THE ROAD TO WEMBLEY (4)


WEMBLEY (1) (2) (3) (4) (5)

第4回:感動のフィナーレ!/Bon Jovi 編(その1)

 19時にヴァン・ヘイレンが終了すると、いよいよボン・ジョヴィのステージがセッティングされていきます。お客さんたちは最後の燃料すなわちビイルを補給に売店に買い出し。以前 Warrior Soul のレポートでも書きましたが、こっちの連中は本当によく飲む! もう十分飲んだでしょうに、と思いますがまだまだ飲み続けます。

 ロンドンの日は長いとはいえ、今日は厚い雲に覆われているせいか少しずつ薄暗くなってきました。これまでの前座バンドたちは照明すら十分に使わせてもらえませんでしたが、現在スタッフが取り付けているボン・ジョヴィ用の大量のバリライトは、黄昏のウェンブリーをきっと美しく彩ってくれることでしょう。

 ここでちょっとステージの造りをご説明します。基本は日本公演のものと同じだと思いますが、アメリカ西部の荒野にある古いバーかホテルを思わせるような雰囲気。ステージ両サイドにタワー状に組まれた巨大なPAシステムは、白い面をこちらに向けた無数のスピーカー群が取り付けられており、これだけの巨大な野外会場であるにも関わらず、信じられないくらいクリアでダイナミックなサウンドを聴かせてくれます。まあ、東京ドームなんて屋内でしかも残響を増幅するような構造ですから、比べるのも野暮ですけれど…

 さてスピーカーの白い面は、時にスクリーン代わりになって映像が映し出されたりもしますが、ボン・ジョヴィのショウの間には上からPAタワー全体を包むカバーが降りてきて、そこに描かれたホテル/バーの風景画がさらに雰囲気を盛り上げてくれます。また、PAタワーの下の方にはかなり大きめのスクリーンが取り付けられており、これらがカラーTFT液晶並みのクリアな映像を提供してくれます。ステージそのものもかなり巨大ですが、左右のスクリーンの先まで含めた両袖間の距離は、100メートル近くあるのでは?

 ステージの後方にはそれこそバーの実物セットまであり、遠かったのでややはっきりしませんが、選ばれたラッキーなファンたちがそこでお酒を飲みながら間近でボン・ジョヴィのライヴを楽しんでいたようです。



 19時45分。
 何度も何度も自分の上を通過していくウェーブに身を任せつつ、まだかなあ…と思っていたその瞬間!

 両サイドの巨大スクリーンに突如断片的なイメージクリップが流れ始めます。時折サブリミナル的にBJのメンバーのショットが挟みこまれるその映像に合わせ、PAからは会場を揺るがす 『ドンドンパ!』 の轟音が。手に持ったビイルを引っくり返しながら一斉に立ち上がる7万人の大観衆。

 何といっても QUEEN を生んだ英国、"We Will Rock You" のあのリズムで本当に 「1人残らず」 両手を高く挙げ、2回叩いては大きく開くあの手拍子が会場全体を埋め尽くします。見渡す限り、手の海、海、海…。野外ですから 「客電が落ちる」 という概念こそありませんが、それを上回る、今思い出しても鳥肌が立つような凄まじいオープニング光景でした。興奮度が一気に頂点に達する中、もちろん僕も躊躇することなくその1人に加わります!

 飛び出してきたメンバーたちに割れんばかりの歓声が上がり、1曲目の "Livin' On A Prayer" がスタート! 凄い、凄すぎる大合唱。1番の頭から、7万人の観客のほとんど全員が一緒に歌っています。コーラス部分ではスタジアム全体が巨大な生物の如く大きく揺れて。ライティングも綺麗だなあ。ジョンはバンダナをしてGジャンを着てて、日本公演と同様に両頬にインディアンみたいな3本の白い筋をペインティング。もちろんGジャンには "BON JOVI / NEW JERSEY" と書かれています。しかしこんなに絵になる男が他にいるでしょうか? 僕らの方に右手を差し出すようにして歌うアクションがここまで似合う男なんて、そうはいませんって。リッチー・サンボラの短いギターソロの後、再びコーラスに入るジャスト・タイミングで左右のPAタワー上端から 『どーん!』 という爆音と共に緑色と白色の鮮やかな花火がロンドンの空高く打ち上げられます!!! そして大歓声! ああ、もうダメだ。1曲目なのに身体の中で何かが完全に弾け飛んでしまいました。

 続く "You Give Love A Bad Name" も全歌詞合唱可能な大ヒット曲。腰をくねらせるジョンに女の子の悲鳴が上がります。ちなみに今日のリッチーの姿はというと、黒のロングコートにサングラスで、超シブ路線。カッコいいぞ。3曲目は "Wild In The Streets"。速いテンポのドラムのイントロに、手拍子が敏速に呼応。デイヴィッド・ブライアンにスポットライトが当たってのホンキートンク風ピアノソロからリッチーのギターソロ、そしてティコ・トーレスのドラムが暴れるパートへと、全く隙のない展開。"♪Wild, wild in the streets" ってコーラスは小さな子供でも大声で歌える単純明快な作りですが、こんなメロディを書くことこそ難しいんだよね。完璧な仕上がりに、ラストにジョンが思わず小さくガッツポーズをしたのを見逃しませんでした。分かる分かるその気持ち!



 3曲ぶっ続けに煽ったところで、ようやくジョンのMCが入ります。
"Good evening, Wembley Stadium, London, England!"

 最後の "London, England!" の部分、思いっきりイギリス訛りっぽくアクセントをつけて会場を笑わせるジョン。ここで演奏するのはずーっと夢だった、と語ります。最近のインタビューでは毎回必ず 「6月にウェンブリー・スタジアムでソールドアウト・ショウをプレイできるのが楽しみで楽しみで仕方ないんだ」 と無邪気な子供のように繰り返していた彼。Dreams come true、とはまさにこのことでしょう。

 続いて "Keep The Faith" に。マラカスを振りながら歌うジョンも然ることながら、僕はこの曲でティコのリズム感を本当に見直しました。なんていいビートを叩くんだろう。ある意味で彼の活き活きとしたリズムがボン・ジョヴィの土台を支えていると言ってもいいのでは? 今さらながら、激しく再評価です。ギターソロの後、ステージから観客席に向かって激しくフラッシュする無数のライトに場内騒然。アウトロでのリッチーの渾身のソロには胸の奥が熱くなりました。

 今度はジョンがギターを構えます。静かにリズムを刻みながら歌い始めたのは… "Blood On Blood"。1コーラス、ギター1本でしっとりと聴かせたところで一気にバックが加わります。この曲もドラムが素晴らしい! ふと見上げると、上空をヘリコプターが旋回しています。なんだかよく分からないけど、大いに盛り上がっちゃう僕ら。そしてジョンも一緒に、すっごくいい笑顔を見せてくれました。

 興奮冷めやらぬ観客を前に、ステージ中央でマイクを構えたジョンは、伴奏なしで静かに歌い始めます。"♪Wise men say only fools rush in / But I can't help falling in love with you..."
 何と、プレスリーの 『好きにならずにいられない』 です。日本公演でも歌わなかったこの歌、ジョンのヴォーカルが巨大なスタジアムの隅々にまで染み渡っていく感じ。うーん、歌が上手くなった! 7万人全員で手を挙げてゆっくりと左右に振りながら合唱。

 1コーラス後、あたかも同じ曲の続きであるが如く自然に流れてきたのは "Always" のイントロでした… 鳴り響いた瞬間に、会場のあちこちから女の子の絶叫に近い悲鳴が聞かれます。7万人中、少なくとも50人は失神したと見た。コーラス部分で左手で自分の胸を押さえて右手を僕らに差し出すジョンの決めポーズ。「何があってもお前をいつまでも愛し続ける」 というフレーズは、クリシェ/決まり文句かもしれない。虚構かもしれない。しかしもっとも美しい虚構は、もっとも醜い現実よりはるかに素晴らしい。少なくとも僕と7万人の仲間たちはそう思った。僕らにできた同意の表現は、自らの喉を枯らしてジョンに声を重ねること、それだけだったけれど…

(続く)

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