by telephone, 2007.5.10
text by Yoshiyuki Suzuki
interpretation and translation by Stanley George Bodman

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 ご存じザ・マーズ・ヴォルタのオマー・ロドリゲスが2007年5月にソロ名義のアルバム『Se Dice Bisonte, No Bufalo』をリリースしたタイミングでの電話インタビュー。彼のオタク的な資質が語られている、なかなか興味深い内容になったのではないでしょうか。いつかオマーが日本に住める日が来るように応援しましょう。

「日本は、僕とセドリックにとって小さい頃から憧れの地だったし、今も大好きな国なんだ」

ソロとしての新作『Se Dice Bisonte, No Bufalo』が日本でもリリースされます。まず、このアルバムは2005年の暮れにアムステルダムで、そして一部をカリフォルニアでもレコーディングしたものだそうですね。先にWillie Andersonというレーベルからリリースされた『Omar Rodriguez』というアルバムも同時期に制作されたものだと思うのですが、この2枚のアルバムの関係性や、どういう違いがあるかなどを教えてください。

Omar:もう1枚のソロ・アルバムはこのアルバムの半年前にレコーディングしたもので、確かアムステルダムに移ってすぐに制作した作品だったはず。そちらのアルバムではアムステルダムに移住したことや、その時の自分の心の模様をそのまま作品にしたものだったんだけど、正直、自分でもその前作と今回の作品との違いはよくわかってないや(笑)。と言うのも、僕にとっては今のバンドの以前にやっていたアット・ザ・ドライブ・インもデファクトも、全てが自分の作り上げた一連の巨大なコンポジションのようなもので、アルバム1枚1枚は、例えるなら1枚の写真やポートレイトのような、その時に僕が何を見て、何を感じていたのかを記録する役割を果たしているような感じなんだ。

本作はGuillermo Arriaga と Jorge Hernandez Aldanaによる映画のサントラだと聞いていますが、この映画と関わることになり、それを元に音楽作品を作るまでに至った経緯を簡単に教えてください。

Omar:いや、このアルバムは単に僕のソロ作品であって、サントラは『El Bufalo de la Noche、The Night Bufalo』というアルバムを今制作中なんだ。これは映画『バベル』の原作を書いたGuillermo Arriagaが『バベル』の次に書いた作品なんだけど、このソロ・アルバムとは全く別の作品になるよ。サウンドトラックの方は、偶然Guillermo Arriagaと会って話をする機会があって、彼にインスパイアされて制作に携わることになったんだけど、僕自身自分のキャリアの中で、映画音楽をやることも、人から場面設定に沿ったリクエストを受けながら作曲することは初めてだったから、とても良い体験をさせてもらっている。

ということは、サントラがマーズ・ヴォルタの次回作として発表されるということ?

Omar:いや、これもオマー・ロドリゲス名義で発表されるよ。実際ソロであろうが、マーズ・ヴォルタであろうが、全て僕の作った作品だからそんなに大きな違いや意味は無いんだけどね。もちろんマーズ・ヴォルタの作品であれば、もっと制作に時間をかけることも出来るし、当然全曲セドリックが歌うことになるんだけど、結局のところさっきも言ったように、僕にとっては全てがひとつの巨大な作品の一部であるっていうイメージなんだ。ただ、ソロであればより多くの友人達を招くことが出来るというのはあるね。僕はあんまり音楽と関係の無い生活をしている人と知り合う機会がないから、だいたい友達と呼べる人はミュージシャンになっちゃうんだ。

わかりました。さて、今作のバック・メンバーは、ホアンやエイドリアンなど、いわゆるオマー・ロドリゲス・クインテットが中心になっていますよね。さらにセドリックや、先にマーズ・ヴォルタを脱退したジョン・セオドアも参加してますし、実際に「Rapid Fire Tollbooth」という曲はマーズ・ヴォルタでも演奏しています。マルセルが主にドラムを叩いているということや、アイキーがいないといったこと以外に、このソロ作品とマーズ・ヴォルタとの決定的な違いとは何なのでしょう? 作曲の過程などにも違いがあるのでしょうか?

Omar:簡単に言うと時間だね。時間とはつまりお金だよ(笑)。マーズ・ヴォルタであれば、僕はもっと時間とお金を制作にかけることができる。さらに、僕がマーズ・ヴォルタの作品を作るときには、内面で“マーズ・ヴォルタとしての自分”という性格に自分を切り替えるから、それが作品に色濃く反映されるんだ。ただ、今作のようにあまり時間も金もかけられない、素早く作業をしなきゃいけない状況も嫌いじゃない。その方が逆にレイドバックしたオープンな感じで、必要以上に創り込んでいない感じが出せて、変化を与えてくれる。逆にマーズ・ヴォルタの場合は、多くの時間をかけて多くの関係者が関わってくるから、とにかく物凄くディテールに気を使うし、アレンジやミックスの段階で、とことんまで細部にこだわってしまう。それは悪いことじゃなくて、それこそ“マーズ・ヴォルタとしての自分”という部分が増幅させるところなんだけど。正しくわかりやすい例がその“Rapid Fire Tollbooth”で、以前から「マーズ・ヴォルタの曲としてプレイしてくれ」というリクエストがあったんで、マーズ・ヴォルタで演奏してみたんだけど、案の定マーズ・ヴォルタの視点から見ると、いろいろと変更しなければいけない部分がたくさん出てきた。だから、このアルバムとマーズ・ヴォルタ(のヴァージョン)とでは違った歌詞をつけて、テンポも変えたりしてる。とにかく制作により時間を費やすとその分曲も変化していくし、自分の好みも刻々と変わっていくし、どんどん膨らんでいくものなんだ。よくアルバムに1年や2年も費やすアーティストがいるけど、彼らはそうやって時間が経つに連れて、いろんなことが頭の中によぎって収拾がつかなくなってしまうんじゃないかな。アクセル・ローズの『チャイニーズ・デモクラシー』のようにね(笑)。

確かに、マーズ・ヴォルタのアルバムは、一見インプロビゼーションの要素が強いようでありながら、実はあなたがアレンジまで含めて曲を細部まで書き上げているということでした。ソロにおいては、もっと即興的な要素が濃かったりするのでしょうか? もしそうだとしたら、実はソロ名義の方がバンド的なアプローチが強いという話になりますよね?

Omar:そういうわけではないんだ。僕はソロでやっていることを“瞑想のための音楽”と呼んでいるんだけど、基本的には一定のビートにひとつのベースラインをずっと繰り返すタイプの音楽で、これは僕の大好きなダブやサルサにも通じるものだ。で、マーズ・ヴォルタではこの“瞑想”の部分と、様々なリズムや時間の変化や大胆な雰囲気の変化によって表される“狂気”の部分を融合しているんだよ。ソロの作品に関してはその“狂気”の部分は排除して、とにかく流れに身を委ねることのできる音楽を作りたい。深く瞑想に入り込んでリズムの邪魔をしないことを最優先したいんだよ。多少は構成の部分とかで変化をつけたりすることはあるかもしれないけど、可能な限り手を加えたくないわけ。そこの部分こそが、ソロでの作業で僕が自分に許した、バンドではできない自由な部分と言っていいかもしれないね。

なるほど。さて、本作にマニー・マークが参加することになった経緯について教えてください。

Omar:マニー・マークは、僕が西海岸に住むようになった頃に知り合えた友人の1人で、僕のバンドのベーシストと凄く仲がよかったから紹介してもらったんだよ。数年前から僕はカルテットを始めたんだけど、そこで一緒にプレイしないかと以前から声をかけていて、僕がアムステルダムに移った後も遊びに来てくれたから一緒にやることができたんだ。とにかく僕の作品に参加してくれるアーティストは、ミュージシャンである以上に友人であることが最優先で、一緒にプレイすることはとても自然な流れの中での出来事なんだよね。まるで近所の子供達がつるむ様な感覚と同じなんだ。僕は決して最高のアルバムを作ろうといつも考えているわけじゃない。最高に上手いミュージシャンを一同に集めて最高なアルバムを作ろうなんて企てようとも思ってない。僕はただ楽しい時間をすごしたいだけで、そこに友人のミュージシャンや映画製作をしている仲間とかがいて、面白いと思えることができればそれでいいんだよ。

本作にも収録されている"Please Heat This Eventually"は、先にアナログ12インチ盤で、ダモ鈴木との共同名義でリリースされています。彼とコラボレーションすることになった経緯も同じような流れだったのでしょうか? 伝説のカンのシンガーと共演してみた経験はいかがでした?

Omar:その通りだね。3年くらい前にオーストラリアで出会ったんだけど、彼が自分のグループに僕を招待してくれて、そこで一緒にプレイしたんだよ。とても素晴しいセッションで、それ以来メールでやり取りを続けていたんだ。その後もイギリスで彼のグループとプレイしたり、オール・トゥモロウズ・パーティーズで共演したり、僕のカルテットにも参加してもらったり……。とにかく、こういうことはあくまで自然のなりゆきでやりたいね。もちろんダモ鈴木とプレイすることは僕にとって物凄いインスピレーショナルなことだし、どこでプレイしても楽しいんだけど、決して強制したり、無理に誘ったりしたくはない。だから何年かに1度とかでも全く構わないし、あくまで「仲良くなってタイミングが合えば」ということが大事なんだ。ともあれ、彼との競演はいつも凄く楽しいよ。彼は反応が非常に早いし、素晴しいメロディーの感性とダイナミクスの付け方を熟知している。彼はどんなバンドにも溶け込むことができる素晴しい才能の持ち主だと思う。

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