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ところで、そもそもあなたは何故2005年にアムステルダムにいたのでしょう? Omar:1998年にアット・ザ・ドライブ・インとして、初めてアムステルダムを訪れた時から、その地に膝をついてキスをしたくらい「いつかここに住んで、この国の文化を体験するんだ」と誓ってたんだ(笑)。僕はアメリカで十分すぎるくらいの年月を過ごしてきて、初めて訪れたヨーロッパの豊潤な文化とオーガニックなライフスタイルに感銘を受けたんだよ。同時に、プエルトリカンで、とても小さな町から出てきた自分にとって、アムステルダムはとても強い繋がりを感じられる場所だった。まず住んでる人たちがとてもオーガニックで、生活の移動手段も自転車なんだよね。会社に行くのも買い物に行くのも自転車、大人も子供も、動物まで自転車に乗っている(笑)。スーパーに行っても誰もプラスチックの袋を使わずに、みんな自分達のバッグを持ってきている。日本でも同じことを感じたんだけど、確実にアメリカよりも先進的な考えを持っていて、より良き未来のために行動を起こしている国だと感じたんだ。どうしたらこの地球を救えるのか、どうすれば素晴しい未来を子供達に残していけるのか、ということを真剣に考えていて、そのためにはムダな贅沢をやめるという行動をちゃんと起こしてる。オランダだけではなく、ヨーロッパ全体にそういう雰囲気を感じたね。 では、オランダでの生活が作品にも反映したと思いますか? Omar:もちろん。よく色んな人から「何に影響を受けますか?」という質問を受けるけど、あまりにも広範囲に渡るから答えるのにとても困るんだ。だって音楽は人生に起こること全てを反映するものであって、音楽は自分自身と切り離すことができないのと同じように、自分自身も常に良くも悪くも今置かれている状況に影響されるからね。それは今日の天気が良いか悪いかだったり、誰かによくしてもらったっていう経験だけでも反映される。どんな映画を観たか、どんな女性とキスをしたか、さっき何を食べたか、そういうもの全てが自分の経験となって、自分の作り出す巨大な作品の一部となっていくんだよ。 オランダというと、どうしてもマリファナなどの規制が緩いことと結びつけて考える人もいると思うのですが、そうした環境は本作のレコーディング事情と何か関連がありますか? Omar:あははは! 君の言いたいことはよくわかるよ。確かにほとんどの人が、オランダと聞くとそのことを連想するし、僕も人々に「オランダに引っ越した」と言うたびにドラッグのことを訊かれたからね。ただ僕はドラッグもやらなければ、酒も飲まない。マリファナは多少吸うことがあっても、あれをドラッグだとは思っていない。そもそも僕はドラッグ・カルチャーそのものに全く興味が無いし、惹かれることもないんだ。僕がアムステルダムに魅了されたのは、その豊かな文化や建築物、そこにいるアーティストたちに惹かれたからなんだよ。実際、町の公園に行けばいつでもミュージシャンが大勢いて、アコースティック・ギター1本だけ持っていけば誰とでもセッションすることができる。さらに、そこにいるパンクスやアナーキスト、彼等がスクワットしている建物や彼等が作ったアートスペース、そうしたものに僕は魅了されたんだ。だから僕はパーティにも行かなかったし、パーティに行くようなタイプの人間ではないからドラッグにも興味がない。オランダと言うと必ずドラッグについて訊かれるのは興味深いね。みんな、そっちのことばかり気になって、ゴッホのことや他の素晴しいアーティストたちのことは忘れてしまってるみたいだ。 すみません(笑)。さて、今作のアートワークは、以前にアット・ザ・ドライヴ・インの作品も手がけた、エターナルズのデーモン・ロックスが手がけていますが、彼との間にはどんな交流があるのか教えてください。 Omar:デーモンは、アット・ザ・ドライブ・イン結成当初からの友人で、その頃彼はトレンチマウスという素晴しいバンドでプレイしていたんだけど、彼がエル・パソに来れば一緒にライヴをやったし、逆に僕らがシカゴに行った時には、デーモンがライヴをセットアップしてくれたり、そういう関係だったんだ。そんな中で、アット・ザ・ドライブ・インのアルバム・カバーのデザインをやってもらったわけだけど、その後もずっと友人として連絡はとっていて、彼がエターナルズを始めてからもATPに参加してもらったり、西海岸で共演したり、とにかく彼と一緒に何かをやるのは昔からいつも楽しみだった。それで、アートワークに関しては、しばらく別のアーティストにお願いしてきたんだけど、僕はずっと同じ人にデザインしてもらうことに抵抗があって、できる限り毎回違った趣向でやりたいと思ってるんで、デーモンに前回お願いしてから大分時間も経っているし、そろそろもう1度頼んでもいい頃かなと思って今作のジャケットを依頼したんだよ。 さて、今後もマーズ・ヴォルタの新作だけでなく、リディア・ランチや、ヘラのザック・ヒルとのコラボレーション作品、さらに『A Manual Dexterity: Soundtrack』のVolume 2もリリースが控えているとか? Omar:ああ。今はマーズ・ヴォルタ新作のミックスの最中なんだ。それ以外にも次は、僕が日本から受けた影響を全面に打ち出した、日本へのプレゼントとなるソロ・アルバムの制作が控えているよ。僕は日本の文化−−太宰治のような素晴しい作家や、黒澤明の映画などからとても影響を受けているし、日本という国、日本人が持っているインパクトに強く惹かれるところがある。そうした影響に対する感謝の気持ちを込めて、そのソロ・アルバムはタイトルも中のライナーノートも全て日本語で表記された、日本に捧げたアルバムになるよ。前のソロは全てオランダ語表記になっていて、オランダから受けた影響を前面に打ち出した作品で、そちらはオランダへのプレゼントという感じだったんだ。僕がオランダや日本の持つ素晴しい文化に対して感謝の気持ちを示すというか、恩返しするとなったら、こうして音楽を作ることしかないからね。 それは非常に楽しみです。それにしても、もう創作意欲がとまらないという感じですよね。自分が恐くなったりしないですか? Omar:とんでもない! 非常に自然な行為だよ。お腹が空くのと同じさ。お腹が空いたら何か食べるだろ? のどが渇いたら水を飲むし、好きな人がいたらセックスしたくなるし、愛を求める。アイデアっていうのは、あくまでその時の感情や気持ちであって、人によってそれを表現する手段が違うだけなんだ。そのアイデアを会話という形で表現するのが得意な人は精神科医や弁護士になるかもしれないし、文章で表現するのが得意な人は作家になるかもしれない。音楽で表現する人や映像で表現する人、中にはそうしたもの全てを使いこなして表現する人もいるだろうね。僕が唯一心配してるのは、歳をとって、これ以上表現することが下手にならないように頑張らないといけないなってことかな(苦笑)。 本当は、レコード会社が許せば、全てマーズ・ヴォルタの作品としてリリースしたかったりしますか? Omar:いやいや、いろんな名義で出す方が楽しいよ。さっきも言ったように、その名前ごとに違う性格に自分を切り替えることができるから、同じ名義でずっとやってるとつまんなくなってしまうし、疲れてしまうよ。きっとこのソロ名義もいつまでもやってたらつまらなくなるから、また別の名前にするか新しいグループを組むことになると思う。名前をつけるっていうのは、その時点で“新しい箱を作る”最初のステップであって、それによって新しい人格がそこで形成される。名前の響きがその箱の大きさや雰囲気を決定するから、新しいことや違ったことを始めるには、また全く違う名前を作る必要があるんだ。たとえ必要が特に無かったとしても、そうやって新しい箱をどんどん自分のために作っておくと、それまでの人格に飽きても、何もできなくなる状態に陥らなくなると思う。僕はアット・ザ・ドライブ・インというバンドでの人格を7年間やって飽きを感じた。デファクトと言う人格で8年やって飽きを感じた。今マーズ・ヴォルタは6年目を迎えるけど、アートワークにしてもそうだし、ひとつのものに固執せず、色んなことに挑戦して、新しい人格を作り上げていった方が楽しいし、長く続けられると思うよ。 わかりました。では、先ごろ出たEL-Pの新作『I'll Sleep When You're Dead』に参加することになった経緯を教えてください。 Omar:彼とは、僕がニューヨークでマーズ・ヴォルタの前作をミックスしていた時にスタジオで出会ったんだけど、ちょうど彼も隣の部屋でミックスをしていて、彼の方から「ぜひ自分の作品に参加してくれ」って声をかけてきたんだ。で、スタジオも隣同士だし、タイミングもよかったから「ぜひ、喜んで」ってことになったんだ。 今後、いっしょにやってみたいミュージシャンとかはいますか? ロバート・フリップなどはどうでしょう? Omar:それは是非やってみたいね。彼ともしプレイできたら、それはとても光栄なことだ。僕は音楽を作ることを「仕事」とは捕えずに、「楽しみ」と感じるミュージシャンとだったら誰とでもプレイしたい。ロバート・フリップともやりたいし、ジャマイカでスライ&ロビーともやりたいし、それにオーネット・コールマンともやってみたいな。一緒にいて楽しい時間を過せると思える人とだったら誰でも競演してみたいよ。 では、最近お気に入りのバンドやアーティストを幾つか教えてください。 Omar:今は新しいマーズ・ヴォルタのアルバムを制作中で、僕はスタジオに入ってる間はなるべく他の音楽を聴かないようにしているから、一緒にやりたいようなバンドってなると、以前から好きなバンドしか今は思い浮かばないな。例えばさっきも言ったエターナルズとかライトニング・ボルトとか、自分達のやりたいことを貫いているバンドと一緒にプレイできたら楽しいだろうね。でも今はちょうどレコーディング中だから、映画しか観てないよ。最近は素晴しいボックス・セットがたくさん出てきていて、昔は手に入らなかった古い映画が観れるのが嬉しいね。特に70年代の日本のカルト映画で、ちゃんと英語の字幕がついているのが最近手に入って、日本では今どう評価されてるかわからないけど、明らかにクエンティン・タランティーノがパクっているのがわかるよ。あと、黒澤明の作品もまた見直しているし、とにかく最近は昔の日本映画の字幕付きボックス・セットが凄いんだ! 例えば鈴木清順の初期作品がちゃんと字幕付きで手に入って最高だったし。僕が日本に行く時は勿論たくさんのDVDを買って帰るんだけど、当然ほとんど字幕の無いものだから、音と映像だけで楽しんでたわけ。それが、ようやくこうしたボックス・セットのおかげで台詞や物語がわかるようになったから、また見直さなきゃいけない作品がいっぱいあるんだ。 最後に、セドリックの刺青について、あなたが知ってることを教えてほしいのですが、彼の腕にはロボット・ロビー、胸のあたりには日本のロボット・アニメ=ライディーンの絵が彫ってありますよね? いったい何故それらの絵柄を彫ったのか、あなたは理由を知っていますか? Omar:彼も僕も、日本のSFとかアニメーション、カルト映画、オカルト映画が小さな子供の頃から大好きだったんだ。だから日本に行くのはいつも楽しみだし、実際に行く時にはとんでもない出費をいつも覚悟してる(笑)。今までに日本の玩具や映画関係にどれだけお金を使ったことか! 僕らが子供の頃は、日本風のロボットの玩具が手に入ったとしても、全部スペイン語とかに直された偽物ばかりだった。とにかく今、日本でロボットを見ると、そういうノスタルジアを感じることができるんだよね。あと、やっぱり日本のロボットやモンスターのデザインは他の国にはない、一目で日本のものだとわかる素晴しいオリジナリティを持ったデザインばかりだし、しかも数え切れないほどのキャラクターが溢れてる。日本は、僕とセドリックにとって小さい頃から憧れの地で、今も大好きな国なんだ。
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