THE ROAD TO WEMBLEY (5)


WEMBLEY (1) (2) (3) (4) (5)

第5回:感動のフィナーレ/Bon Jovi 編(その2)

 ステージセットの天井に吊るされた豪華絢爛たるバリライトがぐーっと傾いてきて、観客席に美しい光を浴びせかける中、曲は "I'd Die For You" へ。ジョンもギターをかき鳴らし、とても楽しそうです。この次の曲はジョンのギター弾き語りだったのだけれど、曲名が分かりませんでした。すぐに終わる小品でしたが良かったです。

 続いて、両側のスクリーンにカウボーイの映像が映し出され、"Blaze of Glory" が始まります。恥ずかしながら、何回聴いてもつい "Wanted Dead or Alive" か?と間違ってしまう…(オイオイ)。ところで "Blaze of Glory" のロンドンでの知名度・人気度は異様なほど高く、みんな狂ったように全コーラスを合唱していました。僕の後ろにいたお姉ちゃんなんかもう今にも気絶するんじゃないかってくらい悲鳴を張り上げて。こういうアメリカ西部劇風のシチュエーションって、ロンドンの女の子からすると異国情緒溢れてたりするのかしらん。とにかく異常なまでに盛り上がる曲でした。僕個人的にはバンドの曲じゃなくて、あくまでもジョンのソロの曲という位置付けなんですけどね。

 次はもう11曲目。"Runaway"
 切れました。あのイントロで。ヴァン・ヘイレンの "1984" と同じ頃、中学生の僕を完膚なきまでに打ちのめしたこの曲が、今異国の地で自分の目の前で展開されている! デビュー曲を大切にする人たちは強いと思います。その意味でも彼らには "Runaway" を大事にしてほしいなあ。

 すっかりヒートアップした会場を優しく静めるようなデイヴィッド・ブライアンの美しいピアノソロに四方八方からスポットライトが集まって、独り舞台になります。さすが、伊達にジュリアードに入ったわけじゃない。しかし、そのあまりにも美しいピアノが "Dry County" のイントロへと変化していった時、僕は全身にざーっと鳥肌が立つのを抑えることができませんでした。東京ドームでもやらなかったというこの大曲を、野外スタジアムで、7万人の観衆を前に果敢にも演奏しようとする彼ら。驚いたことに、お客さんたちはこの曲も完全に覚えていて一緒に歌いまくるし、サビで腕を突き上げるタイミングや長いソロの後に拍手が沸き起こるタイミングも完璧。ヨーロッパではシングルカットもされて一応ヒット曲であるとはいえ、かなり衝撃的。

 演奏はひたすら壮大、圧倒的。ひざまずき、床に片手をついてうつむき加減に歌い始めたジョンを、バックの音はじわりじわりと盛り上げる。間奏に入ってテンポが走り始めるとバリライトから洪水の如く鮮やかな光が溢れ出し、走り回るジョンを包む音と光が完全にシンクロ。ステージは未だかつてないような絶頂に達しました。この曲の是非については以前も少し書きましたが、こればかりはライヴで体験して初めて真価が分かるのではないでしょうか。それほど凄まじい演奏でした。


 「どん、どん、どんぱっ、ヘイ!」
 スタジアムは続く "Lay Your Hands On Me" のイントロに狂喜乱舞します。そして長ーいハモンドオルガン・ソロ vs ドラムソロの応酬。デイヴィッドって本当にいいプレイヤーだなあ。両手を巧みに使ってのグリッサンドが身体にぐいぐい迫ってくる感じ。リッチーはコートを脱いでのジャケットを着てきました。のダブルネックギターを抱えているわけですが、コントラストが実に映える! 歌い出しの直後に炸裂するリフに合わせて、本日2度目の爆音と共に左右PAタワーから紅白の花火が打ち上げられます。ドッカーン! 時間は21時、暗くなってきた夜空に花火のカケラが散る、ひたすら圧巻のライヴ。

 この曲の後半のジャム大会の中、ステージの左袖端っこでギターを弾くリッチーと、右袖端っこで歌っていたジョンが目を合わせてお互いに指差すと、それぞれスポットライトを浴びながら走り出し(会場からウワーッという大歓声!)、ステージ真ん中で全速力ですれ違う! そのままお互い反対側のステージ端まで走っていき、しばらくしてから振り向くと、もう一度ステージ中央へ全力疾走して再度交差 !! スタジアムの巨大なステージを存分に用いた見せ場でした。

 PAタワーに何かがするすると引っ張り上げられ、空気が入れられていきます。出た、これが噂の巨大人形。ロンドンでは鳥娘とギタリスト人形の他に、ゴジラのような怪獣が2匹いて、都合4体の巨大な人形がゆっさゆっさとと揺れています。曲はもちろん "I'll Sleep When I'm Dead"。今夜の特別ヴァージョンはローリング・ストーンズの "Jumpin' Jack Flash" に加え、テンプテーションズの "Papa Was A Rollin' Stone" をメドレーで挟み込み、一層陽気に聴かせてくれました。

 そしてそして、最後に飛び出した "Bad Medicine"
 もっとも好きな曲のひとつですが、10分くらいに拡大した豪華ヴァージョンになってすっかりノックアウト。間奏でポーズを取りながらこちらを指差して、"Do you love me?" なんて囁きかけるジョンにまたまた女の子たちの悲鳴が。


 ああ、すっかり満足。これ以上はないという素晴らしい時を過ごさせてもらっちゃった。
"Thank you!!!" と叫んでステージを去った彼らを追いかけるように、またまた豪華な花火がドドーンとロンドンの夜空に打ち上げられたのでした。



 …って、これで帰るわけにはいきません。これからがお楽しみのアンコールなんだから。
 すっかり夜の闇に包まれたステージに最初に現れたのはデイヴィッド。スポットを浴びてピアノを弾く彼にリッチーがギターを合わせ、"Bed of Roses" のイントロが奏でられていきます。真っ暗な7万人のスタンド席、アリーナ席のあちこちで灯るライターの火が、次第に数を集めていきます。ああ、なんて美しいんだろう。ライターもしくは掲げた手を左右に振ってコーラスを大合唱する様は、この世のものとは思えないほど美しい光景。

 「さてと、新作が出たばかりなんだ。ここには屋根もないし、この歌が空まで届くようにやるぜ」というジョンのMCに導かれて始まったのは新作1曲目の "Hey God"! タンバリンを叩きながら歌うジョン、猛烈に骨太なビートを叩き出すティコ。大ハードロック大会となったこの曲は、アルバムより数段良かった。今気付いたんだけど、ジョンのヴォーカルはスタジオよりライヴの方が調子いいんじゃないのかな?

 続いてジョンがギターを抱え、「今日は10年来の友人である彼とぜひこの曲をジャムりたいと思うんだ」 と言ってリトル・スティーヴンを紹介。歌い始めたのは、ジョン・フォガティのカヴァー、"Rockin' All Over The World" でした。リトル・スティーヴンと共演するなんて、幼い頃からスプリングスティーンをヒーローとしてきたジョンの心境や如何に、といったところか。この曲も知名度が高くて、みんな大喜びで手拍子、コーラス&ジャンプなのでした。


 信じられないくらいの大歓声に包まれ、ジョンは "See ya! Good night!" と言ってステージを去ろうとしました… が、ほとんど退場しかけたところで歓声に引っ張られてギターを手に帰ってきます。黒のタンクトップ姿になって歌い始めたのは "I Believe"。何だか、すごく "KEEP THE FAITH" アルバムにこだわった選曲だなあ、という印象。確かに欧州では大ヒットしたアルバムですし、これもシングルカットされた曲なのだけれど。さらにジョンがギターを抱えたまま爪弾き始めたイントロに完全に凍りつく自分。"I'll Be There For You" だ…

 バラード系ではもっとも好きな曲のひとつ。今夜の夜空に雲がなかったら、さぞこのような満点の星が見下ろしているだろうと思わせる、ライターの星の海がスタジアムを埋め尽くします。ステージから観客席側を照らす青いライトに包まれて、コーラスに合わせて7万人の男女が、それぞれの一番大事な人にこの 5 words を誓う瞬間。もちろん僕も心から誓いました…

 メンバーが一旦退場した時点で22時ちょうど。まだまだやるでしょ? でしょ?



 幻想的なライティングの中で再アンコールを待つステージに、カウボーイハットをかぶってダブルネックギターを抱えたリッチー・サンボラが、アコースティックを弾きながら歩いてやってきます。素晴らしいソロを弾き終えると、ハットを取って丁寧にお辞儀。デイヴィッドのシンセがバッキングする中、更にギターを弾き続けるリッチー。「次はあの曲だ」ってことは火を見るよりも明らかなのに、タメにタメるリッチー。大歓声の中、右手でVサインを高く掲げ、それを降ろすのと同時に "Wanted Dead Or Alive" のイントロが始まりました! このフレーズを聴くだけで、完全に狂ってしまうオーディエンス。すぐに地を揺るがすような大合唱が始まります。ジョンとリッチーのハモりも天下一品の素晴らしさ。色とりどりの照明とダイナミックなギターソロに酔い痴れる。この曲を演奏するときのリッチーって、本当に独壇場って感じですよね。

 次はジョンがアコギを弾きながら古いロックンロールのカヴァーを軽く流した後、そのままギターをかき鳴らしながら歌い出します。"♪ Hey, man, I'm alive, I'm takin' each day and night at a time..."  そう、"Someday I'll Be Saturday Night"。ベスト盤 "CROSS ROAD" に収録された新曲の1つなのに、ついにアメリカではシングルカットしませんでした。でもここロンドンでは95年春の大ヒット。4月にはFMから流れてこない日はないくらい、ロンドンっ子の圧倒的な支持を集めたのです。もちろん僕も大好き。ボン・ジョヴィらしい実にポジティヴな曲で、嫌なことがあった日もこれを口ずさみながら歩いているとすぐに忘れちゃいます。そんなわけでウェンブリー・スタジアムも1番の歌詞から割れんばかりの大合唱! 折りしも今夜は 「土曜の夜」、みんな憂さを晴らしてすっかりワイルドになってしまうのでした。いつまでも終わらないでくれ…と思わせた素晴らしいコーラス、泣き虫の僕はまたもや目から涙が流れるのを止められない。

 いよいよこれで最後でしょう。ジョンが僕らに向かってしゃべります。「イギリスに来てからラジオを聴いてたら、1日中この歌が流れっぱなしでビックリしたよ。みんなきっと一緒に歌ってくれるよね?」

 デイヴィッド・ブライアンのキーボードが静かに "This Ain't A Love Song" のイントロを奏で始めます。会場全体がライターの海になり、あちらでもこちらでも小さな炎が揺れて。ラストの歌いきりの部分でステージにしゃがみこみ、スポットライト6本を一身に集めて懸命に声を搾り出すジョンに、観客全員が完全に放心状態…。立ちあがると、ジョンはラストのメロディをハミングしながら、ゆっくりとステージから歩み去っていきました。楽曲は静かに、とても静かにエンディングを迎え、4人のメンバーたちも静かに楽器を置いて帰っていきました…。ステージ両脇のPAタワーに巨大な "BON JOVI" の文字が映し出され、何発もの花火が続けざまにロンドンの空を彩る中、会場に Louis Armstrong の "What A Wonderful World" が流れ始めます。ああ、本当に 「この素晴らしき世界」!!!


 ロックを聴いていてよかった。
 ボン・ジョヴィを聴いていてよかった。
 本当に、ありがとう!


 時計は23時35分を指していました。
 8時間に及ぶ大ロックコンサートは、まさしく一生モノの感動を僕にくれたのです…



 ウェンブリーからの帰り道は、別に日本のコンサートのようにダサい規制退場があるわけでもなく、みんな三々五々解散していきます。ツアーTシャツを買いに走る女の子、広大な駐車場(しかも50cm間隔でぎっしり)の中で自分の車を探す人々、そして僕のように地下鉄の駅に向かう人々… でも実際には混雑し過ぎのため、代替バスに乗せられてセントラルロンドン方面へ向かったんだけど。とにかく会場から続々出てくる観客みんなに共通していたのは、形容すべき言葉が見つからないくらい幸せそうな笑顔、笑顔、笑顔。喜怒哀楽の 「喜」 だけを抽出して凝縮したような、素晴らしい笑顔。


 ロックは世界を変えられるか?なんて命題はこの際どうでもよろしい。
 ボン・ジョヴィのロックンロールは間違いなく僕らを心の底からニコニコさせる力を持っているし、それが出来るものなんて他に一体何があるっていうんだろう?

(完)


Bon Jovi @ Wembley Stadium, 24 Jun 1995

1. Livin' On A Prayer
2. You Give Love A Bad Name
3. Wild In The Streets
4. Keep The Faith
5. Blood On Blood
6. Can't Help Falling In Love
7. Always
8. I'd Die For You
9. (unknown)
10. Blaze of Glory
11. Runaway
12. Dry County
13. Lay Your Hands On Me
14. I'll Sleep When I'm Dead (including: "Jumpin' Jack Flash" & "Papa Was A Rollin' Stone")
15. Bad Medicine

-1st Encore-
16. Bed of Roses
17. Hey God
18. Rockin' All Over The World
19. I Believe
20. I'll Be There For You

-2nd Encore-
21. Wanted Dead Or Alive
22. (unknown)
23. Someday I'll Be Saturday Night
24. This Ain't A Love Song

-Ending-
(What A Wonderful World)


January 2002 追記

  実はこの全英ツアー、Van Halen を除く2バンドは日替わりでした。ちなみにロンドン公演は、6月23日(金)が Ugly Kid Joe と Thunder、25日(日)が Crown of Thorns と Ugly Kid Joe という組み合わせだったようです。27日(火)は Gateshead International Stadium という会場での公演でしたが、この日は SKIN も出演した模様。個人的には Ugly Kid Joe の成長ぶりをこの目で確かめたかったのですが、24日だけ出演せずということでちょっと残念。

 いずれにせよこの1995年6月24日のボン・ジョヴィ公演は、僕にとって特別な意味を持つコンサート。
 きっと、これからもずっと…


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