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artist : JOE HARRIOTT-JOHN MAYER DOUBLE QUINTET
title : 『 INDO JAZZ FUSIONS-INDO JAZZ SUITE 』
recorded date : 『 INDO-JAZZ SUITE 』 ; 1965年10月10日(1966年発表)、 『 INDO-JAZZ FUSIONS 』 ; 録音年月不詳(1967年発表)
label : ATLANTIC RECORDS
tracks ( cd ) : (1)PARTITA (2)MULTANI (3)GANA (4)ACKA RAGA (5)SUBJECT (6)OVERTURE (7)CONTRASTS (8)RAGA MEGHA (9)RAGA GAUD-SARANGA
tracks ( analog ) : 『 INDO-JAZZ SUITE 』 ; side A... (6,7) / side B...(8,9)、 『 INDO-JAZZ FUSIONS 』 ; side A... (1) / side B...(2)〜(5)
the joe harriott double quintet(6〜9),the joe harriott-john mayer double quintet(1〜5) : JOE HARRIOTT,alto saxophone ; KENNY WHEELER,trumpet(6,7,8,9) ; SHAKE KEANE(1,2,3,4,5),trumpet,fluegelhorn ; PAT SMYTHE,piano ; COLERIDGE GOODE,bass ; ALAN GANLEY,drums,and a quintet of musicians who perform Indian music : JOHN MAYER,violin,director(6,7,8,9),harpsichord(1,2,3,4,5) ; CHRIS TAYLOR,flute ; DIWAN MOTIHAR,sitar ; CHANDRAHAS PAIGANKAR,tambura ; KESHAV SATHE,tabla.
producer : a production of record supervision LTD.(LONDON) under the personal supervision of DENIS PRESTON
related website : {related website}




 ジャマイカはキングストンの生まれながらも、'50年代にイギリスへ居を移して活動していたアルト・サックス奏者のジョー・ハリオットと、インドはカルカッタ出身で、'52年にイギリスに渡ってきた作曲家/ヴァイオリン奏者のジョン・メイヤーが、それぞれ率いるクインテット(5重奏団のことなのだが、ライナーで小西康陽氏はクインテットを4重奏団と勘違いしている)のメンバーと合同で作り上げた“インド三部作”のうちの二枚が、本CDを構成する 『 INDO-JAZZ SUITE 』 と 『 INDO-JAZZ FUSIONS 』(もう一枚は 『 INDO-JAZZ FUSIONS II 』)。

 正式に言えば、THE JOE HARRIOTT DOUBLE QUINTET UNDER THE DIRECTION OF JOHN MAYER名義による 『 INDO-JAZZ SUITE 』 と、JOE HARRIOTT-JOHN MAYER DOUBLE QUINTET名義による 『 INDO-JAZZ FUSIONS 』 をカップリングしたのが本作。

 ハリオットは 『 〜 SUITE 』 ('65年)の時点で既にヨーロッパでは冒険的なミュージシャンとして有名で、一方メイヤーも、 『 〜 SUITE 』 以前からインド音楽と西洋音楽との融合的作品をいくつか作り、ヨーロッパの様々なオーケストラやソロイスト達と演奏をしてきたのだが、ジャズとの融合を図ったのは 『 〜 SUITE 』 が初めて。

 普段なら 2 in 1 CDはどちらか一枚しか紹介しないのだが、今回は収録曲数が少ないので、まとめて紹介しようと思う。


 …とその前に、インド音楽を聴くに当たって、そして当レヴューを読むに当たって「知っておいた方がいいかな?」と思えることをいくつか。

 インド音楽にはハーモニーという概念がなく、メロディーとリズムで構成されている。インドではある特定の流れ方をするメロディーの短い単位のことを“RAGA(ラーガ)”と呼び、ある特定の区切り方をするリズムの単位を“TAAL(もしくは“TALA”とも表記。タールもしくはターラ)”と呼ぶ。ラーガ、ターラ共にその種類は膨大な数に及び、それぞれ様々な条件の下で細かい制約(演奏する季節や時間なども決められている)を受けながらも、それらの組み合わせを基に楽曲を構成・発展させていく。

 そのターラの1拍目を“SAM(サム)”と呼び、一つのターラを終えると再びサムに戻りそのターラを繰り返すのだが、中にはあえてターラの単位を伴奏のターラとはずらし、数学的計算(最小公倍数)に基づいて次のサムでピッタリと合流するという演奏をする者もいるという。アフリカの音楽などで聴かれる“ポリ・リズム”と同じ概念だ。

 そしてコードが無い分、シタールからフレットを取り除いたような楽器〜タンブーラによってその曲の基調となる継続的な低音、つまり“通奏低音(ドローン)”が奏でられ、西洋音楽的に言えば“ワン・コード”上で演奏を展開していく。

 その他、インド音楽には様々な決まり事があるのだが、そこら辺のところは他の詳しい本やウェブサイトにお任せして、ここではこのくらいにしておきたい。

 くどいようだが最後にもう一つ。国内盤のライナーがあまりにユルいので英文ライナーも読んでみたのだが、他の情報と突き合せながら聴き進めていくと、どうも当時の情報不足や執筆者の勘違いもあってか、明らかに間違っていると思しき点もあるので、ここではその中でも確からしい部分のみ掬い上げて紹介していきたいと思う。なお、ここで参考にしたライナーは、『 〜 SUITE 』 はCHARLES FOX氏によって、『 〜 FUSIONS 』 はMAX HARRISON氏によって書かれたものである。文章がくどくなるのを避けるため(もうこの時点で充分くどいが…)、ライナーを参考にした部分は、基本的に文末を「〜という」「〜そうだ」で終らせている。


 まずは、ここからの5曲が彼らの“インド三部作”の二枚目として'67年に発表された、『 〜 FUSIONS 』。順番は逆になるが、CDの曲順なのであしからず。CDプレイヤーのプログラム・モードで(6,7,8,9)と(1,2,3,4,5)の順に入れ替えて聴くのもありかも。それではどうぞ。


(1)PARTITA  ▲tracks
 レコードのA面を全て使った、約17分半の長尺ナンバー(1)。この曲はいくつかの楽章からなっており、そのリズム形態は(I)-10拍子、(II)-8拍子(4+4)、(III)-9拍子(4+3+2)、(IV)-8拍子(4+4)となっている。
 (I)は、タンブーラのドローンと胎動するようなウッド・ベースを土台に、晴れやかなフリューゲルホルン(と思われる)や優雅なヴァイオリン、そして穏やかなフルートが代わる代わる登場して、静かに夜が明けていくようなアンサンブルを聴かせる。
 シンシンとしたライド・シンバルを合図に始まる(II)は、コミカルなハープシコード&ピアノと、軽やかなフルート&アルト・サックスのユニゾン・フレイズが印象的。極彩色の華やかな衣装をまとい眉間に化粧を施した踊り子が、時にコキコキと関節をくねらせ、時にスイスイと流れるような手さばき足さばきでエキゾチックな踊りを披露しているようなシーンを思い起こさせる。これがまたなんとも微笑ましく、否が応でもリラックスしてしまう。
 ブレイク後のベースで始まる(III)は、出だしでは(II)の華やかさを保っているものの徐々に熱がこもり、'40〜'50年代ビ・バップ的(というかチャーリー・パーカー&ディジー・ガレスピー的)な速いフレーズを吹きまくるシーンも出てくる。
 タブラが突如「タトタタ・タトタタ」と連打して始まる(IV)は、華麗かつ激しいヴァイオリン・ソロの後、淡々とした4ビート系のリズム(時折激しいドラム・ロールが入るが)に乗せて、管楽器類がビ・バップ的なリズム感覚で攻めてくる。それに対して、シタールも負けじと速いパッセージを披露したり、また、管楽器類がメチャメチャに入り乱れて混沌とした場面を展開して見せたりする。
 エンディングが2回目のシタール・ソロの途中のままフェイド・アウトしたところから察するに、おそらくこのセッションは17分半という枠を軽く越えて延々と続けられたのではないかと思われる。


(2)MULTANI  ▲tracks
 『 〜 FUSIONS 』 の中にあっては“妖しげなムード”色の濃い(2)。演奏時間は比較的長く、約11分半もある。
 ポクポクしたパーカッションとタンブーラのドローンに乗せて、ヴァイオリンがソロを展開する導入部は、厳粛な雰囲気を湛えたインド王子の一行が、馬に揺られながら森の中を進んでいくような光景を想像させる。ここでのシタールとヴァイオリンは「MULTANI」というラーガを基に演奏しているそうだ。
 その導入部が2分半程で途切れると、そこからは12拍子(「EK」というターラだそうだ)になり、シタールが「MULTANI」(と思われる)をなぞるようなフレイズを奏で、それをバックに管楽器類によるソロやアンサンブル、ピアノによるミステリアスなソロなどが繰り広げられる。しかし、他の楽器の演奏の中にも、シタールが奏でるラーガのフレイズが見え隠れしているような気がする。


(3)GANA  ▲tracks
 素朴で軽やかな、2分程の小品(3)。この曲は「2+3+2+3」に分割された10拍子の「JHAP」というターラと、「YAMANI」というラーガに基づいて構成されているそうだ。
 ピアノの低音とウッド・ベースのユニゾンのシンプルな上昇音のリフレインの中、フルートとハープシコードによる気品漂うユニゾン・フレイズ、サックスとトランペットによるヒラヒラと舞うようなアンサンブルなどが展開される。


(4)ACKA RAGA  ▲tracks
 小象が歩いているような、ユーモラスでトボケた雰囲気を持つ3分弱の小品(4)。ウッド・ベースとピアノが小象の足取りを、そしてシタールがその小象のキョロキョロとした動作を表現しているかのようで面白い。途中からリズム・チェンジしてフルート・ソロが入る。この曲ではハリオットとシェイク・キーン(トランペット&フリューゲルホルン・プレイヤー)は不参加。ここではラーガやターラは使われていないそうだ。


(5)SUBJECT  ▲tracks
 とにかく奇妙な(5)。導入部は、管楽器勢とインド楽器勢がコール・アンド・レスポンスして、「インドでオリンピックが開催されたらこんなファンファーレが流れるのかなぁ」という感じの“オリエンタル・ファンファーレ”とでも形容したくなるようなものとなっている。
 その導入部が終ると(2)にも似たミステリアスなムードへ変貌。ここでのシタールのフレイズは「VILASAKHANI」というラーガに基づいているそうだ。リズムは24拍子(僕が聴いた限りでは「6+6+7+5」に分割されているように聴こえる)。
 これが一段落すると、さっきまでの展開がまるで嘘のように、急に4ビートのジャズになり、ピアノ→トランペット→サックス(これが結構アグレッシヴ)とソロを回すのだが、これもやがてフェイド・アウト。そのまま曲は終ってしまう。


 話はちょっとそれるが、ジミー・ペイジやリッチー・ブラックモアの師匠とも言える人物でもあり、また、ザ・フーやストーンズ、キンクスなどの録音にも参加したセッション・ギタリストでもあるビッグ・ジム・サリヴァンが、この 『 〜 FUSIONS 』 に参加できなかったことを悔いていたという。しかし彼は、『 〜 FUSIONS 』 が発表された翌年、シタールをフィーチャーした自身の作品 『 SITAR BEAT 』 を発表する。こちらはインド音楽色濃いものや、“'60年代ロックのインド版”的なものを収録した、ナイスなアルバムに仕上がっている。


 ここからの4曲が彼らの“インド三部作”の一枚目として'66年に発表された、『 〜 SUITE 』。


(6)OVERTURE  ▲tracks
 「2+3+2+3」に分割される10拍子「JHAP」のターラに基づいたという(6)。このターラ、僕には「3+2+3+2」に感じられるのだが、 ライナーではシタールとタブラは「2+3+3+2」で演奏し、ベースとドラムは「3+2」の5拍子を続けると言っている。
 雰囲気としては「OVERTURE」というタイトルに相応しく、シタールとインディアン・パーカッションによって、静かに夜が明け始めるかのようにスタートする。次第にウッド・ベースやハープシコード、更にフルートやアルト・サックス、ミューテッド・トランペットも加わり、神秘的な色合いを帯びてくる。
 それが終るとパーカッション類は依然そのままながらもシタールは陰を潜め、リズムはヒタヒタと忍び寄るようなスウィング・ビートに代わり、サックス→トランペット→フルートとソロを回す管楽器類はブルージーな展開を聴かせるようになる。
 その“ブルージーさ”が只者ではなく、エグくない程度に“エキゾ風味”が加味されているようないないような、国籍がハッキリしない“妖しげなムード”を醸し出している。この曲ではジャズ・プレイヤーは特定のラーガに基づかずに演奏しているという。
 終盤、俄かにシタールが鳴り出し、イントロを再びなぞるかのようにして終る。


(7)CONTRASTS  ▲tracks
 出だしこそ少々ユーモラスな感触があるものの、全体的にはダークなムードで統一された(7)。そのユーモラスな出だしで始まる導入部は、フルート、アルト・サックス、トランペットのために編曲されたもので、リズムは16拍子を均等に「4+4+4+4」に分割した「TEEN」というターラに基づいているそうだ。
 ブリッジのハープシコードから6拍子になり、ここでは「KIRWANI」という6音のラーガに基づいて演奏が展開されているという。しかし、ベースは「5+3+5+3」に分割された(僕にはそのように聴こえる)16拍子を刻み続け、各楽器はそのリズムの中でソロを展開していく。その演奏の中でも、とりわけピアノ・ソロの荘重さと、トランペットの気高さ、サックス・ソロの悲痛な響きが印象に残る。何となくインドの王様の葬儀にでも使われそうな雰囲気だ。


(8)RAGA MEGHA  ▲tracks
 ヒタヒタと地面に伏して忍び寄るヘビような曲調の(8)。この曲は、4つの部で構成された「ALAP」という導入部から始まる、とてもポピュラーなラーガ〜「MEGHA」を基に展開しているという。
 その4つの部とは、(I)フルートがこのラーガの基本的な音を奏でる「STHAYEE」、(II)フリューゲルホルンが短い旋律を発展させていく「AROHANA」、(III)アルト・サックスの後をフルートが(I)の再現で追いかける「SANCHARI」、(IV)ハープシコードによる「ABHOG」、の4つなのだそうだ。この「ABHOG」でのハープシコードとピアノのユニゾンがコキコキとしていて印象的。この「ALAP」までは「4+4+4+4」に分割された16拍子で展開される。
 次の展開はシタールが先導する形で始まり、リズムは「6+6+6」に分割された18拍子となる。ここでの、“チャーリー・パーカー・プレイズ・アヴァンギャルド”なジョー・ハリオットのサックス・ソロが面白い。続くシタール・ソロには、ほんの一部に何となく津軽三味線的なフレイジングが見受けられる。


(9)RAGA GAUD-SARANGA  ▲tracks
 「爽やかなインドの朝」といった趣の曲(9)。この曲の基となっているのは「GAUD-SARANGA」というラーガだそうだ。打楽器の入らない前半部では、躍動的なシタール、小鳥のさえずりのようなフルート、凄まじい速さで攻めてくるヴァイオリンによるソロが展開される。ここでシタールとヴァイオリンが頑張るのは、楽曲の構成上、演奏者が可能な限り激しく速く弾きまくる「JHALA」なる部分だから。
 それが終ると、コミカルなリズムに乗ってはちきれんばかりにツヤやかなトランペットや奔放なサックスのソロも登場、爽やかさは保ちつつも一段と明るさを増す。ここでのリズムも(6)と同じ「JHAP」という10拍子のターラを用いているが、(6)とは違って「5+5」という感覚でプレイされている。
 最後はフルートとトランペットの爽やかなユニゾン・フレイズで幕。


 決まったメロディーやリズムに名前を付けたラーガやターラを組み合わせて曲を構成していくというインド音楽の概念は、著作権に縛られた現代のポピュラー音楽において、過去の音源から印象的なフレイズを持ってくる“サンプリング感覚”で曲を作っている者達にとっては、画期的な概念なのではないだろうか。なにせ引用元がハッキリしている上に盗作扱いにならないのだから。結局は、そのラーガ(メロディー)やターラ(リズム)をどのように組み合わせて曲を構成していくかという点にオリジナリティーがあると思うのだが。


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