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Tokyo, 2009. 3. 23
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation and translation by Tomoko Nagasawa
photo by Yuko Tonohira

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ノーミンズノーは、1979年にカナダでライト兄弟によって結成され、ずっとマイペースに活動を続けてきた超ベテラン。以下のインタビューを読んでもわかる通り、鋭いパンク・スピリッツを持つパンク・バンドだが、その音楽性はジャズやプログレを飲み込んだ極めてユニークなもの。昨今になって定着したマスロックの元祖と言ってもいいかもしれない。そんな彼らが誕生から30年目に奇跡の再来日を果たした際に、兄のロブとともにバンドを支えてきたドラムのジョンと、90年代の半ばから加入したギタリストのトムに話を聞かせてもらいました(※ロブは取材直前に逃亡……)。
『アメリカン・オルタナティヴ・ロック特選ガイド』では、カナダの章にインタビューをつけられなかったので、これをもってその補填とさせてください。

「最近は、YouTubeとかでバンドの若い頃の映像が手軽に見られるから、50歳になっても25歳の頃の自分と比較されてしまう。だから、若い頃の外見を何とかキープしようと必死になる人が増えてるね。ま、俺たちはそういうことはやってないけどな(笑)!」

リハーサル後の貴重な時間に、ありがとうございます。

Tom:いやー疲れた。なんか臭うよ。

John:汗でベタベタだよ。な?

Tom:ああ。シャワーを浴びたいところだね。日本には昨日着いたばかりなんだ。

John:ちょっと時差ぼけ気味かな。でも、それほどヒドいってわけじゃないし、気分はいいよ。

Tom:調子は良さそうだ。

最初に、久々の日本について印象を訊こうと思ったんですが、昨日来たばかりとなるとまだ答えられないですね。

John:ひとつ気づいたのは、12年前と比べると、街に英語の表記が増えたことだね。前に来た時は、ここまで英語のキャッチコピーやロゴはなかったと思う。東京に来る車の中で、最初におやっと思ったよ。でも、まだ着いて1日も経ってないからなあ(笑)。ただ、今回は東京以外の場所に行けるから、それも楽しみにしてる。大阪と、あと1日オフを取って京都に行くんだ。友達がいるんで、その人の家に泊まる予定にしていて。その時は日本らしさを味わえるんじゃないかな。ホテルに泊まっている限りどこに行っても同じなだけに、普通の人の家に行けるのはすごく楽しみだよ。

ちょうど桜の季節ですし、京都を訪れるにはもってこいですね。

Tom:そうそう。

John:それに、有名な寺もたくさんあるからね。天気がいいことを祈ってるよ。

では、今日はせっかくの機会なので色々とお話をおうかがいしたいと思います。まずは子供の頃どのような音楽環境に育ったのか、どういう音楽を聴いていたのかについて教えてください。

John:トムはどんなのを聴いていた?

Tom:昔の話だよね……15〜16歳の頃かな。僕は兄や姉がいて、ジミ・ヘンドリックスが最初に出てきた時リアルタイムで聴いていたんだ。僕も夢中になったよ。でも72〜73年くらいになると、当時流行っていたポップ・ミュージックが好きになれなくて。それで、昔のブルースなんかを聴きだしたんだ。古いブルースのレコードを発掘しては聴いていたな。やがてパンクが出てきて、それでまたロックンロールの世界に引き戻されたってわけ。ラモーンズはもちろん、デイブ・エドモンズとか、ブライアン・イーノもすごく好きだったよ。

John:僕も同じだな。兄のロブが8歳年上で、やっぱりトムと同じような感じで音楽を聴いてたんだ。ビートルズや60年代のポップ・ミュージック、もちろん、ハード・ロックの洗礼も受けたよ。それからブルース・ロック、ウェット・ウィリーとか……。

Tom:ウェット・ウィリー! マジ? あのサザン・ロック・バンド?

John:ああ(笑)。

Tom:驚いたなあ。

John:あとはほら、ライノから出てたブルース・ギタリストの……。

Tom:ジョニー・ウィンターだね。僕の兄も大ファンだった。

John:でも、僕は学校でドラムを習い始めて、ジャズ・バンドでプレイするのが楽しくなりだしてさ。その時はいわゆるビッグ・バンド的なものをやっていたんだけど。それと同時にパンクも聴き始めたんだ。70年代後半の話だよ。バンドをやってみよう、曲を自分でも作ってみようと思いだしたのはパンクとの出会いがきっかけだね。特にカナダ西海岸のパンク・ロックが大きかった。DOAや(※バンクーバーの)サブヒューマンズ、ポインテッド・スティックスに、あとはヤング・カナディアンズとかね。もちろん、アメリカのパンク・バンド、ブラック・フラッグとかミニットメンにも影響された。そういうバンドって、ストレートなパンク・ロックとは少し違っていたんだよね。当時から、パンクと呼ばれるバンドの音楽性はかなり幅広かったってこと。それから80年代に入るとポスト・パンクの波が来て、ギャング・オブ・フォーやスージー&ザ・バンシーズ、PILが出てきた。ノーミーンズノーは、むしろそういうポスト・パンクをベースにしている部分が大きいと思う。もちろんストレートなパンク、バズコックスやセックス・ピストルズも好きなんだけど、やっている音楽はああいうものではない。最初は兄と僕の2人、つまりベースとドラムだけで始めたから、そういう意味でも当時のパンク・ロックとは違っていた。ギターを入れたのは後になってからだからね。ただ、ひとつ共通して言えるのは、70年代後半のパンクの大爆発が、あらゆる人の音楽に対するアティテュードを変えたということだよ。

あなた方にとって、いわゆるパンク・スピリッツとは、どういう意味を持つものなのでしょう。

John:パンクが出てくるまで、ロックンロールやジャズの世界には歴然としたヒエラルキーが存在していた。パンクはそいういうヒエラルキーに「ノー」を突きつけたんだ。誰だってリズムとノイズを奏でていいっていうね。それからすぐにデッド・ケネディーズが出てきて、パンクはぐっと政治的な意味を帯びるようになった。アンチ大企業を掲げる音楽を作って、インディペンデントな姿勢をはっきり打ち出して。けど、要するに根っこにあるスピリットは、誰でも音楽をやれるんだ、楽しんでいいし、仲間になれるっていうことだね。パンクは人を選んで部外者を排除していくんじゃなく、逆にみんなを仲間にしていく音楽なんだ。

Tom:当時の音楽で面白いと思うのは、パンクってファッションの源流にもなったのに、実際にパンク・バンドをやってる連中は、そういうファッショナブルな世界から一番縁遠かったってことなんだよね。

John:ははははは(笑)!

Tom:ほら、客席を見たときのあの感じ、わかるよね?

John:ああ。観客はみんないかにもパンク・ファッション、っていう感じでキメてるのに、ステージのミュージシャンはというと……(笑)。

Tom:DOAなんかが典型だけど、バンドはいつもネルシャツにジーンズなんだよ。お客さんの方がステージ衣装みたいな服を着ていて。

John:結局、パンク・ロックもファッションになってしまって、ステージで大見得を切る感じになったのは確かだね。でも、パンク・スピリットさえ保ってれば、僕はそういうのはアリだと思う。救いようのないバカはマズいけど、そうじゃなく、堅苦しくならずに楽しんでるものにケチをつける気にはなれないよ。ファッショナブルな格好で、楽しく暴れ回るっていうのでも全然いいと思う。鼻持ちならないスカシ野郎でない限りはさ。特に70年代にはロックがひどく気取ったものになっていたから……まあ、全部ダメなわけじゃないし、中には良いものもあるけど。ただ、そういう空気が今の音楽シーンにもあるように僕なんかは感じてるよ。今の音楽は何もかももが一緒くたになってしまって、均質で個性がない。ヒップホップやラップは、80年代の終わりから90年代にかけては新しさがあったけど、すぐに商業化されてしまって、僕個人としては何も語りかけてくるものがないように感じる。他の音楽にしても、境界線が無くなってしまって、興味をそそるような新しいモノは出てきていないな。ちなみに兄貴のロブはエレクトロニック・ミュージックが好きで、あれは確かにロックとは全く別物ではある(笑)。良くも悪くもね。でも、僕はそんなに好きじゃない。面白いものはあるけどさ。今、他と全く違うものっていうと、そういうエレクトロニック・ミュージックなんだろうな。

なるほど。ノーミーンズノーは早いうちから、シンプルなパンク・ロックではなく、より複雑でテクニカルな、いろんな要素を混ぜ込んだ音楽をやっていましたが、どうやってそういう音楽性を確立していったのでしょう?

John:それは、さっき言ったようなバックグランドから来るものだね。子供の頃に聴いてきた音楽が、いざ自分たちが演奏すると出てくるっていう。パンク・ロックに刺激を受けて、自分でもバンドを組んで音楽を作ってみようと思い始めたのは70年代末になってからのことだけど、その前から僕はジャズ・ドラムを習っていたから、その影響はたとえ別の音楽をやっていても一生ついて回る。兄にとって一番好きなジャズ・ミュージシャンはたぶんマイルス・デイビスだと思うし、70年代には夢中でマイルスを聴いてたから、その影響はどうしたって出るよね。たとえバンドを始めるきっかけがラモーンズだとしても、その前から聴いてきた音楽を忘れるわけではないんだ。僕たち3人は、いいものであれば何でも好きで聴く方だと思うよ。スタイルを問わず、一番すばらしいものを作っているアーティストが好きなんだよね。本当に「これは見事だ」っていうアーティストの作品を聴くと、スタイルの好みとは別に「この人は本当にこういうスタイルを自分のものにしているんだな」っていうのはハッキリわかるものなんだ。そういうものなら何でも好きだよ。例えば、トムはオペラが好きなんだけど、僕は一度も行ったことがなかった。でも一度、『リゴレット』(※ヴェルディ作のオペラ)を見に行く機会があって。バンクーバーのオペラはなかなか悪くないんだけど、その中でもひとり、ソプラノにずば抜けた歌手がいてね。僕はそれまでオペラなんて1度も行ったことがなかったし、全く詳しくはないけれど、その日の舞台で誰が最高の歌手なのかは、すぐにわかった。それだけ素晴らしい歌手だったんだよ。そういうものは、ジャンルを問わず楽しめるね。

Tom:音楽を続けてきて、ツアーに出たり、曲がりなりにも食べていけたりするようになると、逆に音楽以外のことが曲を作る上での刺激になるように思うよ。読む本とか、自分が職業にしていること以外の分野の興味が広ければ広いほどいい。今ジョンが言ったオペラにしても、たとえば歌手がドイツ出身の人だとか、あのオペラの舞台になっている時期の歴史的背景なんかを知れば、やっぱりそれはプラスになると思う。

John:スポーツ選手と一緒だな。アイスホッケーの選手がサッカーやラクロス、グラウンドホッケーもやってみる、みたいな。ミュージシャンの場合も同じで、映画や文学とか、音楽以外の分野のアートと音楽がかぶってくるところが出るんだよ。そこでお互いに刺激を受けることがあるわけ。それに、僕たちもずいぶん年を取ったからね。僕は47歳だし、トムはもうちょっとで49歳だよな?

Tom:そう。もうほとんど49歳だよ……いよいよ、って感じがする(笑)。

John:で、兄は50代で……。

Tom:55歳だね。

John:うん、だから、年を取るほど、興味があるものについては経験を重ねられるし、その経験を生かすこともできる。僕たちみたいなミュージシャンなら、それが自分たちの作る音楽に何かの形でにじみ出てくるんだよ。


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