100. Stripper Vicar - Mansun
90年代後半以降のUKロックバンドで、デビュー前から追いかけている数少ないグループのひとつ。何しろ96年1月にロンドンでライヴを観て強い衝撃を受けて以来ですから、その後EPを1枚リリースするごとに着実に成長していく様子は実に頼もしかったものです。1stアルバム "ATTACK OF THE GRAY LANTERN" の頃はひねくれた視点のUKロックという印象がありましたが、2nd
の "SIX" で恐ろしくプログレッシヴに大化けし、その筋の英国音楽ファンを大喜びさせました。が、3rd
では分かりやすいポップなメロディにこだわるなど、1ヵ所にじっとしていないところもいい感じ。最近は以前ほど入れ込んでいるわけではありませんが、この "Stripper Vicar" の頃は本当に毎回シングルのリリースを待ちわびていました。
さて問題のこの曲ですが。
何が問題なのか。スピーディでアップテンポな楽曲に、二段構えの軽快なフックを備えたよくできた展開。そこに乗っかる衝撃的な歌詞。このコントラストがスゴイのです。歌詞に登場する
Mavis という女の子は、Mansun の楽曲で繰り返し登場するキャラクターですが、彼女がストリッパーなのではありません。そうではなくて彼女の父親である
Vicar、すなわち牧師が女装ストリッパーだというのです。 Mavis
に宛てた手紙形式になっているこの曲の中で、牧師が実際には性的倒錯者であるという恥部を暴き出し、しかも彼が殺されて発見された事実を
Mavis に突きつけて「メイヴィス、君の意見を聞きたいんだ」と繰り返すコーラスパート。
ヴォーカルの Paul Draper は非常に才能のある男だと思いますが、時として自己破壊的というか、敢えてヒットしない方向を選択してしまう傾向があるような気もします。実はそこも含めて惹かれるところ。鼻にかかった声は案外サイモン・ル・ボンなどに近いポップセンスを感じさせることもあります。
99. In My House - Mary Jane Girls
何といってもイントロのシンセがカッコいい。
そして曲の終盤、さんざんコーラスを繰り返した後にもう一度このイントロフレーズでブレイクするのもめちゃくちゃカッコいいっす。
Mary Jane Girls は Rick James が企画した女性グループ。スタンスとしては
Prince 周辺の Vanity 6 とか Apollonia
6 に近いイメージのお色気ファンク路線。露出度大の悩殺ジャケとマリファナを思わせるグループ名、そして意外なほどにしっかりしたファンク&ロールが僕らを捉えて離さない彼女たち。まあ御大
Rick が本腰入れて作ってるサウンドですから当然といえば当然なのですけれど。
♪So when you need a little peace of
mind
Come on over boy, anytime
I'll keep you happy and so satisfied
In my house, in my house
彼女の家に行くと、一体ボクの身体に何をしてくれるのか? この甘ったるいお色気に溢れたコーラスを聴けば、答えは言わずもがな。行くでしょう普通。むしろ今すぐに。インターレイシャルなメンバー構成ってのも微妙に
Rick James の気配りが効いたマーケティングでしたね。
98. Spain - Chick Corea
チック・コリアを本格的に意識し始めたのは比較的最近のこと。もちろん名前だけは中学生の頃から知っていましたし、Return
To Forever の有名なカモメジャケットなどは、アートワーク単体として高く評価していました。
私のCDライブラリにあるチックのディスクはほんの数枚で、この "Spain" を収録しているのは Verve から出ている編集盤です。Return
To Forever を結成してフュージョン界に革命を起こした時期を中心としたセレクションで、美しいエレピの響きとフワフワした女性ヴォーカルの絡みをとことん堪能できるもの。何度も繰り返し聴いた盤ですが、その中で次第に耳に残る曲が決まってきました。それがロドリーゴの 『アランフェス協奏曲』 の旋律を題材にした、この "Spain"。
静かなオープニングから、急激に展開する極めてパーカッシヴで複雑なピアノのリズム。フラメンコの華麗なステップを想起させる非常に有名なテーマ部分から、ラテンフレイヴァー溢れるロマンティックな旋律が続き、チック独特の美意識を強く感じさせるフレーズにしびれます。とにかくリズム感が素晴らしく、聴く度にビートを落っことしそうになってしまう、非常にスリリングなプレイ。
コアなモダンジャズ好きからはなかなか高い評価を得られないチックですが、ある意味でもっとも神懸り的な鍵盤弾きの1人ではないか、と私は思っています。
97. All Around The World - Lisa Stansfield
Lisa Stansfield はホワイトなのですが、まさに白人離れしたとてもソウルフルなヴォーカリストです。特に1stアルバムの
"AFFECTION" ではそんな彼女の「声」の魅力を堪能することができます。確か当時
Billboard のR&Bチャートでもランクインしたんじゃなかったかな? ブラックのリスナーたちも認めた上質のUKソウル/ダンスミュージックと言えるでしょう。
もちろんポッと出の女の子ではなくて。Blue
Zone というグループで活動していたところ、ひょんなきっかけで
Coldcut の "People Hold On" (UK#11/89) でリードヴォーカルをとることになり、大ヒットしたのを見たアリスタレコードがソロデビューさせたという経緯あり。UK
では "This Is The Right Time" (UK#13/89) が先にヒットしましたが、全米に、そして
「全世界 (all around the world)」 に彼女の名を知らしめたのはやっぱりこの曲。
後に Puff Daddy が "Been Around The World" というタイトルで Notorious B.I.G. &
Ma$e をフィーチャーしてさらなる大ヒットを産みましたが、その時にも引用されたとっても印象的なコーラスはこんな歌詞。
♪Been around the world, and I, I,
I,
I can't find my baby
I don't know when, I don't know why,
Why he's gone away
And I don't know where he can be,
my baby,
But I'm gonna find him
かつての恋人を探して世界中を旅して回る主人公。どこにいるかもわからないその人を、しかし必ず探してみせると力強く歌いきるその姿に、何事にも屈しない強固な意志を感じるのです。ジャケットでの短い前髪と、くるりんと巻いたもみあげ部分にも。
96. What A Wonderful World - Louis Armstrong
サッチモの声は唯一無二のもの。この曲もまさに彼の声のためにあるといってもいいでしょう。他の人が歌ってもちっとも形にならないような気がします。
ほとんどスタンダードに近い有名な曲ですが、自分とこの曲との出会いは、ロビン・ウィリアムズ主演の映画
"GOOD MORNING, VIETNAM" で効果的に使われたことによる全米トップ40入りでした。曲を聴いて、ひどくのどかで幸せな曲だなぁと思ったものです。しかし、映画を観てかなり印象が変わりました。ベトナム戦争時の米軍放送DJを演じるロビン・ウィリアムズの悪戦苦闘ぶりを描いた映画です。基本的にとても前向きで一生懸命な彼なのですが、頑張るほどに空回りしてしまい、ベトナム女性との淡い恋も戦争という現実の前に押しつぶされます。燃え盛る炎に包まれる街を映すシーンで突如流れ始める
『この素晴らしき世界』。その感動的なまでにポジティブな歌詞は、逆に強烈な皮肉となって僕らの胸を突き刺すのです。
♪I see trees of green, red roses too
I see them bloom for me and you
And I think to myself
What a wonderful world
もうひとつ、心に残る場面でかかったことがありました。1995年に
Bon Jovi がロンドンのウェンブリー・スタジアムで行った公演終了後の客出しの音楽がこの "What A Wonderful World" だったのです。この時の Bon Jovi は、自分の音楽体験の中でももっとも感動した演奏のひとつですが、その理由の大きな部分を占めているのが、終演後に静かに流れたこの曲だったと確信しています。席に着いたまま、本当に目頭が熱くなってしまうほど感動したのでした。
95. Sleeping Bag - ZZ Top
寝袋の歌です。まあ、胃袋の歌なんかよりはいいと思いますが。
テキサス・ブロンコ・ウルトラ・ハード・サザン・ブギー・バンドこと
ZZ Top は車で聴いてこそ、のロック。大ヒット作の "ELIMINATOR" がその大半をカセットテープヴァージョンで売り上げたという伝説はすなわち、大陸を駆けるトラック野郎やドライバーたちからの圧倒的な支持を物語るものでもあります。この曲を収録した
"AFTERBURNER" は、さらに一歩エレクトロニクス側に踏み込んだ快作。この
"Sleeping Bag" のイントロでの冗談みたいなリズムシークエンスやオーケストラヒット、あざとく繰り返されるドラムのフィルインには目が(耳が?)点になったものです。
しかしあの何にも代え難い ZZ Top 印のギターとヴォーカルが始まれば、もはや問答無用。
「オレと一緒に寝袋にくるまって暖まろうぜ」、要するにオレと寝ようぜ/SEXしようぜと繰り返すだけのカッコいいロックですが、3番の口説き文句に至っては舞台が凄いところまでイッちゃってます。
♪Let's go out to Egypt 'cause it's
in the
plan
Sleep beside the pharoahs in the
shifting
sand
We'll look at some pyramids and check
out
some heads
Oh, we'll whip out our mattress 'cause
there ain't no beds
Slip inside my sleeping bag
Slip inside my sleeping bag
エジプトやファラオやピラミッドまで持ち出して、その挙句は「ベッドもねえし、オレと一緒に寝袋に入るしかねえだろ?」と来たもんです。いやもう最高。テキサス万歳。
94. Poison Arrow - ABC
洋楽の本格的な聴き始めは1983年です。時代はMTV。ブリティッシュ・インヴェイジョン。お洒落でハイセンスなUKポップスが全米チャートを席巻していた頃。中学生になりたてのボクのハートを射抜いた1本の毒矢、それがこの曲でした。
大胆にもアルファベットの最初の3文字をグループ名に冠したこの男たち。イギリスはシェフィールド出身でした。鉄の街シェフィールド。Def
Leppard を生んだ街シェフィールド。最初は5人組だったようですが、このアルバムの時点では既に4名のクレジット。この後さらに3名、2名へと減少していく数奇なグループでもあります。まあ、事実上、ヴォーカルの
Martin Fry のダンディズム趣味全開のワンマン経営かな?という気も。
ただ、この曲を収録したアルバム "LEXICON OF LOVE" の成功要因のひとつは、やはりプロデューサー
Trevor Horn の手腕かと。ご存知のとおり、Buggles
や Yes を経て80年代英国ポップスの大立役者となる彼。ドラマティックな音像を堪能できるこの "Poison Arrow" も、全く隙のないプロダクション。ファンキーでスリリングな展開に
Trevor のセンスを感じます。
この曲の魅力のひとつとして、シングル盤のB面にカップリングされたアルバム収録曲 "Tears Are Not Enough" を挙げないわけにはいきません。曲自体ももちろんいいのだけれど。何といっても邦題が。邦題が。
… 『涙まだまだ』。
やりたい放題だった洋楽黄金時代を懐かしく振り返らずにいられないッス。涙ッス。まだまだッス。
93. That's The Way (I Like It) - KC & The Sunshine Band
KC さんは白人さんです。でもこのファンキーなグルーヴには黒も白も関係ありゃしねえ。ディスコブームに乗って売れまくり、21世紀に入った今もフロアを沸かせるダンス・クラシックのひとつ。
何でもフロリダのマイアミで結成されたということで、期待されるステレオタイプどおりの、明るくてひたすら楽しいダンスナンバー揃いのグループ。涙や悲しみには無縁。楽しくやろうぜベイビーってな感じ。無駄な要素を完全に削ぎ落としたシンプルの極みであるこの曲は、ある意味ディスコにおける水墨画の如きワビサビの境地すら感じさせます。中学生でも分かる英単語の羅列、一度聴いたら忘れられないコーラスの♪アハ、アハのリフレイン。踊らずにいられないリズムと、きらびやかなホーンセクション。
何回聴いても凄すぎます。 だ・か・ら好きなんですってば。アハアハ。
ところで今ごろ気づいたんですが、ウルフルズの 『ガッツだぜ』 って微妙にこの曲に似てますね。大体、タイトルの響きからしてソックリ。That's
The Way ≒ ガッツだぜ。つまりこれが元ネタだったのか? 自分で書きながら何故かめちゃくちゃ悔しいです。
92. Whoops Now - Janet Jackson
全米チャートだけを追いかけているお方には無縁の曲かもしれません。アルバム
"janet." のラストに隠しトラックとして収録、UKのみ95年春にシングルヒット。でもこれがまた鬼キュートな曲で。
モータウン風のシンプルなリズムの上でジャネットが可愛く歌う内容は、1週間働いた後の週末に友達と思いっきり遊ぼうとしていたら、上司に仕事を押し付けられて一緒に行けなくなっちゃった、"♪Whoops now, sorry I can't go..." という、実に他愛ない歌詞。でもそこがイイんですよ。
ちょうど彼女自身がアイドルから本格的なアーティストへと脱皮しかけていた頃で、もうマイケルの妹扱いしないでほしい、Ms.
Jackson じゃなくて「ジャネット」という個人として勝負したい、という意志が強く感じられたアルバムでした。もちろん充実した楽曲群でしたが、個人的にはちょっと肩が凝ったところもあったのです。本編が終了して、しばらくそのままぼんやりしていると、笑い声とともに始まる "Whoops Now"。それは実にシンプルな FUN の表現で、聴いていてとてもホッとしたものでした。Jam
& Lewis にしても Janet 本人にしても、お遊びで作ったボーナストラックなのかもしれません。でも、お遊びでこれだけのヒット性を持ったポップスができてしまうところがまたスゴイ。やっぱり天才チーム×Ms.天才のお仕事。
ヒット当時イギリスで毎日ものすごくエアプレイされていたこの曲ですが、少なくとも自分が聴いた限り、CDシングル上で両A面としてカップリングされていた
"What'll I Do" の方はただの1回もラジオから流れたことはありませんでした。ちなみに。
91. September - Earth, Wind & Fire
季節モノの代表格。毎年 J-WAVE の
TOKIO
HOT100 では、9月になるとこの曲が下の方にチャートインしてきたものです。DJもリスナーも、やっぱり思い出すのでしょう。似たような例に
Guns N' Roses の "November Rain" などがありますが。長すぎて J-WAVE では誰もかけてくれないようで。
Earth との出会いは、リアルタイムだと "Fall In Love With Me"(US#17/83) とか "Side By Side"(US#76/83) とか "Magnetic"(US#57/83) になっちゃいます。でもやっぱり洋楽を聴き始めてから遡ると、70年代の素晴らしい音源の数々に圧倒されました。だから好きな曲はたくさんあります。"Boogie Wonderland" (US#6/79) はスピーディでカッコいいし、"After The Love Is Gone" (US#2/79) のAOR的な重要性も認識しているつもり。"Let's Groove" (US#3/81) はあれ以上いじりようがないし、日本人ならやっぱり 『宇宙のファンタジー』 (US#32/78) も大切にしたい。
まあそんな中でこの "September" も、何回聴いたか分からないくらいよく聴いた曲のひとつではありますが、やっぱりイントロが流れる度にウキウキしてしまう、魔法のような楽曲。あのホーンが鳴り出すと完全に抵抗不可、なのです。
♪Ba de ya - say do you remember
Ba de ya - dancing in September
Ba de ya - never was a cloudy day
ほら、ウキウキしてきたでしょう?
Crystal Waters の "Say... If You Feel Alright" にサンプリングされたのも懐かしいですね。
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