110. Year of The Cat - Al Stewart
今振り返ると、子供の頃からラジオなんかで何度も聴いたことがあった曲だったように思います。でも、曲とタイトルとアーティストが一致したのはずいぶん遅くて、89年に大学に入ってからでした。
不思議な曲です。タイトルからして
『猫の年』。十二支には猫年はないんだYO!とか突っ込みたくなるのを抑えて曲を聴いてみると、何とも哀愁を感じさせるメロディに消え入りそうなヴォーカル。さりげなくドラマティックな展開。歌詞は、year
of the cat にやってきたという謎めいた女性との出会いと別れを描いたファンタジックな一晩のストーリィ。一度聴けば何ともいえない余韻を心に残す曲です。
聴きどころの1つは、Alan Parsons
が腕を振るったプロダクションでしょう。もちろんきわめて耳当たりの良いポップソングに仕上げられてはいますが、アレンジにあたってクラシック音楽のスコアを書くような緻密な作業が行われたことは間違いありません。もっともこの曲以外でも
Alan Parsons との組み合わせが成功しているかというと微妙なところで、やや気負った、プログレ方向に走り過ぎた楽曲も。いずれにしても、私にとってこの
"Year of The Cat" は、まだ世の中が今のように複雑でなかった古き良き70年代を、ほんのちょっとだけ思い出させてくれる大切な曲なのです。
109. How Long - Ace
Paul Carrack という人は職人です。素晴らしく味わいのあるヴォーカルと、いぶし銀のハモンドオルガン。当然あちこちから引っ張りだこで、セッションミュージシャンとして膨大な数のレコーディングに参加しているばかりでなく、この
Ace や Squeeze、Mike + The Mechanics
などではバンドのメンバーとして、またソロでもヒット曲をたくさん残しています。この "How Long"、知らないよ〜とおっしゃるお方も、一度聴いてみると「ああこの曲か」と思い当たるのではないでしょうか?
そこで、今ここに 『ポール・キャラック=川谷拓三』 説を高らかに提唱したい。
ポール・キャラックのハスキーな声には何とも言えない魅力がありますね。決して力強くはなく、むしろ飄々としたノリ。地味な裏方ではありますが、誰も彼のようには歌えないという独特の味があって。例えて言えば川谷拓三のような存在。誰も彼のようには演技できない。誰も彼のように泣きながら笑うことはできない。
どこか懐かしげな穏やかなメロディと、控えめなオルガンがどうしようもなくキャラック的なこの
"How Long"。AOR風の温かいアレンジに乗せて歌われる歌詞は、いつの間にか相手に騙されてフラれることになった男が「いったい何時からこんなことになっちまったんだろう」と、ほろ苦く自分自身を振り返るもの。相手を恨むでも憎むでもなく。ただ振り返るばかり。
情けない子分役を演じさせれば天下一品。そんなところまで川谷拓三っぽいと言ったら言い過ぎか。どん兵衛、お代わり。
108. Harden My Heart - Quarterflash
『ミスティ・ハート』なんて英語タイトルのヒット曲、1つくらいありそうなものですけれど。ないものですね、この曲に無理やりつけた邦題以外には。日本人の哀愁センスをいたく刺激する名邦題。
Quarterflash は非常にカッコいいと思うのです。何故か?
まずフロントに立つのが紅一点のヴォーカリスト(Rindy
Ross)。しかも彼女はサックス吹き。さらにそのサックスは決して上手くない(笑)。それだけでもう完璧に絵になります。騙された女を歌う「心を堅くして/涙も飲み込み/貴方とはもう別れるわ」という歌詞と、一度聴いただけで絶対に心から離れない哀愁系サックスリフを組み合わせた大ヒット。でも、ヴォーカルが女性かつサックス吹き、というメンバー構成の斬新さもきっと話題の一端を担ったのではないかと思うのです。
この曲の印象が強すぎるため、一発屋とのあらぬ疑いをかけられがちな悲惨なアーティスト。実際にはこの後、死ぬほどカッコいいハードナンバー
"Find Another Fool" (US#16/82 ) や、再び軟弱系 "Take Me To Heart" (US#14/83、邦題 『ドリーム・ハート』)のトップ40ヒットを残しています。
サックスがいかにセクシーな楽器であるかを教えてくれたグループ。それはすなわちSAX≒SEXの法則。できれば今からでも小さなクラブで見てみたいっす。もちろんSAXの方を。
107. Hit Me With Your Best Shot - Pat Benatar
Pat Benatar に関する最初の記憶は、たぶん小学6年生ごろに聴いたAMの深夜放送で「…グラミー賞最優秀女性ロックヴォーカル部門を3年連続受賞のパット・ベネター、曲は
"Shadows of The Night" です」といってエアプレイされたのを録音した時だと思います。あの頃はテープに録音した曲を何回も繰り返し聴いていたので、非常に強く印象に残っていますね。
グラミー賞の常連だったということは、対抗しうる女性ヴォーカリストが不在だったいうことで。確かにあの時期、小さな細い身体をいっぱいに使ってセクシーにシャウトする
Pat を超える存在は見当たらなかったような気がします。
この曲 『強気で愛して』 はとてもシンプルな構成で、印象的なリフのイントロからすぐにヴァースに入り、歌いやすいコーラスと適度に派手なギターソロが含まれています。♪どうなの、ほら、私を思いっきり愛してみてよ、と繰り返すタイトル部分は、読みようによってはセクシャルな意味にもとれ、強気だけれど可愛い女というキャラをうまく演出。
こんなパンチの利いたロックンロールを歌わせても最高な
Pat ですが、もともとはオペラ歌手を目指してクラシカルなヴォイストレーニングを積んでいました。妊娠期に柔らかな発声で抑え気味に歌ったアルバム
"TROPICO" もオススメ。
106. 29 x The Pain - The WiLDHEARTS
1995年、ロンドン。ちょうどアルバム "P.H.U.Q." がリリースされた頃。
元気いっぱいの轟音ロケンローの中で、くっきりと浮かび上がる超キャッチーなメロディライン。The
WiLDHEARTS には一発でハマりました。何気なく買ってみたCDシングルには、アルバム未収録曲がたくさん入っていて、これがまたどうしてアルバムから漏れるのよという素晴らしい楽曲ばかり。置いてるうちに全部拾っちゃえ、とばかりに買い漁ったシングルの中で、"Suckerpunch" に収録されていたのがこの "29 x The Pain" なのでした。(Twenty-nine times the pain
と読みます。)
例によってパワフルなコード進行ながらもちょい哀愁入ってて。何だか1人寂しく家に帰る夜のような。それもそのはず、この曲はたくさんのロックバンドやアーティストへのオマージュになっているのです。それも多くは既に活動を停止したり、生き急いでしまったりした先達たちへの。例えばこんな言葉たちが実に巧みに歌詞に織り込まれながら、きれいに韻を踏んでいる様子を想像してみてください。The
Replacements, Husker Du, The Beatles
and
the Stones, Ramones, The Pistols, Starz,
"Sheer Heart Attack", "Cheapest
Trick", "London Call(ing)",
Kiss, Heart, The Damned, SLF, Blue
Oyster
Cult, etc., etc.
それでもやっぱり一番心にぐさっとくるのはこのフレーズですよね。
♪I want to be here once again
I'm gonna miss Kurt Cobain
Like 29 times the pain...
105. That Lady (Part 1) - The Isley Brothers
もちろん粘っこいファンクも大好きなわけで。Isley
の魅力は何といっても Ronald の絶妙のファルセットと、Ernie
のギュインギュイン唸るねちっこいギターでしょう。その2要素がこれ以上ないほど絶妙に融合された究極の1曲。
♪Who's that lady (who's that lady)
Beautiful lady (who's that lady)
Lovely lady (who's that lady)
Real fine lady (who's that lady)
Hear me callin' out to you
'Cause it's all that I can do
Your eyes tell me to pursue
But you say look yeah, but don't
touch,
baby
これを「暑苦しい」とか「クサい」と斬って捨てる方がいらっしゃるのは百も承知ですし、それはそれで一向に構いません。でも苦手意識を持つことなく、ふとした機会に2度3度と繰り返して聴いてみることを強くオススメします。ある日突然、その魔法のようなメロウネスに、グルーヴに絡め取られている自分に気付くはず。ほとんど何も語っていないに近いこの歌詞が、頭の中でぐるぐる回り出す日が来るはず。そしてその娘に手を出して、「見るのはいいけど、触っちゃダメ!」と怒られる瞬間が来るはず。
ふと気がつくと、Ernie のギターが麻薬のように身体に染み込んで離れなくなっている、そんな恐ろしい曲。
104. You Are The Universe - The Brand New Heavies
最近は『Acid Jazz』なんてあんまり言わなくなったのかな? UKの同レーベルを発信源とするお洒落でファンキーなグルーヴがロンドンを、渋谷を席巻した時代がありました。アシッドジャズ、というブランドに昇華される遥か以前から、UKには一種独特なジャズファンク趣味があったように思います。汗を飛び散らせる肉体派ファンクをちらりと横目で見やりながら、クールでお洒落にキメる。スノビズムとおっしゃるかもしれませんが、ホワイトが独自の視点でブラックミュージックを解釈したスタイルとして、個人的にはとても気に入っている音です。(同様に、UKでいうところの
Northern Soul にも興味があります)
さて Acid Jazz レーベルの代表格だったBNHは、鉄壁のリズムセクションとギタリストを擁しており、女性ヴォーカリストを次々に交代しながらも安定した素晴らしいグルーヴを生み出し続けました。一般的には
N'Dea Davenport がリードを取っていた時代が評価されるのかもしれませんが、自分は
Siedah Garrett がフロントに立ったアルバム
"SHELTER" もお気に入り。
そもそも Siedah といえば、Michael
Jackson
との "I Just Can't Stop Loving You" の全米1位デュエットヒットを持つ、クインシー・ジョーンズの秘蔵っ子/実力派。ソロヒットに恵まれなかった彼女が見つけた新天地がBNH、本当に伸び伸びした歌声を聴かせてくれます。この曲は聴いていてどんどん元気が出てくる実にポジティブなメッセージ満載。あなたを信じてこう言ってくれる女の子がいたら大事にしなきゃダメです。
♪You are the universe
And there ain't nothin' you can't
do
If you conceive it, you can
achieve
it
That's why I believe in you,
yes I
do
例によって弾力的なリズムセクションのグルーヴに悶死。
103. Let's Go All The Way - Sly Fox
古今東西、キツネ言うたらズル賢いものと決まっておりまして。英語においても
"as sly as a fox" という言い回しがあるくらいです。ズルイ狐、それを名乗るくらいですからズル賢くなくてはなりません。それはすなわち記録より記憶に残る大ヒットを飛ばし、潔く一発屋としてチャート界から姿をくらますこと。
これがなかなか出来ないんですわ。普通の人には。どうしても
「次もいったろか」 という欲望がむくむくと頭をもたげ、中途半端に2曲目の小ヒットを出してキャリアに汚点を残す。この世はそんな輩ばかりです。そこへいくとこの狐たちはお見事。イギリスを化かし、アメリカを化かし、はるか極東の
winterくんまでも化かしてドロンと姿を消しちまいましたよ。あっさりと。
一聴しただけで強烈に頭にこびりついて離れない、チープなのに激重のエレクトロ・ファンクは
Boogie Boys の "A Fly Girl" (US#102) からの引用。Gary "Mudbone"
Cooper と Michael Camacho のUK出身 White
& Black デュオ。P-Funk 人脈 (Bootsy's
Rubber Band) ということもあって、そちら方面でも珍重される迷盤です。この2人そっくりの子供が出てきて戦争ごっこをする、真っ白な背景のプロモビデオも印象的。コアなファンはサビのところで指をくるくる回します。さあ皆さんもご一緒に。なーなーなーななー♪
発売当時はまったくウケずに死んでいたこの曲を、あるDJが
「ヒットしなかったけど、テンポ遅めでグルーヴィな曲があったっけなあ…」
と取り上げてエアプレイしたところ、リクエストが殺到して大ヒット。いかにも一発屋らしい逸話も型通りの、どファンク最終兵器。
102. Kiss Me - Sixpence None The Richer
山道を歩いていたら急に視界が開け、岩清水が流れているのに出くわしたとします。靴と靴下を脱いで清流に足を浸し、鳥のさえずりに耳を澄ませながらしばしココロを解放するひととき… その瞬間、私の頭の中で鳴っているのは、きっとこの "Kiss Me"。
女性ヴォーカルファンを魅了した99年の特大ヒット。紅一点の
Leigh Nash 嬢の妖精チックな雰囲気と透明感溢れる爽やかなヴォーカルにココロが和みます。
♪Oh, kiss me beneath the milky twilight
Lead me out on the moonlit floor
Lift your open hand
Strike up the band and make the fireflies
dance
Silver moon's sparkling, so kiss
me
これほどまでに曲の雰囲気を見事に情景化した歌詞も珍しいのではないでしょうか。アメリカでは彼らのような
Contemporary Christian というジャンルに根強い人気があります。ゴリゴリのゴスペルではなく、難解な讃美歌でもなく、神様が歌詞のあちこちに飛び交うこともなく。しかし静かにココロを洗ってくれるクリスチャンミュージック。
意外なことに、ゴリゴリのテキサス州出身だったりもします。
グレート・テキサン、ドリー・ファンク・Jr。スピニング・トゥ・ホールドかよ。
101. Joy To The World - Three Dog Night
邦題 『もろびとこぞりて』。いや違った、『喜びの世界』。
もう、こういう70年代のポジティブで元気の出る曲は大好きなのです。私は1970年生まれですから、その
decade を一応フルに生きたことにはなっています。でも今となってはオボロゲな想い出しかないんですよね。でも基本的にとてもいい想い出ばかり。
Three Dog Night は全くタイプの異なる3人の男性シンガーによるグループです。最近は曲を書く人と歌う人が一致する傾向にあるようですが、自分は必ずしもそうである必要はないと考えています。いい加減なアレンジや、稚拙なヴォーカルで歌われるくらいなら、専業ソングライターと専業アレンジャー、そして専業歌手に分かれてそれぞれが持ち場で最大限の仕事をする方が、作品としては良いものに仕上がるハズ。一消費者としての観点から、そう信じています。Three
Dog Night も自ら曲を書くことはなく、他のソングライターが作った楽曲からじっくり選曲し、3人の歌い手の個性を考慮しながらヴォーカルアレンジを練り、ポップなスタイルに昇華して発表することに力を注いだグループであったようです。
21曲もの全米トップ40ヒット曲リストは本当に名曲・名唱揃いで、1曲選ぶのもたいへんですが、今日の気分はこの
『喜びの世界』。豪快なリードヴォーカルと、繊細なコーラスが巧みに調和したダイナミックなナンバーで、人種や宗教や文化の違いを超えて、世界中が幸せと喜びに包まれる日が来ることを信じることができそうです。
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