24 November 1995
Out of My Hair に続いてはお待ちかね、メインアクトの Aimee Mann です。なんでも今夜のギグの収入は全額
Children In Need
というチャリティ団体に寄付するらしい。BBCに加えてGLRというローカルのラジオ局も会場入りしてライヴ録音される、とのアナウンスに場内はいっそう
盛り上がります。
飾り物一切なしの素っ気ないステージに現れた Aimee とバンドの面々。今年の7月に行われたロンドン公演の時と同じメンバーたちだったようです。
Aimee
は前回のライヴと同じ古い傷だらけのアコースティック・ギターを抱えます。ひょろっとした細い体格の彼女ですが、今日の衣装はチープな青のタイトなエナメ
ルジャケットの下に、短い丈でへそ出しのシースルー白長袖Tシャツ。ボトムは淡いグレイの太いストライプが入ったタイトなパンツに紺のキャンバス地のス
ニーカー。腰には白いワークシャツを巻いています。サラサラしたショートのプラチナム・ブロンドを真ん中分けにして、全然飾らないところが彼女らしい。音
出しのためか1曲だけ演奏するとすぐに引っ込み、再び現れてから本編がスタートしました。
オープニングは傑作のソロ2nd "I'M WITH STUPID" から
"Sugarcoated"。軽く可愛げにステップを踏みつつアコギでコードを弾く彼女、ちょっと緊張してるかな? ベーシストとギタリストが絶妙なコー
ラスをハモります。Aimee のヴォーカルは全然力みがなくて、本当に素直な声です。Patrick Warren
のキーボードはメロトロン(本物?)みたい。
2曲目の "All Over Now"
は個人的なお気に入り。シャープなドラムがいいアクセントになってるし、コーラスパートの後のブリッジの部分がとても切ないし。Aimee
もバンドも、とても楽しそうに演奏していて、バークリー音楽院で理論を学んだ経歴がちっとも嫌味になっていないんですよ。
お次は1st "WHATEVER" から "Stupid
Thing"。前回もそうでしたが、この曲は何故かこちらでは人気があって、イントロだけでかなり場内が盛り上がります。ベーシストはラフなシャツにサス
ペンダーでパンツを吊ってるのに、リードギタリストのMichael は4つボタンのグレイスーツに蝶タイ、黒いハットと思いきり決めてるのも対照的。
演奏がいいのはもちろんですが、1曲ごとにアコギをチューンしながら Aimee
がしゃべる内容がまた面白くて。MCというより、なんか馴染みの友達と茶飲み話をしてるみたいな感覚で、一言しゃべる毎にどっと笑いが起こります。暑く
なってきたのかここで上着を脱いだ
Aimee、シースルーの長袖Tシャツの下は黒のブラでした。「マイケルはねえ、このブラがお気に入りらしいのよねー。もう、エッチなんだから」なんて
言って観客の笑いを誘います。
続いてはサントラ "MELROSE PLACE" でも使われた "That's Just What You
Are"。軽快な曲調が気持ちいいラジオヒットです。"You Could Make A Killing" の後に "Superball"
をつなげたりして緩急をつけるのも忘れませんし、"Choice In The Matter" なんて曲を聴いていると、'Til Tuesday
時代に業界の一番汚いところを見せつけられた人だからこそ、今これだけ無垢な歌を書いて歌えるんだろうなあ、と思ったり。11曲目にプレイした
"It's Not Safe"
は2ndアルバムの最後に収録された曲ですが、大好きなんです。涙を誘うコード進行なんですよね。そして1stからのシングル曲 "I
Should've Known" で本編が終了しました。
さてさて割れんばかりの拍手に迎えられてのアンコール。
1曲目は1stアルバムから "15 Years After The
Fair"。ポップで可愛い歌ですよね。2曲目も1stからで、"Could've Been
Anyone"。冒頭に軽くメンバー紹介を挟みながら、リズムセクションが印象的なグルーヴを聴かせてくれました。
「今夜のオーディエンスは最高よ。本当にどうもありがとう!」
彼女はずり落ちそうになるパンツを何度も引っ張り上げながら、手を振ってステージを後にしますが、もちろんお客さんは全然帰りません。Aimee
を呼ぶ声に応えて2度目のアンコール。アコギをチューニングする Aimee がしゃべります。
「この曲はまだこのバンドでは演奏したことがないのよねー。大体、他のメンバーは聴いたことあるのかしら。私ももうずいぶん長いこと歌ってないから忘れ
ちゃったかも(笑)」
なんて言いながら細い指でアコギのフレットを押さえて紡ぎ出したコードは…
…そう、'Til Tuesday 時代の大ヒット、『愛のVoices』こと "Voices Carry"!
彼女自身が長いこと封印してきた過去の思い出を、今ここで再演するということにはいろいろと深い意味があります。80年代の浮き沈みから立ち直るまでに
は時間がかかりましたが、ようやくあの頃の自分を多少客観的に眺められるようになってきたということなのでしょうか。Sting もソロに転じてから
The Police 時代の曲を屈託なく演奏できるようになるまでにはやや時間がかかりましたよね。あの幹事に近いものがあったように思うのです。
1番を歌い終わったところで、ギターを弾き続けながら「Oh my god, I remember the
lyrics!」(なんてこと、私歌詞覚えてるじゃない!)と言ってくすくす笑う Aimee。
「これが最初にして最後のヒット曲だったけどね」
「ヒットしたのはいいけど、何のことを歌ってる歌なのか自分でもさっぱり判らないの」
なーんておしゃべりを挟みながら、楽器を手に取り始めた他のメンバーに、「ここでGからBフラットよ」とコードを説明します。少しずつベース、ドラム
ス、メロトロンの音が被さってきます。
間奏のシンセソロの部分で「ここでこんな変てこなソロが入ったわよね」と言いながら口真似してみせる Aimee
に場内大爆笑。でもでも、アイドルバンドの曲と思ってましたがとんでもない、Aimee
の弾くコード進行をずっと聴きながら、やっぱり造りそのものがしっかりした曲だったんだなあと再評価することしきり。
これに続いて歌ってくれたのは、1st収録曲中、個人的に一番好きな "Mr. Harris"。
他のメンバーが全員下がり、Patrick Warren
のピアノ伴奏だけでしっとりと歌います。前回のライヴではラストに持ってきたこの曲、本当に美しくて可愛らしい「絶品」なのです。もうほとんど泣きそうに
なっていた自分でした。
3曲目は2ndアルバム冒頭の "Long Shot" で締めくくり。
そして何と、あろうことか彼女は3回目のアンコールに出てきました。
「まだまだ、あと2曲やるわよ!」
そう言ってにっこり笑った Aimee とバンドのメンバーたちの表情の素晴らしかったこと!
思えば今年7月のロンドン公演時にはまだ2ndアルバムがいつ出せるかどうか判らないという不安定な状態だったのに比べ、ゲフィンからのリリースにこぎ
つけた今回は、あらゆる意味で吹っ切れたという印象を受けました。長く闘ってようやく手に入れた自由、それを本当にエンジョイしている、そんな
Aimee Mann の素晴らしいライヴを1年間に2回も観られるなんて幸せすぎる。
この地での生活の思い出は心にたくさん残るでしょうが、彼女のライヴはその中でもとびきり大事な場所にしまっておきたいと思います。
December 2004 追記
多くは語りません。Aimee Mann にはこれからもずっと、地道な活動でいいから素敵な音楽を届けてほしいと思ってます。
|