|
スペースシャワーの番組が主催したイベントに参加するため、緊急来日したカーシヴ。オリジナル・ドラマーのクリント・シュイネスが脱退してしまっていたのには驚かされたが、クリントに負けないほど素晴らしい新ドラマー=コーンブレッド・コンプトン(ex.エンジン・ダウン)のプレイも素晴らしく、これまでと全く遜色のないパワフルなライヴにぶっ飛ばされた。その後9月には、ザ・グッド・ライフとしての新作『Help Wanted Nights』もリリースしたティム・ケイシャーに色々と聞きました。 「Curiosaに参加した時は、『カーシヴの幕の引き方としては、これって素晴しい方法かも』って密かに思ってた」 日本に来るのは、これでもう6回目になると思うんですが。 Tim:そのはずだけど、忘れちゃったな。でも、うん、多分そうだと思う。 6回ともなると慣れてしまって、だんだん面白くなくなってきたのでは? Tim:んー……確かに今回来るときはそんな感じだったね。でも、日本が初めてっていう人間が一緒だと、新鮮さがよみがえってきていいもんだよ。今回も、新しいサックス・プレイヤーとマットのワイフのロザリンが日本初体験なんだけど、一緒に散策してて楽しいんだ。実際、東京って本当にいろんなことができる街だから、自分でもいろいろ見たりやったりできるはずなのに、毎回忙しくて何もしないまま終わっちゃうんだよね。今回も日本に来るまでものすごく忙しくて、そんなこと考える暇もなかったっていうか、実際、オフ日があるってことすら知らなかった(苦笑)。ずっと、ザ・グッド・ライフのレコーディングで昼も夜もなく仕事して、その合間にLAへの引越しの荷造りをするって状態で、とにかく忙しかったんだよ。オフがあるとわかってたら、絶好のヴァケーションになったのにって後悔してる(苦笑)。 (笑)。ところで、カーシヴでの来日4回だけを考えても、常に前回と編成が違っていて、チェロが入ったり、4人だけのときがあったり、ホーンが入ったり、今回もドラマーが変わっていましたよね。毎回見逃せないなと改めて実感したんですが、これはやはり「常に違うことをしていたい」という、あなたの強い気持ちの表れなんでしょうかね。 Tim:まあ、今回のドラマー交代に限って言えば、変えたのはわざとじゃないよ(笑)。クリントとも、これからだってずっと楽しくプレイできただろうと思うしね。でも彼はそうする代わりに、奥さんと人生の次のステップに進んで子どもを作ろうと決断したわけで、僕たちもそれを尊重して心から喜んで彼を送り出したんだ。クリントと一緒に過ごした数年間には、本当に感謝してる。で……毎回それまでとは違ったバンドで日本に来てるって、自分では意識したこともなかったけど、言われてみれば確かにそうだね。日本に来るたびに、ステージに上がるメンツが様変わりしてるものね。 ええ。1回1回が貴重な体験です。 Tim:カーシヴがそういうタイプのバンドになるなんて、思ってもいなかったというのが正直なところだよ。逆に、グッド・ライフはそういうバンドになりそうな予感がしてたのに、気がつくと今のラインアップで安定してた。でも、僕はそうやって毎回変えてしまうタイプなんだって、自分で気づいてもおかしくなかったとも思う。というのもレコーディングに関しては「前のアルバムの延長にならないように自分たちにできることは何でもやりたい」って、いつも言ってるんだよね。実際、前のアルバムの続編みたいなものは作らずに、他とは比べられない独自の“いのち”を持った作品を作ってきたつもりだし。図書目録じゃないけど、曲を聴くと「あ、これは『Domestica』の曲かな」とか「これは『The Ugly Organ』の曲だろう」ってすぐに想像がつくような、その作品ならではの際立った特徴を持ったアルバムを、毎回作りたいと思ってるんだ。だからその結果として、ライヴでも、いろんなラインナップでやってきたんだと思う。でも意図してやってるわけじゃなくて、「確かに、言われてみれば毎回違うバンドで日本に来てた」って、自分でもビックリっていうのが正直なところなんだけど。カーシヴはむしろ変化の少ないバンドだって思ってたけど、実はそうではなかった、ということだね。 ちなみに、日本でだけ4人でやってくれたときの貴重なライヴ音源を何で盗み録りしておかなかったんだろう、って、今になってすごく後悔してます(笑)。 Tim:確かに21世紀に入ってからは、4人でやったのはあのときだけだからね。もちろん、バンドを始めて最初の4〜5年間は4ピースだったわけだけど……。確かに、あの4人でやったショウは楽しかったな。 しかも、あの時点で『Happy Hollow』の曲を演奏してくれましたから。 Tim:確かに。 いちばん最初に対面でインタヴューしたとき、あなたは自分のことを「自己破壊的な性格の持ち主だ」、つまり「ひとつのものごとを長く続けられない性分だ」と言ってましたけど、カーシヴのサウンドに常に変化を求めているというのも、あなた自身のそんな性質と関連あるのかな、と思ったのですが? Tim:ああ、確かに。これまでどうにかアルバムを作り続けてこられたのは、毎回アルバムを作るたびに「もう一度新しく作り直したい――次のアルバムに進んでいいんだ、自分自身が心底信じられるようなものを再度作り直したい」と感じてるからなんだ。新鮮なことをやってるように見えるのは、そういう気持ちで作ってるせいなんじゃないかな。しかも僕にとっては、カーシヴとしてそれをやる必要があるわけ。カーシヴでそれをやってるからこそ、グッド・ライフではもうちょっと自分に寛大でいられるというか、グッド・ライフでは目指してるアルバムのスタイルっていうのが安定してるから、そこから敢えて外れたことをやる必要がないというか、常に同じ道の上にとどまっていてOKなバンドなんだよ。でもアーティストとしては、もしもう一方のカーシヴをやってなかったら、そこまで精神的にリラックスした状態でグッド・ライフに取り組めてなかったと思う。グッド・ライフの方は、前回実現できなかったものや作ったことがないものを作らなきゃ、っていうプレッシャーもなく、出来上がったアルバムそのままの姿で存在して構わないんだ。 でもグッド・ライフにしても、サウンドだけ見れば相当アルバムごとに変化しているように思いますけど。 Tim:うん、確かに君の言う通りなんだけど、今の話は、特にグッド・ライフの4枚目のアルバムを作り終えた時点の視点から喋ってることなんだ。『Album Of The Year』に関しては自分でも納得がいってるし、実際僕は『Album Of The Year』のときの状況がすごく気に入ってて、今回のアルバムもあそこから逸脱せずに、あれに似たアルバムをまた作りたいと思ったんだよ。だから今回のグッド・ライフのニュー・アルバムのレコーディングは、僕に言わせれば『Album Of The Year』と同じような流れの中で行われたんだ。ただ、『Album Of The Year』と『Black Out』と『Novena On A Nocturn』の3枚が、それ自体で存在してるのも事実だけどね。ダブ/エレクトロニクスなサウンドからもっとアナログでアコースティックなサウンドへ移っていく過程をあの3枚を通して経験して、そして今の自分たちがいる、みたいな感じ。
|