100. FORGIVEN, NOT FORGOTTEN - The Corrs
正直言って、ここまでブレイクするとは思っていませんでした。少なくともこのアルバムを買った頃は。
ちょっと微妙な立ち位置だな、という気がしたんですよね。ファミリーグループで美形3姉妹を含み、David
Foster が全面バックアップ。となると超ポップな万人ウケ路線かと思いきや、アイリッシュ・トラッドの香りも相当程度残したアレンジで。実際、リリース直後に盛り上がっていたのは、ケルト方面に敏感な一部のプログレ者コミュニティだったような記憶もあり。
もちろんポップなメロディはたくさんありますし、続く
"TALK ON CORNERS" アルバムではそれが思いっきりキャッチーに開花するわけですが、今にして思えばこの1stのバランス感覚も絶妙でした。スリリングにして可愛らしいインスト曲
"Toss The Feathers" は、ライヴヴァージョンで聴くとより一層盛り上がります。
"TALK ON CORNERS" リリースに合わせてプロモ来日した際に、タワーレコード渋谷店でアコースティックライヴを見る機会がありました。ヴァイオリンを構える
Sharon は優雅、ドラムスの Caroline
はおっとり、リードヴォーカルの末っ子
Andrea はおきゃんな、笑顔がとってもきれいな3姉妹。姉妹で声質が近いこともあり、3人ぴったり息の合ったコーラスを目の前で披露されて、私は一発でファンになってしまったのです。
99. ELEANOR McEVOY - Eleanor McEvoy
92〜95年ごろ、女性ヴォーカリストに大いにハマった時期がありました。それこそ毎日のように中古屋さんに通い、新入荷の女性モノをひととおりすべて買うような日々があったわけです。
これはそんな中で出会った大切な1枚。アイルランド出身の
Eleanor は、もともとクラシック音楽を勉強してオーケストラに参加していましたが、途中からポピュラー音楽に転向。92年に "Only A Woman's Heart" という曲がコンピレーションに収録されて同国で注目を集めました。翌年にかけてアイルランド音楽業界の新人賞その他を受賞したのを受けて、GEFFENから発表したのがこのデビュー作。ジャケットではアコースティックギターを構えていますが、クレジットはさらに
Piano, Hammond, Keyboards, Harmonium,
Violin
と広がります。ケルトの心を大切にした丁寧な曲作りは、彼女の尊敬する
Bob Dylan, Leonard Cohen の影響も感じさせつつ、Aimee
Mann をも思わせる落ち着いたトーンで心に残ります。
個人的なベストトラックは5曲目の "For You"。片思いの相手に寄せる熱い思いを切なく歌い上げる、とても印象的なメロディを持った曲です。95年4月に、ロンドンの
Mean Fiddler というクラブで観た彼女のライヴは、実に心温まるものでした。手が届きそうな小さなステージ上でギターやヴァイオリンを弾きながら歌う彼女に、300人ばかりの熱心なオーディエンスにまぎれて一緒に声をかけたのもまた、忘れられない思い出です。
98. TOTO IV - Toto
洋楽を本格的に聴き始めた82年〜83年、避けて通れないアルバムというのが何枚かありました。グラミー最優秀アルバム賞受賞作のこのアルバムも、そんな1枚。『聖なる剣』。
耳当たりの良さというか、オトナの音楽だなぁ…というのが素人の感想。1曲1曲がいかにゴージャスで流麗なアレンジを施されているか、例えば
Jeff Porcaro のドラムスの1音1音がどんなに無駄なく的確にしてカッコいいものであるか、といったことがおぼろげに見えてきたのは何年も経ってからでした。もちろん
Boz Scaggs の "SILK DEGREES" のクレジット表記なんかにたどり着くのはずっと後のこと。
"Africa" も "I Won't Hold You Back" もいいけれど、実はひそかに "Waiting For Your Love" (US#73/83) なんかもカッコよかったり。スタジオ・ミュージシャンの集まりというと、とかくテクニック至上主義とか、心がこもっていないとか思われがちですが、Toto
のこのアルバムにはそうした批判は当たらないようです。
97. CHERRY PIE - Warrant
『ジェイニー・レイン大天才ソングライター説』というのがあります。
「ダウン・ボーイズ」こと Warrant
の名を聞くといろいろな思いが胸をよぎるでしょうが、やっぱり90年9月4日の『汐留
パックスシアター・サイカ』を忘れるわけにはいかんでしょ。まさにバブリーな伝説の会場。鉄骨テント張り2階建て、わずか2曲目途中で事故中断された悲劇のライヴは、エクスポゼの振替公演だったというオマケつき。
さてこの『いけないチェリー・パイ』は彼らの2nd。バンドがノリにノっている様子が手に取るように伝わる、ひたすら充実した楽曲群。確かにハードロック/メタルの語彙を衣にまとってはいますが、根底にあるのは超キャッチーでポップなメロディ。ジェイニーの作曲能力はずば抜けていると思います。1stアルバムのロングセラーを生み出した長丁場のツアーで鍛え上げた足腰の丈夫さが、しっかり反映されてますよね。後に "We Will Rock You" をカヴァーして「それ見たことか!」と一部リスナーの怒りの炎に油を注いだのも懐かしい
"Cherry Pie"、大名曲 "I Saw Red"、一度はそんな目にあってみたい "Love In Stereo"、これ1曲で Parentary Advisory ステッカー付きになった "Ode To Tipper Gore" などなど、あっという間にラストまで駈け抜けます。日本盤ボーナスの "Thin Disguise" がまたスピード感のあるなかなかいい曲なのでオススメなり。
よい子の皆さんは cherry pie が何の隠語として使われてるかはもうお分かりですよね。お分かりにならないお方はジャケの店員お姉さんとチェリーパイの様子をよーく見てみてね…
96. RATS - Sass Jordan
貴方が本当にロックを愛する人ならば、このアルバムの良さをわかってくださることでしょう。でも、全米マーケットは動かなかった。女性というだけで、どうしても色眼鏡で見られてしまうのでしょうか? エディ・ヴァン・ヘイレンも言ったことがあります。「彼女はスゴイ。あれで女じゃなかったら、間違いなくうちのリードヴォーカルに雇うところだけどな」
Sass Jordan はカナダ出身。このアルバムは3枚目にあたるようです。はじめはアイドルっぽい売り出しでしたが、92年の "RACINE" でブルージーなロックに転向。続くこの "RATS" ではそのハスキーな声を振り絞って素晴らしいシャウトを聴かせます。ゲスト参加もしているスティーヴィー・サラスがロックぶりに拍車をかけてます。彼の作品にも通じる、ぐいぐい迫ってくるバンドの一体感。
"Sun's Gonna Rise" が全米86位の小ヒットになりましたが、個人的なお薦めは
"Dameged" "High Road Easy"
"Ugly" "Honey" といったアップの楽曲かな。本当はミドル/スローに力を入れた方が、Melissa
Etheridge のようにブレイクできたのかもしれませんが、ここは敢えて速球勝負に挑む心意気を買いましょう。
アメリカに渡って2年ほど建設作業員をやってたことがある、と聞けばこの声の迫力も納得。
95. BLOOD SUGAR SEX MAGIK - Red Hot Chili Peppers
濃いです。音だけじゃなくて、アートワークからキャラまで全部。
間違いなく好みが別れるでしょう。私も正直言って、毎日毎晩聴こうとは思わないです。それでも、かける度に有無を言わさず圧倒される。やっぱり「名盤」。
チャートファンには "Under The Bridge" (US#2/92) の印象が強すぎて、本質を見誤らせる可能性大なのでありますが、聴いてて痛快なのはやはりミクスチャー(死語?)度全開のファンクでしょ。Flea
のベースプレイは Chris Squire もビックリの音数の多さだし、Chad
Smith のドラムもねちっこくリズムを叩き出すわけですが、「重低音」とか「超重量級」といった形容はどうも違うような。
この、縦横無尽に暴れまくりながらも、きっちり分離されたリズムセクションのスカスカぶりこそが、エンジニアの
Brendan O'Brien の力量。そして彼こそが、個人的に90年代最も好きだった録音技師なのであります。Brendan
自身が "Breaking The Girl" "Sir Psycho
Sexy" で弾くメロトロンも、いい味出してます。
全17曲、腕立て腹筋ヒンズースクワットのつもりで気合い入れて聴いてください!
94. MARCH - Michael Penn
今じゃ私の最愛の Aimee Mann のダンナですぜ。涙、また涙。
しかし、2人がお付き合いを始めるずーっと前からそれぞれ独立して好きだっただけに、彼らが次第に歩み寄り、遂に結婚してしまったというのは何だかこう、仲人気分というか、くすぐったいというか。縁結びになってね〜♪という感じでもあります。
それはさておき、"No Myth" (US#13/90) で知られる彼、あるいはショーン・ペンの兄として知られる彼、実にいいシンガーソングライターなのであります。丁寧な曲作り、落ち着いた静かな歌声。歌詞の視点も独特で、味わい深ーい1枚に仕上がっています。89年という時代を反映してか、ややビッグ過ぎるプロダクションですが、それが気になる方には次作 "FREE-FOR-ALL" の方をオススメ。アコースティックギターをより中心に据えた、芯の通った素晴らしい楽曲群を堪能することができます。
いずれも、中古屋市場価格\300前後で入手できると思われます…(^^;)
93. P.H.U.Q. - The Wildhearts
95年、もっとも熱中したバンドの1つがこの
The WiLDHEARTS。それまでも名前だけは知っていましたが、ちゃんと聴くことになったのはやっぱり
"Shitsville" ことロンドンに住んで、HR/HM系情報誌
Kerrang! を買う習慣がついてから。あっちでの盛り上がりようといったら大変なもので、レコード会社
(Eastwest) の待遇の悪さ?に当たり散らしたり、Kerrang!
誌オフィスに殴りこんだりする Ginger
ネタが毎週のように誌面をにぎわせていました。
私にとってのこのバンドの魅力は、やんちゃで向こう見ずな
Ginger の存在と、彼が書く楽曲の素晴らしさに尽きます。ヘヴィなギターやドラムスに埋もれそうになりながらも、実にくっきりと浮かび上がってくるキャッチーな歌メロの良さといったら! あっちに行ったりこっちに行ったり、ハチャメチャっぽい展開を見せつつ、必ずきっちり落とし前をつけてくれるサビメロなのです。シングルヒットした "I Wanna Go Where The People Go" や "Just In Lust" はもちろんのこと、"Nita Nitro" や "Baby Strange" のつかみの良さ。"Caprice" の轟音サイケデリコぶりもご愛嬌。ラストの "Getting It" まで思いっきり一緒に歌って、暴れて、スッキリしたら
Newcastle Brown Ale で乾杯。酔いどれソング
"Don't Worry About Me" を歌いながら、朝まで飲み明かしましょうや。
シングル盤に収録する未発表曲がこれまた名曲揃いで、集めるのが本当に楽しいバンドでした。
92. POST - Bjork
したたかな女性です。
こう言うと語弊があるのかもしれませんが、やっぱりそう思わずにいられない。
The Sugarcubes の時には全然引っかからなかったのですが、ソロ1st
"DEBUT" を経て95年リリースの本作で完全につかまれました。彼女の手にかかると、すべての男性は道具にされてしまう。それは無上の喜びであり、快感なのではありますが…
Nellee Hooper を全面的に起用したり、Tricky
を連れて来てトリップ・ホップをも巧みに消化したこのアルバムは、そのテクノ的なバックトラックがかえって世紀の珍獣
Bjork の「声」の迫力を強調。ストリングス・アレンジメントに "Also Sprach Zarathustra (2001)" (US#2/73) のヒットなどで知られる Deodato
がクレジットされているのがとってもいい味出してます。"Army of Me" での怒りの発露は、英語的に正しいのかどうかはともかく、とてもビョーク的なのは確か。"Hyper-ballad" に歌われるあまりにも無防備な「愛」、振り付けたっぷりの派手なビデオクリップも忘れがたいカヴァー "It's Oh So Quiet" などなど、シングルヒットもたくさん出ました。長すぎず短すぎず、11曲ってのもいいですよね、今どき。
全編アイスランド語で歌うジャジーな "GLING-GLO" も大のお気に入り作です。
91. INTRODUCING THE HARDLINE ACCORDING TO TERENCE
TRENT D'ARBY - Terence Trent D'Arby
歌唄いにとって、「声」は最大の武器。それが2度と忘れられない声であればあるほど、戦いは有利であるはず。よっぽどのことがない限り。
そしてテレンスの場合は、よっぽどのことがあったのです。まあ確かに、手がつけられないビッグマウスぶりだったし、マスコミを煽るだけ煽った彼にも非がなかったとは言えません。2nd
"NEITHER FISH NOR FLESH" で独り善がりな非コマーシャル路線に足を踏み入れたのも、今にして思えばちょっとやり過ぎだったか。
余談ながら、圧倒的な期待と注目の中、2000年にリリースされた
D'Angelo の2nd "VOODOO" を聴いて私が真っ先に思い出したのが、かの『N.F.N.F宣言』。D'Angelo がまとめあげた、ハイピッチなパーカッション音と、混沌とした音楽スタイル、そして美しいファルセットを聴きながら、時代が時代だったら『N.F.N.F.』も全米1位になり得た音だったのかもしれない、と…。ちょっと違うか。
いずれにせよこの1stが世界に与えた衝撃と、腰が砕けるほどカッコいいサウンドは、何年経とうと色褪せることはありません。キャッチーな英第1弾シングル、 "If You Let Me Stay" のコーラスで張り上げるTTDのハスキーな声で、もういきなりつかまれます。"Wishing Well" の力強いドラムと怪しげなメロディ、そして謎めいた歌詞。James
Brown の影響が顕著なスピードチューン、"Dance Little Sister"。Sade 風といってもよいかもしれない浮遊感溢れる
"Sign Your Name"。私個人は大胆なアカペラ、"As Yet Untitled" でのある種の危うさをも評価しつつ、ラスト11曲目の
Smokey Robinson カヴァー "Who's Lovin' You" で聴かせるひどくまっとうなソウル・マナーでダメ押しです。
まだまだ枯れるには早過ぎる。プリンスがまだまだ現役で頑張り、D'Angelo
が時代の寵児としてもてはやされる21世紀にこそ、TTDにもう一花咲かせてあげたいと思っているのですが…
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