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アルバム1曲目が“ウェイク・ミー・ホエン・イッツ・オーヴァー”で、最後の曲が“デイ・スリーパー”というタイトルですが、眠りとか夢とか、そういうテーマに興味があったりするんですか? Steve:フフ。レコーディング中も睡眠をとることは必要だったけど。 わりと普段から、現実逃避の気があったりするとか? Steve:現実逃避? したいねえ。そのために何かくれるの? (苦笑)現実逃避のために音楽をやる人もいますけど、あなた方もそういうタイプなのかなあ、と。 Steve:いや、まさにそのタイプだよ。 では実際のところ、どういったものにインスパイアされて曲を書くのでしょう? Steve:んー。大抵は、その時に聴いてるレコードとか。僕らがその時に気に入ってるものだね。ここ最近で僕らの試金石となってたレコードは、フレイミング・リップスの近作2枚なんだ。あと、シャノンは最近(ピンク・フロイドの)『狂気』の話をよくしてたよ。曲を書く時に基準点となるものは、いろいろあるんだ。今回のレコーディング中に何度も話に上ったのはそういった作品群で、実際すごくインスパイアされたよ。 フレイミング・リップスの最新アルバムって、「日本の女の子がピンク色のロボットと戦っている」とか歌っていますけど、そういう妄想みたいな雰囲気に魅力を感じてるのでしょうか? Steve:そうなんだよね。すごくいいじゃない。僕らのレコードにそういうのがあるかというと分からないけど……“ザ・ゴースツ・サラウンド・ユー”の歌詞の一部は、彼らのように隠喩的だって、最近誰かに言われたな。次のレコードではもっと、ハッキリと影響が表れるかもしれないね。 フレイミング・リップスの話が出たので、ついでに訊きますが、プロデューサーが同じデイヴ・フリッドマンですよね。たぶん山の中にある彼のスタジオで録音したのだと思いますが、レコーディングの様子はどのようなものでしたか? Steve:最高だったよ。リラックスしてできたし、同時に真剣に集中することもできた。本当に特別で、熱狂的で、画期的で、ハッピーだけど哀しくもあるっていうレコーディングだった(笑)。 やはり、山の中っていう環境がレコーディング中の精神状態に作用したりとかもするんですかね? Dave:それはあった。いい方に作用したよ。 Steve:本当に集中できたね。 Dave:ニューヨークのスタジオってどれも、なんというか、バンカーみたいな雰囲気なんだ。 Steve:ハハハ。 Dave:あまりいい環境じゃないんだよね。それがデイヴのスタジオだったら、窓から外の景色を眺めたり――。 Steve:そういえば鹿を見たよ。 Dave:木が生い茂ってて鹿がいて……本当に別世界で。ずっといい雰囲気だったし、いいエネルギーに満ちていた。気が散るような邪魔が入らない環境で、じっくり腰を据えて、レコードを作るに当たって本当に重要な部分に焦点を合わせることができたんだ。 その他に、彼と組んだことでこのレコードにもたらされたものといったら何でしょう? Steve:バンドの長所を引き出してくれたってことかな。彼はギターがこのバンドの強みだと見ていたんだよね……それとドラムスとベースのうまさも認めてくれて、ソリッドないい音に録音しようとしてくれた。レコーディングにあまり時間をかけ過ぎない方法を採ってたよ。何度も何度もプレイし過ぎると新鮮みがなくなってしまうからさ。僕のヴォーカルに関してもそれは同じで、力強いパフォーマンスを求めながらも、同時に鮮度のいいものを残そうとしてくれた。彼のアプローチはよかったと思うよ。実用主義的なやり方だった。バンドが求めているものを重視しながら、それを達成する方法を考案してくれてたね。 Dave:デイヴ・フリッドマンは、僕らが作りたいレコードをスムーズに作れるように、とても努力してくれたと思う。若いバンドがプロデューサーによって違うバンドに変えられてしまうっていう怖い話をよく聞くけど、彼の場合は僕らの希望に忠実だったし、同時に僕らが考えつかない要素も導入してくれたし、本当に素晴らしいプロデューサーだったよ。 デイヴ・フリッドマンのプロデュースは、独特のサウンド処理が特徴としてあげられると思うんですけど、音響的な処理と曲本来の持つ魅力をどういう具合に混ぜて、バランスを取ろうと意識しましたか? Steve:曲ごとに違うやり方だったと思う。たとえば“タイダル・ウェイヴ”では彼はほとんど何もしなかったけど、“ストレンジエスト・シングス”ではいろんなアイディアを試してた。あの曲には相応しかったと思うよ。キーボードにいろんなフィルターをかけたりね。彼が入れてくれたアルペジオは本当に効果的だな、って思ったな。他には……“キャント・フィール・ア・シング”のストリングスも彼のアイディアだった。だから、曲によるんだ。まったく手を入れなかった曲もあるよ。 スタジオで特に工夫を凝らした部分というのは、ライヴで再現する時にはどのように対応しているのでしょうか? Steve:アルバムのほとんどは、元々ライヴでプレイするのと同じようにレコーディングしてる。例外なのが、さっき言った“ストレンジエスト・シングス”と“キャント・フィール・ア・シング”で、この2曲はライヴでやってないんだ。“ストレンジエスト・シングス”は僕がキーボードかピアノを弾かなければならないから難しいんだよね。でも、他は全部ギターで作ったサウンドだから、ライヴで再現できるんだよ。 実際ライヴではエフェクターとかペダルをたくさん使って、かなり凝った音を出しているっていう話を聞いてるんですけれども。 Shannon:バンド結成当時からやってるよ。 Steve:75年当時からね。 Shannon:ハハハ。 (苦笑)明日の東京公演では、やっぱり最新アルバムの収録曲を中心にセットリストを組むんですよよね? Shannon:そうだね。 Steve:新曲も1〜2曲、最初のインディー・レコードからの古い曲も1〜2曲混ぜると思う。 なるほど。新曲も聴けるんですね? Steve:うん。期待しててくれていいよ。 ところで、同じデイヴ・フリッドマンのプロデュースで、日本のナンバーガールというバンドがレコードを作っているんですが、彼らのことは知っていますか? Steve:知ってる! デイヴのスタジオにポスターが飾ってあったよ。実際に聴いたことはないんだけど。1曲ぐらいあるかな。フレイミング・リップスの日本語の歌詞を訳したのがナンバーガールのメンバーなんだってね。“ヨシミ・バトルズ・ピンク・ロボット”の日本語バージョンを作った時にさ。 あれ、そうだったっけ? Steve:デイヴはそう言ってたよ。ナンバーガールのメンバーと友達だからって。彼はレコーディングに携わったミュージシャンとは親しい関係を保ってるみたいだね。 それでは、今後の目標、バンドとしてどういう方向に進んでいこうと考えているかを教えてください。 Steve:んーと……今現在、『ザ・ソフト・ブレティン』というニューアルバムに取り掛かっているんだけど……。 Shannon:ククク(笑)。 (苦笑)フレイミング・リップスが好きなのはもう分かったってば。 Steve:えへへ。とにかく、今まで通りの活動を続けていって、よりいいバンドになっていけたらと思うよ。より多くの人に聞いてもらえるようにね。それが僕らの望みなんだ。 次のアルバムは、生っぽいものから、もっと音響的に凝ったものに、と考えてたりしますか? Steve:そうだね。今のスタイルを完全に放棄することはしないけど、より凝ったものを作りたいっていう気持ちはあるよ。もっとデイヴ・フリッドマンの特徴を活用させてもらったものをね。どんな奇天烈なものになるかやってみたいんだ。まあ、結局はボツにして、今のスタイルに戻るかもしれないけどね。でも試してみたいな。 例えばハードディスク・レコーディングで、すごくデジタルなサウンドをプロデュースしたりしたい、というようなことは? Dave:いいや、やっぱりテープだよ! Steve:(笑)。でも今回のは、テープへの録音と、Radarというメディアへの録音の、二つの方法をとり混ぜて作られてるんだよね。 Shannon:それってハードディスクだよ。 Steve:あ、そうなの? Shannon:うん。 Steve:どうやら、テープとハードディスクの半々で作ってるみたい(笑)。 Dave:でもハードディスクを使ってても、どこかの時点で必ずテープに戻ってるんだよな。 それはやっぱり、アナログならではの音の質感みたいなものを大事にしたいからですか? Shannon:でもデイヴ・フリッドマンはどんな技術も使いこなしてるからね。ハードディスクにしてもアナログにしても、その部分はプリアンプとかを通る録音機器のチェーンの中で最後にくる部分だし、音色に与える影響が一番少ない部分だと僕は思うけど。 Dave:重要性で言えば一番低いね、確かに。 じゃ、逆にもっともこだわっているのはどういうところですか? Steve:いいパフォーマンスだよ。それとお金。 全員:(笑)。 Shannon:デイヴ・フリッドマンは選択肢を広く取っておくのが好きなんじゃないかな。特にドラムの音を録るのがうまい人だと思うけど、マイクをたくさんセットするんだ。ミキシングの時点で使わないかも知れないマイクも含めてね。とりあえず最初は幅広く音を拾っておく、って方法だね。 なるほど。では、明日のライヴを楽しみにしています。今日はどうもありがとうございました。 全員:ありがとう。
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