THE ROAD TO WEMBLEY (1)


WEMBLEY (1) (2) (3) (4) (5)

27 June 1995

 6月24日のウェンブリー・スタジアムでのコンサートに出かけてきました。

 この夏のイギリスを揺るがした、ハードロック関係としては屈指のイベントとなるボン・ジョヴィヴァン・ヘイレンサンダークラウン・オブ・ソーンズ(+スペシャル・ゲスト)の一大スタジアムツアーです。題して『ウェンブリーへの道』。一時は解散も考えたというどん底から、見事に這い上がってウェンブリー・スタジアム3daysを完全にソールドアウトにしたボン・ジョヴィの道のりをイメージしています。出演者別に、細かくセクション分けしてお届けする超長文レポート、どうかごゆっくりお楽しみください。



第1回:Coloured のパワー!/Crown of Thorns 編


 6月24日土曜日。「…ん…、もう朝なのか…」

 次の瞬間、がばっとベッドから飛び起きて窓に駆け寄る自分。「何てこった」 カーテンをさっと左右に開いた僕の目に飛び込んできたのは、ロンドン特有のどんよりと曇った鉛色の空でした。しかも、3月頃を思わせる冷たい風が吹きつけています。

 この街の天気の変わりやすさにはもう慣れてしまったとはいえ、昨日は年に何回見られるかというような雲ひとつない青空だったのが、たった一晩でこうです。(屋外でのライヴなのに、これじゃ厳しいなー)と思う自分を無理やり「でもこれが一番ロンドンらしい空なんだから。アメリカからこの地にジョンやリッチーやサミーやエディを迎えるのには best weather なのかもしれない…」と説得。変わり身の早さ、お気楽さならお任せ。あ、サンダーのダニーやルークは地元だから慣れっこってことで。

 体感温度は12℃前後か? とにかく寒い日でした。黒のロングスリーヴTシャツの上にネルシャツを着込み、さらにGジャンを引っ掛けて参戦することに。会場は14時、開演は16時だからのんびりと…


 …し、しかし…

 地下鉄メトロポリタン・ラインのウェンブリー・パーク駅からスタジアムまでの花道のような遊歩道。屋台で買ったホットドッグなどのんびり食べつつ、ツアーTシャツやプログラムを売ってるお店がお祭の縁日のように並んでいる様子を覗きながら歩いていく僕の耳には、遠くからどうもどよめきのような音が聞こえてくるのですよ。

 なんと、前座第1弾のクラウン・オブ・ソーンズは15時40分の時点で既に開始しちゃってました。あちゃ〜。セールスこそ奮いませんでしたが、94年リリースされた "CROWN OF THORNS" アルバムはキャッチーなメロディ満載の佳作でした。勝手に『黒いボン・ジョヴィ』と名付けたくなるくらい。事実、ヴォーカルの Jean Beauvoir とボン・ジョヴィの付き合いは "SLIPPERY WHEN WET" 時代に遡り、ジョンは彼らのアルバムがとても気に入って今回の前座をオファーしたんだとか。ボン・ジョヴィ好きの皆さんにもぜひお勧めしたい作品です。Jean 自身はとても歴史の古い人で、大昔から Kiss や Alice Cooper の作品でソングライトクレジットが見られるみたい。

 さて、全員カラード/有色人種で固めたこのバンドの持ち味は、実に活きのいいロック。リヴィング・カラーとはまた違った、開放的なアメリカンロックです。録音に参加したドラマーのトニー・トンプソン(元シック、パワー・ステーション等)こそおりませんが、Jean Beauvoir はブロンドに染めた髪が目立ちまくる黒人で、ややハスキーで高音までよく伸びる声が印象的。

 スタジアム・ライヴでのお約束。それはカヴァー曲ですが、彼らはレッド・ツェッペリンの "Rock and Roll" を披露。豪快なヴォーカル、爆裂するドラムソロなど、前座らしからぬ熱演にステージ最前列方面はかなり盛り上がります。そして、ここでなんとゲストのリトル・スティーヴンことスティーヴ・ヴァン・ザントが飛び入り! あまりの懐かしさにびっくりしてしまいました。実は彼と Jean Beauvoir は活動を共にしていたこともある深い仲なのです。ここでもブルース・スプリングスティーン&E・ストリート・バンド時代以来のトレードマークであるバンダナ巻き頭で登場。ブルースの存在が圧倒的なアメリカならともかく、ここロンドンでは彼に対する反応がほとんどなかったのが残念といえば残念。

 ここで "Sun City"(US#38/85) とかやったらウケるよなあと思いましたが、さすがにそこまで外すことはなく、クラウン・オブ・ソーンズをバックバンドにして懐かしの "Voice of America" など3曲を演奏します。もちろんコーラスでは "♪… voice of ENGLAND!" と替え歌にするのも忘れません。ヴォーカルにはやや衰えも感じられましたが、細身でやや腰を落としてギターを構える独特のスタイルは健在で、滅多に見られない人だけに何だか得した気分。日本にはジャパン・エイド以来行っていないのではないかと思いますが、どうでしょう?

 以上で16時20分。全員退場です。


 お客さんは一斉にトイレ休憩&ビイル買い出しタイム。
 それと並行して、続々とスタジアムに流れこんでくるお客さんたち。いったい途切れることがあるのだろうか?と思わせるような人の流れ。この週末3日間は完全にソールドアウトとのことなので、今日も約7万人が入場することになります。ロンドン中のロック好きが一堂に会するお祭りって感じです。老若男女、本当に区別なく楽しんでいる様子にこちらまでニコニコ。カップルや友人同士も多いのですが、親子とか家族連れが多いのが印象的です。上はお孫さんがいそうなお爺さんから、下は幼稚園くらいの女の子まで、実に幅広いオーディエンス。それもこれも、メインアクトのボン・ジョヴィのこの地における絶大な人気を反映しているみたい。

 ボン・ジョヴィ東京公演では肩を抱いているカップルもいたらしいですが、そんなのこっちじゃ当たり前。恋人たちはみんな平気でディープキス。時にはもっと。それぞれのスタイルで、今日という日を楽しみ、盛り上げていってるんだなあ、とちょっと感動。

(続く)


January 2002 追記

 Crown of Thorns はもう存在しませんが、Jean Beauvoir はまだ活動を続けているようです。まだまだ会場がヒートアップしていない状態での前座は辛いものがあったと思いますが、とても元気で力強いライヴが見られて個人的にはとても盛り上がりました。Little Steven もね(^^)


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