70. THE SOUTHERN HARMONY AND THE MUSICAL COMPANION - The Black Crowes
もう黒烏も10年選手なんだよね。この移り変わりの激しい時代、それもハードロック系バンド受難時代に、これは結構スゴイことなのではないでしょうか?
まあ、ハードロックでひと括りにするには相当無理のあるバンドです。デビュー当時から70年代アメリカン・ロック風のレトロなサウンドに南部の香りをまぶした、独特のスタイルを打ち出してきました。この2ndが全米初登場1位になったのはひょっとすると彼らにとっては重荷だったかもしれず、むしろその後の "AMORICA" や "THREE SNAKES AND ONE CHARM" で聴かせた、コマーシャリズムとは無縁のロケンローこそが持ち味のような気もします。
1stは確かにカッコよくて、特に Otis
Redding
の "Hard To Handle" のカヴァーなんて抜群のセンスですが、今聴き直すとやはり粗削りな感は否めませんし、歌詞もまだまだ深みが足りない。ですからこの2枚目での大成長には驚かされました。ツアーを重ね、絶好調の状態で曲を書き溜めて一気に録音した様子がありありと伝わってくる、自信満々の楽曲集です。
オープニングの "Sting Me" でタテ方向に激しくシェイクさせた直後に、間髪入れず "Remedy" でヨコ方向への極上グルーヴに切り替わる冒頭部分であっさりノックアウト。この2曲に象徴される女性コーラスとエレピの大胆な導入がこのアルバム全体を貫くトーンです。こんなレトロな音造りこそが新しかった90年代前半を代表する傑作でしょう。ラストを
Bob Marley の "Time Will Tell" のひどく脱力したカヴァーで締め括るあたり、もはや確信犯としか思えないあざとさ。やられました。
69. APPETITE FOR DESTRUCTION - Guns N' Roses
80年代後半の停滞したチャート市場。ダンスミュージック&ポップスに席巻された音楽業界に投入されたこのロケンローな1枚は、さまざまな意味で歴史を塗り替えることになりました。が、そんなウンチクは評論家たちに任せておくとして、あくまでもユーザの観点からこのディスクの面白さを語るならば。
不思議なアルバムです。
ヴォーカルのアクセルは決して美声ではないし。ギタリストのスラッシュも、本当に味のあるギターを弾きますが、特別な早弾きテクがあるわけではありません。その他のメンバーに至っては、名前は覚えていますが顔はわかりません。でもそれでも、5人が集まって音を鳴らせば死ぬほどカッコいいロックンロールになるのです。なったのです。
シングルヒットは "Welcome To The Jungle", "Sweet
Child O' Mine", "Paradise
City",
"Nightrain" の4曲。それぞれこのバンドに異なる角度から光を当てる曲で、いい選曲だったと思います。もちろんシングル曲以外にも印象に残る曲が目白押しで、個人的にはラストの "Rocket Queen" や、"Think About You" "My Michelle"
のハードな切なさに強く感じ入るものが。1曲1曲変幻自在の声を聞かせるアクセル・ローズの歌いっぷりと、バックを固めるバンドの渋い演奏のおかげで、アルバムを繰り返し繰り返しかけてもちっとも飽きません。
ややパンクな雰囲気も感じさせつつ1,000万枚以上売ったこのアルバムは、ひょっとして後の
Nirvana "NEVERMIND" の爆発的セールスさらには『グランジ』市場の誕生につながる部分があるのかもしれない、という気もしてます。ハードロック+パンク+絶望感=グランジが全米を席巻したことにより、GNRのセールス基盤が失われたように感じられるのは皮肉な結果ですけれど。
68. UP - Right Said Fred
誰ですか笑ってるのは! …オレです(笑)
これまで何回かCDライブラリを大整理する機会がありました。その度ごとに何百枚ものディスクを売りに出してきたものです。現在自分の手元に残っているCDはそうした淘汰を経て濾過され、純度を高めたコレクションで、どれもこれも大切であり、愛着があるディスクばかり。それなのに、それなのに。
…コレかよ!というツッコミは当然有り得るところですが。
確かにスキンヘッドの超マッチョ2人をフロントに据えて「俺はセクシー過ぎてセクシー過ぎて困るぜ」みたいなノベルティ全米#1ヒット "I'm Too Sexy" を聴く限りではそう思われるのも致し方ないところ。でもこのアルバムは「ノベルティ」の一言で片付けてしまうにはあまりにももったいない。
というのは、楽曲が実に粒揃いなのですよ。基本的にポジティブなラブソングばかり10曲。2nd
シングルになった "Don't Talk Just Kiss" は女性コーラスを絡めたハッピーなハウストラックだし、全英ではこれまた大ヒットになった
"Deeply Dippy" は冗談みたいな豪華ブラスセクションを配した1曲。落ち込んでる日でも、これから何か楽しいことが起きるんじゃないか、そんなわくわくした気分にさせてくれます。"Upon My Heart" から "Those Simple Things" につながるアルバム終盤の、ちょっぴりしんみりした真面目な瞬間も大好き。楽観的になりたいアナタ、大音量で流すべきアルバムはそれじゃなくてコレです。今すぐ「上」を向いて歩こう。
67. TRASH - Alice Cooper
何せ洋楽を聴き始めたのがMTV以降なので、アリス・クーパーにリアルタイムで出会うには
"Poison" (US#7/89) のヒットまで待つ必要がありました。しかしその時ですら「何だか胡散臭いオジサンだなー」と思って気が乗らなかったのです。気が乗らないまま、ある先輩から譲り受けた来日公演@横浜文化体育館のチケット。やむなく聴いてみたのがこの "TRASH" アルバム。
いやビックリしました。何に驚いたってそのキャッチーな楽曲群。だって聴きながら、2回目のコーラスからは一緒に歌えちゃうんですよ。徹底して分かりやすく覚えやすい。ロック名盤本などを読んで抱いていた「アリス・クーパーはおどろおどろしい演出のショック・ロックとして…云々」というイメージは根底から覆されました。もちろんその立役者として作曲に関わったのは、Desmond
Child 大先生。当然 Bon Jovi の一連のヒットなどで名前は知っていましたが、アルバム1枚通して
Desmond マジックを見せつけられたのは初めてで、以後彼の楽曲をずいぶん追いかけることになります。
ツアーのオープニングを飾った "Trash" や、激キャッチーな "Bed Of Nails"、さらには Steven Tyler との掛け合いが印象的な
"Only My Heart Talkin'" などなど。捨て曲一切なし、完璧なアルバムの1つです。Steven
以外にも豪華なゲスト陣が参加しており、その客演も聴きもの。Kane
Roberts, Kip Winger, Jon Bon Jovi,
Ritchie
Sambora, Steve Lukather などなど。
でも何といっても一番スゴイのは、この時点で既に40歳を超えていた
Alice Cooper 本人の自信に満ちた歌いっぷりであり、仕切りぶりでしょう。ヴォーカリストとしては決して上手い人ではありませんが、特徴のある声の持ち主であり、アップからバラードまで歌いこなす器用さを持っているような気がします。そして、人生の頂点と底辺を経験し尽くした不器用さも。
66. THE ROTTER'S CLUB - Hatfield and The North
Canterbury という街は、実に何の変哲もないイギリス南部の地方都市です。チョーサーの「カンタベリー物語」で名前だけはご存知のお方も多いと思いますが、プログレッシヴ・ロックのファンの間では一大ブランドとなっています。例えばビートルズファンにとってリバプールが聖地であるが如く。
ロンドンからコーチ(長距離バス)で数時間。カンタベリー大聖堂の威容と、その向こうに広がるなだらかな平原が視界に入った瞬間、このアルバムのサウンドが静かに心の中に流れ始めました。それまで何回聴いても馴染めなかったカンタベリー系が、自然にすっと身体に入り込んだのです。音楽を、その作られた土地で聴くことの喜びを教えてくれた1枚。
カンタベリー・ロックの特徴はいろいろあります。でも、「キーボード、特にオルガンやエレピが活躍する」とか「曲がどんどん展開して行って元に戻らないことがある」とか「あらかじめ作曲/アレンジされたパートとその場の即興/アドリブとの区別が曖昧で判別しづらい」とか言ってみたところで、何かを説明しているようで実は何も説明していないことに気づきます。
個人的には、あまりプログレという枠で括りたくはない音楽。「ジャズ・ロック」だなんて大げさな肩書きも要りません。だからここはひとつ、『脱力系プログレ』 という大きな括りでごまかしておきたい。CDの再生ボタンを押したらジャケットの女の子のように寝転がって、流れるように展開するメロディとリズム、そして
Northetts の美しい女性コーラスに身を任せながら、目を閉じてボンヤリとかつダラダラと時間を過ごしつつ、脳裏に英国南部の情景を想像することによってはじめてその良さが分かってくるアルバムのような気がします。
65. WEEZER - Weezer
何だか情けないのび太キャラかと思いきや、実はびっくり、出来杉くんじゃねえかという詐欺師的1枚。しかも来日してホテルで女の子と寝まくり。鬼畜の名を欲しいままにした
Rivers Cuomo くん。いいんだよこの際。いいメロディさえ書けるんなら。
パワーポップと総称されるジャンルがあるようで。このアルバムなどはその代表作のひとつとされているようです。私はジャンルにはこだわりませんが、メロディと歌詞にはこだわります。ここに収められた10の短い楽曲は、いずれも一級品のパワーポップ。練り上げられたアレンジだとか、隠喩に満ちた深い歌詞とは無縁ですが、音楽の価値はそんなこととは無関係。キャッチーでポップでありながら、胸にホロリとくる歌メロ。これを10曲畳み掛けられれば無条件幸福です。変換ミスを直す気にすらなりません。すっかり降伏。
Radiohead ほどひねくれて世の中を眺めたくはないけれど、やっぱり自分はどうもこの世界にぴったりフィットしていないような気がする貴方と私が一緒に聴くことができる、数少ないアルバム。僕ドラえもんです。
64. BUILDING THE PERFECT BEAST - Don Henley
ドン・ヘンリーにはソロアルバムが数枚ありますが、私はこのディスクが一番好きです。元イーグルスのドラマー兼ヴォーカリストである彼に、世間一般が期待するのはやはり "HOTEL CALIFORNIA" の再現でしょう。でもここにはいわゆる西海岸風のアコースティックなロックは微塵もなくて。むしろ大々的にシンセサイザーを導入したモダンなアプローチが目立ちます。テクノロジーそのものはとっくに陳腐化しているけれど、このアルバムの持つ衝撃や輝きが色褪せないのは、やっぱり根底にある楽曲や彼のヴォーカルが素晴らしいからなのでしょう。
多くの人の印象に残っているのは、モノクロームのプロモビデオがMTVでかかりまくった "The Boys of Summer" かもしれません。もちろん素晴らしい曲で、過ぎ去った夏の恋の想い出を抱えて聴くと(そしてたいてい、夏の恋の想い出の一つや二つは抱えているものですが)、マイク・キャンベルのギターの素晴らしい音色とともに圧倒的な効果が得られます。しかし個人的にはむしろそれ以外の曲たちに深い思い入れが。
まず目立つのは、拝金主義や享楽主義に徹底的に抗戦しようとする骨太なオヤジぶりを感じさせる楽曲たち。アルバムタイトル曲や
"All She Wants To Do Is Dance"
できつい皮肉を飛ばした後に、"Sunset Grill" で通り過ぎる人々を眺めつつ、その裏に隠された人生の汚い部分を暴き出す手法にはぞくぞくします。この曲の複雑で壮大なシンセサイザー&ブラスセクションのアレンジは何十回聴いても「見事」の一言。それぞれ
Randy Newman と Jerry Hey のお仕事。猥雑で退廃的な魅力を発散するお店の様子を巧みに表現しています。David
Paich のピアノソロもたまりません。だいたい「日没」グリルという名前からして確信犯。そこはきっと斜陽のホテル・カリフォルニア
Part 2。
そしてやっぱり、酸いも甘いも噛み分けた大人のラヴソングを味わいたいところ。2曲めの "You Can't Make Love" で「独りで何でもやれると思ってるみたいだけれど、恋だけはできないよ」と言い放ち、"You're Not Drinking Enough" では彼女への未練を酒で紛らわす男を痛烈に描写。「彼女が使っていた香水を買うことはできても、それを他の女に振り掛けたところで同じ香りはしない」というフレーズには泣くこと必至です。
ラストの "Land of The Living" はとても穏やかで前向きな楽曲。曰く、「僕はこの世で君といつまでも一緒に生きていたい」。ハーモニーに加わった
Patty Smyth の声も瑞々しい1曲で、アルバム終了後はとても晴れ晴れとした気分になれるのです。
63. MERRY CHRISTMAS MR. LAWRENCE - Ryuichi Sakamoto
中学1年生か2年生の頃封切りされて映画館に観に行きました。矛盾に満ちた戦争の閉塞性、西洋と東洋の精神性の交錯、そこに漂うホモセクシャリティ。正直言って万人にオススメできる映画ではありません。しかし、各俳優の演技の未熟さ、テーマのバランスの悪さや消化不良な部分も含めて、ある意味偏愛している映画でもあります。ヨノイとセリアズの「あらかじめ破綻している」愛の描写も然ることながら、やはりラストシーンのたけしのスクリーンいっぱいの笑顔。自分は死刑執行される前夜に、あんなスマイルをすることができるだろうか。何度観ても涙が出てくるシーンです。
そして何と言っても、映画館を出てすぐに「サウンドトラック盤がほしい!」と思った生まれて初めての映画でもあり。(最初に気に入った映画音楽は
STAR WARS のテーマなんですけどね)
坂本龍一が手がけたこのサントラ盤を流していると、映画の各場面が脳裏に浮かんでは消えていきます。タイトル曲の構成は見事。西洋と東洋が決して融合できずに悲劇的な終戦を迎える様子を暗示するような、奥の深い旋律だと思います。また、セリアズがせむしの弟を回想するシーンで使われる "Ride, Ride, Ride" の美しさも素晴らしく、ふとした時に頭の中で流れていることがあります。
地元の映画館でこれと『少林寺2』が2本立て同時上映だったという事実は伏せておく方向で。
62. THE SIX WIVES OF HENRY VIII - Rick Wakeman
ヘンリー8世という王様には6人の妻がいましたが、その1人1人をテーマにインスト曲を書き、アルバムに仕立ててしまったわけです。例えば「アラゴンのキャサリン」。例えば「ジェーン・シーモア」。その他4人。しかも驚くべきことにこんなアルバムが全米最高30位、50万枚以上を売り上げて。まったく、時代の風というやつは恐ろしい限りです。時は1973年、プログレッシヴ・ロック全盛期でした。
リック・ウェイクマンというキーボード・プレイヤーがもっとも名を知られているのは、Yes
に在籍して『こわれもの』 『危機』 『海洋地形学の物語』といった傑作群をリリースしていた時期の活躍ぶりでしょう。このソロ作『ヘンリー8世の6人の妻』も、この期間に制作された作品です。緊張感溢れるキーボードアンサンブルが随所に聴かれる野心作で、似非バロック様式で展開される超早弾きフレーズの数々には、Yes
ファンならずともきっと驚くことでしょう。
誤解を恐れずに言えば、リックの最大の魅力はハッタリでありコケオドシです。最大級の誉め言葉として使っているつもりですが、その魅力が最大限に開花したのがこの『ヘンリー8世〜』ではないかと。この後も『地底探検』(全米3位!)や『アーサー王と円卓の騎士』(全米21位)など、よりスケールの大きな作品群を発表しますが、ハッタリ/コケオドシとしては最初のインパクトを超えるものではありません。
肥大化して絶滅に至る恐竜の如く、小回りの利いた初期こそがもっとも高性能だったことを証明する1枚。
61. PICTURE BOOK - Simply Red
サバンナに、母親を密猟者に殺された子象がいました。そこに出向いた女の子が赤いスニーカーを履いていて。子象は興味深そうに彼女のスニーカーに鼻を伸ばしてクンクンしています。何故か。サバンナには「赤」という色がほとんど存在しないのですね。見たこともない強烈な赤色に目を奪われて。
サバンナに住んでいない我々にとっても、「赤」という色には不思議な魅力があります。そんな赤をグループ名に取り入れた、赤毛の
Mick Hucknell 率いる Simply Red。この1stアルバムの衝撃は今でも消えていません。Blue-eyed
Soul という言葉がありますが、この Mick
のヴォーカルのソウルフルなことといったら。
まずはオープニングの "Come To My Aid" の緊迫感溢れるリズムと伸びのあるヴォーカルに打ちのめされます。ラヴソングではなくてむしろ最低限の生活を求める社会主義的なプロテストソングに近いイメージですが、その「赤さ」が際立つ1曲。"Money'$ Too Tight (To Mention)" も同傾向かな。"Sad Old Red" や "Heaven" で聴かせるジャジーなフィーリングも良いですし、大ヒット "Holding Back The Years" での静かな絶望感も、悲しさよりは美しさに満ちたものであったりします。その意味では、"Look At You Now" や "No Direction" のせわしなさはややウルサイ気もしますが、そこは若さ故のご愛敬。
アルバム単位での音の統一感という点では、屋敷豪太がドラムスで参加した
"STARS" の切れ味に一歩譲りますが、デビュー盤はインパクトが命。その分ちょっとだけ得している1枚。
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