ALBUMS 60 - 51


順位 アルバム名 アーティスト YEAR
60 DANGER MONEY UK 1979
59 VS. Pearl Jam 1993
58 CUTS LIKE A KNIFE Bryan Adams 1983
57 AM I THE KINDA GIRL? Cathy Dennis 1996
56 CHET BAKER SINGS Chet Baker 1956
55 IT'S GREAT WHEN YOU'RE STRAIGHT... YEAH! Black Grape 1995
54 WIRED Jeff Beck 1976
53 ANGEL RAT Voivod 1991
52 THE DREAM OF THE BLUE TURTLES Sting 1985
51 WHATEVER Aimee Mann 1993



60. DANGER MONEY - UK


 『サイト管理人に100の質問』 ってあるじゃないですか。あれのQ12に 「家に帰ってから最初にする行動は?」 という質問がありまして。パソコンの電源を入れる、と答えさせたいらしいんですが、そこに堂々と 「石鹸で手を洗う」 と書く人もいて。いや自分なんですが。しかもUK好きと来てますから。間違いなくこのジャケットが。深層心理に影響を。

 さて憂国の四士ことUKは、さすがに個性の強い面々だけあってアルバム1枚で早くも分裂し、ギターレスのトリオ編成になって再出発したセカンドがこの "DANGER MONEY"。ヤバいカネですよ旦那。カネ儲けには縁がなかったジョン・ウェットン先生がついに手を出したハイリスク・ハイリターンの投資信託。残念ながら運用実績は素晴らしいとは言えず、彼が実際に莫大な報酬を手にするには82年のエイジア結成を待たねばなりません。

 そのエイジアにもっとも近いところにある作品と言っていいでしょう。つまり、プログレッシヴの作法を残しながらも、中心に座るのはあくまでも聴きやすい歌メロ。ギターレスにはなりましたが、もともとジョンのUK構想はトリオ編成。新加入のテリー・ボジオの技量も申し分なし。A面3曲目の "The Only Thing She Needs" での派手な叩きっぷりは何回聴いても最高、エディ・ジョブソンも緊張感溢れるハモンド&エレクトリック・バイオリンを聴かせます。心を揺さぶる "Nothing To Lose" から叙情的な "Rendezvous 6:02" まで空前絶後の全6曲。キレイに石鹸で手を洗ってから聴きたいね。



59. VS. - Pearl Jam


 最近の若い子たちと話をしてみると、パール・ジャムで1枚選ぶなら "VITALOGY" が定番らしい。確かにカート・コバーン自殺の影響を直接に受けた、言わばグランジ挽歌としての象徴性はピカイチだし、好きな曲もある。でも僕の場合はやっぱりこの "VS."。リアルタイムで聴いた時の純粋な驚きといったらなかったよ。

 1stの "TEN" は名曲揃いですが、個々の楽曲が独立しちゃってるような気がします。それに比べてこの2ndは、「丸ごと」 感が強い。12曲全体でぶつかってくる音の塊。どうも自分は、昇り調子の長いツアー中に一気に書き上げた楽曲を収録した2nd、というのが好きらしいです。ブラック・クロウズもそうだしね。

 もちろんタネ明かしはあって。一番の功労者はプロデュースのブレンダン・オブライエンだと思うのです。ドラムスの響きを録音させたら天下一品の彼(+エンジニアのニック・ディディア)ですが、このアルバムでも恐ろしく立体的で生々しいドラムス(=デイヴ・アブラジーズ)を聴くことができます。もちろん、ブレンダンを先に起用したのは Stone Temple Pilots の方だと強調しておきたいのが STP ファンの心境というものですけれど。

 誤解を恐れずに言えば、エディ・ヴェダーが真にのびのび歌った最後のアルバム。



58. CUTS LIKE A KNIFE - Bryan Adams


 "RECKLESS" はタイトルに反して非常に成熟したロックアルバムに聞こえます。この "CUTS LIKE A KNIFE" に比べればずっと。もちろんどちらが良い悪いではなくて、その日の気分次第で好きな方を聴けばよいのです。今日の僕なら、こっちだな。

 ブライアン・アダムスの3作目にあたるこのアルバムが、僕と彼の出会いでした。ハスキーな声で活きのいいロケンローを歌いまくるこの作品、本当に捨て曲がないのです。「カツラがない!」と叫ぶタイトル曲やココロに突き刺さるロッカバラード "Straight From The Heart" も最高ですが、モノクロのビデオが印象的なテンポの良い "This Time" や、さらにはアナログB面に集中する非シングルの曲の数々がどれもみずみずしくて。ラストを締める "The Best Was Yet To Come" は特にココロがじーんとします。

 本作の成功をきっかけに、ブライアンはこの後どんどん大物になっていきます。ビッグなプロダクションで大仰なバラードを歌う彼も悪くないけれど、僕がいつも帰ってくる場所は青臭いロケンロー時代のブライアン。"18 'TIL I DIE"(死ぬまで18歳)宣言してみたところで、サウンドはやっぱりオトナだから。ナイフのようには切れない。残念だけど。

 ところでギター持って大きな鏡の前に立つと、つい真似したくなりませんか? このジャケットのブライアン・アダムスのポーズを。
(長時間続けるのは不可能…体験者談)



57. AM I THE KINDA GIRL? - Cathy Dennis


 キャシー・デニスをアイドル系小娘としか思っていないお方、もったいないことしてますぜ。今やUKポップ界を代表するソングライターに成長しつつある彼女、これはその輝きを感じさせた珠玉の女性ヴォーカル作品です。

 確かに初期のダンサブルなポップ曲も魅力的だけれど、この3作目で聴けるメロディアスなギターポップとキャシーの声の相性の意外なまでの良さといったら。とにかくキャッチーで可愛いプロダクション。派手派手で娼婦風のアートワークや、名(迷)邦題 『私って…?』 に惑わされず、とにかく聴いてみましょう。中古店では500円前後で入手可能。

 ひとつの話題はキンクスのカバー "Waterloo Sunset" でした。CDシングルでは "Sunny Afternoon" までカバーし、これまた最高です。アルバム中でもキャシーとレイ・デイヴィスの共作曲がありますし、XTC のアンディ・パートリッジとの共作もありますが、何よりキャシー本人のソングライト能力が素晴らしい。"Fickle" その他の非シングルにも名曲目白押し。決して大ヒットしたアルバムじゃないし、評価も高くないかもしれませんが、これぞ埋もれた傑作。女性ヴォーカルファンはぜひ聴いてみると良いよ。



56. CHET BAKER SINGS - Chet Baker


 聴くたびに、激しく脱力する。若しくは、激しく脱力したいときに、聴く。

 このアルバムの音を聴いたのは20代後半になってからですが、ジャケットだけはよく知っていました。父親の弟(つまり叔父)の家の壁にかかっていたからです。他にも、ビル・エヴァンス・トリオの "PORTRAIT IN JAZZ" やソニー・クラークの "COOL STRUTTIN'" など、モダンジャズの名盤が一緒に並んでいたのを思い出します。

 1曲目の "That Old Feeling" の軽快なトランペットのイントロが流れ出した瞬間に、部屋の空気が変わります。まったりと、ホノボノと。徹底的に頼りなく甘ったるいチェットのヴォーカルに包まれて、僕も極限まで脱力します。カッコいいばかりがジャズじゃない。力強いばかりがジャズじゃない。むしろ、"My Funny Valentine" で赤裸々に露呈される彼のカッコ悪さ、弱さこそが僕を魅了するのです。もうふにゃふにゃ。

 1956年発表。僕のオールタイム・ベストの中でもっとも古い音源のひとつ。



55. IT'S GREAT WHEN YOU'RE STRAIGHT... YEAH! - Black Grape


 冬的に、1995年年間1位だったアルバム。
 ていうかとにかく踊ったモン勝ちなわけですよ。

 ハッピー・マンデーズはよく知らない。マンチェスターブームにも乗り遅れた。ダンサブルなUKロックなんて、遠い存在だった。そんな僕が95年にたまたまイギリスにいたというのはある意味すごい偶然。Radiohead や Blur や Oasis が一番熱く盛り上がった瞬間を皮膚でピリピリ感じてきたわけですが、同じく大いに話題になったのがこの Black Grape。元ハッピー・マンデーズのショーン・ライダーとベズを中心に、ひたすら呆けたお気楽ダンスミュージックを展開。最初から最後まで徹底的に遊びまくる本気でおバカなデビュー盤です。

 アルコール&ドラッグ漬けイメージのショーンが 「素面って最高だぜ、イェイ!」 とほざくタイトルからしてダークなユーモア全開。"Reverend Black Grape""In The Name of The Father""Kelly's Heroes" といったシングル曲はひたすらキャッチーに、アルバムトラックはひたすらディープに迫ります。気になる点があるとすれば、切れの良すぎるリズムセクションか。ポリリズムもきっちりタイトに叩き出すドラマーは、特にライヴを観ちゃうともう少し緩くてタルいビートでも良かったかな?とも思いますが、そこまで求めるのは贅沢というもの。とにかく至極の能天気ワールドを堪能すべし。イェイ!



54. WIRED - Jeff Beck


 基本的にギタートーンが変わらない人なので、どの作品を採り上げても同じことです。ならばギター以外の部分で選ぶべし。例えば、ヤン・ハマーの高速キーボードやナラダ・マイケル・ウォルデンの爆裂ドラム、あるいはマックス・ミドルトンの跳ねまくるクラヴィネットで選ぶ。要約すると、"WIRED" しか残らないよ。

 前作 "BLOW BY BLOW"(「ギター殺人者の凱旋」)がギターインスト史上稀に見る大ヒットになり、かなり気を良くして制作されたと思われる1枚。クロスオーバー/フュージョンのムーヴメントも意識しながら、ロックとの境界線ギリギリのところで激しく火花を散らすプレイを展開します。インストなのに、こんなに歌心を感じるロックも珍しいよ。

 だいたいオープニングの "Led Boots" のリズム隊のカッコよさを、なんと表現すればよいのか。バンドが時として一体となり時として分解しながら、激しく火花を散らす様に手に汗握らずにはいられません。元マハヴィシュヌ・オーケストラのシンセ奏者、ヤン・ハマーの独壇場となる "Blue Wind" のような派手な曲も良いのですが、前作における 『哀しみの恋人たち』 に相当する "Goodbye Pork Pie Hat" での過剰な感情移入ぶりもたまらない。ジャズベーシスト、チャールズ・ミンガスのこのカヴァーでは、マックス・ミドルトンの揺れるフェンダー・ローズにどこまでも身を任せていたいよ。

 トータルわずか37分強。これ以上1秒たりとも削れないギリギリの録音。



53. ANGEL RAT - Voivod


 カナダって本当にアヤシイ。得体が知れない。何が出てくるか分からない面白さがあります。Rush 然り、The Tea Party 然り、Alanis Morissette 然り。確かに北米地域だけれど、「アメリカ」 でひと括りにするのはあまりにも乱暴過ぎる。

 このヴォイヴォドもそうで、80年代のゴリ押しスラッシュメタルから突如サイケデリックなプログレ路線に転向し、再び他の追随を許さないハードコアに舞い戻ってみたり、変幻自在のカナダ産バンド。特に5枚目の "NOTHINGFACE" でピンク・フロイドの "Astronomy Domine" をカヴァーしたあたりから僕の守備範囲に入り始め、孤高の傑作 "NEGATRON" をリリースしたあたりで追いつけなくなった。この "ANGEL RAT" は Rush で知られるテリー・ブラウンに制作を任せたコンパクト&タイトな1枚。

 といっても、テリー・ブラウンだから何か違うかといえばそうでもなく、相も変らぬヴォイヴォド世界。他の作品と比べれば整理されたストレートな音像ですが、主体は暴力的でサイケデリックな轟音と複雑なギターリフ、ほとんど半狂乱状態で叩きまくるドラマー、そしてヴォーカルの悲痛な叫び。まさしく混沌/Confusion。プログレッシヴでありながらパンキッシュという、ある意味奇跡的な存在。幕開けの "Panorama" の疾走感/失踪感から、終曲の "None of The Above" での救いのなさ(「選択肢のいずれも正解ではない」)まで、近未来をあまりにも的確に予測し過ぎたサイバーパンクな作品。とっくに死語。



52. THE DREAM OF THE BLUE TURTLES - Sting


 最初はあんまり好きなアルバムじゃなかった。気取ってて。キザで。ジャズっぽいねなんて言って素直に受け入れる気にはなれなかった。"SYNCHRONICITY" で初めてポリスに出会い、スチュワート・コープランドの乾いたスネアとハイハットに、アンディ・サマーズのひたすら淡々としたリズムギターの響きに酔い痴れていた自分にとって、ポリスを活動停止してソロに踏み出すスティングは、裏切り者でしかなかった。

 でも無理に距離を置こうとすればするほど、彼の声に惹かれてしまう。如何ともしがたい魅力があるのです。ソロ4作目の "TEN SUMMONER'S TALES" あたりでようやく心の中の違和感を払拭し、振り出しに戻ってみるとあら大変。メッタやたらにカッコ良いのです。噴出するアイディアを、やたらとキメの粗いフィルターで抽出したカフェインたっぷりのコーヒーみたいな魅力に溢れているのです。この1st。

 第1弾シングルの "If You Love Somebody Set Them Free" は彼の偽善性を象徴するナンバーですが、メロディ的にはほとんど破綻しており決して美しくはありません。しかしこれほど継ぎはぎのメロディに強引に芯を通してしまうのが、当時のスティング・バンドの圧倒的な演奏力。ケニー・カークランドの鍵盤が、ブランフォード・マルサリスのサックスが、そしてオマー・ハキムの力強いドラムスが、ペラペラの平面図を超立体的な図面に変えていきます。特にスリリングな演奏を堪能できるのはA面ラストにあたる "Shadows In The Rain"。偏執狂的な焦燥感を、ラフでスピーディな演奏で描き出します。絶妙に。

 ラストを飾る "Fortress Around Your Heart" におけるレトリック満載の回りくどい復縁申し入れに、英国の誇り高きヒネクレ者の極限を垣間見る1枚。



51. WHATEVER - Aimee Mann


 …たおれちゃった。帯の叩き文句です。

 'Til Tuesday 時代からこの1stソロ作の発表までに、5年もかかりました。レーベルのゴタゴタを経て2ndソロ作 "I'M WITH STUPID" の発表までにはさらに2年かかります。でもそれらは待つに値する年月でした。稀代のシンガーソングライターでありながら、つくづく不運な女性。だからこそ、応援したくなるキャラクターでもあり。

 時にはメロトロンまで引っ張り出して地味渋のサウンドをコーディネートするマルチプレイヤーの Jon Brion を制作に迎えたのが大正解。エイミーの中音域から高音にふっと抜けるヴォーカルを最大限活かしたプロダクションで、聴き込むほどに味わいが出る仕上がり。特にお気に入りなのは、ストリングスやオーボエを効果的に配したクラシカルなアレンジの "Mr. Harris"。この曲だけリピートかけて10回くらい繰り返し聴いたこともあるくらい。名曲中の名曲だと思うのだけれど。他にも "Stupid Thing""Fifty Years After The Fair" など、印象的な楽曲がいっぱい。

 こんな素晴らしい彼女を奥さんにして、マイケル・ペンは自らがどんなに幸せ者か分かってるのかと問いたい。小一時間問い詰めたい。きっと分かっているんだろうけれど。お幸せにね。



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