90. PANDEMONIUM - The Time
もう、僕は絶対に許せんのだよ。こんな名盤が
Amazon.com で購入できない状態になっているという事実が。廃盤状態ということなのか? でも心配ご無用、中古市場における膨大な在庫と低廉な価格のおかげで入手は極めて容易。それはそれでまた絶対に許せんのだけれど。
映画 "PURPLE RAIN" をご覧になった方ならご存知のとおり、Morris
Day のカッコよさといったらない。そこに
Jam
& Lewis、Jesse Johnson と役者が揃って再結成したフルレンス、これに期待せずして何に期待するとばかりに聴きまくった90年の夏。
実際、楽曲の出来は最高なんであって、Terry
Lewis のベースがウネリまくるファンキーな
"Jerk Out"、Jesse Johnson のハードロック気味なギターで塗りつぶされた
"Blondie" "Skillet"、そして千両役者 Morris の面目躍如たる激甘バラッド
"Donald Tramp (Black Version)"
"Sometimes I Get Lonely"
などなど、これでもかとばかりに繰り出されるトラックに目が、いや耳がくらむ65分間。要所を締める
Jimmy Jam のキーボードのセンスや、Candy Dulfer
の乾いた Sax サポートも好印象。そんな意味では、同時期にリリースされた
Prince 名義のサントラ "GRAFFITI BRIDGE" とセットで楽しみたい1枚でもある。
熱い期待を胸に、みんなが横浜アリーナまで出かけた来日公演は今や語り草。そこには
Jesse も Jam & Lewis もおらず、完全に
Morris Day & His Band と化した
The Time
なるグループ(?)が空虚にヒット曲を連発する姿があった。Jerome
Benton らと一糸乱れぬ素晴らしいダンスステップを見せてくれた
Morris は、やっぱりホンモノのエンターテイナーだった。嗚呼。
89. ...AND JUSTICE FOR ALL - Metallica
いはゆる「スラッシュメタル」との初めての出会い。『メタル・ジャスティス』。
でも個人的な印象はむしろプログレに近いのです。細かく積み重ねられたギターリフをキース・エマーソンがオルガンで弾いてる様を無理やり想像すれば、"TURKUS" あたり好きなリスナーなら結構聴けるんじゃないかと。
構成的には今でも大好き。変拍子チックなリズムチェンジの多用、複雑なギターアンサンブル、怒りや不信感や絶望に満ちた重くのしかかる歌詞。オープニングの高速な
"Blackened" でいきなり飛ばされ、10分近い大作 "...And Justice For All" の展開に酔いしれたあとは、時には大きな波にのまれるように、時には岸壁に打ちつけられるように、彼らのペースで引っ張られていく自分。まさかのシングルヒット、"One" のビデオクリップの衝撃も忘れられません。個人的にはこの当時のスタイルのままでも全然構わなかったんだけどなあ…
確かに、Steve Thompson & Michael
Barbiero のミックスによるサウンド(特にベースの音像)がペラペラなのは残念ですが、当時はとにかく全体の音数に圧倒されたものです。でもやっぱり欲を言えば、やっぱりこのアルバムを
Bob Rock の録音で聴いてみたいよね。全然違う作品になっちゃうだろうけど、一度くらいは…
88. ACHTUNG BABY - U2
「U2ファンであること」と「カッコいい人であること」が≒で結ばれていた時期がありました。"THE UNFORGETTABLE FIRE" から "THE JOSHUA TREE" にかけての頃は特にそうで、硬派なロックファンを演出するのに欠かせないアイテムだったと言えましょう。自分も聴いた回数では "JOSHUA" の方が多いように思います。
それでもこっちのアルバムを挙げるのは、あまりにも予想と異なる展開を見せてくれた衝撃と、大胆な新機軸の背後に見え隠れする従来のファンへの思いやりとが絶妙にブレンドされて、結果として「商品」として極めてよくできた作品になっていると思うから。
もちろんそれは U2 のメンバーたちだけの努力ではなくて、Lanois
/ Eno / Flood / Lilywhite といった当世随一の仕事人たちが一緒になって汗をかき、知恵を絞った結晶であることは言うまでもありません。
煮詰まりかけた印象のあった彼らが、実に軽やかに歌いきってみせる
"Even Better Than The Real Thing" や "Who's Gonna Ride Your Wild Horses"
に胸のつかえが取れたら、"Zoo Station" のヘヴィな諧謔性も冷静に受け止められるかも。最初は何をトチ狂ったかと思った
"The Fly" や "Mysterious Ways" もまさしくミステリアスなまでにフックが頭から離れず、ここぞとばかりに泣かせる
"One" でオールドファンの貴方も涙腺を空にできる。
でも、個人的ベストはラストを飾る金縛りモノの禁忌楽曲 "Love Is Blindness"。
低く静かなオルガンのイントロダクションのコード進行だけで全身に鳥肌が立つ。ゆっくりと、しかし確実に力を込めながら、Bono
が「恋は盲目である」由を切々と歌いかける。絞り出す声が伝えるのは、悟りか、諦めか、それとも何か別の感情なのか。
暴力的な Edge のギターソロは、メロディなどほとんど奏でることなく、大きなハンマーを一振りするように鈍い音の塊を叩きつける。循環するコードの中、曲は静かにフェードアウトしていくけれど、僕の胸は締めつけられたまま、CDプレイヤーの前にいつも置いてけぼりにされてしまうのです。
87. MISPLACED CHILDHOOD - Marillion
マリリオンは、その擁したヴォーカリストによって大きく2つの時代に分けられます。あるいは2つを同じバンドとは考えないという人もいらっしゃるかもしれません。後期にあたる
Steve Hogarth も素晴らしい声の持ち主ですが、やはり初期の傑作で歌ってきた
Fish のヴォーカルを忘れるわけにはいきません。
見事に原題のイメージを捉えた 『過ち色の記憶』
なる名邦題がつけられたこのアルバムは、誰の心にもあるであろう、幼年期の戸惑いや後悔の記憶をじっくりと、丁寧に呼び覚ましていくメロディとコンセプトで構成されています。アルバム各曲の音がつながっていて、全体として1つの組曲になっている作品を聴いたのは、これが初めてだったかも。
UKでシングルヒットした "Keyleigh" (UK#2/85), "Lavender" (UK#5/85), "Heart of Lothian" (UK#29/85) などを核として繰り広げられるストーリィは、英ポンプ・ロック界を牽引した芸達者なプレイヤーたちが演奏する堅実なトラックの上で、時に神経質にまた時に大らかに歌う
Fish のヴォーカルによって語られます。まるでドラマのナレーションを聴いているような不思議な気分。
全体としてほろ苦い青春(引っ掛けた "Bitter Suite" という組曲も収録)の回想録といった趣ですが、エピローグの "White Feather" が希望的イメージに満ちており、聴き終わった後は明るく爽やかな気持ちに。そこもまた好印象なり。
86. WIND & WUTHERING - Genesis
「ジェネシスのアルバム1枚選んで」と言われたとする。"LAMB" を選ぶか "SELLING ENGLAND" を選ぶか、はたまた "TRICK" を選ぶか。バアイによっては "INVISIBLE TOUCH" もアリだし、敢えて "GENESIS" という選択も、ある種のセンスを感じさせることができるかもしれません。ザッツ・オール。
そこで、僕がこの邦題 『静寂の嵐』 なるアルバムを好むと仮定して話を進めましょう。もちろん
"THE LAMB LIES DOWN ON BROADWAY"
は名作です。難解なストーリーと忘れがたいメロディの数々で、何度も繰り返し聴かせる魅力に溢れてます。エンディングの "It" で訪れる圧倒的な音のカタルシスは、プログレと呼ばれるジャンルの中でも最強の瞬間かもしれません。一方で "INVISIBLE TOUCH" だってサイコーです。プログレ者(もの)的には評判が悪いとはいえ、あそこまで露骨に商業主義の仮面をかぶってみせるのも、ある種のユーモアかもしれません。もっとも
"Tonight, Tonight, Tonight" や "The Brazillian" のようになかなか侮れない曲も配置してあります。
では僕はこの 『静寂の嵐』 のどこに惹かれるのか?
決して派手な作品ではありません。むしろ地味な作風。大ヒット作、とも言えません。そして何より、Peter
Gabriel もおりません(笑)。端的に言って、その英国人らしいセンスこそが魅力なのではないか。まずこのヒプノシスによるジャケットのアートワークをご覧になってください。水墨画の如きタッチで描かれた、低く雲の垂れこめる鉛色の空。これぞ英国です。wind
と wuthering という頭韻を踏んだ単語がそれぞれ、今まさに英国郊外の田園に訪れんとする静かな嵐のイメージを喚起させるではありませんか。
荘厳な Tony Banks の鍵盤で幕を明ける "Eleventh Earl of Mar" は没落貴族のストーリィ。敵軍に追われる父と子の姿を歌うフィルのヴォーカルは、ピーターの声を意識しつつも気負いは感じられません。この曲や "Unquiet Slumbers for The Sleepers...
In That Quiet Earth" などで展開される演奏には、プログレ者ならニヤリとするでしょう。他方、素晴らしくソフトなバラード "Your Own Special Way" もお気に入り。マイクが後にメカニクスで爆発させるポップセンスが垣間見えるソングライティングです。
紅茶をいれ、スコーンでもいただきながら目を閉じて、ゆっくりと聴きたい1枚。
85. VERSION 2.0 - Garbage
激キャッチー! Shirley 可愛い! 以上、おしまい。
…という訳にもいかないのでもう少し。実はですね、1st "GARBAGE" は全体通して楽しむところまではいかなかったんですよ。"Stupid Girl" やなんかのヒットシングルはもちろん気に入っていたのですが、どうも私が求めていたイメージとはズレていたみたい。くぐもった音とヴォーカル、重い詞、ハッキリしないリズム隊などイマイチ突き抜けない感じが拭えなかったのです。
高校のころは何とも思っていなかった女の子が、大学に入って何かの飲み会で一緒になったみたら、めちゃめちゃ垢抜けてお化粧も上手になり、その可愛さにビックリしたことはありませんか? この娘化けやがった、と。これはまさにそんな感じの大変身セカンド。新ヴァージョン、とは言い得て妙なり。
"I Think I'm Paranoid" や "Special", "Push It" といったシングル曲でのすぐに口ずさめるカッチリしたメロディは当然のこととして、アルバムトラックもおしなべてザクザクしたギターリフとリズムセクションで構成され、オープニングからエンディングまで、一気に聴かせてくれる、全曲リピート可のオススメ盤。
84. FOO FIGHTERS - Foo Fighters
正直に告白すると、Nirvana の "NEVERMIND" は決して大好きなアルバムではありません。アルバム全体を聴くと思いっきり暗い気分になるから。もちろん、そういう感情を吐露した作品だからこそ世界中の若者から支持されたんだってことは理解できますが、それでも聴いていてツライ瞬間が多すぎて。
Foo Fighters のこのデビュー作を聴いた時には本当に驚きました。Nirvana
のあのつかみやすいメロディはひょっとして、この寡黙なドラマーが書いていたのか??と。カートの事をイメージしながら聴いちゃうと、どうしても暗く響く歌詞も多いけれど、それでもどこか吹っ切れたメロディと豪快なドラムスが最高に気持ちいい。ドラムの音色というのは個人的にかなり大事で、これだけで印象がずいぶん変わっちゃうのです。
"This Is A Call", "I'll Stick
Around", "For All The Cows" といったシングル曲の出来がやはり良いようです。"Big
Me" のビデオクリップで見せた Dave Grohl
のお茶目な演技も忘れられず。フレッシュミントFootos、僕も食べたいな。
83. BROWN SUGAR - D'Angelo
95/6年の一大トレンド、それは『ニュー・クラシック・ソウル』。
今やお恥ずかしい響きもあるこのフレーズ、もともとは同年日本で大ブレイクした4人組コーラスグループ
Solo の1stアルバムに記載されていたものですが、比較的若手のアーティストたちが、60sや70sのクラシックなR&B/ソウルの雰囲気や精神を90年代に再現させたムーヴメントを指していたようです。関連アーティストとして、Maxwell
や Tony Rich Project、Tony Toni Tone
などを挙げておきましょう。
おっと D'Angelo を忘れるところでした。この極めて挑戦的な1stの衝撃こそが自分にとっての95年型ブラック。決してシャウトではなく、繊細な囁きを幾重にも重ねていくようなヴォーカライゼーション、ゆらゆらと揺れるオルガン、内側へ潜り込んでいくようなリズムセクション… ごく一部の例外を除き、作詞作曲・アレンジ・制作を本人が行い、ほぼ全楽器を自分で演奏して丹念に織り上げた様子からは、初期のプリンスを連想します。サウンド的には、オーソドックスなソウルに思いっきりジャズのエッセンスをまぶした印象。ベースラインやピアノソロに感じさせるジャジーなコードもそうですが、"When We Get By" ではストレートなスウィングを聴かせたりも。いずれも新鮮で、ヘッドフォンで大音量で聴いていると何ともいえない快感がじわじわと身体の奥底から湧いてきたものです。
"Brown Sugar" や "Lady" のようなヒットシングルもよいですが、何より強烈な印象を残したのは5曲目の "Shit, Damn, Motherfucker"。彼女が自分の親友と浮気している現場に踏み込んだオトコが、激怒のあまり2人を殺し、血みどろの両手に手錠をかけられるまでの断片的回想。あまりにもビジュアルなそのイメージは、単調なリズムと相まって脳裏から決して離れないのです。
82. SIXTEEN STONE - Bush
キャッチーで分かりやすい/歌いやすいメロディ。
何度も書くようですが、これにはホントに弱いのです。その意味で、Bush
はやっぱりヨイ。良すぎる。たとえ世界中が非難する側に回ろうとも、僕はやっぱり応援したい。好き嫌いは別にして、"Everything Zen" 級のコーラスを聴かされると、どうにもこうにも「すごい」と唸らずにはいられないのです。 Billboard
誌アルバムチャート最高4位、全米だけで600万枚以上を売り切った大ベストセラー。Oasis
より Radiohead より先に米国市場を制覇したUKロックの雄がこの
Bush であることを忘れないようにしたいと思っています。
確かに Kurt Cobain を想起せずにいられない
Gavin Rossdale のヴォーカルではあるけれど、だったら彼は歌を歌っちゃいけないかというと、そんなことないでしょ? "Little Things" で暴れ、"Glycerine" でしんみりし、"Machinehead" に熱くなる。確かに底は浅いけど、それを600万人も買う人がいる市場に投入するために作ったわけだから、ホントによく出来たアルバムだといってよいのではないかと。
全米初登場1位となったセカンド "RAZORBLADE SUITCASE" もずいぶん聴きました。
81. NO DOUBT - 702
En Vogue に魅了されて以降、実にたくさんのR&B女性グループが生まれましたし、実にたくさんのCDを買って(買わされて?)きました。CDショップで「ブラック/女の子/2名以上」のジャケを見るや否や自動的にレジに向かっていた日々もあります。そこはまさに…『魔界』でした。
Pure Soul, Vybe, 7669, Ex-Girlfriend,
Sa-Deuce,
Kut Klose, エトセトラエトセトラ。中にはいい曲もありましたが、アルバム1枚聴きとおせるだけの内容のあるものは決して多くはありませんでした。そろそろ足を洗おうか… と思い始めていたそんな時、たまたま手に取ったこの702の1stによって、僕は再び魔界村に連れ戻されることになったのです。
New Edition 〜 Bell Biv DeVoe の
Michael
Bivens が立ち上げた BIV 10 Records
からデビュー、という時点では「またこの手のグループかぁ」と、ほとんど期待せずに聴いたのですが… なんとみずみずしいヴォーカルワーク! この手のグループの中では相当「歌える」女の子たちが集まっています。弾けるコーラスが歌い上げるキャッチーなメロディに、元気付けられたこと数知れず。ルックス的には決してスーパーモデルみたいな子はいませんが、すれてなさそうで好印象。裏ジャケの
Misha ちゃんのミニスカしゃがみショットがいい感じでしょ。
プロダクションには Missy Elliott,
Troy
Taylor, The Characters, Trackmasters,
Malik
Pendleton らの名前がズラリ。Jackson
5 の
"It's Great To Be Here" をサンプリングした "All I Want" のカワイイことといったらないっすよね! しっぽりと濡れる
"Get It Together" のユルさもたまらないな、と思ってみれば Donell
Jones 作曲・制作。侮れないワケです。
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