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"Chivaree"という曲は「Kill all the copyrights」という歌い出しで始まりますよね。それにこじつけて質問してしまいますが、現在、音楽業界の問題のひとつである版権ビジネスに関する議論や、インターネット上で音楽データをファイル交換することを規制しようとする動きなどに関して、もし何か意見をお持ちでしたら聞かせてください。 J:あの曲は直接そういうことと関係してはいないけれど、現在の規制の嵐はまるで思想統制していた時代に遡っていくみたいで、本当に恐ろしいね。僕はファイルの交換や共有には大賛成だし、インディペンデントに活動しているアーティストにとって人々に知ってもらえるとてもよい手段だと思っている。本当に音楽が好きな人ならMP3でダウンロードして聴いてみた曲が気に入ればCDを買ってくれると信じているし、損ばかりではないはずなんだ。この「情報の共有」に関わる全てを規制しようという動きは全く信用できない。あと著作権の保護についても僕は納得していないよ。だってこの世に全くのオリジナルなんて存在しないだろ? 必ず何かの影響を受けて、真似をすることから文化が生まれるんだから。ちょっと誰かの歌の一部を唱っただけで、著作権が侵害されるなんて物言いをするのは、実際には金儲け主義以外の何物でもないよ。それは決して「豊かな人生」とか「芸術の保護」を目的としたものではなくて、金を発生させるためだけに作られたシステムだから、本当にヒドいものさ。ちなみに"Chivaree"についても説明しておくと、もともとは去年結婚した友人たちへのお祝いと、今でも自由に生きている友人たちへの賛美を意図して書いた曲なんだ。僕くらいの年齢になると、世間体だとかを気にし始める人が多いけど、幸運なことに僕の周りには、そんなものは気にせずに夢を追いかけ続けて自由に生きている友人や、恋を実らせた友人が大勢いてね。そんな友人たちに囲まれている自分が幸せだと思う気持ちに「著作権はいらないだろ」ってこと。こういう気持ちは誰にだって起こり得るのに、そこに著作権なんかかけられないぜって言いたかったんだよ。ものすごく大きな声で「この幸せを伝えたい!」っていう気持ちを、ユーモラスでちょっと皮肉な感じに表現してみたってわけ。分かるかな(笑)? 分かりました。さて、今作はサウンド・プロダクションの面でも充実した仕上がりになっていると思います。少し前に、あなたが自分のスタジオを作ろうとしているという話を聞いたのですが―― J:実は何軒か気になる部屋があって見には行ったんだけど、まだ手に入れてはいないんだ。というのも、部屋を借りるだけならともかく、スタジオと住居の入ったビルを買おうとしているんで、維持していくことも考えると慎重にならざるをえないからね。近いうちに必ず実行することは間違いないけど、とりあえず今のところは自宅に機材を揃えて、ミックスの作業ができるようにしたよ。そうすることで家にいる時間が増やせるしね。 日本盤には"See America Soon"というタイトルで、"Win Instantry"のリミックス・ヴァージョンが収録されていますよね。以前から「リミックス・ワークにも興味がある」と発言していたあなたですが、これが初めてのリミックス作品ということになるのでしょうか? そして今後、依頼があれば他者の作品のリミックスを手掛けることもありえると思いますか? J:うん、これが初めてのリミックス作品だよ。プロトゥールスを使って、実際やってみたらすごく楽しくてね。いったん曲を細かなピースに分解していって、パズルみたいに最初から組み立て直していく感じだったんだけど、何をどう組み立ててもクールに聴こえてしまうからキリがなかったよ(笑)。最後の方では何だか原曲に対して申し訳ないぐらいの気持ちになっちゃったね。今後もし依頼があったとして、たとえ原曲がカッコ悪い曲だったとしてもリミックスは引き受けるかもしれないな(笑)。で、ときどき客観的になって、「どうしてこんな風にリミックスしたんだろう?」とか「どうしてこのドラム・パターンにしたんだろう?」とか自問自答してしまう時があるんだけど、最近はなるべく自分の直感を信じることこそクリエイティヴィティーに繋がるんだと言い聞かせるようにしてる。もともと僕は考えすぎる質だから、たまには直感に身を任せないとね、その方が純粋に楽しめるよ。 なるほど。ところで、最初にも話していたように、あなたはバーニング・エアラインズが解散する直前くらいから、月に1枚は関連作品がリリースされているのではないかと思うほど、異常なペースでプロデュース活動を行なってきましたよね? 現在のあなたの仕事の様子を教えてください。 J:たった今はキモーンというバンドのミックス作業を行なっている真っ最中なんだ。先月だけでも4組ばかりやったかな。あとこの前、トーンというバンドのレコーディングに関わったんだけど、ギターが5人いたりドラムが2人いたりするインストゥルメンタルのビッグ・バンドで、僕にとっては、とてもよいレコーディングの勉強になった。楽しかったよ。 ここ最近あなたがプロデュースした大量の作品の中で、特に印象に残っている作品は何でしょうか? J:モック・オレンジとパイロット・トゥー・ガナーとマリタイムの作品がとても気に入ってる。ただ、どれもレコーディングしてからリリースまでにもの凄く時間がかかってしまったね。レコーディングが終わってから軽く1年くらいはリリースされなかったと思うよ。 先日そのマリタイムが来日しました。彼らが以前にやっていたプロミス・リングと比べた時の音楽的な変化についてどのような感想を持っていますか? J:すごいな、日本に行ったんだ! 彼らのアルバムは最高だと思う。アメリカでは何故か、プロミス・リングの時のようには注目されていないんだけどね。僕自身もマリタイムのライヴは2回ほど観たけれど、プロミス・リングの頃より遥かによいバンドだと思うよ。 僕も同感です。さて、年内のあなたのスケジュールはどんな感じになっているのでしょう? J:実は、パイロット・トゥー・ガナーのレコーディングをした時に彼らとすごく仲良くなって、「もしよかったら一緒にツアーをやらないか」って誘われてね。だから、秋から始まる彼らのUSツアーのうち3週間くらい一緒に廻る事になったんだよ。機材は彼らのを使わせてもらうんだけど、まずLAまで飛行機で行って西海岸をずっと廻ってから、シカゴとかの中西部の方まで共同でツアーするんだ。その後10月にはエンジンダウンと東海岸を何ヵ所か廻る予定だよ。このEPがアメリカでは9月7日に発売になるから、タイミングもバッチリだしね。僕たちはまだ4回しかライヴしてなくて、この夏も空いた時間は曲作りに集中しようと決めていたから、秋のツアーはとても楽しみだね。 これまでにやったライヴはどんな感触でしたか? J:最初の2回はステージに立つのが怖かったな。僕は2年前にバーニング・エアラインズが解散してから1度もライヴをしてなかったし、ジャネットもイギリスでやっていたショーンベンとしてのラスト・ライヴが3年半も前のことで、しかもそのバンドでは10回くらいしかステージ経験がなかったみたいだから相当緊張していたよ。ダレンも長い事ステージから離れていたんだけど、何故か彼だけは余裕だったな(笑)。けれど、この歳になって10代の頃のようなステージに立つ緊張感を味わったのは、ある意味すごくクールなことだよね。その後の2回は緊張もほぐれて、すごくいいショウができたと思う。NYのブルックリンでやったライヴは特によかったね。お客さんもたくさん来てくれたし、すごく気に入ってくれたみたいだった。今は何よりも僕たち自身がすごく楽しんでるし、だんだん自信もついてきたから、ツアーに出る頃までにはいい感じになってると思うよ。正直に言うと、このバンドについては、最初はお遊び程度にしか考えていなかったんだけど、ライヴをやってみたら、間違いなく僕が今までやってきたどのバンドよりもチャンネルズがベストだったんだ。もちろん昔みたいに何ヵ月もツアーを続けたりとかはできないし、やりたくもないけど、このバンドでステージに立つのは本当に楽しいし、僕にとっては今また初心に戻れたというか、初めてバンドを組んだ時のような気持ちでいるんだ。 ぜひチャンネルズとしての来日公演を実現してほしいと思います。日本にいるファン、そして友人たちに向けて、最後に何かメッセージをください。 J:アルバムは来年になるけれど、本当に日本には今すぐ行きたいよ。何と言ってもチャンネルズを結成した真の理由は「日本にもう一度行くため」なんだしね(笑)!
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