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最初にインタヴューさせてもらったのは、『The Ugly Organ』を出したばかりの頃で、それが本国ですごく評価されていた時期だったので、まさにイケイケの状態だろうと予想していたら、「もう目標を達成してしまって次に何をやったらいいかわからない」みたいな発言が出てきて、ちょっとびっくりしてしまったことをよく覚えています。その後ザ・グッド・ライフをやって、カーシヴは一旦お休みだ、という感じになっていたと思うんですが、次に何をやっていいのかわからない、というような状態から、またカーシヴで『Happy Hollow』が作れるまでの状態に持っていくのに、どういった心の動きがあったのか教えてもらえますか?

Tim:けっこう長い期間、カーシヴとしての活動を休んだわけだけど、『The Ugly Organ』の後で過ごしたその期間に僕は、状況に対処できるだけの“成熟”を身につけようとしてた、とでも言うのかな。一般に正しいと認められていること――たとえば成功とか――を自分が経験することに対して、納得ができるまでに成熟しようとしてたんだと思う。成功って、アーティストとして最初に達成したいことじゃないかもしれないけど――だって、アーティストとしてはやっぱり、自分が言おうとしていること・やろうとしてることを、できる限り正確に伝えたいってまず思うもので、それこそがアーティストとして最初にやりたいと思う“べき”ことなんだけど、でも……それと同時に「リスナーの心に響いてほしい、みんなに共感してもらいたい、社会や文化の中で共感を得たい」とも考えるようになるものなんだ。『The Ugly Organ』の後の経験は、ソングライターとしての、あるいは単純にライターとしての成長の過程だったと僕は感じてるよ。ああいう大当たりを取ったのって、ホント生まれて初めてだったんだよね――あんなヒット、経験したこともなければ、まさか自分がモノにするなんて思ってもいなかった。だから、そういう状況を自分の中で受け入れるのに時間がかかったんだけど、でもおかげで今はずっと成熟したように感じるし、それに、自分の成功を当然のことだと思っちゃいけないとも感じてる。成功を利用する必要もないし、当然だと思ってもいけないんだ。だって、あれは……贈り物だったんだからね――他人にも共感してもらえる作品が書けるっていう、類まれな贈り物だったんだよ。というわけで、そんなことを考えながら――ありのままの自分でいられて、自分が作る音楽に自信が持てるような場所を探しながら1年近くを過ごして、戻ってきたのが『Happy Hollow』だったんだ。そしてそこで辿り着いた気持ちが「とにかく音楽を作り続けたい」というものだったんだよ。しかも、さっき話した“共感”の部分をもっと大事に思いながら書きたいっていう気持ちにもなっていた。自分の書いた曲が聴き手の心に響いてほしいと、より強く願うようになっていたんだ。最初は何度も「これでよかったのかな?」って思ったけどね――「自分自身に忠実じゃないことをやったんじゃないか?」ってさ。でもそのうち「自分は決して道から外れたことはやらなかった」って確信できた。実際、道から外れたことは今まで一度もないと自負してる。どんなソングライティングの道筋からも、外れたことはないと思ってるよ。僕にとっても他のメンバーにとっても、とにかく重要なのは、何よりもソングライティングで妥協をしない、ということなんだ。でも成功をきっかけに、本当に自分に偽らずにやってきたかどうか疑問に感じてしまうこともあり得る、ってわけ。

なるほど。そんなふうに考え方を前向きに変えられたのには、キュアーのCuriosa Tourに参加したことが、ひとつのきっかけになっていたりしませんか?

Tim:Curiosaの話は、僕らにとってすごくユニークなタイミングでやってきたんだ。だから……ソングライターとしての僕自身に対する影響っていうのは、そんなになかったんじゃないかな。それまで僕らはツアーのやり過ぎ状態で、前の年から2年間ずっと『The Ugly Organ』のプロモーション・ツアーでかなりキツい思いをしてたから、Curiosa Tourのオファーを受ける前に、すでに無期限で休みをとろうって話も出てたんだ。ありとあらゆるものから解放されたいと感じていたわけ。だから、あのツアーに招待されたときは、「もうツアーはやらないつもりでいたけど、キュアーのオープニングがやれるチャンスを辞退するなんて、あまりにももったいなさすぎる」という気持ちで引き受けたんだ。実際、あのツアーは最高に楽しかったよ。だって、プロモーション目的じゃまったくなかったからね。もちろんレーベル的には、まさに絶好のプロモーションのチャンス、って感じだったんだろうけど、でも僕たちの方はその前に「プロモ・ツアーはもうコリゴリ」って心から感じていて、そしたらCuriosaの話が来たんで「せっかくだから参加してとにかく楽しもう」って気分だったんだ。僕らにしてみたら、それこそ「バンドとしてこれが最後の活動かも」っていう思いもあった。実際、あの後で長い休みに入ったわけだしね。そういうタイミングだったせいで、Curiosaではひたすら楽しんだよ。「カーシヴの幕の引き方としては、これって素晴しい方法かも」って、僕なんか密かに思ってたしね。毎晩キュアーのステージを観て堪能しまくったし、自分たちのライヴもすごく楽しめた。メンバー全員、何の負担も義務も感じてなかったから。『The Ugly Organ』に関してやれることを全部やって、「もう休みたい」と思ってたのを考え直して参加したわけで、まさにほとんどヴァケーション気分だったんだ。それまでの2年間――というより8年間――必死になって働いたその労苦が、やっとこの2週間で報われるんだ、みたいなさ(笑)。だから頭の中も空っぽの状態で、プレッシャーもまったく感じずにステージに上がって、その時間をとにかく楽しんでたよ。

なるほど。ちなみにキュアーは、今年のフジ・ロックに出るんですよ。

Tim:え、そうなの?

ええ。カーシヴも一緒に出るといいなあと思ってたんですけど(笑)。

Tim:ああ、僕も出たかったよ(笑)。キュアーは新譜がらみで来るの?

いえ、新譜はありませんが、今回23年ぶりの来日になるんです。

Tim:ワオ……きっと楽しいだろうな。彼らはツアーの達人だからね。さっきも言ったように、僕もCuriosaの間、毎晩ステージを観てたし。

カーシヴも、この後ツアーをやるようですが、先日の来日公演でも叩いていた元エンジン・ダウンのコーンブレッド・コンプトンが、ドラマーとして参加することになってるんですか?

Tim:そうだよ。

彼が加入することになった経緯について、教えてもらえますか?

Tim:僕たちが長年ツアーで回ってきたうちにできた、アメリカン・インディ・ロック・シーンの仲間のひとりだよ。彼が以前やってたエンジン・ダウンは、シーン周辺でもとても尊敬されてるバンドで、実際すばらしいバンドだったんだ。マット(コーンブレッド)自身も、シーンの中で第一級のドラマーとして高く評されていて、「エンジン・ダウンのライヴを観に行くと、ずっとマット・コンプトンのドラムに釘付けになってしまう」って、みんなよく言ってたな。とても個性的なドラミングをするんだよね。カーシヴは、エンジン・ダウンとも長いツアーをやったことがあるし、メンバーたちとも親しくなったんだけど、初めての出会いってことで言うと、もう何年も前にエンジン・ダウンがオマハでライヴをやったことがあって、僕もエンジン・ダウンはすごく好きだったから当然観に行って――40人ほど観に来てたかな。で、その夜はメンバーを家に泊めてあげて、一緒に映画も観に行ったんだ。それでマットとも仲良くなって――たぶん2001年か2002年頃だね――それから一緒にツアーをやって、本当の意味で友達になって……で、クリントが辞めたいと言ってきたとき、最初に頭に浮かんだ候補がマットだったわけ。

で、この後の本国でのライヴなんですが、マストドン、アゲインスト・ミー、ディーズ・アームズ・アー・スネイクスと、なかなか強烈なメンツと回ることになってますよね。このツアーに参加することになったいきさつについて、教えてください。

Tim:マストドンからオファーがあったんだ。最初はすごく意外な感じがしたよ。だってマストドンはすごくアグレッシヴで、それこそヘヴィ・メタルって言っていいバンドだからね。

ええ。

Tim:だから最初は正直「なんで僕たちが?」って、引いちゃった。別に、マストドンが嫌いだからとかじゃないよ。以前に会ったこともあったし、実際それが、参加するかどうかを決める上で、重要なファクターになったね。すごく尊敬すべきバンドだと思うし、信じられないくらい素晴しいミュージシャンだし、実際会ってみると、本当に誠実な連中で本物のアーティストだった。アゲインスト・ミーにも会ったけど、連中も人間的にすごくいいやつらで、それこそが僕らにとってすごく重要なことだったんだよね。確かにこれまで色んなバンドからツアーのオファーを受けてきたけど、僕らとしては、付き合う相手としてそのバンドに違和感を感じないかどうかが、すごく重要になってくるんだ――人間的に付き合うのにふさわしい相手と、やっぱり付き合いたいからね。そういう意味ではマストドンもアゲインスト・ミーも、本当に尊敬できるバンドだと思う。ただし、彼らがヘヴィ・メタル・バンドだというのはまた別の話で(苦笑)、だから「これって本当に得策なんだろうか?」って考えなきゃならなかった。でもそこで、実は彼らがいろんな要素を含んだツアーをやりたがってる、ってことを知って……実際に僕が受けた印象も、マストドンは「いわゆるヘヴィ・メタル・バンド」にはなりたくないヘヴィ・メタル・バンド、って感じなんだよね(笑)。僕には彼らの代弁はできないけど、ああいう曲を書いてプレイしたいと思っていつつも、だからといっていわゆるヘヴィ・メタル・カルチャーの一員になりたいとは必ずしも思ってない、っていうのかな。実際プレスの反応を見れば一目瞭然というか、ヘヴィ・メタル・バンドの中でもダントツで高い評価を受けてるし、批評家もみんな気に入ってる。だから観に来てる観客も、必ずしもヘヴィ・メタルっていう特定ジャンルのファンというより、音楽全般を愛するファンなんだと思う。もちろんすごく悩んだし、「アグレッシヴでラウドな音楽しか受け付けない、偏狭なオーディエンスに出くわしたらどうしよう」って、いまだにナーヴァスになるけど(苦笑)、やろうって決めたわけだし、いい経験になるだろうし、それに実際、みんながすごく話題にしてくれてるのは嬉しいよ――巷でもやっぱり「なんでこいつらが一緒にツアーを?」っていう話で持ちきりだからさ。

なるほど。

Tim:みんな、いい意味で珍しがってくれてるみたい。

LAのウィルターンでスタートして、2日目がサンフランシスコのウォーフィールド、僕はどっちの会場も行ったことあるんですが、あのハコでこの4バンドがライヴをやるって想像しただけでスゴい状況だな、と実感できます。それに比べたら、一昨日のマキシマム・ザ・ホルモンとビート・クルセイダーズとの共演なんて、屁でもないですね(笑)。。

Tim:この後のツアーでも、それなりの人数のカーシヴ・リスナーが来てくれたら、と思ってる。カーシヴとマストドン両方のファンが来てくれるのかどうなのか、っていうのは僕にも予想がつかないけど、マストドンってさっきも言ったように、普段ヘヴィ・メタルを聴かない人でも聴ける、ユニークでスペシャルなヘヴィ・メタル・バンドだと思うんだ。ヘヴィ・メタルよりもむしろインディ・ロックの世界の住人、っていうのかな。ま、それでもやっぱりジャンルが特定されがちなタイプの音楽ではあるけど、でもサポートの意義ってそれがすべてというか。だから一昨日の晩も、マキシマム・ザ・ホルモンやビート・クルセイダーズのファンの前でプレイできたのは、すごくいいチャンスだったと思ってる。カーシヴの音楽には馴染みのない人たちが多かっただろうし、マキシマム・ザ・ホルモンやビート・クルセイダーズのみんなも、僕らを2番目に出してくれて、オーディエンスに紹介までしてくれるなんて、ホント親切だよね(笑)。オーディエンスもすごく熱心だったし、サポート・バンドとしてはまたとないチャンスをもらったと思ってるよ。この先の1ヵ月間のことも、同じように考えてる。僕ら自身、もちろんしょっちゅうヘッドライナーを務めてるけど、いつもトリを務めてるバンドは、新しいリスナーを開拓しづらいってことを、常に考えてなきゃだめだと思う。すでにファンであるオーディエンスを満足させるだけで、終わってしまいがちだからさ。だから今度のツアーも、他のバンドのサポートをやることで、願わくは新しいリスナーを開拓する、いいチャンスにできると思うよ。

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Cursive(Tokyo, 2005.11.14)
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