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交響曲第9番ホ短調「新世界より」作品95


概要

聴きどころ

ひとめぐり

第1楽章(LargoAllegro con brio,ホ短調)

 原則通り,序奏付きのソナタ形式による楽章だが,形式に対して若干の創意工夫も行っている。

 最初は低音による緩やかな序奏で,おずおずと始まる。遠吠えのようなホルンが印象的。
 やがて,弦楽器が低い動機を出す。それに遠吠えのようなホルンの音形を木管が再現してそれに絡み付く。まるで,新世界の夜明けの模様を見ているようである。次第に躍動的になり,勢いも増したところで主部に入る。

 弦のトレモロが修飾する中を,ホ短調の第一主題が颯爽と現れる。この主題は,ホルンが演奏する前半の動機 [♪] と,弦が演奏する後半の動機 [♪] に分かれている。前半は,上って下りるホ短調の分散和音 [♪] の1音を変更しただけのもので,至って簡単なものである。後半も,「ドーミミッシッ」という歯切れのよい動機 [♪] を3回繰り返すだけである。こういう単純な音形を主題にするのは,ブラームス譲りの手法であろう。
 もう一度全奏のホ短調で第一主題を確保したあと,ト短調に転調してフルートが経過部の動機 [♪] を演奏する。この提示部では,この経過部が比率的に非常に長く,しかも転調を伴っているため,この主題を第二主題だという人もいるが,この主題は提示部と再現部以外ではほとんど姿を見せないこと,冒頭の動機が第一主題の後半の動機から派生していることなどから,これを第二主題と呼ぶのはふさわしくないだろう。
 第二主題は,そのあとで現れるフルートで演奏される主題 [♪] で,型通りト長調で演奏される。この主題は,ドヴォルザークがアメリカ滞在中に触れた黒人霊歌の主題によっているといわれている。そのために一悶着があったようだが,旋律作家のドヴォルザークにしては,他から主題を持ってくることは珍しいことのようである。この主題は2回半繰り返されるのみで,ろくに確保されずにあわただしく提示部を閉めてしまう。この提示部は本来は繰り返されることになっているが,繰り返されないで演奏されることの方が多いようである。

 展開部は第二主題の展開から始まり,それに第一主題の後半の動機が絡み付く形になっている。提示部で省略されていた第二主題の確保をここでやっていると考えることもできる。やがてその中に第一主題の前半の動機が絡んで入ると,火がついたように力強くなり,階段を上り詰めるように,音程を上げながら盛り上がる。一番上まで届くと突然静かになり,第一主題の動機が寂しく響くが,すぐに活気を取り戻して,再現部に突入する。

 再現部は出だしは提示部とほぼ同じであるが,第一主題の確保は省略され,代わりに転調を行うようになっている。次の経過部主題が,提示部よりも半音下がった嬰へ短調(ホ短調の属調(ロ短調)の属調)で再現されるため,主調のホ短調からは遠隔調に転調するためである。
 経過部と第二主題部はほとんど形を変えていない。変わっても,音符の配置が少し換わっている程度である。そのため,第二主題は本来ならばホ長調かホ短調で再現されるところが,やはり提示部より半音下がった変ト長調で再現される。第二主題の確保が行われないのは提示部と同じであるが,再現部では最後に半音上げて,元の調であるホ短調に転調してからコーダに突入する。

 コーダは第二主題の前半を繰り返した後,第一主題を中心に展開し,第一主題の前半の動機を倍の速さで演奏して盛り上がる。そのため,楽章中でもっとも盛り上がる場所である。

第2楽章(Largo,変ニ長調)

 非常に有名な楽章。形式的にはふつうの3部形式である。変ニ長調という,主調のホ短調から見るときわめて遠い調性を使用しているのが興味深い。調号が少なく,透明感が漂うホ短調に比べて,調号の多い変ニ長調は,柔らかい湿った響きを持っているようである。

 短い序奏 [♪] (この主題が,方々で場面転換に使用されている訳であるが)のあと,有名な主題 [♪] をイングリッシュホルンが奏でる。まさに,旋律作家ドヴォルザークを象徴するような優れた主題で,後で弟子によって「家路」という歌曲にまとめられたごとく,懐かしい故郷への思いを馳せた様子がよく伝わってきそうな主題である。

 中間部は短調になり,いっそう寂しげな旋律が響く。再現部には,弦楽器にソロも登場し,遠くの故郷に寄せる思いがいっそう募るようだ。中間部の最後に第1楽章第一主題の回想がある。

第3楽章(Molto vivace,ホ短調)

 スケルツォとあるが,比較的転調が少なく舞踊的な主題も多いため,スケルツォというよりは,むしろダンス音楽の雰囲気を持っている。特に3拍子の2小節を一括して扱う手法は,チェコの舞踊音楽によく見られる手法である。Molto vivaceという速度標語が用いられているが,これはベートーヴェン交響曲第9番第2楽章で用いたものと同じである。ということは,相当な速さの曲ということになる。形式としては複合三部形式になるが,スケルツォ部,トリオ部共にさらに三部形式を構成していて,複雑な構造になっている。

 導入部の入り方もベートーヴェン交響曲第9番第2楽章に似ているところがあり,ドヴォルザークもこれを意識したのかもしれない。しかし,スケルツォに入ると全く別物である。低弦がリズムを刻む中,木管とヴァイオリンで主題が現れる。 [♪] 主題はホ短調であるが,決して暗いものではなく,むしろ明るく楽しいものである。このあたりの作風は,出世作となった「スラヴ舞曲」が想起される。主題はたったの4小節で,それがほとんど形を変えずに何度も何度も繰り返されるが,オーケストレーションが見事なので飽きない。
 スケルツォの中間部はホ長調で,特徴あるバス主題の上に,ボヘミア風というべきか,田園風の主題が流れる。 [♪] ヨナ抜き音階に近い旋律なので,日本人にはなじみやすいであろう。まもなくスケルツォの最初の主題に戻るが,これは短く,すぐにトリオに移行する。トリオに移行するために,第1楽章第一主題の前半の動機を利用している。

 トリオはハ長調になり,これまでとは一転して西欧風の主題になる。 [♪] それをトライアングルとティンパニが装飾するのが対照的である。

 曲はダカーポで最初に戻り,スケルツォが復帰する。最後に第1楽章第一主題の前半の動機と第二主題の動機を利用して曲を閉じる。

第4楽章(Allegro con fuoco,ホ短調)

 序奏付きのソナタ形式。人気のある楽章であるが,第1楽章よりもむしろ保守的な構造である。短調でありながら,非常に明るい肯定的な曲である。第1楽章から第3楽章までの主題が次々と姿を見せるのも面白い。

 「ジョーズ」のテーマを思わせる序奏で盛り上がった後,有名な第一主題 [♪] がホルンで現れる。これが何度か繰り返して展開された後,リズムは3連符に変わり,経過部主題を出す(この経過部主題も,後の展開で重要な意味を持つ)。
 第二主題 [♪] はクラリネットで演奏される,ト長調の緩やかで短い主題である。これがしばらく確保された後,小結尾の主題が現れる。小結尾の主題には二つがあり,第一主題・第二主題の系統を引くものと,最後に出てくる民族的なものとがある。

 展開部に入ると,まず第3楽章のトリオにおける中間部の主題の一部の動機が現れ,それにホルンで第一主題の最初の動機が絡み付く。それを繰り返した後,3連符による経過部主題と,第一主題の対話に変わる。
 やがて,第2楽章の主題の動機と第一主題が結びついた旋律が現れ,さらにその裏で第3楽章のスケルツォの主題も現れる。それが何度か繰り返されるうちに短調に転じる。短調になるとまもなく,小結尾の2番目の主題を経由して第一主題が現れ,それがホ短調に転調して再現部に突入する。

 展開部と再現部との境は曖昧にされている。展開部で広く活躍した第一主題の再現はかなり短くなるが,ホ長調で再現される第二主題は,提示部の場合とほとんど同様に再現される。しかし,経過部主題も,小結尾の2番目の主題もほとんど顔を見せない。1番目の主題が少し形を変えて現れる程度である。この際に,第1楽章第一主題の変形と見られる音形が低音を伴奏する。

 コーダに入ると,突如第1楽章の第一主題が現れて急速に盛り上がり,それに導かれて第4楽章の第一主題が堂々と現れる。そのうち第2楽章の序奏が現れ,いったん静かになってから賑やかになって曲を締めくくる。最後は,フェルマータであるがデクレシェンドがついており,音量を落としながら曲を閉める。

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