80. I Still Believe - Brenda K. Starr
僕はまだ信じています。マライア・キャリーが再び頂点に立つ日が来ることを… え?
マライアのコーナーじゃないよって?
まあまあ落ち着いて。
とりあえず、マライアとブレンダの関係から。
マライアは、1988年頃このブレンダ・K・スターのバックコーラスとして憧れの音楽界に足を踏み入れます。当時ヒットを飛ばしていたブレンダが口利きしてくれて、SONY
の役員に紹介され、トントン拍子にデビューが決まったというシンデレラ・ストーリィ。ブレンダはまさに芸能界の恩人、言わばガラスの靴いやカボチャの馬車。(ていうかどっちも違うと思う…) その縁でベスト盤用新曲にこれをカヴァーしたマライアでしたが、思えばあの頃から失速し始めたような。ブレンダ本人を呼んでフィーチャーしなかったバチが当たったのか。
ミニー・リパートンの "Lovin' You" (US#1/75) を思わせる鳥のさえずり入りイントロで始まる、ブレンダ最大のヒット曲。歌詞が僕らの涙腺を刺激します。恋が終わったことを分かっているはずの主人公が「それでもまだ信じてるの / あなたと私が再び恋に落ちるって…」ってひたすら歌う未練ソング。これで制作が
Deodato ときてるから侮れない。
ブレンダはNY生まれのプエルトリカン。父親は
Spiral Starecase のメンバーとして "More Today Than Yesterday" (US#12/69) のヒットを持つ音楽一家。近年の彼女はルーツであるサルサに戻って活動中。子供も4人くらいいて、すっかりラテンママ的体型です。それでも愛らしいルックスと、ちょっとロリ入ったキュートなヴォーカルの魅力は相変わらずのようで。
他に、サンディ・ラムも 『依然』 というタイトルで色っぽくカヴァーしてます。ストレートな名訳。
79. Hungry Like The Wolf - Duran Duran
正直、迷った。
デュラン・デュランを1曲に絞れ? そりゃ無理ってもんです。"Planet Earth" も "Rio" も "The Reflex" も "Notorious" も大好きだし、偏愛してるのは "New Moon On Monday" だし。迷った時は、リアルタイムで最初に経験したヒット曲に戻りましょう。狼のように飢えて。
スターダムに駆け上る瞬間のバンドって、こんなにも活き活きとしているものなのか。この時期の彼らのサウンドには、迷いらしきものがほとんど見当たりません。圧倒的な自信と若さが全てを貫いている。イントロのチープなギターリフに絡むシンセのシークエンスといい、バタバタとフィルインするドラムといい、全方向からツッコメそうなネタ満載。サイモン・ル・ボンが、鼻にかかったあの自己陶酔系ヴォーカルをこれでもかと繰り出す様など聴いていて痛快ですらあります。
80sのブリティッシュ・インヴェイジョンものらしくビデオも印象的でした。アルバム
"RIO" からの3部作、"Hungry Like The Wolf"、"Save A Prayer"、"Rio" は連作というわけではないのですが、綺麗な女の子と冒険ものというキーワードで統一されたカラフルでリゾートチックな世界が表現されていました。"Hungry..." のクリップに関していうと、インディ・ジョーンズ的な映像で、サファリぽい格好でジャングルを駈けるサイモンが忘れられません。豹みたいなカッコしたブラックの女の子もいたような。狼
vs 豹、世紀の猛獣対決だったのか。
78. Smooth Operator - Sade
以前は国際通信会社に勤めていたわけですが、そうすると国際電話の交換手職の女の子がたくさんいまして。電話応対が上手な子もいれば、クレームの怒鳴り込みに四苦八苦する子もいるわけで。そんな中でも特に円滑に取次ぎができる女の子こそ、いわゆるスムース・オペレーター。 …いやこの歌とは全然関係ないんですけど。
シャーデーの登場は衝撃的でした。
洋楽聴きたての頃ですから、当時の洋楽トレンドにおける位置付けがどうこうってのは置いといて。もっと単純に。これがオトナの音楽ってヤツ?みたいな。ロンドンのクラブシーンやオトナの恋愛模様を想像しつつ。いつか上等なブランデーでも飲みながら聴きたい音楽だと思ったものです。地味なパーカッションに乾いたサクソフォン。ほとんどビブラート無しの、シャーデー・アデュの唯一無二のヴォーカル。"♪No need to ask he's a smooth operator" のコーラス、"ask" での力の抜き具合が絶妙で。
実際、最近はお酒を飲みながら聴くことが多くなりました。シャーデーが歌うプレイボーイへの警句はますます痛く僕らの胸に突き刺さるのです。当時からほとんど変化せず、むしろ余分な装飾を削ぎ落としつつ現在も歌い続ける彼女のヴォーカルは、永遠の輝きすなわちダイアモンド・ライフ。給料の3か月分の婚約指輪かよ。
むしろ給料の3ヶ月分の給料をください。
77. Children's Concerto - Moraz-Bruford
インストゥルメンタルは第一印象が命。
『子供たちのコンチェルト』 と題されたこの曲は、子供たちのキラキラした瞳のイメージそのまま。聴く度に心洗われるようなパトリック・モラツの流麗なピアノはもちろんのこと、ビル・ブラフォードのドラムのアコースティックな響きも清々しい1曲。
モラツとブラフォードはそれぞれ Yes
の元メンバーですが、Yes
在籍時期は重なっていません。モラツ唯一のスタジオ参加作 "RELAYER" は全3曲の大曲集で、一部に熱烈な支持者がいます。前任のリック・ウェイクマンとはまったく異なるスタイルでファンをあっと言わせた技巧派鍵盤奏者。一方ブラフォードは
『こわれもの』 『危機』 といった傑作を含む初期のアルバムを支えたオリジナル・メンバー。
この2人が即興演奏主体のデュオをやろうと組んだユニットがこれ。生ピアノと生ドラムだけのシンプルな構成。無駄な楽器がないということは、個々の力量が問われるということでもあります。技術面で他を圧倒する2人ですが、このディスクでは奇跡的な息の合いっぷり。"Children's Concerto" は練られた楽曲でインプロ色は薄いものの、実に爽やかな演奏が楽しめます。イントロのクラシカルなピアノタッチが、ジャズっぽいドラムスと絡んでいく瞬間のスリリングなこと!
とてもピアノとドラムだけの組み合わせとは思えないほど表情豊かな曲なのです。
76. Bitch - Meredith Brooks
エアプレイを稼ぎたいなら避けるべき言葉があります。特に女の子が歌うのはよしとされない言葉があります。そんな言葉のひとつを敢えて用い、逆に大いに注目を集めて大ヒットさせた1曲。
無論この前にアラニス・モリセットが "You Oughta Know" で大胆に4文字言葉を使って道を開いてくれていたおかげとはいえ、直截なタイトルで思いっきり狙ったこの曲のキャッチーさは忘れ難い。さまざまなイメージを並べたてた挙句、私は結局そのどれでもないと煙に巻くコーラス。ライヴでは大いに盛り上がること間違いなしなのです。
♪I'm a bitch, I'm a lover
I'm a child, I'm a mother
I'm a sinner, I'm a saint
I do not feel ashamed
I'm your hell, I'm your dream
I'm nothing in between
You know you wouldn't want it any
other
way
この曲が大ヒットした97年に、ある方のご厚意により渋谷のクラブで行われた彼女のショーケースギグを観る機会がありました。アルバムでは打ち込みぽかったリズムセクションもベース&ドラムスに置き換わり、何よりメレディス自身が弾くテレキャスターがカッコよかった。アルバムではボリューム絞られていたギターがバリバリ鳴っていた印象です。メレディスのバックバンドにいた
Yogi というギタリストは後に Buckcherry
に加入する(既に脱退)のですが、この時にも来てたのかな。ちょっと覚えてないです。覚えてるのは2階席に黒光りする福田一郎先生がいらっしゃったことだけ(笑)。
割とどうでもいいことですが、このシングル盤ジャケットのメレディスの写真はとても可愛い。ギターを構える彼女、黒ブラの肩ひもが二の腕にずり下がってるあたり非常にポイント高くて、アルバムジャケよりずっと好きなのです。
75. Abracadabra - Steve Miller Band
スティーヴ・ミラーという人は歴史の古い人で、いろいろなタイプのヒット曲を持っています。なかなかこれだ!というカラーを絞り切れないあたり、不思議な魅力のある人でもあります。根っこにあるのはギタリストとしてのアイデンティティなのでしょう。高校生の頃からボズ・スキャッグスらとバンドを結成したとか、実はポール・マッカートニーが大好きなギタリストだとか、いろいろな逸話があります。
軽い声質と軽快なサウンドはエアプレイ向きだったようで、"The Joker" (US#1/74) や "Rock'n Me" (US#1/76)、"Jet Airliner" (US#8/77) といった大ヒット曲は知らず知らずのうちにラジオで聴いて知っていました。シンセサイザーを大胆に導入したスペイシーな
"Fly Like An Eagle" (US#2/76) もそうですが、前述の曲と同じ人がやっていたとは知らず、プログレかと思ってました。実際にはずっと泥臭い人で、アルバム
"BOOK OF DREAMS" (US#2/77) の中でもかなり浮いた曲であるわけですが。
そんなわけで 『アブラカダブラ』。これも彼の歴史上では異色な、というよりむしろ珍曲の部類に入るのでしょう。真面目なスティーヴ・ミラーファンにとっては「なかったことにしたい」過去かもしれませんが、謎めいたタイトルにスピーディでダンサブルな楽曲で、取り付いたら離れない怪しい魅力に溢れています。
敢えてファン層を無視したマーケティングが奏効して結果的には5年ぶりのトップ10ヒット。それどころか82年9月にはサバイバーの "Eye of The Tiger" を1位から引き摺り下ろしてしまうのです。1週でシカゴの 『素直になれなくて』 にその座を譲り、一旦は3位まで転落するも2週間かけて首位に返り咲き。その後さらに2週間トップに居座ったこの曲、気がついてみればなんと全米年間第9位の大ヒットに。
シュガー・レイがアルバム "14:59" で完コピしたのも秀逸なバカっぷりでした。最高。
74. Livin' On A Prayer - Bon Jovi
この曲に関しては、もうほとんどコメントする気が起こりません。コメントを読む気も起こらないでしょう? こんな物凄いロックは一生に一度書けるかどうか。一生に一度出会えるかどうか。だから出会えた貴方はその奇跡を大切にして、この曲がラジオで流れるたびに一緒に歌ってあげるのが礼儀というもの。
♪Oh, we're half way there
Oh, livin' on a prayer
Take my hand, we'll make it I swear
Oh, livin' on a prayer...
86年以降のロック史上で最も記憶に残るカップルの名前は、間違いなく 「トミーとジーナ」。
貧しいながらも明日を信じて、愛を信じて生きる2人はまさしく現代のヒーローとヒロイン。だからこそ彼らの肖像を汚してほしくはなかった。2000年版続編こと
"It's My Life" はなくても良かったかも…?と思っています。まあ、流れてくれば結局歌っちゃうのがボン・ジョヴィの魔力なわけですけれど…
印象的なイントロで、ピーター・フランプトンを知らない若い世代にも
「トーキング・モジュレーター」 の存在を知らしめた貴重な楽曲。うっかりボコーダーと間違ったりするとリッチー・サンボラのファンにボコボコにされますよ。ボコボコーダー。
73. The Hustle - Van McCoy
ハッピーになりたければ、こいつを聴こう。
意味もなくウキウキしたければ、こいつを聴こう。そんなディスクです。
ふわふわした幸せな女性コーラスに導かれて
"♪Do the Hustle!" という掛け声が入る頃には貴方もすっかりハッピーモード。ソウル・シティ・シンフォニー名義の流麗なストリングス、ゆったりしたディスコビート。ここには70年代のもっとも幸福な瞬間が封じ込められています。スタジオセッションのリズムセクションは
Stuff だってホントですか? ディスコ〜フュージョン〜AORへとつながる心地良いコネクション。
「ハッスル」 というのは当時ディスコで流行ったダンスのひとつなんだそうです。男女のペアでジルバ風に踊るステップ。もちろんアフロヘアにベルボトムのパンタロン。一世を風靡したハッスルは御大ジェームズ・ブラウンをも動かし、75年に
"Hustle!!! (Dead On In)" という曲を書かせるほどの影響力だったとか。
ヴァン・マッコイは若い頃からレーベルを興したり、シュレルスやグラディス・ナイト、スタイリスティックスのプロデュースなどで活躍した才能ある人でした。自らフロントに立って売り出したこのシングルがいきなり全米1位に輝き、まさに順風満帆かと思われました。しかし神様は時に残酷。まだ35歳の若さで1979年、彼は心臓発作でこの世を去るのです。
もし彼が生きていたら、80sポップはどうなっていたんだろう。ひょっとして80年代を席巻したのはナイル・ロジャースではなくてヴァン・マッコイだったかもしれない。そんなことを考えながら聴くのも感慨深い1曲。
72. Every Breath You Take - The Police
80年代の全米ヒットチャートを語る上で、避けて通れない1曲。「MTV」というメディアが、文字通り音楽業界全体を揺るがす影響力を持つようになったことを証明した曲でもあります。文句なし、83年全米年間1位。
同年夏の印象を決定付けた、モノクロームのビデオクリップ。チャラチャラした派手なビデオが多かったMTV隆盛期に一石を投じた芸術志向の映像美学。圧倒的なオンエア回数を稼ぎ出すとともに、ユングの心理学用語を引っ張り出したアルバムタイトルの神秘性や同時並行の全米ツアー効果と相俟って、まさしく一世を風靡するヒットになりました。
よく指摘されるように、この曲は決してスウィートなラヴソングなどではありません。むしろ鬱々としたストーカー賛歌。フラれた相手に付きまとい、24時間監視するストーカー男の悲哀は、スティングの屈折した所有欲そのもの。この曲の反動か、彼はソロ第1作の "If You Love Somebody Set Them Free" (US#3/85) では全く逆のメッセージを歌います。すなわち、好きであればあるほど、相手を自由にしてあげねばならないと。その極端な振れが実に彼らしい。
他にも好きな曲がたくさんあります。"Every Little Thing She Does Is Magic"
(US#3/81) や "King of Pain" (US#83)、"Wrapped Around Your Finger" (US#8/86) などと常時入れ替え可能。
71. Night Birds - Shakatak
シャカタクなんて知らないよという方でも、この
"Night Birds" だけはどこかで聴いたことがあるんじゃないでしょうか。そのどこかは大抵、テレビやラジオのニュースその他のBGMや、カフェバー(死語)、さらには彼氏とのお洒落なドライヴだったりするはずです。いずれも80年代限定で。
フュージョン、というよりはブリティッシュ・ジャズファンクの担い手として台頭したシャカタクは、一聴した時の「軽い」イメージとは裏腹に、卓越した演奏技術とアレンジ能力を持ったグループです。それを小難しい方向に持っていくのではなく、逆に徹底的に分かりやすく、親しみやすく噛み砕いていったところこそが彼らの凄さ。
お洒落でセンスのいいサウンドの特徴は、ブライトでエレガントなピアノと、控えめながら印象絶大の女性コーラス。この曲の歌詞などわずか8行ですが、トラックにぴったりハマったヴィジュアルなイメージで。中間部でギターからピアノへとゴージャスなソロを回した後にこのコーラスに帰ってくると、いやホントによく出来てる曲だと改めて感心してしまうのです。
♪Flying through the night
Floating on the wind
To the city lights
Night birds with the lovely wings
Slowly they descend
Through the darkened sky
To the night again
Night birds kiss the day goodbye
哀愁漂う、いかにも日本人ウケしそうなツボを押えたクロスオーバー/ジャズファンクの金字塔。
|