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ライヴの場において、アルバムをどのように再現するかという点で特に気をつかっているようなことがあれば教えて下さい。 Oktopus:機材は、ラップトップ、サンプラー、ターンテーブルといったベーシックなものばかりだな。サウンド・システムが完璧だったらアルバム以上の音が出せると思う。俺達のサウンドはノイズが多いし、ライヴにはもってこいだからね。つまりライヴってのは音を鮮明に再現するというより音圧や音量の世界だと思ってる。アルバムを聴けば曲が何十層にも分かれているのに気づくだろうけど、ライヴは全く別の体験になるんじゃないかな。アルバムをそのまま再現しようとするバンドも多々いるけど、俺達の場合、ライヴはラウドでヘヴィ志向、アルバムは微妙な音の変化を楽しめるように作ってる。そっちでは何十回も聴いて初めて気付くなんてことも十分有り得るんだよ。 なるほど。ちなみに、スティルがレコード・プレイヤーのアームに向かって口を近づけて叫ぶ技を披露していましたよね。あれを始めたきっかけは? Still:偶然なんだ。以前クラブで回してた時、友達に話しかけようとしたんだけど大音響で全然気付いてもらえなくて。その時、そういやレコード針ってマイクになるよなって思い出して、針に向かって思いっきり「おい、ジャケット取ってきてくれよ!」って叫んだんだ。それを聴いたオクトパスがすぐ駆け寄ってきて「こんなの初めてみたよ! 今度は音作りの時にも試してみろよ」って薦めてくれた。ちょうどそこにはギターのディレイ・ペダルもあったんだ。俺は歌が得意じゃないんだけど、ディレイがあれば聴けるぐらいにはなるしさ。 それにしても、様々な音が組み合わさった非常に個性的なサウンドを出していると思うのですが、いわゆるヒップホップだけではなく、ファウストやマイ・ブラディ・ヴァレンタイン、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドといったバンドもお好きだそうですね。彼らのようなロック・バンドのどういったところに刺激を受けていますか? Oktopus:マイ・ブラディ・ヴァレンタインに関して言えば、まさに音の壁というような、そのミックスが素晴らしいと思う。美しいノイズを使って最高のメロディーを作り上げてる。ファウストは常に新しいことをやってる姿にすごく刺激されてる。どの曲を聴いても全く別のアーティストが作ったかのように個性に溢れていて、1曲に5曲分のアイディアが詰まったような曲なんてのもあるんだ。それも、きっと2年前にはすでに思いついてたメロディーなんだろうって思うよ。バンドを始めた当初から自分達の信念を守りながら今でも活動を続けているなんて素晴らしいね。 そうした人たちの音作りを参考にすることはありますか? Oktopus:ミュージシャンとしては、ミックスの手法を参考にすることもある。音楽ファンとしては、彼らの音作りがすごく好きなんだ。ジャンルなんてのは関係ない。エクスペリメンタルであろうが、クレイジーであろうが、楽曲ありきなんだよ。 過去のツアーでは、ヒップホップ以外のアーティスト──例えば、アイシスやメルヴィンズ──と共演したという話を聞いてます。あなた達としても、ヒップホップ・シーンよりむしろ、そっち側の方が自分達の居場所だという自覚があるのでしょうか? Dalek:アイシスやメルヴィンズだけじゃなく、バンドを結成した当初から色んなジャンルのアーティストとツアーがしたかったし、そういう話があればいつでも参加したいと思ってる。実際これまでにも、KRS-One、デ・ラ・ソウル、メルヴィンズ、アイシス、マイク・パットンといった様々なアーティスト達と対バンしてきたんだ。俺達はあらゆる人々に向けたライヴを演りたいと思ってる。仮に、最初はオーディエンスに歓迎されていないような雰囲気の中でも、ライヴ後には半数が俺達のファンになってる、そういうステージが好きだね。あれは最高の気分だよ。 では、これまでライヴ出演してきた中で、居心地が悪い思いをしたとか、逆にスカッとした経験について教えてもらえますか? Dalek:メルヴィンズとのツアーではライヴ後に俺達のファンになってくれたキッズが結構いたな。ステージで居心地が悪いと感じたことはないけど、デトロイトでのライヴは印象に残ってる。オーディエンスから嫌悪されてるのが伝わってきたんだ。おまけにギャングスタ系の奴がステージに上がってきてパフォーマンスの邪魔をしようとしてね。俺はそいつを止めようとしながらマイクを離さずにずっとラップを続けてた。スティルの方にも向かっていったけど、途中でセキュリティーに捕まってたな。で、ステージ終了後には、同じようなギャングスタの格好した連中から「最後まで演奏をやり遂げたのはリスペクトに値する」って言われたんだ。 Oktopus:俺達のリスナーは、特定のジャンルやシーンにこだわらない「音楽」そのもののファンなんだと思う。だからメルヴィンズであれKRS-Oneであれ、テクノ・アニマルであれ同じように聴いている。中には特定のジャンルやシーンを好む人達もいるんだろうけど、他にもシガー・ロスやマッシヴ・アタック、マリリン・マンソンのファンだっているんじゃないかな。とにかく俺達は全ての音楽ファン層に向かって演奏し続けたい。DALEKはどのシーンにも属してないし、トレンドとも無縁なんだ。でもどんな状況であれ、俺達のサウンドを気に入ってくれるオーディエンスは必ずいるはずだよ。例えばソニック・ユースのオーディエンスだったら9割方は耳を傾けてくれるだろうね。1割はギターや特定のサウンドやノイズを気にする人達じゃないかな。 「どのシーンにも所属しない」というのはとても力強い言葉ですが、孤立感を感じることはありませんか? Oktopus:もうないね。9年前は、最初100人いたオーディエンスが最後には4人しか残ってないなんてこともあって、孤立感を味わうことも多かった。でもこうして音楽を続けていく中で、徐々にデッド・ケネディーズ、ジーザス・リザード、プリンス・ポールといったアーティスト達からリスペクトされるようになれたんだ。ジャンルの垣根を越えて、ジャズ、アバンギャルド、メタル、ハードコアといった各ジャンルのバンド――どんなに無名でも、そのジャンルにおいては先駆者的存在だったりする人達なんかが俺達をサポートしてくれるんだよ。 Dalek:覚えてるのはロスでのライヴで、オーディエンスがジェロ・ビアフラ、メルヴィンズのメンバー、アイシス、Nels Cline、それにキッズが3人だけってことがあった。でも俺からしてみれば、最も重要なアーティスト達である彼らがオーディエンスだったってことになる。オクトパスも言ったように、彼らのようなミュージシャンからリスペクトされるのは光栄だよ。それにシーンやジャンルは自分達の手で作り出していけばいいと思ってるから。 そこで頑張ってこれたのは、他アーティストからのサポート以外には何がエネルギー源になってきたと思いますか? Dalek:純粋に音楽が好きなんだよ。家に帰っても常にビートを考えたり、リリックを書いたりしてるからね。趣味だったのが、今では仕事にもなってるけど(笑)。ツアーに出てなくてもどっちみち家で機材をいじりながら曲を作ってるだろうし。 さて、最新作『アブセンス』が出たばかりですが、この次に作りたいと思っているサウンドのヴィジョンが見えているようでしたら教えて下さい。 Dalek:実はもう次回作に取り掛かってるんだ。『アブセンス』とはかなり違って、もっとメロウだよ。 Oktopus:ああ。ノイズなしで、アンビエントやダブっぽい雰囲気に仕上がると思う。モートン・フェルドマンやフィリップ・グラスに近い感じだろうな。『アブセンス』は変化に富んだ楽曲ばかりだったけど、次のアルバムは動きを少なめにしてるんだ。 Dalek:アルバム毎に雰囲気を変えていきたいんだよ。自分達が常に楽しめる音楽を作りたいね。だからこそこうして今でも新しいアイディアやサウンドを探求し続けていられるんだと思う。 分かりました。次の作品にも期待してます。そして次回の来日も待ってます。 Oktopus:ありがとう! Dalek:また日本に戻ってくるのが待ちきれないよ。
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