70. Always Gonna Love You - Gary Moore
この人の印象は人によって様々でしょう。ハードにギターを弾きまくる彼も良いし、"Still Got The Blues" でのズブズブのブルーズも良い。でも僕にとってはやっぱりこの泣き泣きバラード。別れた女性を想いながら、過去を引きずって生きる男の生き様。いきなり哀愁漂うピアノのイントロに、短めのヴァース。コーラス前のタメで切り込んでくるギターリフが、この曲と同じ82年に世界中で大ヒットしたエイジアの "Heat of The Moment" のイントロを思わせるのはご愛嬌。そして全楽器がなだれ込む感動のサビへ。
♪I'm always gonna love you
If loving means forever
I'm always gonna want you
I don't think I could ever
Just forget the love we had
聴いてて気恥ずかしくなるくらいの「ど」産業バラード。だいたい
"always" と "love"
と
"forever" の3単語を並べるような曲は信用なりません。(例:Donna
Lewis "I Love You Always Forever"(US#2/96))
それはさておき誤解を恐れずに言うならば、この曲のギターソロは冬的ハードロック史上最強にドラマティックで、完成された素晴らしい演奏です。ソロだけ繰り返して何度も聴いたことがあるくらい。これぞ産業ロックに魂を売り渡した男だけに与えられる神様からのインスピレーション。しかし後にYAHOOオークションで魂を買い戻した彼は、多少安めにブルーズの悪魔に転売して別の道を歩くことになるのです。
69. The Smile Has Left Your Eyes - Asia
名邦題「いつわりの微笑み」。この時点でほぼ勝負あった。
エイジアのセカンド "ALPHA" は、いわゆるプログレ者たちからは「ポップになり過ぎた」だの「インストバトルが少ない」だの激しく批判されがちです。しかし僕に言わせれば、これぞジョン・ウェットン/ジェフ・ダウンズの美意識を究めた傑作アルバム。次から次に繰り出される美メロと、それを殺さないよう入念にカドを丸めたアレンジ。やっつけ仕事どころか気が遠くなるくらい手の込んだ作業だったと思います。
この曲はアルバム中でも「分かりやすさ」「ドラマティックさ」という点で1、2を争う楽曲。ポップシングルとしては場違いなまでに壮大に盛り上がる「これでもか!」というやり過ぎコーラスに、狙ったとおりに乗せられてしまう自分に苦笑しつつもやっぱり一緒に歌ってしまうのです。
歌詞的にはいろいろな読み方ができます。ひとつの解釈はたとえばこんなものでしょう。カップルの片方(女性)が別の人に浮気して、それが元でカップルは別れてしまった。以後、男性の方は人間不信になって放浪し、ようやく悲しみを乗り越えます。そこに再び現れた元彼女。よりを戻すかと思いきや、彼は言うのです。「君の瞳からかつての微笑みは失われてしまった。近づかないでくれ。もう遅過ぎる」と。ところである人によると、この曲に登場する人称代名詞の性別を入れ替えて女性に歌わせるとまた違ったストーリィになると言います。それもいつか、ゆっくり考えてみたいものです。
68. (Keep Feeling) Fascination - The Human League
『愛の残り火』 も "Human" も大好きだし、"Mirror Man" のウキウキ感も捨てがたいのだけれど、今日の気分で 『ファッシネーション』 を推します。
きらびやか度ではダントツなんですよね。ブライトなシンセサイザーのリフが耳について離れない。妙に音を外してるような部分もあるのですが、すべては計算ずく。この頃のヒューマン・リーグのインチキ臭さには、有無を言わさずねじ伏せられたものです。このインチキぽさこそが彼らの真骨頂といってもよい。ベースラインに顕著なファンク指向も初期の楽曲の特徴。すごく踊れて良い。ほとんどめちゃくちゃなヴァースのメロディで、フィル・オーキーの歌の上手さが際立つ仕掛けになっています。
遠回しにいうと、何度聴いても血が通ってないところが良い。
67. Eye In The Sky - The Alan Parsons Project
アラン・パーソンズと言えば、アビー・ロードスタジオで 『サージェント・ペパーズ』 や 『狂気』 を録音した名エンジニア。そんな彼が自らバンドを編成し、アルバムごとにメンバーを入れ替えながら制作したのがアラン・パーソンズ・プロジェクト。でも決して頭でっかちにならず、一貫して分かりやすく聴きやすいサウンドを作り続けてきました。最大のヒット曲が、これ。
分かりやすいとはいっても、必ずアルバム毎に全体の通奏低音となるコンセプトを持ち込んで、リスナーの知的好奇心をくすぐることも忘れませんでした。この曲はフィリップ・K・ディックの同名SF小説にインスパイアされたとか。80年代初めらしくAORっぽいアレンジがとても聴きやすく、心地いい。アラン・パーソンズ・プロジェクトで活躍した多くのヴォーカリストの中でも特に忘れ難い
Eric Woolfson の柔らかく諭すような歌声が心に染み入ります。
ソフトなサウンドとは裏腹に、歌詞はやや謎めいています。「僕は君を空から見つめる瞳、君の心は読めているよ」と歌う主人公は、神なのか、それとも? これまで「君」の嘘に欺かれてきた歌い手が、もう君に騙されることはないと淡々と歌う様は、コーラスの後半で悲しげに変わるコードとともに、いつまでも聴き手の心に影を落とすのです。
66. She Blinded Me With Science - Thomas Dolby
名邦題 『彼女はサイエンス』。正しくは、「彼女は僕を科学で盲目にしたよ」。
ハッタリ度満点のアレンジと、異様なインパクトのあるビデオクリップで、80年代洋楽ファンには絶対に忘れられない1曲です。コンピュータを自在に操ってプログラミングを行い、ビデオも自分で監督してしまう多才ぶりを発揮したトーマス・ドルビーは、エジプトのカイロ生まれ。全米トップ40ヒットはこれだけですが、キーボードプレイは高く評価されており、例えば
Foreigner の産業ロック名盤 "4" 全編を覆うシンセサイザーのほとんどはトーマスが演奏しているものです。この他にも
Mutt Lange とのコネクションから Def
Leppard
などでも弾いてるみたい。
良くも悪くも器用貧乏。たとえば坂本龍一などとも交流があるのだけれど、坂本のように徹底したセルアウトは絶対にできない人でした。坂本といえば、この曲を(追加)収録したアルバム
"THE GOLDEN AGE OF WIRELESS" には矢野顕子も参加しています。この曲の中には
"♪Good heavens, Miss Sakamoto... You're
beautiful." というフレーズが挿入されてるくらい。その他にもアンディ・パートリッジ、ダニエル・ミラー、ブルース・ウーリー、リーナ・ラヴィッチなどがゲスト参加していますが、アルバム全体を通してトーマスのエレクトロニック趣味が全開になった非常にクールな手触りの作品。
イッちゃってる度数では、この次のアルバム
"THE FLAT EARTH" からの第1弾シングル "Hyperactive!" の方が遥かにスゴイので、イキ過ぎのビデオ共々激しくオススメ。
65. Word Up - Cameo
ぶっちゃけ、あるレベル以上にカッコ良い音楽はジャンルを超越している。例えばキャミオはしばしば「ファンク」に分類されますが、この曲に関して言えばもはやそんなのどうでもよろしい。スコットランドの
Gun がハードロック風にカヴァーして世界中で何万枚ものウロコを目から落としてくれた例を引き合いに出すまでもなく、"Word Up" はただのファンクなんかじゃない。もちろんロックだけでもない。誰かオーケストラ用にアレンジしてみなよ。あるいはピアノ弾き語り。
さてキャミオはもともと大所帯でゴリゴリのファンクバンドでしたが、だんだん人数が減って、86年のこのアルバム前後にはジャケットのとおり3人組にまで縮小。サウンドの方もシンプルになり、隙間だらけのチープシンセファンクといった趣きですが、シンプルなものほど強いのです。異様なインパクトを持つリフにラリー・ブラックモン(ジャケ中央)の独特のユルい鼻声が乗っかると、もうあちらのペース。気がつくとサビに引き込まれ、ブレイクを大合唱するハメに。さあ皆さんご一緒に。
「だぶりゅ、おー、あーでぃー、あっぷ! だぶりゅ、おー、あーでぃー、あっぷ!」
ビデオでは股間に赤いカップのようなものをつけて、それを押さえながらひたすら腰振って歌ってたような気がするんですけど。そういう下半身方面の強調こそがファンクのカッコ良さ。その意味では、ジャケ左側の腕組みふんぞり返り野郎はまあ良いとして、アルバムタイトルのロゴを入れてあげるためだけに無理に前かがみになってるジャケ右側野郎もかなりカッコいいよ。
64. And The Melody Still Lingers On(Night In Tunisia) - Chaka Khan
この曲はシングルヒットではありませんが、心ある黒人音楽のファンならぜひ一度は聴いていただきたい。ジャズ・トランペッター、ディジー・ガレスピーの名曲 『チュニジアの夜』 を下敷きにした、オリジナルとカヴァーの中間みたいな曲です。
詞をつけたのはプロデューサーのアリフ・マーディン。歌い出しはこんな言葉。「昔々、40年代にディジー・ガレスピーとチャーリー・パーカーがこの曲を書いて
『チュニジアの夜』と名付けた。目新しく、不思議なこの曲について来れる人は数少なかったけれど、そのメロディは今でも心にひっかかっている…」。その「数少ない」プレイヤーの2人がマックス・ローチとマイルス・デイヴィスだったこと、そんなモダンジャズの巨人たちが以後大きな影響を及ぼすことになったこと、そしてジョン・コルトレーンからスティーヴィー・ワンダーに至るまで、変化の風は吹き止まなかったこと。もちろんその前にいたデューク・エリントンら先駆者たちへの敬意も忘れずに。灯されたたいまつの火を大切に守りながら歌い抜く。黒人音楽の伝統を受け継ぐチャカの力強い決意表明が、ジャズ趣味を全開にしたヴォーカルでどこまでも伸びやかに歌われます。後半の鬼気迫るスキャットなんて鳥肌ものだよ。
さらに圧倒されるのが、驚異的なバックトラックのアレンジメント。デヴィッド・フォスターが手がけるミニムーグ・ベースの強烈なウネリに腰が動かない人がいるでしょうか。何回聴いてもため息が出るほど徹底的に組み立てられたハービー・ハンコックの入魂のキーボードソロ。ジャズ、ファンク、R&B、ソウル… 拡散したサブジャンルを再び「ブラック・ミュージック」という大きな根っこに手繰り寄せる類まれな試みが成功した奇跡的な1曲。チャカの声あってこその曲ではあるけれど、才能ある女性の周りには、不思議と才能ある男たちが集まるものらしい。
63. Turn On, Tune In, Cop Out - Freak Power
リーバイスのCMで使われるとともに95年3月に再発されてロンドンを席巻した大ヒット曲。セールスチャートでは最高3位ですが、向こうでFMを聴いていた実感としては、エアプレイは間違いなくぶっちぎりの1位。とにかくひっきりなしにオンエアされてました。
近年では Fatboy Slim が最もヒットした名前と言えるのでしょうが、この
Freak Power もノーマン・クックの数多い変名プロジェクトのひとつ。80年代半ばの
Housemartins のベーシストとしてキャリアをスタート、90年には
Beats International の名でレゲエ/ダブものに手を出して
"Dub Be Good To Me" の全英#1ヒットを生みました。ご存知 Fatboy
Slimでは、ビッグビート系テクノを分かりやすく提示してみせたわけですが、この
Freak Power ではジャズファンクの香りがするダンスミュージックに接近してます。
一度聴いたら頭から離れない黒っぽいベースラインのイントロ。まったりとした中にもすっとぼけたノーマンらしさがそこはかとなく漂う秀逸なファンキーソング。ふざけ気味のトロンボーンソロも気だるくて、日曜の昼間からビイル飲みたくなっちゃうよ。マジ最高。
62. Somebody Else's Guy - Jocelyn Brown
ジョセリン・ブラウンの声は、何物にも代え難い。ビートの効いたダンストラックの上で伸び伸び歌わせて、これほど映える声はそうそうない。だけどその一方で、彼女には裏方仕事が良く似合う。彼女がバックシンガーとして仕事をしてきた相手は
Luther Vandross や George Benson や
John
Lennon など大物ばかりだし、リードを取ったのも
Inner City や Salsoul Orchestra、更には
Nuyorican
Soul などグループやユニットの一員としてだった。近年のハウスもののクレジットは「フィーチャリング」だし。徹底して表舞台に立たない彼女。
この曲はあまり多くないソロ名義での大ヒットだけど、ジャケットには裏に隠れてブラインドからこっちを覗き見る女性しか写っていないし、歌詞だって表舞台の女の子のそれじゃない。とある男性と素晴らしい日々を過ごし、すっかり心奪われて夢中になってしまったところで判明した事実、それは彼にはちゃんと相手がいたってこと。これすなわち裏方仕事の悲哀だよ。一体私はどうすればいいの、大事な彼氏が誰か他の女のものだったなんて… というショッキングな歌詞をパワフルに歌いきるジョセリン・ブラウンの声は、何物にも代え難い。
今夜もどこかのディスコで忘れた頃に突然かかり、フロアで踊る裏方系女の子たちの心を熱くするに違いないダンスクラシック。ひととおり泣いてみて初めて、次の恋が見つかる。
61. Saving All My Love For You - Whitney Houston
邦題 『すべてをあなたに』。一途な恋愛を歌ったロマンチックな曲と思われがちです。事実そうなのですが、決してハッピーエンディングではない。叶わぬ壮絶な不倫の恋に身を焦がす曲なのです。これすなわち結婚式ご法度ソング。
ホイットニーの登場は、月並みな表現ではありますが、衝撃的でした。モデル出身のすらりとしたスタイルに、驚異的な歌の上手さ。芸能界における血筋の良さ。次々と大ヒットを飛ばし始めた彼女の、初めての全米1位がこの曲です。ソングライターは泣く子も黙る
Gerry Goffin & Michael Masser のコンビ。何故黙るかって?
彼らが手がけた楽曲の、ほんの一部を並べてみるだけで分かります。
"Tonight, I Celebrate My Love" - Peabo Bryson / Roberta Flack (US#16/83)
"Miss You Like Crazy" - Natalie Cole (US#7/89)
"Nothing's Gonna Change My Love For
You" - Glenn Medeiros (US#12/87)
"Theme From Mahogany (Do You Know Where
You're Going To)" - Diana Ross (US#1/76)
元キャロル・キングの旦那だった Goffin
単体で書いた楽曲を挙げ始めるとそれこそキリがありません。月並みな表現ではありますが、これも実に良くできた曲です。ホイットニーが歌うストーリィを客観的に聴けば、100人中100人が「あんたその男に騙されてるよ」とアドバイスしたくなるはず。でも、ブリッジ後のあまりにも力強い最終ヴァース⇒コーラスを聴いてしまうと、誰もそんなこと言えなくなってしまうのです。分かった。分かったよ。それでキミが幸せだと言うんならオレは止められない。好きなだけ彼のことを愛するがいいと。
♪No other woman, is gonna love you
more
Cause tonight is the night, that
I'm feeling
alright (←ここの "tonight"、特に力入ってます)
We'll be making love the whole night
through
So I'm saving all my love
Yeah I'm saving all my love
Yes I'm saving all my love for you
For you, for you
サックスソロはトム・スコット。どこまでも無駄に豪華な曲でした。
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