鬱り気
               作詞:佐々木幸男
               作曲:佐々木幸男
               編曲:水谷公生
 

恋がさめてゆきます
悲しい気持ちになれません
今は冷えた心を
もてあますのみです

話はとうに つきてしまったけれど
それでも  言い出せないことがある
いつも 最後はやさしい
思い出が 道を塞ぐ

塞がれた道を 開くには
あまりに あなたは 変り過ぎた
日々の移り変りに
気づかぬ 私でした

  恋の唄なら もうやめて
  今は 何も考えずに
  静かに 静かに 眠りたい

さよならを 言わずに別れられたら
いつか又 笑ってめぐり逢える
そんな 別れができる
年です 私たち

  恋の唄なら もうやめて
  今は 何も考えずに
  静かに 静かに 眠りたい
 
 
 


 
 
[sasakiの日記] より              2002/06/25 記

      
 僕と真由美は別れ話の最中に富川の畑でUFOを見ていた。
 
 これ以上先がないことはお互いによく分かっていたし、未来を自力で変えるにはあまりにも廻りの状況が竪固すぎた。更に良くないことに僕らは大人の分別というものを身につけようとしていた。
 恋をしている最中にはそんなものがあることも知らず闇雲に突っ走った。

 これは身もふたもない話ではない。

 勿論一人きりになれば泣くに決まっている。
 流れる雲にだって涙するに決まっている。
 多分最初から決められたことで、この時間この場所で僕らは別れ話を続け、そして最後にUFOに遭遇することになっていたんだ。だからといって取り立てて象徴的なことでもない。
 ただ一つ言えることは僕らには勇気がなかったということか?

 富川の青果店でリンゴを2つ買った。
 このことは記憶のどこかに残るんだろうかと車に戻る途中に考えた。

 僕らは友達同士のように淡々と景色の話や友達の消息についてなど、自分たち以外の話を続けることに専念した。

 何度目かの休憩の場所にその国道から外れた農道の脇をえらんだ。

 傾きかけた太陽の光を受け、大地が光る。トラクターが捨てられたように畑の真ん中に放置されていた。
 もう誰も人の気配もなく、一日の仕事は終わったのだろう。
 悲しいほどいい天気というのは確かにある。
 僕らはまさにそのまっただ中にいた。
 時間が突然ゆっくりと動き出す。
 それぞれの空間で時間は総体的に変化してい。 
 ここはゆっくりと流れる場所だ。

 大気が一瞬まばたきをする。
 僕には時々時間や空間がずれるのが見える。
 瞬きのように一瞬世界が暗黒になり、またすぐにもとに戻る。

 二人でリンゴをかじる。
 突然。
 「正面の小さな山見える?」真由美がリンゴを持った手でフロントガラスを指す。
 「何か浮かんでるような気がするんだけど?」 
 確かに、指さす方向にある山ともよべない丘に円いものが浮いて見える。
 「UFO?」、今さっきまでの車の中の静かな気配が消えた。
 「多分そうだと思う。」
 「ねえ?すごいね。ほら浮き上がってるよ。はっきり見えるようになってきたし。ここからどのくらいの距離かなあ?」
 目で見えているものを信じていないという気持ちになったのは初めてで現実味は薄かった。
 「いいところ500メートルくらいかな?」
 光り輝いているのは西日のせいではないだろう。
 「ねえ?呼んでみたらこたえると思う?」
 お互いに見ているものを信じていないのは確かだった。
 「どうだろう?人によるんじやないかなあ」、僕は呼びたくなんか全然なかった。
 「二人で一寸試してみようよ?手を貸して。」
 突然僕らの舞台はスラップスティックに変わった。
 「私達の声が聞こえたらどうぞこっちに来てください。お願いです。」
 こっくりさんとUFOのちがいはあまりはっきりと認識してないようだ。
 心なしかその飛行物体は大きくなったような気がした。
 鼓動が早くなる。
 「ねえ?なんかこっちに来てるような気がしない?」
 気のせいではなかった。
 「うっそ−!私達のいってることわかるんだ、すごい!もう少し試してみる?」
 僕はもう試してみなくてもよかった。明らかにこっちに近づいている。
 はっきりと形が細部まで見える。
 「ねえ、本当に側に来てるよね?どうする?こわいよね?連れて行かれると思う?」
 「連れて行かれるかどうか分からないけど、ここは逃げた方がいいかもしれないよ。急いでバックした方がいいと思う。」
 近づいてきたその飛行物体は躊躇するように一旦空中でホバリングをしていた。
 逃げることを決めた瞬間に僕たちはパニックのまっただ中にいることになってしまった。
 ハンドルを切り返したり、ギアを入れたりすることがままならなくなってしまった。
 後のことはもう覚えていない。

 僕はあのときのことを不思議なことに誰にも話したことがない。そして、あれ以来彼女にもあっていない。多分彼女も誰にも話していないような気がする。
 記憶だっていい加減なもので、彼女とのことでそんなに覚えていることはなくなり、富川の青果店で買ったリンゴが記憶の先頭になってしまっている。
 でも今、もう一度あってあれは本当のことだったか、それとも僕の記憶のフィクションだったかを確認してみたい気はある。
 どっちにしても僕に欠けているものは、いつだって勇気だ。

 僕は真由美と別れた後もまだ札幌でじたばたしていた。事務所はもう東京で暮らすことを真剣に考えろと言ってきた。

 これは身もふたもない話だ。
 
 
 
One on One
一人コンサート だんだん 鬱り気 セプテンバー・バレンタイン 心から 雨の日の想い出 夢でも 恋でも 望みでも 便りにかえて アンニュイ 尽きぬ想い
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