artist : NICK DeCARO |
title : 『 ITALIAN GRAFFITI 』 |
release : 1974年 |
label : BLUE THUMB RECORDS |
tracks ( cd ) : (1)UNDER THE JAMAICAN MOON 【ジャマイカの月の下で】 (2)HAPPIER THAN THE MORNING SUN 【輝く太陽】 (3)TEA FOR TWO 【二人でお茶を】 (4)ALL I WANT (5)WAILING WALL (6)ANGIE GIRL (7)GETTING MIGHTY CROWDED (8)WHILE THE CITY SLEEPS 【町はねむっているのに】 (9)CANNED MUSIC (10)TAPESTRY |
tracks ( analog ) : side A...(1)〜(5)/ side B...(6)〜(10) |
NICK DeCARO,vocals,keyboards ; DAVID T.WALKER,guitars,guitar solo(1) ; ARTHUR ADAMS,guitars,guitar solo(4,9) ; WILTON FELDER,bass ; JIM HUGHART,upright bass(3) ; MAX BENNETT,fender bass(5) ; PAUL HUNPHREY,HARVEY MASON,drums ; BUD SHANK,flute(5),flute solo(2),alto sax solo(6) ; TONY ORTEGA,tenor sax(3) ; PLAS JOHNSON,alto sax solo(9). |
producer
: TOMMY LIPUMA & NICK DeCARO arranger : NICK DeCARO engineered & mixed by AL SCHMITT. concertmaster : HARRY BLUESTONE |
related website : 未確認 |
今から7〜8年前、僕がまだ少しAORに抵抗感を持っていた頃、大学時代の後輩に薦められて聴いたのが最初。その時の第一印象はよく覚えていないのだが、リア・カンケルの 『 LEAH KUNKEL 』 に収録されていた「UNDER THE JAMAICAN MOON」は比較的よく聴いていたように思う。 |
それからジワジワと本作の魅力に気付き始めたのと同時に、お気に入りのアルバム〜ダン・ヒックスの 『 IT HAPPENED ONE BITE 』 やジョアン・ジルベルトの 『 AMOROSO 【イマージュの部屋】』 のプロデューサーが、本作と同じトミー・リプーマ(エンジニアは3作ともアル・シュミット)だと知って、“自分の好みの因縁”に少し驚いてしまった。では、スタート。 |
(1)UNDER THE JAMAICAN MOON 【ジャマイカの月の下で】 ▲tracks |
クワイエットな質感のボサ・ノヴァのリズムに、ジャジーで神秘的なギターと幻想的なヴィブラフォン。そこにスーーーっと忍び込み、やがてざわめきだすストリングス。タイトル「UNDER
THE JAMAICAN MOON」を演出するのには最高のイントロで我々を迎えてくれる(1)。 初めのうち一人ではちょっと頼りないと思えたニックの声も、ハーモニーが重なると、見違えるほどに美しさを増していく。ジャケット内側にある、合成で作った“ニック・デカロ・クィンテット”の写真が、それを暗示するかのようだ。表のジャケットでは一人で「ムスッ」と押し黙っている感じだが、内ジャケでは5人のニックで「ハーイ!」とキメて、裏ジャケではまた一人で「エヘッ、どうだい?」という感じ。 しかし蛇足ながら一言。多くの方の反感を買うことは覚悟の上だが、終盤のデイヴィッド・T.ウォーカーのギター・ソロが僕はあまり好きではない。それほど毛嫌いするほどではなく、多くの人が絶賛するほどに感動しているわけではないという程度なのではあるが。ちょっとばかりユッタリした気分を損なわれれるといったらよいか。でも「ティラリラリ」というストリングスとシンクロしたフレイズはとても気に入っている。 因みに、スティーヴィー・ワンダーの 『 INNERVISIONS 』 に収録の「VISIONS 【愛の国】」でもデイヴィッド・T.ウォーカーによる似た印象のソロが聴けるが、こういった細かく蠢くフレイジングなら、そちらの方がむしろハマっているように思う。 AORを代表する名曲といっても過言ではないこの曲は、シンガー/ソングライター〜スティーヴン・ビショップとリア・カンケルとの共作。リア・カンケルのヴァージョンは、彼女のアルバム 『 LEAH KUNKEL 』 に収録されている。そちらもとてもいい出来なので、是非聴いてみることをお勧めしたい。 |
(2)HAPPIER THAN THE MORNING SUN 【輝く太陽】 ▲tracks |
静かで爽やかな朝の雰囲気満点で、幸福感に溢れた(2)。曲が進むごとにちょっとずつ明るさや躍動感が増していく様は、正に朝の太陽が徐々に昇ってくるかの様。そして主人公は、その朝の太陽より“僕は幸せさ”と歌う。バド・シャンクをフィーチャーしたフルート・ソロとニックの多重コーラスによる間奏が、“ささやかな感動”といった感じでイイ。 この曲はスティーヴィー・ワンダーのアルバム 『 MUSIC OF MY MIND 【心の詩】 』 からのカヴァー。 |
(3)TEA FOR TWO 【二人でお茶を】 ▲tracks |
ひっそりとした家族の暮らしを思い描くジャズ・スタンダードの(3)。いかにも“古き良きアメリカ”といった世界観の温かい雰囲気に満ち溢れた曲。 キラキラとしたとても綺麗なピアノで始まり、ハープの上昇する音を境に、揺れるようなメロディーのサビに入る。そのサビ(特に二度目)の後半の分厚いコーラスの美しさといったらない。音像としての感触は違うが、「このままこの声の洪水の中に浸っていたい」と思ってしまうという意味では、10ccの「I'M NOT IN LOVE」(『 THE ORIGINAL SOUNDTRACK 』 に収録)やマーヴィン・ゲイの「I WANT YOU」(『 I WANT YOU 』 に収録)を聴いている時と同じ気持ちかもしれない。 |
(4)ALL I WANT ▲tracks |
明るく躍動感のある(4)。この曲はジョニ・ミッチェルのアルバム 『 BLUE 』 からのカヴァー。本作でのアレンジは、アコースティックでシンプルな原曲とはまた違っていて、「ドッッドドチャッ、ドッッドドチャッ」とちょっと速めのボサ・ノヴァ〜擬似サンバ系のリズムの上を、ニックのコーラスやストリングスが滑るように流れ込んでくる。その間に鳴っている木漏れ日のようなギターもいい。全体的には、光の粒子が空気中に充満しているかのような、爽やかで煌びやかな印象のサウンド。歌の終わりの方にある「WANNA SHINE LIKE THE SUN (太陽のように輝きたいのさ)」という言葉を念頭に置いて作ったのだろうか。 |
(5)WAILING WALL ▲tracks |
諦念に満ちたバラードの(5)。この曲はトッド・ラングレンの2ndソロ・アルバム
『 RUNT. THE BALLAD OF TODD RUNDGREN 』 からのカヴァー。 終始ゆっくりとしたテンポで静かに歌われていく。そして、ディレイのかかったバド・シャンクのフルートが、とても爽やかなのに、何となく虚ろな印象を残していく。 |
(6)ANGIE GIRL ▲tracks |
再びスティーヴィー・ワンダーのカヴァー曲(6)。スティーヴィーのアルバム
『 MY CHERIE AMOUR 』 から。(1)でのデイヴィッド・T.ウォーカーの起用といい、(2)やこの(6)のカヴァーといい、彼は結構なスティーヴィー・ワンダー・ファンなのだろうか。 麗しいストリングスやハープに彩られた爽やかなサウンドの中を、そよ風のようなニックのハーモニーや、バド・シャンクのアルト・サックス・ソロが軽やかに駆け抜けていくようだ。 ところで、MASAHARU YOSHIOKA氏の 『 MY CHERIE AMOUR 』 のライナーによれば、ここに出てくる「アンジー」とはスティーヴィーの最初の恋人で、この頃のスティーヴィーの元の歌詞には「アンジー」という名が頻出するため、作詞家は他の名前に替えたり、その名前を消さなければならなかったそうだ。 |
(7)GETTING MIGHTY CROWDED ▲tracks |
「ウニュ〜〜〜〜」というシンセ音(?)で出迎える、ちょっとユーモラスな雰囲気漂う(7)。“他の男に気持ちが移ってしまった彼女の元から主人公が去っていく”というストーリーの歌なのに、躍動的なリズムに乗ったニックは楽しそうに、そして嬉しそうに歌っている。 この曲は'65年にヒットした R & B の曲で、作曲は後にディスコ曲「ハッスル」でヒットを飛ばすヴァン・マッコイ。ニックのヴァージョンでは、その時代の R & B にあるような黒人的な“濃さ”はなく、とても爽やかなサウンドだが、ホーン・セクションやベース・ラインなどにその名残がある。 |
(8)WHILE THE CITY SLEEPS 【町はねむっているのに】 ▲tracks |
物憂げなエレクトリック・ピアノが印象的な(8)。メロディーにも気だるい雰囲気が横溢している。歌詞は前曲とは正反対の立場を歌った不倫ソング。こういう相反する曲を立て続けに持ってくる感覚はちょっと理解に苦しむが、ニック自身のコメントによれば、この曲はランディー・ニューマンがレコード・デビューする以前に作った曲だそうで、かねてからのニックのフェイヴァリット・ソングだったそうだ。あくまで“曲優先”のセレクションということで、どうやら単なる偶然らしい。 この曲は“ニュー・オーリンズのソウル・クイーン”と謳われるアーマ・トーマスも 『 WISH SOMEONE WOULD CARE 』 というアルバムでカヴァーしている(僕は未聴)。 |
(9)CANNED MUSIC ▲tracks |
レーベル・メイト〜ダン・ヒックス&ヒズ・ホット・リックスのアルバム
『 STRIKING IT RICH 』 からのカヴァー。彼らのヴァージョンはとてもヘロヘロとしたゆる〜い感じだが、こちらのヴァージョンは意外とファンキー。一聴したところ静かめな印象を受けるが、中盤頃からドラムスが弾けてくる。終盤のプラス・ジョンソンのアルト・サックス・ソロもファンキーな雰囲気に一役買っている。そして左チャンネルのワウ・ギターは何となくユーモラスだ(特に間奏で)。 この曲、大雑把に言えば“「録音された音楽(CANNED MUSIC)じゃ物足りないから、生の音楽を聴きに行こう」ということで、恋人ととあるバンドのライヴに足を運んだものの、彼女の気がそのバンドのドラマーに向いてしまい、終いにはそのドラマーと彼女が駆け落ちしてしまう”というトホホなストーリーの歌。先に挙げたサウンドはこのストーリーを反映してのものと思われる。 |
(10)TAPESTRY ▲tracks |
のどかで気品溢れるオーボエ(ソプラノ・サックスかも)。小鳥のさえずりのように爽やかなフルート。この曲にほんの少しの明るさと躍動感を与えている、スネア・ドラムと一緒に叩かれるタンバリン。そして、サビで鳴らされる宮廷のファンファーレのようなホーン・セクション。“高原にそびえ立つ城で迎える、よく晴れた気持ちのよい朝”のような雰囲気の(10)。 この曲の歌詞には、一つのタピストリーに織り込まれた古い王家の物語と、そのタピストリーから主人公が過去や未来に思いを馳せている様子が描かれているのだが、サウンドは正にそれにピッタリの表現をしている。もう「いい仕事してますねぇ」としか言い様がない。 |
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