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Tokyo, 2003.7.16
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation by Stanley George Bodman
translation by Shizu Kawata


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すでにかなり長い歴史を持つジェイド・トゥリーだが、実際、90年代のオルタナティヴ・ムーヴメントの時には、それほど目立って人々の口の端に登る存在ではなかった。しかし、現在では多くの名盤をカタログに揃え、注目のアーティストを何組も抱えた重要レーベルとしてその名を知られている。前述のムーヴメント以降、インディー・シーン全体をとりまく激しい周辺事情の中、ここまで堅実に会社を育ててきたオーナー2人の手腕は大いに評価すべきだろう。以下のインタビューでも語られている通り、このレーベルの特色は2つある。ひとつは、他の多くのインディー・レーベルがカラーとして掲げてきた「音楽性」あるいは「地域性」を特に限定しない考え方。もうひとつは、商業主義からきちんと一線を引きながらも、ビジネスに関しては拡大していく方向性を恐れない姿勢を持っていることだ。芸術と商売のバランスをいかに保つか?というのは、あらゆるインディー・レーベルにとって命題となるテーマだが、今のところジェイド・トゥリーは非常に良い形でバランスがとれた運営を続けてきていると言っていいと思う。自らのアイデンティティに関わる2大要素について思い切ってフレキシブルな構えをとった、このスマートなスタイルが今後どこまで音楽業界で意義を発揮していってくれるのか注目したい。

「たとえ他のレーベルに比べて収入が低かったとしても、バンドが良い状態でいられることをいつも優先的に心掛けている」(Darren)
「その時々で常に存在価値を持つレーベルでいたかったから、少しずつ成長していることが自分自身で実感できるような前進を遂げたかった」(Tim)

まず、あなた方のレーベルとしてのポリシーはどんなものですか?

Tim:音楽の好みとかフィーリングが合うバンドと仕事することだね。抱いている理想や信念はもちろん、音楽的なバックグラウンドで共通項があるっていう。例えばパンク・ロックを聴いて育った、とかさ。だからといってレーベルとしては、同じような音の作品ばかりリリースしたくはない。その点、俺とダレンは一つのジャンルに固執することなく、様々な音楽をリリースしてこれたと自負してるよ。2人とも色んな種類の音楽を聴くから、特定のジャンルにばかりターゲットを絞ることがなかったんだ。で、こういった姿勢はパンク・ロックの精神から培われたものなのかもしれないとも思ってるよ。とにかく俺たちと組みたいっていうならどんなバンドとでも一緒に仕事がしてみたいと思うんだ。売れそうだから契約するんじゃなくて、自分たちが好きな音楽を演ってるバンドと契約したいんだよ。レーベルを立ち上げた時からずっとそうしてきた。もちろん、売れれば売れたで最高だけどね。それで少しでもバンドが潤えばいい。

Darren:ポリシーらしいポリシーを持たないのがポリシー、とでもいうかな(笑)。ティムも言ったように、僕たちが気に入っていて、お互いに良い関係を築いていけそうなバンドだったらジャンルは問わない。それから、ビジネス上のポリシーは、レーベルの発展のため、そしてインディーズだからという妥協は抜きにバンドがやりたいことをやれる状況を作るために、僕たちに何が出来るかってことだと思う。レーベルとしてはインディペンデント以上、メジャー未満っていう感じでやっていきたいんだ。それと同時に、バンドにとって筋の通ったことをしていきたい。これまで何年もの間この仕事をしてきてわかったのは、他のレーベルは無駄が多すぎるってこと。些細であっても、バンドを育てるために出来ることは他にいくらでもあるんだよ。それから、うちのレーベルが自信を持って言えるリリース・ポリシーは、セールスの純利益をバンドとレーベル間で折半することだろうね。つまりバンドには純利益の50%が入る。バンドとレーベルは実質上もパートナーってことなんだ。だからお互いを助け合うため、自分の役割を果たそうとするんだよ。

バンドと契約する際、基準となるのはどんなことですか?

Tim:契約書で具体的に提示されるのはレコードの枚数だけ。ほとんどの場合3枚リリースするってことになっている。というのも、契約した全バンドと信頼関係を築きたいからなんだ。現実的だし理に適ってると思うよ。メジャーなんて10枚近く契約することもあるけど、俺たちは3枚で十分だと思った。真剣に音楽を演ろうとしてるバンドなら3枚なんてすぐだろうしね。うちのレーベルでは、大半のバンドが年に1枚のペースでアルバムをリリースしてるから約3年間の契約ってことになる。8〜9枚なんて並大抵の話じゃないよ。で、契約書で明記してるのは枚数のみで、あとは理想や信念を言葉で伝えるんだ。ピンとくるバンドを見つけたら何度もライヴを観に行って、直接話すように心がけてる。彼らがどんな人間でどんな考えを持っているのかを知るのは大切なことだからね。勘が当たることもあれば外れることもあるけど、とにかく「このバンドとは上手くやっていけるぞ」っていう直感が働くんだ。そういう直感は大抵当たるね。そう思ったらバンドとじっくり話をして交流を深めていくんだ。単に言い寄るんじゃなくてさ。そして彼らが目標をしっかり持っていて、お互い仕事をやっていけるとなったところで契約するんだよ。バンドには既にその時点でこちら側の意向をしっかり口頭で伝えてあるから、特に契約書で明記する必要はないんだ。それが俺たちの契約方針だね。契約後はそのバンドが何を望んでいるのか、例えばどんなツアーをしたいか、どんなプロデューサーを立てたいか、どんな雑誌に載りたいかを訊いて、そのためにアポを取る。いたって単純だよ。もちろん書類はファイリングしておくけど、内容を確かめたいって話はこれまでほとんどない。もし俺たちの仕事に満足できなければ、いつでも契約書を引っ張りだして確認することも可能だ。でもそういったケースはほとんどないね。何か問題があったらその度に話し合うようにしてる。

レーベルとしてはとても順調なように見えますが、実際のところどうですか?

Darren:最高だよ。新譜リリースや新しいバンドがたくさん控えてる。僕たちは「ホール・ニュー・ブラッド」つまり、新しい血(血統)って呼んでるんだけど、こういった状況はレーベル創設以来初めてのことなんだ。今までいなかったタイプで、しかも将来性のある新人バンドがたくさんいて、それぞれ個性が全く被っていないんだよ。それにレーベルにとっても新しい命の誕生はエキサイティングだし、これ以上望むことはない。今まで一緒にやってきたバンド、これから一緒にやっていけそうな新しいバンド、そして2枚目のレコード・リリースを控えたバンド、いろんなバンドがいて、レーベルとしてはまさに旬の時期なんだ。

確かに最近のJade Treeはまさに新譜ラッシュといった感じですけども、2人で切り盛りするのは大変じゃないですか?

Tim:確かに忙しいけど、十分にこなせる範囲のものだよ。驚いたことに、うちのレーベルと取り引きしてる多数のブッキング・エージェントによると、タッチ・アンド・ゴーやサブ・ポップ、そしてエピタフといったレーベルは、もちろんスタッフ数も多いだろうしお金にも余裕があるはずなんだけど、俺たちのほうがまとまっていて手際が良いっていうんだ。バンドのブッキングに関してだけじゃなくて、ポスターやフライヤーをクラブに発送することなんかひとつとっても、大きなレーベルより仕事が早いんだって。というのも、そういうことって俺たちには基本だからさ、いたってシンプルかつ簡単なことなんだよ。たぶん他のレーベルでは時間がかかったり、手際が悪かったりするんだろうね。だから実は、うちのレーベルの強みって、まさに少数精鋭ってところだと思うんだ。ルートや関わっている人が少ないっていうことが却っていいんだよ。

Darren:物事を見落とす機会も少ないってことかな。

Tim:俺たち自身で実務をこなしてるからね。ダレンと俺は毎日オフィスに通っているし、プロモーションや広告なんかについても自分たちで動いてるんだ。ダレンは経理や法務関連を担当していて、2人とも未だにちゃんと日々の業務に携わってる。経営者だからといって、椅子に踏ん反り返ってたり海外出張ばかりしてるわけじゃなくって、営業電話の対応に追われたりしているんだよね。そうやって毎日オフィスで働いてるから、今回みたいにたまに本国を脱出できる機会は上手に使うようにしているよ。まあ、この規模だからっていうか……俺たちにはこっちの方がやり易いんだ。確かに多忙にはなっても、レコード制作の立案やスケジューリング等をいつも複数同時進行で進めていく形をとってきた。それを何年もやってきたわけだから、すっかり日常になっちゃったよ。今では何をどうすればいいのか把握しきっているし、そのことが取引をしている配給元の業務スケジュールとも関わってくる。時間や日付や〆切りといったスケジュールがある場合にも、うちの業務がうまくまとまるようになったんだ。スケジュール通りにレコードをリリースするにはレーベルがしっかりと体系を整えておく必要があって、そこに関しても良い影響があるんだよ。だから出来る限り自分たち自身でこなすようにしているし、ほとんどの場合それで上手くいくんだ。

なるほど。では、レーベルを立ち上げるにあたって、特にお手本としたところはありましたか? 例えばディスコードとかはどうでしょう。

Darren:ディスコードに影響を受けたのは間違いないね。でも特別にこれを手本にした、っていうレーベルはなかったと思う。

Tim:むしろ、どんなレーベルのようにもなりたくなかったんだ。ほとんどのレーベルって、ジャンルとかローカル色で線引きされてしまうだろ。そこで俺たちはディスコードやサブ・ポップ、タッチ・アンド・ゴーといった大好きなレーベルの持ち味を継承しながら、さらにその一線を取っ払っちまおうって考えたのさ。パンクだろうがインディー・ロックだろうがエレクトロニカだろうが、一つのジャンルにこだわらず、自分たちが好きならどんな音楽もリリースしたいと思ったんだ。実際そんなレーベルはそれまで一つもなかったし、インディーズの中ではメジャーよりな考え方なのかもしれないね。でも当時の俺たちには論理的に思えたんだ。というのも、自分が好きだったレーベルはどれもジャンルや地域と密接な関わりを持っていたけど、そのジャンルが時代遅れになるとレーベルも一緒に奈落行きだったから。つまりそういう状況を回避するためには、どんなシーンにも所属しない方が逆に賢明で、実際レーベルの成長にも繋がると思ったんだ。最初の数年間はなかなかイメージが定着しなくて、知名度が上がるまでは苦労もしたよ。でもそのおかげで今では、豊富なジャンルで知られるレーベルになったと自負してる。かつてのライバル・レーベルはグランジを中心にやってたけれど、その後グランジ人気も廃れてしまったからね。それでもレーベルとしては、昔ながらのパンク・レーベルを手本にしてることは確かだ。やっぱりディスコードやタッチ・アンド・ゴーの影響は大きいよ。

Darren:そういった先達から最も強く受けた影響は、レーベルとしての倫理や道徳心だろうね。親しい仲間と仕事をしながら、ビジネスの関係も均衡に保っていくっていう。あくまで正直に、そしてフェアであるように、お互い意見を言い合える。そのうえでレーベルだけじゃなく、バンドにもしっかり収入が入るようにしたかったんだ。

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