝動をいかに指先に伝えてることができるかが命だと思います。その意味で Jeff Martin は今後大いに注目されるべきギタリストになることと思います。

 ギターだけではなく、ヴォーカルの迫力も強調しておきたいところ。CDを聴いた段階では「でもさあ、最近はスタジオでずいぶんヴォーカルもいじれちゃうわけだし…」などと半信半疑だった自分も、ライヴでのあまりの迫力ある声にマジでぶっ飛ばされました。曲を書き始めたばかりの若手のバンドって、何かこう自分の歌ってるラインに不安げというか、自信なさげなところがありがちですよね。ところが、こいつらときたら自分たちの出す一音一音、メロディラインのひとつひとつに対する確信の度合いが半端じゃないんですよ。この若さでこれじゃ、本当に今後末恐ろしいものがあります。

 「ついてくるも来ないも勝手だけど、俺たちはこういう風にしか演らないぜ」、的な、ひどく確信に満ちた歌声と演奏。「俺たちみたいに他にないような独特な音出してるんじゃ、メディアがヘルプしてくれるかどうかわからないけど、見てもらえれば、聴いてもらえれば客はきっと分かってくれると思う」と語る Jeff Martin の言葉と、僕自身が見たマーキー公演からは、極めて理想的なバンド/ファン関係が構築されていくような気がしました。

 ちなみにオープニングとアンコールのラストはそれぞれ、"The River" "Winter Solstice / Save Me" という、ファーストアルバム "SPLENDOR SOLIS" からの楽曲。だいたいオープニングの "The River" からしてもう、凄かったのです。エモーショナル極まりないイントロが超ロングヴァージョンに引き伸ばされ、ぐいぐいぐいっと引き込んでいく様子。体験していただくしかありません。小節数とかきちんと決められてたのかなあ? 十分にソロを弾き終えたところで、3人が目を合わせて「ここだっ」となだれ込んでいったように見えたのですが… ちなみにイントロの「ひょろひょろ…」という不思議なギターの音は、左手のみでネックの弦で出していて、ネックを揺らしながらヴィブラートをかけていました。右手は宙に舞いながら、不思議な軌跡を描いています。

 ライヴのラストの "Save Me" は10分はあろうかという大熱演で、首筋がゾクゾクするような鬼気迫る熱演でした。ヴァース部分ではギターを弾かず両手を後ろに回して、じっとオーディエンスを見つめて歌います。そしてコーラスではギターが大炸裂!

 1st "SPLENDOR SOLIS" は Jeff Martin のセルフプロデュースですが、2nd と比べても聴き劣りのしない好盤です。"THE EDGES OF TWILIGHT" が各種音楽性を見事にブレンドした作品とすれば、1st はそれらの要素がまだくっきりと分かれていて荒削りな感じですが、その「生」っぽいところがまた快感。デビュー盤からこれだけ独自の世界というか、ヴィジョンを持って音楽を作っているとは本当に驚きです。まだこんなに若いのに!

 ロンドンに異動になる辞令を受けたとき、「確かに評価の確立した大物のライヴもいいけれど、ロンドンならではの活きのいい発展途上のバンドを発掘したいなあ」と思ったのですが、まさにそれが見つかりました。よし、とことん応援するぞ!って気になっています。

 そういえばせっかくロンドンに来たのに、まだドラッグ関係は試していないんですよね〜。とは言っても、この日の Marquee も観客の中から激しくモクモク煙が立ち込めておりまして、僕の隣のお兄さんのみたいに明らかにタバコの香りではないもの(!)もたくさんあるわけです。で、Jeff Martin が曲間のMCで、「やあ、今夜のロンドンはなかなかハイになってるな。誰かジョイント(=マリファナ)持ってないかい?」なんて尋ねると、最前列の女の子が、自分が吸ってたソレをすっと差し出して、深々と吸い込んだ Jeff が咳き込んで、「おいおい、ひでえなコレは」なんていう一幕もありましたっけ。なんだかロンドンのライヴっぽいでしょ?


 ひょっとすると僕自身、ロンドンに異動にならなければ一生 The Tea Party を聴くことはなかったかもしれません。そんなことを考えると、すべての偶然って実は必然なんだよなあ、ってちょっと不思議な気持ちになってしまったりもします。

 あんな狭いクラブなら誰だってそう思うんだろうけど、僕もあの夜 Jeff Martin とはばっちり目が合いました。それもかなり長い間。こちらを真っ直ぐに見つめる彼の視線からは、遊びでやってるんじゃない、ってことが痛いほどに伝わってきたのです。だから僕はその直感を信じて、このバンドをどこまでも応援したい。


November 2001 追記

 ほとんど追記すべきことはありません。それほど衝撃を受けたライヴでしたし、今でも思い出すだけで鳥肌が立つくらいです。予想どおりに、というべきか、彼らはコマーシャリズムからは距離を置いて淡々と素晴らしい作品をリリースし続けています。地元のカナダでは今や押しも押されもせぬ大人気バンドですが、米国で大ブレイクすることは難しいでしょう。でもその方が嬉しかったりするのだから、ファンの心理というのは難しいものです。 


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