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(笑)。だけど最終的にはメジャーと契約しましたよね。そこではどういう体験をしましたか? John:まあ『スクリーム・ドラキュラ・スクリーム』を作るのはすごく楽しかったけど、非常にストレスの溜まる作業でもあったんだ。真剣にバンドに取り組んじゃって、必要以上に頑固になっちゃってたんだよね。なにしろ昔からバンドに対して誇大妄想を抱いてたんでさ。それは金銭的な成功についてじゃなくて、とにかく色んな音楽的な冒険を試したかったっていう。それで、あのアルバムを作る時は、いきなりフランク・シナトラが使用してたようなスタジオでレコーディングすることになって、莫大な予算を手にし、ストリングスを雇うことができ、グロッケンシュピールも使えて、あと外で自分の車の中でレコーディングすることとかも可能になって、とにかくやりたいことは何でもできる状態だったんだ。だから、とんでもない体験だったんだよね。そういうアルバムなんだよ、あれは。何でも過剰にやれたっていう。それこそが狙いだったんだ。 確かにメジャーでは、金銭面に関して余裕を持てますよね。 John:そう、カーゴと契約していた頃は、ツアーとかしたくても全然サポートしてもらえなかったんだよね。あと、『Circa: Now』はブッチ・ヴィグにプロデュースして欲しくてさ。まだニルヴァーナを手掛ける前だったんで、それほど有名じゃなかったんだけど、ブッチが手掛けたドゥワーヴズのアルバムが大好きで……あ、違う。ドゥワーヴズを手掛けたのはブライアン……それも違う。あの人の名前は確か、えっと、ダグ・オルソンだ。そう、ダグ・オルソンがドゥワーヴズを手掛けて、ブッチ・ヴィグはDie kreuzenのプロデューサーだったんだよね。ともかく、どっちも同じスタジオでレコーディングされていて、そのサウンドがすごく好きだったんだ。だから、そのスタジオに連絡して『例えば5日間ぐらいレコーディングに使うとしたらいくらするか?」って訊いて、予算を立ててみたんだよ。そしたら全部で7,000ドルになるってことがわかって、カーゴに予算交渉に行ったんだけど、答は一言「ノー」だった。3枚アルバムを作るという契約を交わしてたのに、そこでは費用のことに全く触れてなかったんだ。1枚目を作るのに1,500ドルしか使わなかったから、それを最大限に訴えたのにさ。だから、もしかして若くて世間知らずだったからかもしれないけど、その時「あれ? 俺たちはこれに全身全霊を尽くしてるんだぜ。別にお小遣いくれって言ってるんじゃない、その金で最高のアルバムを作るんだ」って、レーベルが俺たちの意気込みを理解してくれてないように思えて、ハッキリと「ノー」と言われた時にそれを本格的に感じるようになったんだ。ツアーとかもサポートしてくれてなかったし。たいした金額を要請してたわけじゃないんだよ。だけどレンタカー代さえも出してくれないという状態で。その頃には、インタースコープだけじゃなくて、あらゆるメジャー・レーベルから声がかかっていたんで、そっちと契約することにしたんだ。今でもその決意はカーゴと関係を続けるよりマシだったと信じているよ。雑用係の仕事も辞めることができて、バンドに専念することもできたし。結局、どんなバンドもそれが理想なんだよ。仕事を辞めて、バンドと音楽に専念することがね。それが叶うということで、メジャーと契約することにしたんだ。 『スクリーム・ドラキュラ・スクリーム』から、メジャー・レーベルの良し悪しを色々と経験したと思いますが、これは次のアルバム『RFTC』を作るのに影響しましたか? John:うん。とにかく『スクリーム・ドラキュラ・スクリーム』の時は引っ切りなしにツアーしてたからね。リリースの前後、3年間ぐらいはずっとツアーしてたんだ。3年間のうち、家にいたのはほんの4ヵ月だけっていう。だから、その間はRFTCの“宣教活動”に必死に取り組んでる感じだった。まさにRFTCの教義を世界に伝播している感じでさ。それで『RFTC』の曲はほとんどそのツアー中に書いたもんばっかりなんだ。だから、『RFTC』はわりと根本的な所からパーティ・ヴァイヴを発しているようなアルバムで前作とはまた違う雰囲気になったんだよね。『スクリーム・ドラキュラ・スクリーム』はどちらかと言うと作り込まれていて、意欲的なアルバムだったのに対して、『RFTC』はありのままっていうか、粗削りな作品だったんだ。で、それまでのアルバムは全て自分でプロデュースしてきたんだけど、このアルバムは他の人が手掛けたほうがより良い結果が期待できるんじゃないかと思ってね。プロデューサーを探すのは思ったより大変な作業だったけど、やっとの思いでケヴィン・シャーリーに出会えたんだよ。実は彼のことを知ったのはエアロスミスの曲を聴いてなんだ。確か1997年頃に出たアルバムにホーンをふんだんに使ったトラックがあって、そのサウンドがすごくロックに思えたんだよね。エアロスミスでさえあんなにアグレッシヴでエネルギッシュなサウンドにできるんだったら、俺たちのサウンドは更に凄いものになるだろうって画策したわけ。結果的に素晴らしい体験になったよ。学ぶことも多かったし。ケヴィン・シャーリーが大物プロデューサーとして、稼ぎまくってるのにはわけがあるんだよ。ケヴィンは自分に自信があるだけじゃなくて、とにかくみんなが楽しんでることを何よりも心掛けてくれるんだ。そして、その姿勢は作業中、終始忠実でいてくれたんだよ。何か上手くいかなくてメンバーの雰囲気が悪化すると、すぐに一旦中止して、全員仕事場から帰らせて、みんなを飲みに誘ったりして、その場を和ませてくれたりもした。なんていうか、彼が理想と思うヴァイヴに空気が落ち着くまで作業を始めなかったんだよ。そこにすごく固執していて、絶対に嫌な雰囲気でレコーディングすることを許さなかったんだ。だから、ケヴィンとの仕事は俺たちにとっても本当に有意義な体験だったよ。ただ、残念なことにインタースコープはケヴィンが俺たちの音楽に適したプロデューサーだと思ってくれなかった。だから、ケヴィンと仕事するにはレーベルと戦わなきゃいけなかったんだよ。結局はあっちも「そんなに自信があるなら起用したらいいじゃん」って同意してくれたんだけど、出来上がった作品を聴いて「これはとても傑作とは呼べないだろ。だから他の人と仕事したらいいって言ったのに」って感じで、あんまりサポートしてくれなくなったんだよね。だからメジャー・レーベルの良し悪しの話だけど、悪いのはチャンスが1回しかないってことなんだよ。窓が開いてるうちに上手く滑り込まなければ、それでおしまい。もうチャンスは2度とないんだ。それから、インタスコープみたいに大きな会社になると、なおさら大変なんだよね。いちいち全員に説明して回らなきゃいけないからさ。まるで政府機関かなんかで働いてるかのようで、なかなか物事が進まないんだよ。 “テレフォーン”っていう、みんなで円になって隣の人にある言葉を伝言していくゲームがあるよね? その言葉がまた自分の所に回ってきた頃にはまったく違う言葉になっているってことを楽しむやつ。メジャー・レーベルにいるとまさにそのゲームをやってるみたいなんだ。トップに届いた頃には自分の意志とは全く反することになっているって感じでさ。俺たちはただ音楽をやりたいだけなのに、そういうことにいちいちエネルギーを消耗するのに嫌気が差したんだ。だから最終的に「ファック・ユー。音楽を作ることは俺たちが考えるから、おまえたちは売ることだけに専念してくれ!」って感じになってね。俺たちは分厚い契約をインタスコープと結んでいたんだぜ。最高峰の弁護士を雇って、レーベルが俺たちの作る音楽に口だしをしないという約束をしたはずなのに、結局、契約なんか捨てちゃってもいいぐらい無意味なもんなんだよな。それでレコード会社の言いなりになるしかないんだ、あっちの方が権力あるんだから。もし自分の作品をメジャーからリリースしたいなら、結局は相手に従うしかないんだよ。だけど、俺みたいに頑固なやつだと、何でも面倒になるわけだよ。例えば「○○っていうバンドとツアーしろ」って言われても、「はい、そうします」ってわけにはいかないんだ、このバンドの場合は。こっちは「理解してくれよ。××なんかと一緒にやってもこのバンドにとってはあまり意味がないんだ」って言ってるのに、「でも人気バンドだから、大勢の人たちが君らの存在を知ることになる」って感じでさ。こっちはひたすら「まあ確かに大勢の馬鹿野郎たちはいるだろうけど」って嘆くしかないっていう(笑)。 (笑)。 John:最初の頃は、あっちの方が経験も積んでるわけだし、もしかしたら正しいかもしれないからって、おとなしく言うことを聞いてたんだけど、やっぱりそんなことしている意味はなくて。全くわかってないんだよね、あいつらは。ただ金をばら撒いてるだけだ。そんなわけで関係は悪化するばかりさ。『RFTC』が出て2週間して悟ったね、レーベルが何もやる気がないってことを。だから、インタスコープに拘ってる理由は何もなかったんで、こっちから決別しようとしたんだ。そしたら驚くことにあっちがそれを拒否してさ。こっちとしては「明らかに俺たちのことを面倒がってるのに、何で辞めさせてくれないんだよ」って感じなのに。そしたら、レーベルは「とりあえず新曲を聴かせてくれ」って言ってきたんだ。でもさ、契約にはそうやって完成する前の音源にレーベルが干渉する権利はないはずなんだよ。だけど、そうやって言ってきて、こっちとしては縁を切ろうとハッキリと言ってるのに、なかなか手放してくれなくてさ。それで新しいマネージャーを雇って契約のいざこざを解決し、レーベルと決別できるように莫大な弁護費用を費やすことになったんだ。で、おかしなことに、そんな騒ぎの真っ最中に「インタースコープが契約したがってるんだけど……」って相談してくる仲間のバンドがいてさ(笑)。スーパーサッカーズのことなんだけど、あいつらとはすごく仲がいいんで、「絶対やめとけ。俺たちは地獄を見てるんだから」って助言してやったよ。結局あいつらはインタースコープと契約することになったんだけど、おかしなことに、あいつらが契約して、レコーディングを済ませて、契約を一方的に切られるという過程を、俺たちもレーベルともめながら全部目撃することができたんだよ。それだけ時間がかかったんだ。もう、まさにリンボって感じで、まったく身動きの取れないまま8年間を過ごすことになったんだ。おかげでバンドも解散しそうになったんだよね。 8年間? John:ごめん、8ヵ月だった、へへへ。だけどまるで8年間ぐらいに思えたよ。その間はまったく何もできない状態だったんだ。確かにライヴはやれたんだけど、バンドの将来が見えてない状態で何かに積極的に取り組むのは精神的にも簡単なことじゃないからね。 メジャーを離れた今、音楽業界の動向についてはどのように感じていますか? John:とにかく、そういうのに関わってないことに感謝しているよ。今はメジャーが何をしようと、俺たちには関係なくなってるからね。最近はラジオも、レーベルも、ライヴハウスも、すべて大企業に買収されているっていうか、フガジの“セヴン・コーポレーションズ”って曲が現実になったみたいだ(※実際には“ファイヴ・コーポレーションズ”)。知ってる、あの曲? まさに現状ってあの通りなんだよね。小さいレーベルもことごとく大手に吸い上げられてしまって、ラジオ局だって……。サンディエゴにはおよそ40ぐらいのラジオ局があるんだけど、そのうち30は同じ会社が運営してたりするっていう。まさに独占状態で、そこに自由競争ってものはないんだよね。じゃあ「俺たちはどうするか?」っていうと、結局は音楽に没頭するしかないんだよ。もちろん、状況を変えたいって気持ちはあるけどさ。メジャー・レーベルはちょっと怯えてるんだよね。なにしろダウンロードとかが頻繁になっちゃって、売り上げが伸びなくなって困ってるからさ。だから、これから音楽の流通が変わってくると思うけど、結局それを買収してコントロールするのは大手のレコード会社なんだよ。別に皮肉で言ってるわけじゃなくて、残念ながらそれが現実なんだ。結局、金を持ってるのは大企業なんだから。そして、流通をコントロールするものが、音楽業界をコントロールすることになるんだよね。なんか最近「ウェブサイトに曲をアップロードしたら、みんなに聴いてもらえるから最高だ!」って喜んでるバンドもいるみたいだけど、そんなことないんだって。そもそも、無名なバンドのホームページに訪問する人なんて滅多にいないんだからさ。結局はマーケティングが絡んできて、雑誌広告やテレビ出演とか、そういうのに頼らざるえないんだよね。そして、それは金がないとできないんだよな。でも、とにかくそういうのと関わらなくてよくなったのは嬉しいよ。今はもうそういうのに耐えるだけの忍耐力がないから、とても上手くいくとは思えないね。
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