19 July 1995
当初宣伝されていたラインナップからまず
Slaughter が落ち、結局 Kix も消えた Warrant
単独のロンドン公演を見に行きました。80年代末〜90年代前半に一世を風靡した米国ハードロック勢が集結する豪華なライヴになるはずだったのに、ちょっと残念。それでもウォレントがわざわざ英国まで遠征してくるっていうんだから、行かないわけにはいきません。新作
"ULTRAPHOBIC" でイメージチェンジを図ったジェイニー・レインの真意を確かめるためにも…
会場に着いてみると、とにかくお客さんが少ない!のです。毎晩通ってるわけじゃありませんが、Astoria
のフロアがこれほどガラガラなのは珍しい。2階席に至っては空っぽ。うーむ…という感じですが、来てくれたお客さんは熱心なファンばかりということになるのかな? "CHERRY PIE" ツアーのロンドン公演Tシャツとかちゃんと着てる子も多いです。でもよく見ると
Slaughter や Winger、果ては Faster Pussycat
のTシャツもチラホラ。要するにアメリカものは何でも一緒くたにしちゃってて、これだからロンドンっ子は可笑しい。ま、そんな不満も前座のUKバンド、The
Last Great Dreamers の素晴らしい演奏を聴けば吹っ飛びます。グラムっぽい剛速球ロックをギミックなしに繰り出し、最後はドラムセットをぶち壊して嵐のように去っていきました。ヴォーカルは巧いし、楽曲は粒揃いだし、一発で気に入りました。ギタリストはルックスがピート・タウンゼント似で、腕を大きく振り上げるアクションもそっくりでした。後になってアルバム
"RETROSEXUAL" を買うことができたのですが、ライヴの勢いまでは録れていません。生で見てこそ、のバンドみたい。
セット転換中のBGMは Mr. Big の "LEAN INTO IT" アルバム。メロディの良さを大切にするジェイニーの趣味なのかな? しかし
"Just Take My Heart" まで流れたところで突然 Beastie Boys のハイテンションな"Sabotage" に切り替わり、次第に埋まってきたフロアでは敏感に反応して踊り狂う人も。続いて
Soundgarden の "Let Me Drown"、Queensryche の "Jet City Woman" で盛り上がります。そして AC/DC の "Dirty Deeds Done Dirt Cheap" のフルコーラス終了と同時に Warrant のメンバー達がステージに飛び出してきます!
一聴して、より逞しくなったサウンド。かつてのパーティロック・バンドの面影はほとんどありません。かといって "DOG EAT DOG" アルバムのような気負いもないんだな。たとえば2曲目に演奏された
"Down Boys" なんて、やはりノリノリでキャッチーなナンバーなのだけれど、新しいリズムセクションは芯がぶっとくて強力だから、すごく頼りがいのある音なんだよね〜。そう、今回のドラマーは元
Kingdom Come (笑うな(笑))のジェイムズ・コタック。かのバンドでは擬似ジョン・ボーナムとして起用されたわけですが、それも納得の猛烈にパワフルな太鼓。スネアに穴が開くんじゃないかと思うくらい一発一発が力強くって、しかもフィルインの合間を縫ってスティックを回しまくるわ、投げ上げてキャッチしながら叩くわ(演奏中っすよ〜)、一時も休むことがありません。何十回投げたか数え切れなかったけれど、一度も落とさなかった。ずっと生で見たいドラマーだっただけに、かなり感激。ジェイニーはといえば、太ったなあ(笑)。おなか出てます。あと、もともと髪質が細くて心配でしたが、明らかに生え際が後退&頂点方面が薄くなってます。ライヴが進んで汗だくになるにつれて地肌が目立ってくるという… もちろん彼のヴォーカル自体には何の影響もありません。「ジェイニー・レイン大天才説」を唱える自分としては、あのメロディを彼の声で聴けることが何より重要。
ライヴは新作 "ULTRAPHOBIC" の曲を中心に進行します。へヴィでありながら闇雲に重いだけではない。彼らの新機軸が感じられるサウンドです。もちろん、ジェイニーがアコギを抱えて歌う
"Uncle Tom's Cabin" や、大ヒット曲 "Cherry Pie" に元ネタ(?)の "We Will Rock You" のフレーズを挿入しながら歌う禁じ手まで聴かせ、サービス精神も満点。"Cherry Pie" では、ファンでもみくちゃのフロアにジェイニーが投げ入れたマイクに向かって、ファン全員でコーラスを合唱。曲の終わりに近づいて、マイクを返すようにジェイニーが合図すると、ファンたちはちゃんとマイクをステージに投げ返す。この辺のマナーの良さにはすごく感心します。…とはいっても、ジェイニーが飲みかけのビールのボトルとかを投げ入れると、女の子たちが「キャーッ!」てな感じで奪い合って飲もうとするんですけどね。英国にも「間接キス」という概念はあるのかな。
楽しいライヴはあっという間にアンコールへ。
今日はどのメンバーもステージ上でお酒飲みまくり。ジェイニーもビール何本飲んだかなあ。最後はジャック・ダニエルズのボトルを持って出てきてステージ中央で椅子に腰掛け、アコギを弾きながら
"Heaven" へ… 軟弱と言われようとも、良い歌は良い。僕は好きですよ
Warrant のバラード。みんなと一緒にコーラスに参加です。曲が終わって満足そうに微笑んだジェイニーは言いました。
「この国が生んだある天才音楽家に次の歌を捧げるよ」
キーボーディストがピアノの音色でサポートする中、ジェイニーが歌い始めたのは… 何と
Queen の "Bohemian Rhapsody"。
素晴らしい! 完全コピーです。フレディの細かい節回しまでしっかり自分のものにしている。単純に歌が巧いとかいう次元を超えたカヴァー。もちろん
Queen を生んだ国、イギリスのお客さんですから、1番から歌詞を大合唱。今、ロンドンにいるんだってことを全身で感じてぞくぞくした瞬間でした。もっとも、後でミュージック・ライフ誌で確認したところ来日公演でも歌っており、今回のツアーの余興のひとつだったようですね。
そしてラストは "I Saw Red"。ここには、バラードのバンドとしてのレッテルを貼られることを恐れて "DOG EAT DOG" なる極端なアルバムを作ってしまった小心者の
Warrant はいませんでした。とにかくジェイニー自身が今のバンド、そしてライヴを心から楽しんでいる。それがびしびし感じられたのと、ジェイムズ・コタックの見応え・聴き応えある凄まじいドラムを楽しめて、とても満足な一日でした。
October 2002 追記
「大天才」ジェイニー・レインはやっぱり音楽を愛する男でした。それが確認できただけでも行った甲斐があったというものです。そして音楽を愛する男はいつだって不器用。パーティアルバムからヘヴィロックまで、振幅の大きさもご愛嬌でしょう。クイーンへの並々ならぬ愛情を感じるにつけ、世が世なら、彼こそがフレディの立場を目指す男だったのかもしれないなあ、と思いました。
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