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Tokyo, 2003.9.2
text by Yoshiyuki Suzuki
translation by Ikuko Ono


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 2003年にリリースされた数多くのアルバムの中でも、『ザ・ストレンジエスト・シングス』は個人的にベストの1枚としてあげられる好作品だった。ニューヨーク勢の中でも、ロックンロール・リヴァイヴァルやポスト・パンク・リヴァイヴァルといった大きな流れに属すことなく、確かな作曲能力と独自の音作りで勝負しているロングウェイヴは、ムーヴメントの波がおさまっても生き残っていく力を持っていると思う。9月に実現した初来日公演では、アルバムの凝ったサウンドを予想以上の精度で再現できていたので感心させられた。直前にドラマーがケガをして来日できなくなり、急遽ヘルプのミュージシャンが代理を務めるというアクシデントがあったにもかかわらず、そのパフォーマンスのクオリティは非常に高く、熱心なファンばかりで埋まった会場は大いに盛り上がった。以下に掲載するのは、その東京でのライヴの前日に、スティーヴ、シャノン、デイヴの3人を相手に行なったインタビューである。

「デイヴ・フリッドマンとのレコーディングは最高だったよ。本当に特別で、熱狂的で、画期的で、ハッピーだけど哀しくもあるっていうレコーディングだった(笑)」

まず、自己紹介ついでに、最近のお気に入りのレコードを教えてもらえますか。

Steve:僕はスティーヴ、ギターとヴォーカルの担当。そして、他のメンバーも同じだと思うけど、最近はマイ・モーニング・ジャケットのCDを聴いてるよ。それと、Sea Rayっていうバンドがすごく気に入ってる。NYのバンドなんだけど。

Shannon:僕はシャノンで、ギターを弾いてる。最近いちばん気に入ってるレコードは、マイ・モーニング・ジャケットの最新作。もうスティーヴが言っちゃったけど、本当なんだ。

Dave:ベースのデイヴだよ。マイ・モーニング・ジャケットは挙げないことにするね。実は、密かに気に入ってるものがあるんだ。ティーガン&サラなんだけどさ。

Steve:オーマイガッ。

Dave:あえて言っちゃった。レズビアン・ポップだよ。

Shannon:僕はマイ・モーニング・ジャケットが好きです! 僕の名前はデイヴで、好きなレコードはマイ・モーニング・ジャケット! それとレディオヘッドのニューアルバム!

(笑)では次に、それぞれどんな音楽環境で育ったのかと、自分でも音楽をやりたいと思ったきっかけについて教えてください。

Steve:子供の頃、両親がいつもクラシック・ロックをかけていて、ビートルズやドアーズやローリング・ストーンズなんかに親しんで育ったんだ。自分で気に入って手に入れた初めてのレコードは、ブルース・スプリングスティーンの『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』だった。それと、父さんにもらった『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(ビートルズ)が特に好きだったな。で、もう少し後、16歳か17歳の頃にのめり込んだのがU2で、続いてR.E.M.とレディオヘッド、さらに後になってからはフレイミング・リップス。そんな感じかな。

いつくらいから、自分でも音楽を始めていたんですか?

Steve:10歳の時にデフ・レパードとかそういうバンドのクレイジーなギター・プレイヤーを見て、僕もああなりたいと思ったんだ。巧いけどクレイジーな弾き方をするギタリストにね。それでギターを弾き始めたんだよ。

じゃ、最初はメタル・バンドを組んだりとかもしたんでしょうか?

Steve:10歳とか11歳とか、そういうレベルだけど(笑)。

(笑)その後、音楽的な方向性が変わったのにはどんな理由が?

Steve:U2に目覚めたからだね。

分かりました。では次にシャノン。

Shannon:いちばん影響を受けたのは兄貴からだったんだよね。いっしょにバンドやろうぜって、6歳の時に言われて(笑)。

Steve:お前が歌ってたの?

Shannon:そう、俺が歌で兄貴がキーボード。近所の子供達のことをからかってるような歌を作ってたんだ。で、10歳の頃、これも兄貴の影響でビートルズを聴くようになったんだけど、まぁ、それがすべての始まりだったね。そのうちに、いろんなやつからバンドに誘われるようになって、バンドからバンドへ渡り歩いて、現在にいたる。そして今、東京にいるってわけ。

ギターを弾くことになったきっかけは?

Steve:うひひひひ。

Shannon:あー(笑)。実は自分で選んだんじゃなくて、スティーヴのせいなんだ。最初僕はベースを弾いてたんだけど、(スティーヴを指差して)この"Jackass"にバンドに誘われた時に、「もうデイヴがいるから、ベースの枠は埋まってる」って言われたんで、仕方なくギターをやることにしたんだよ。

Steve:Jackassって日本語でどう言うの?

教えない(笑)。じゃ、今度はデイヴ。

Dave:僕は、周りのみんながロックンロールではなくて、ヒップホップを聴いてる環境で育ったんだよね。まだ最初の頃のヒップホップで……どれもなんかこう……「殺すぞ!」っていう雰囲気でさ。

全員:(笑)。

Dave:当時はみんなそういうのを聴いてたんだ。それからパンク・ロックと初期ニューウェイヴに目覚めてラモーンズやクラッシュ、もうちょっと後にはザ・キュアーやストーン・ローゼズを聴いてたね。ベースを弾くようになったのは、昔から音楽を聴いてると必ずベースの音が気になってたから。ヒップホップを聴いてた頃、一番気に入ってたのはグランド・マスター・フラッシュの“White Lines”のベースラインだったし。それから、ポップ・ソングだけど、ネーナの“99 Luftballons”のブレイクの部分が好きでね。あれは実際にはキーボードなんだけど、僕はてっきりベース・ギターだと勘違いして(笑)「このベース最高だなぁ」って思ってた。

そのようにして育ったみなさんが、どういう風に出会って、このバンドを結成することになったのでしょう?

Steve:今ここにいないドラマーのマイクと僕とで、ハイスクールの時にいっしょにプレイし始めたんだ。だから14〜16歳の頃かな。その後、デイヴには音楽仲間募集の掲示板を通して出会った。で、シャノンとは同じ職場で働いていたんだよ。

Dave:僕らしばらく3ピースのバンドとして活動してたんだけど、スティーヴがシャノンと知り合って、シャノンが録音機材を持ってると分かったんで、彼のところでレコーディングさせてもらってたんだけど、そこですごく意気投合して「バンドに入ってもらわなければ」って、みんなで思ったんだよね。それで無理矢理ギターを弾かせた、と(笑)。

なるほど。確かデイヴだけがニューヨークの街中に住んでいて、他の3人はちょっと離れたところから引っ越してきたって話なんですけど、そもそもニューヨークに出てきた理由はなんだったのでしょう?

Steve:デイヴに会うためさ。

(笑)。バンドをやるために都会へ出てきたということですか?

Steve:それもあったし、ニューヨークの大学に入ったガールフレンドについて行った、ってこともあったし。

やってきてみて、ニューヨークの音楽シーンについてはどう思いましたか?

Steve:僕はひどいと思ったよ。気の合う仲間を捜すのにすごく時間がかかったね。

それでメンバー募集の広告を出したんですか?

Steve:いや、僕が広告を出したんじゃないんだ。デイヴが掲示板に名前を出してて、“bass”って書いてあって。音楽をやる仲間のみならず、普通につき合う友達を見つけるのに苦労してた時だったから、その単純明快な広告に魅力を感じたんだよ。

ここ最近、日本でも「ニューヨークの音楽シーンが熱い」とかいう風に言われてますけど――

Steve:僕らのおかげだから、後で感謝してくれればいいよ。

(笑)。実際には現地ではどういう状況なのでしょう?

Steve:フーム。いや、実際にはニューヨークの中にいるより外にいることの方が多いんだけどね。今現在は。

Dave:ニューヨークって本当に巨大な都市だから、常にバンドの数も半端じゃないんだよね。その中でいいバンドを捜すのは簡単なことじゃないんだ。あまりにもたくさんのことが同時に起こってる街だからね。今はニューヨークにとっていい時期で、注目も集まっているけど、僕が興味あるのは、10年後にどうなってるかってことだね。ニューヨークが、じゃなくて、今注目されてるバンドが、ってことだけど。誰がどこ出身かっていうのは大した問題じゃないと思うよ。

じゃあ、あんまり「ニューヨークが熱い」みたいなメディアの盛り上げ方には取り込まれたくないような気持ちがする、っていうのが正直な気持ちなんでしょうかね?

Steve:まあ、どんな風に騒いでもらっても別に構わないと思うけど。

Shannon:10年前のニューヨークだって十分アクティヴであったわけだし。常にいろんなバンドは存在してるんだ。ただ契約されるかどうかの違いだけで(笑)。

なるほど(笑)。では、アルバム『ザ・ストレンジエスト・シングス』について質問します。すごくいい曲がいっぱい入ってますけど、作曲作業はどういう風に進められるのですか?

Steve:曲によって違うんだ。僕が作ってきた曲を彼らが聴いて気に入れば、それを元に仕上げるけど、逆に、僕以外の3人でジャムってるうちにできてきた曲を元に、僕が歌を考えて、メンバー全員で仕上げるものもある。時にはシャノンかマイクがアイディアを持ってきて、それを元に作ることもあるよ。いろんな方法があるんだよね。

では、スティーヴがほとんど書いて持ってきた曲と、みんなでジャムりながら作った曲の、それぞれ代表的なものを、アルバムの中から教えてください。

Dave:うん、“タイダル・ウェイヴ”はスティーヴの曲。“ウェイク・ミー・ホエン・イッツ・オーヴァー”はみんなのコラボレーションで作った曲だね。

なるほど。歌詞はどんなタイミングで書かれるんでしょうか?

Steve:んーと、自分で書いた曲の場合は、長い間寝かしておいたりしながら、ゆっくり歌詞を作ってるけど、みんなで一緒に作る曲の時は、なるべく短時間で書いてしまうようにしてるんだ。僕が歌詞を考えてる間、みんなに何度も何度も同じ曲を演奏してもらうのはハードだからね。

ちなみに、アルバムに歌詞カードがついてないんですけど、これはあまり詞を読んで欲しくないような気持ちがあったりするからなんですか?

Steve:アハハ。それって先のことをよく考えてなかっただけでね。日本でアルバムが出るとは思ってなかったんだよ(笑)。

Dave:歌詞カードがないことが問題になる国はここだけのようだし(笑)。

Steve:いや、シャノンが他のところでも言われたらしいよ。

Shannon:ああ、ファンの人からね。言葉の壁があるとは思わなかったんだ。スティーヴの歌い方って、結構クリアに発音してる方だから、歌詞を印刷する必要はないと思ってたんだけど。

Steve:内ジャケットに写真を入れる方が大事だったってことなんだ(笑)。

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