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交響曲第5番ホ短調 作品64


概要

ドヴォルザーク風交響曲

 チャイコフスキーは,全般的に標題音楽を志向していた。当時のパトロンであったフォン・メック夫人にあてた手紙で全曲の内容を説明した交響曲第4番へ短調,バイロンの劇詩を音楽化した標題交響曲「マンフレッド」ロ短調,チャイコフスキー自身が標題の内容を謎とした交響曲第6番ロ短調「悲愴」など,この曲の前後に作曲された交響曲は軒並み標題音楽を志向している。しかし,この第5番ホ短調には明確な標題が用意されておらず,民族色の濃い物になっている。民族色の濃い交響曲を書いた作曲家としては,同時代のドヴォルザークを思い起こさせるが,この第5番はまさにドヴォルザーク的な,絶対音楽に近い交響曲なのである。
 そういえば,第5番の後には現在第7番として復元されている,変ホ長調の交響曲を作曲しようとしている。この曲にも標題がなく,またその次に作曲した「悲愴」の標題はあえて明かしていないなど,チャイコフスキーは「マンフレッド」で標題音楽の限界を知ったのではないかと思えるような作風の変化である。

 特定に標題を用意していないだけ,この曲は聞きやすくできている。短調であるが深刻な内容ではなく,またリズム感もあって美しい旋律や見事な構成が散見されるため,BGMとして聞いても気持ちの良い曲である。
 解説書などでは,冒頭の動機をベートーヴェンの物に倣って「運命の動機」と呼んでいることもあるようであるが,あえてそのような先入観を持つ必要はないように思える。

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