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マイク・パットンのレーベル=Ipecacからアルバムをリリースしていることからも分かる通り、ダイアレックは所謂ヒップホップ・アーティストの中では極めて異色の存在だ。ギャングスタなノリとは無縁の彼らがクリエイトする独創的なサウンドに関しては、以下のテキストに名前が出てくる「共演バンド」や「影響を受けたバンド」を見ただけでも、どれだけ規格外であるかが想像できるだろう。2005年の春に行なわれた初来日公演も圧倒的だった。ドクター・オクタゴンやブルーハーブなどが好きな方には是非チェックしていただきたい。 「俺達はあらゆる人々に向けたライヴを演りたいと思ってる。最初はオーディエンスに歓迎されていないような雰囲気でも、ライヴ後には半数が俺達のファンになってる、そういうステージが好きだね」 先週、あなた方のレーベルのオーナーであるマイク・パットンさんに電話インタビューをしたんですが、その時に彼から日本滞在中のあなた方への伝言を預かってます。まず「納豆を食え!」、それから「マムシ酒を呑め!」。 Oktopus:なんでいつも俺たちの食生活を気にするんだ(笑)? Dalek:変わり者だからな(笑)。 では、あらためまして初来日の感想を聞かせて下さい。 Dalek:何もかも最高だよ。期待していた以上にね。スタッフは勿論、オーディエンスも素晴らしいし、それにサウンドシステムや共演したバンドも最高だった。 Oktopus:「日本はスゴい!」っていう話は、アメリカやヨーロッパのバンド仲間から何度も聞いてたんだ。でも想像を遥かに超えてスゴかったよ。日本のスタッフはショウに対するプロ意識が高いね。おかげで全てがスムーズだった。 ちなみに、スティルは以前にも日本に来たことがあるという話をうかがったのですが? Still:ああ、ホームステイで2回ほど。もうかれこれ10年振りになるかな。 「アーティスト」として久々に訪れた日本はいかがですか? Still:今回、1週間ほど滞在できて良い経験になったよ。アーティストとしては絶対に最高のライヴを演るって決めてたんで、実現できて嬉しい。それに以前来日した時はまだ子どもだったからね。大人になって経験する日本は見るもの聞くものがどれも新鮮だった。 具体的な違いを例に挙げてもらえますか? Still:前回はひどいカルチャーショックを受けて「クレイジーな別世界だ」って印象が強かったんだ。でも大人になって改めて来日して感じたのは、別世界ってより、クールな文化を持つ素晴らしい国だってことだったね。 新宿LOFTでの深夜のライヴを見せてもらったんですが、本編の前にオクトパスのDJセットがありましたよね。そこですごく印象的だったのが、The Dillinger Escape Planがかかった時に観客が異常な盛り上がりを見せていたことだったんです。これは明らかに普通のヒップホップの客層とは違うってことを実感したんですが、あなた達としては、日本のオーディエンスに対してどんな感想を持ちましたか? 何か違和感があったりはしませんでした? Oktopus:いや、違和感は全くなかった。地元で回してるみたいな気分だったよ。ニューヨークやニュージャージー周辺の人間なら分かると思うけど、あの辺りは様々な人種が共存してるから、アートや音楽を含めた異文化交流は当然のことなんだ。だからヒップホップ好きがレゲエを聴くのは自然だったし、パンクならダブの存在を知ってレゲエ・ファンになるとかも当たり前のことだった。代表的なアーティストはBurning SpearやThe Slitsだね。それにメタルとパンクのクロスオーバーなんてのもあったな。とにかくあの周辺の人間はどんな音楽でも聴いてたんだよ。それに俺としては、ここ8年間ほどヨーロッパでのDJセットでは必ず色んなジャンルの音楽をミックスするようにしてた。俺自身、そういった音楽の中で育ったわけだし、ヨーロッパでは「アメリカの音楽」として受け入れてもらえると思ったんだ。アメリカほどジャンル分けされてないだろうって読みもあったしさ。だから日本もヨーロッパのオーディエンスに近いんじゃないかって気がしてたよ。たとえヒップホップ・ナイトに集まったとしても、彼らはブロンクス育ちのキッズじゃない。どんな形にせよ、アメリカの音楽に触れたことがある人達ばかりだと知っていたし、ストゥージズやPapo Trios、それにThis Heatやファウストなんかをかけても盛り上がるって思ってた。どれもポップ・ミュージックには変わりないからさ。まあ、アメリカのヒップホップ・ナイトではそこまで雑多には出来ないな。でも日本でのDJは想像以上に上手く行ったよ。 言葉の壁を感じたりとかは? Oktopus:多少はね。フランスやイタリアでも英語を話せる人はあまりいないけど。 Dalek:みんなとコミュニケートする上で足かせにはなってるだろうな。 Oktopus:特にファンの子達が感想を伝えに来てくれても上手く話せないのがもどかしいね。「The Dillinger Escape Planとウータン・クランをかけてくれてありがとう!」って言われたら、「こちらこそ、俺達の音楽を聴いてくれてライヴに足を運んでくれてありがとう」って感謝の気持ちを伝えたいんだ。でも言葉のせいで、こっちの気持ちが伝わらないんじゃないかって感じることもあるよ。お互いの言語をもう少し話せれば解消されるのかもしれない。 DALEKの書く歌詞は、社会的なテーマを取り扱っていながら「大統領クソったれ!」といったストレートな言葉にはならずに、もっと詩的な表現になっていますよね。聴いた耳ですぐ理解するというより、むしろ歌詞カードをじっくり読むべきというか、そういう意味では逆に日本人にも解釈可能なんじゃないかとも思ったんですが、あなたのその独特なライムの内容はどんなふうにして培われてきたものなんでしょう? Dalek:さあ、自分でもよく分からないよ。初めてリリックを書いたのは15歳の時で、そりゃもう酷いなんてもんじゃなかった(笑)。それを続けてきて、29歳になった今だからこそ書ける内容じゃないかな。俺はKRS-OneやチャックDに影響を受けてるんだけど、彼らの初期作品の方が俺よりもっとストレートだったね。それに文章面でいえば、ジャック・ケルアックやアレン・ギンズバーグといったビートニク作家にも影響されてる。でもラップを始めた頃から現在に至るまでの間で自然に身についたんだと思う。自分が言いたい、吐き出したいことを最適な形で表現したいからね。それに最近は、チリ出身の詩人でパブロ・ネルーダの作品も読んでる。 ビートニクというと、他にウィリアム・バロウズもいますよね。 Dalek:そう。1stアルバムの曲では、彼の声をサンプリングしたんだ。リスペクトを込めてね。 なるほど。では次に、トラックの作り方についてなんですが、おそらく普段はリズムやビートから始めるのだと思いますが、時には音色の響きやリリックのモチーフから先行して曲を書き始めることもあったりするんでしょうか? Dalek:ソングライティングのプロセスについてよく質問を受けるけど、これといって決まった形式はないんだ。まず俺がリリックやコーラス部、ベーシックなリズムを作って、それをこの2人に渡す。そしてこいつらがそこに手を加えたり削除したりって具合に、最終的に全員が納得できるまでその作業を繰り返す。ビートやベース、ドラムからアイディアが生まれてくることもあるし、君が言ったように音質がきっかけになる場合もあるね。 どんなものにインスピレーションを感じて曲を書くことが多いですか? Dalek:日常生活からパーソナルな出来事まで様々だね。自分の周りで起きている出来事に対する俺なりの意見をリリックにのせるんだ。アートってのは、人生にインスパイアされて生まれるものなんだよ。ありきたりな言葉かもしれないけど、本当だよ。
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