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わかりました。さて、デビュー・アルバムのリリース・タイミングで、ティムに電話インタヴューをさせてもらったんですが、その時「現在のアメリカで政治の状況がすごく混沌としてきている空気を受けて、自分たちの音楽表現もすごくパラノイアックなものになってきているような感じがする」っていうようなことを話してくれましたよね。そのあたりのことについて、あらためて他のメンバーも交えて具体的に話してもらえますか?

Nate:そういうことは普段から考えてることだから、少なからず影響は受けてると思うけど、どう演奏に反映されてるかは……自分では分からないな(笑)。ティムが書いてる歌詞と違って、目に見えるものではないからね。

Bobby:でも、もしかしたら……演奏にも密かに表れてるのかもよ。サウンドは抽象的だから、はっきりとは分からないけど。しかも僕の場合は低音だし(笑)。ただ例えば、無意識のうちに機動隊がデモを鎮圧する時のサウンドを想像して、低い音を使ってるかもしれないし、きっと何か繋がりはあると思うんだけどね。

同じインタヴューでティムは、「自分たちの音楽活動は、自分たちなりの“社会からドロップアウトする方法”であって、それもひとつのプロテストであり、政府に対するステートメントである」というような話をしてくれたんです。

Tim:うん。反論する手段なんだよね、カルチャーの集中砲火に対して。対話とも言えない、一方的に言いっぱなしの大衆文化と対決する方法として有効だと思ってるんだ。今のアメリカでは、政府とエンターテインメント産業があまりにも密接に結びついててね。まるで一個の得体が知れない勢力になってしまっている。だから僕は、必ずしも政府だけに反論しようとしてるわけじゃなくて、ひとつのイデオロギー、ひとつのライフスタイルに対して異を唱えようとしてるんだ。僕にとってはファシスト的に思える、ゾッとするようなライフスタイルにね。

で、直接的に政府に対して要求を掲げたりとか、デモンストレーションをしたりする方法ではなくて、むしろシステムからドロップアウトしてしまう、そこから逃げてしまうっていう形で社会へのアンチを表現するって、ものすごく面白いなと思ったんですけれども。

Tim:そう、僕らの音楽はスローガンを連呼するようなものじゃないからね。高所から見下ろすことはしたくないんだ。例えば「平和への闘い」ってなんだろう? 矛盾してないかな。「私は嘘をついています」って言うような感じだよ。嘘をついてるのかついてないのか、正しいのか間違ってるのか分からないセンテンスになってしまう。どっちが正しいとか正しくないとかじゃなくて、やんわり話題を変えるような方法を取りたいんだ。イエスかノーで答えると、相手に利するだけだと思うからね。

そういう考え方は、どういうところから来たものなんですか?

Tim:これにはわりと長い伝統があってね。例えば、ビートニク詩人たちとか、それより前だとアラン・ワッツとか……アメリカの哲学者だよ。あとソローとか。僕の性分として、魚の群れと一緒に流されてると生きた心地がしなくて、こっそり流れに逆らうことを楽しむタイプなのさ。だから、別に僕が編み出した考え方じゃないんだ。歴史学者が得をしないからあまり強調したがらない部分だけど、この種の思想には豊かな歴史があるよ。

例えば、デモ行進でも何でもいいんですけど、そういう行動的なプロテストも試してみたけれど、なにか違和感とか挫折感を覚えたりしたような経験があったりするのでしょうか?

Tim:うん、デモにはたまに参加することもあったよ。心から信じてるわけじゃないけどね。うちの母がいつも聞いてる左派のステーションがあって、リベラルなトーク・ラジオがアメリカに存在すること自体がひとつの勝利だと思われてるんだけど、正直言って僕には、右派のステーションと同じくらい鬱陶しく感じられるんだ。どっちも同じようにマンガ的で滑稽で(笑)。なんというか……お前どう思う?

Nate:僕は実際にデモとかに参加したことはないな。たまたま通り抜けたことはあるけど(笑)。でも、話に聞くと、すごいなとは思う。それだけ大勢の人々が集まったなら、なんらかの意味があるんじゃないか……政府に対して「おかしいんじゃないか?」と思う気持ちを、これだけ多くの人が共有したんだな、ってね。ただ、その結果が具体的にプラスになったかどうかは疑問も残るね。「我々に力を!」って叫ぶことで気持ちよくなったかもしれないけど、その後は……。デモ行進で完結してるケースもある気がするよ。

Tim:これだけは言えるな。デモに参加した時は、そこにいる同志たちとの連帯感に圧倒されて、思わず涙がこみ上げてきたよ。ダウンタウンを歩きながら……人々の叫び声がビルの壁に反響するんだ。それが力強くて感動的だった。でも、ネイトが言うように、デモ行進はその場限りだから、もっと効果的なプロテストはむしろその後の個々の生き方にあるのかもね。例えば屋根裏部屋に住むとか……まあ、それはもう耐えられなくなって引っ越したけど(笑)、例えば金儲けよりも創作活動に重きを置いて活動するとか。そういうこと自体が、最終的にはケリーに投票すること以上の抗議行動になっていくんじゃないかな。

Nate:個人にできることは限られてしまうからね。例えば、アラスカで石油の採掘が始まったけど……アラスカの自然を守りたいと思ったって、僕にはどうすることもできないし、たとえ僕と同じ考えの人たちが百万人いたとしても、石油会社の計画を変えることはできない。でも、そんなことで敗北感を味わうより、自分ができる範囲で正しいと思ったことをやり続けた方がいいと思う。バンドで音楽を演奏して、ツアーをして廻ったりも含めてね。

何故こんなことを聞いたかというと、日本の歴史の話なんですが、昔、侍が農民を支配していた時代に、侍が何を最も恐れていたかというと「農民が反乱を起こして一揆をおこした時は鎮圧すればそれでいいが、田畑を捨ててそこから逃げられてしまうとどうにもならない、だからそのこと(逃散)を何よりも恐れていたんだ」と教わったことがあって。それとティムの話に共通点が感じられて、ちょっと興味深かったんですよ。現代のアメリカでも、既存の社会の枠組から逸脱してやろうという意識を持った、新しい反抗的な態度の表れを実感したりすることはありますか?

Tim:フーム……なかなか興味深いアナロジーだね。実際、それが究極の反抗なんだと思う。反骨精神でさえ売り買いされる消費社会だからね。例えば、人々を脅えさせたはずのニルヴァーナなんかも1度売れたら、たちまち反抗のイメージがパッケージングされて商品になる。そういう、理解不能なほど巨大な力に、僕ら全員が組み込まれてしまってるんだよね。そして、そこから完全に降りてしまうことも多分できない。乗っかったまま上手にナビゲーションしていくしかないんだ。

では、社会からドロップアウトして生き続けるのって、傍目からだと気楽そうに見えて、実は非常にタフなんじゃないかと思うんですけども、それでもそれをやり続けさせてくれるエネルギーって、どこから湧いてくるのでしょうか?

Tim:この2人については分からないけど、僕個人の場合は、勢いに任せてわりと簡単にやれてるよ。とにかく、生きることの喜びだとか驚きを味わえる感性を失わないようにすることが重要だね。そういう単純に実用的で利己的な方法で、大衆操作に対抗してる。だから、別に争点を見つけようとしてたわけじゃなくて、ただ納得がいかないことは納得がいかないという態度でいたら、世の中の流れとは反対の立場に立ってただけで、僕にとっては特に努力が必要なことではないんだ。

Bobby:それが自然なんだよね。自分自身であればいいんだ。自分の道を決めたら、それに従って歩いていけばいいって感じかな。

Nate:僕の場合、それ以外の選択肢がないというよりも、それ以外の選択をしてこなかったんだ。人生が思い通りにいってないと感じたなら、どうにか変えようとすると思うけど、そういうこともなかったし。音楽をやってみたくなったのは……なぜか分からないけど興奮を覚えたからで。なんだかミステリアスに思えたよ。こいつら何でこんなことをやってるんだ? みんな何がそんなに楽しいんだ? 大勢の人達が狂ったようになってるのはどうしてなんだ?ってね。最初にびっくりしたのは、エレクトリック・ギターを弾いてるミュージシャンとスタジアム一杯の観客を見た時で、そっちはやがて、イメージのマーケティングの賜物だってことに気づかされたけど。とにかくウサギの巣穴みたいに、掘れば掘るほど面白くなってさ。タブラとシタールのインド音楽とか、何かがコミュニケートされてると感じるし……いったい何なんだろう? よく分からないし、これからも永遠に分からないかもしれないけど、音楽っていう抽象的なコミュニケーションに携わるのは悪くないなって直感したんだよね。

Tim:今のネイトとボビーの答に倣って自分の答えを簡素化すると、つまりナチュラルだってことだね。僕らは大衆文化を拒絶する方法として、自然体であること、冷静でいることを選んだんだ。なるべく周りに影響されず、自分たちらしく生きて、いろんな場所でいろんな人とコミュニケーションをとって……こうして話す時には通訳が必要だけど、ギターを弾く時は通訳は要らないからね、不思議なことに。そこがエキサイティングなんだ。

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