20. What A
Fool Believes - The Doobie Brothers
『ある愚か者の場合』。初期の邦題が歌詞を要約しています。かつて好きだった女性と再会した男の情景を描く数分間の
ドラマ。男は昔を懐かしんでいろいろ
語りますが、彼女の方はほとんど関心がない様子。それどころか、どうやら男の話がほとんど理解できないようです。それもそのはず、その昔話とやらは「彼女
はきっと自分の元に戻ってくるはず」と信じて生きてきた彼の頭の中にだけ存在する物語だったのだから。
愚か者は現実を直視せず、自ら作り上げた虚構の中で叶わぬ夢を見ながら老いていくのだ…という残酷な宣言。それでも夢が見られるなら何にもないよりは
ずっとマシなはず、というのです。確かに人間ってそんな生き物かもしれません。席を立って去る彼女をじっと見つめるばかりの主人公の「愚か者」像はそれで
も穏やかな方でしょう。一歩間違えば彼女をつけ回すストーカーになってしまうところですが、さらりと行間を読ませるだけの仕掛けが有効だった70年代に乾
杯。
グラミー賞では年間最優秀楽曲その他を総なめにしたこのロック史上に残る名曲を書いたのは Kenny Loggins / Michael
McDonald のコンビ。初出はケニーの78年作 "NIGHTWATCH"
で、どちらかといえばシンプルでストレートなアレンジでしたが、後にドゥービーズも気に入って録音し、彼らのヴァージョンが全米1位の大ヒットになりまし
た。マイケルの独特なキーボードが印象的なイントロはロビー・デュプリーの "Steal Away"
等でパクられていますね。都会的でソウルフルなこの時期のドゥービーズには賛否両論ありますが、これはこれで何ものにも代えがたい魅力を持っていると思い
ます。
19. Tempted - Squeeze
イントロのすっとぼけたハモンドオルガンに、肩の力の抜けたリズムセクション。英国の良心とも言えるポール・キャラックの暖かい声が入ってくる前に、こ
の曲の成功はほとんど約束されています。ブルー・アイド・ソウル職人のキャラックが歌った最終テイクの前に、グレン・ティルブルックがリードをとった
ヴァージョンもあったのだとか。差し替えを提案したのがプロデュースのエルヴィス・コステロだったことは、ファンの間では有名な逸話なのでしょうか。コス
テロからニック・ロウ、デイヴ・エドモンズへと溯る英国ロックの系譜が見事に体現された1曲です。
ポール・キャラックの参加は一時的なものですし、必ずしも Difford/Tilbrook
という名ソングライターチームの最高傑作とも思いませんが、このユルさは何ものにも代え難い。洒落たメロディに英国人らしいひねくれたユーモアセンス全開
です。隙間を活かしたR&B趣味のアレンジに、ニセモノDoo-Wapみたいなコーラスが最高にハマってるし、映画 "REALITY
BITES" でウィノナ・ライダーが車に乗って友達と歌うシーンに使われたのも印象的でした。
今もラジオで頻繁にかかる永遠のポップ・クラシック。こんなにキャッチーで深みのある名曲が49位までしか到達できなかったなんて、全米チャートはまっ
たくどうかしてる。どうかしてるから面白いんだけどね。まさに記録より記憶に残る曲、こんな音楽こそが時代を超えて聴き継がれるのです。
18.
Hold
On - Santana
「サンタナは産業ロックだ!」。なーんて言ったらサンタナファンと産業ロックファンの両方からひどく怒られるんだろうなあ。でも求道精神に溢れた見かけ
と裏腹に、カルロス・サンタナは日和見主義なところがあります。いや、むしろ求道精神溢れるが故のことなのかもしれません。ウッドストック時代にラテン
ロックの旗手として登場したその日から、フュージョン/ジャズに傾倒した時代などを経て、今では超メインストリームのアダルト・オリエンテッド・ロック街
道を驀進中。この曲は80年代前半にかなり産業ロックに接近したサンタナの、最も適切なサンプルと言ってよいのでは?
大体、「ホールド・オン」なんていったら最もありふれたヒット曲のタイトルのひとつです。手元の全米チャート本によれば、同名異曲のヒットが13曲もあ
ります(うち、Wilson Philips が#1、En Vogue
は#2)。シングルカットされていないものも含めれば、世の中にはまさに無数の「ホールド・オン」たちが蠢いていることでしょう。それにしてもこの曲は良
すぎる。初めて聴いたのは82年大晦日のNHK-FMにおける渋谷陽一の年末回顧番組でのことでしたが、もうその瞬間から歌えちゃうくらいに頭に残るメロ
ディで。爽やかな中にも南国情緒的な哀愁を漂わせるあたりがまさにサンタナ・マジックなのですが、当時はそんなこと知るわけもなく、ただ「くぅ、泣ける
〜」とか思っていた小学6年生。
サンタナの偉大な歴史の中では決して「最も重要な曲」に選ばれることなどありえない外道ヒットですが、僕にとってはいつまで経っても出会い頭の衝撃覚め
やらぬ究極の1曲。アレックス・リジャートウッドの力強い歌声も素晴らしいし、何といっても間奏で切り込んでくるサンタナのギターソロがもう、サンタナ以
外の誰にも弾けないあのトーンで。べたべたと「サンタナ印」をあちこちにつけて去っていくわけですが、じゃあこれがスティーヴ・ルカサーだったらどうなっ
ていたのか?なんてことを想像するのもまた、産業ロックファンに許された密かな楽しみだったりして。
17. I Believe In
Miracles - Jackson Sisters
フリー・ソウル/レア・グルーヴのムーヴメントの中で発掘されたまさに「奇跡的」な1曲でしょう。出会い頭にイントロのリズム・ブレイクをガツンとぶつ
けられたと思ったら、息つく間もなく畳み掛ける初々しいコーラス。録音当時11歳から16歳までの5人の女の子たちが、激しく動くファンキーなベースライ
ンに絡みまくるスリリングな展開。
その名のとおり Jackson 5
に対するガールズ・グループとしての回答として送り込まれた彼女たちは、しかし、結局アルバム1枚で解散してしまいます。長らく忘れられていましたが、
90年代のフリー・ソウル・シーンで激しく再評価され、今でもあちこちのクラブでかかった途端にフロアは興奮の坩堝、ビートが女の子たちの腰を直撃するの
です。コケティッシュなヴォーカルも然ることながら、トラックも相当緻密に組み立てられていて、とにかく何度聴いても飽きません。モータウンで活躍した敏
腕プロデューサー、ジョニー・ブリストルが手がけただけのことはあります。
まだ年端もいかぬ女の子たちが恋の素晴らしさを歌い上げ、「私は奇跡を信じるわ、あなたはどう?」と繰り返す確信犯的にキャッチーなコーラスが耳がこび
りつくこと間違いなし。僕自身は恋愛の奇跡を信じるには歳を取りすぎてしまったけれど、音楽の奇跡ならまだまだ信じられる。特に、こんな素敵過ぎるダン
ス・クラシックスに出会えた時なんかは。
16. The Glamorous Life - Sheila E.
何にやられたって、アレですね。ビデオクリップで、パーカッションソロの最後にシンバルを蹴り上げる、アレ。間違いない。
とにかくカッコよくて、華々しいデビューでした。一度聴いたら忘れられないイントロのサックス・リフといい、ビデオクリップでのシーラの華麗な打楽器プ
レイといい、すべてが刺激的で、すべてが強烈に印象に残るものだった。大体、それまでパーカッションを叩きながらリードヴォーカルをとる女の子なんて見た
ことなかったもんなあ。色々な意味で「グラマラス」なヒットだったのです。さすがプリンスが仕掛けただけのことはある。
しかしそれ故に、彼女自身はしばらくこの曲のイメージに縛られることになります。ラテン界では著名なパーカッション奏者、Coke Escovedo
を父親に持つ生粋の音楽一家に生まれた彼女にとって、ポップヒットの量産は必ずしも目指すところではなかったのでしょう。後にシーラは自分のバンドを率い
てジャズ/フュージョン寄りのサウンドに移行します。今でも毎年のように夏場にブルーノート東京に来日しますが、もちろんこれはアンコールのキメ曲。アレ
ンジは違っても、イントロが流れた瞬間に観客の盛り上がりは最高潮に達します。この曲を歌っているときのシーラ自身の楽しそうな表情といったら。
♪She wants to lead the
glamorous life
Without love, it ain't much
人生をグラマラスにするもしないも自分次第。どうせ生きるなら、とことん魅力的な人生を楽しみ尽くしたい。聴く度にそんな気持ちにリセットされる、何だ
かすごく元気が出てくる曲なのです。
15. Dancing Queen - ABBA
イントロが流れた瞬間に意味もなく幸せになれる音楽、というのがあります。理屈なんてないんですよ。とにかく突然幸福な気持ちになって、思わずにっこり
微笑んでしまう種類の音楽。筆頭はさしずめこの "Dancing Queen" でしょう。
キラキラしたイントロのピアノといい、足取りのしっかりしたリズムといい、健康的なお色気も感じさせる絶妙なハーモニーといい、非の打ち所のないポップ
レコードです。ここには何回繰り返して聴いても幸せな気持ちになれる魔法があります。オリジナルがヒットしていた頃、自分はまだ小学校低学年でしたが、そ
れでも耳に残って離れない曲でした。これが「オトナの雰囲気」ってやつ?みたいな。
音楽で世界を変えられるなんて全然思わない。ロックがどんなに戦争反対を叫ぼうと、人は人を殺し続けることでしょう。でもABBAの興味は最初からそん
なところを向いていなかった。どれだけ聴き手をハッピーな気分にできるか。どれだけ分かりやすく音楽の楽しさを伝えられるか。結局のところ、簡潔でポップ
なメロディと練り上げられたアレンジこそが僕らの心に残るのです。"Dancing Queen"
はその究極の形のひとつだし、きっといつまでたっても色褪せない、永遠のクラシックになると思うのです。
14. Plush - Stone Temple Pilots
「グランジ」っぽさを身にまとった薄っぺらいオルタナ寄り産業メタル。それが彼らに与えられた汚名だったし、称号でもありました。Pearl
Jam と Alice In Chains と Soundgarden
を足して大幅に希釈したような印象を受けた評論家も多かったわけですが、結局ラジオ局とキッズは "Plush"
のコーラスを支持したのです。それも圧倒的に。Billboard 誌 Album Rock Tracks
で最高1位、合計31週間の長きに渡ってチャートに君臨したこの曲は、今でもラジオでしばしばプレイされています。
とにかく隙のない楽曲。STPを語る際に、Scott Weiland
のドラッグ癖ばかりが煽情的に取り上げられる傾向にありますが、基本はギターとベースの DeLeo
兄弟のずば抜けたコンポーズ能力だと思います。しっかりしたコードの上に、圧倒的に覚えやすいメロディラインを乗せてくるセンス。この曲など、タメの効い
た重いイントロからヴァース1、ヴァース2、大合唱を誘うコーラスまで、並のバンドなら「どれか1つでもいいから分けてくれよ」と泣きつきたくなるほど完
成度の高いメロディパーツが組み合わされています。
そこにとどめを刺すのが、適度に謎めいた(あるいはほとんど意味のない)歌詞を歌い上げる Weiland
の愁いを帯びたヴォーカル。コード進行と歌詞の行き着く先にはわずかな希望の光が見えますが、より印象に残るのは、むしろ全体を支配する如何ともしが
たい諦念の方でしょう。バンドと制作者の Brendan O'Brien
が表現しようとしたその「時代の空気」こそが、キッズの心を揺さぶったのです。
13. Round And Round - Ratt
絡みつくようなギターリフに大胆不敵なヴォーカル、覚え易すぎるコーラス、そしてあまりにも完成されたツインギターのソロ。発売から20年余りを経た
今も、手直しすべき部分など見当たりません。ラジオでかかる度にアドレナリン全開、これぞ私的「LAメタルの金字塔」。
ルックス的には苦手だったんですよ。メイクはケバいし、Tシャツはずたずたにカットしてるし、故意に作り上げられた不良っぽさが気に障って。でも中学校
のクラスの友人にアルバム "OUT OF THE CELLAR"
をテープに録音してもらったらハマりました。バラード皆無、かといってスピードチューンもなし。ひたすらミドルテンポの RATT&ROLL
でリフ&コーラス勝負。Beau Hill 制作の徹底した音造りと楽曲の分かりやすさが勝因でした。
日本では Warren DeMartini の人気が高いのですが、個人的には圧倒的に Robbin Crosby
のリフが好きでした。この曲の作曲クレジットは DeMartini - Pearcy - Crosby
で、初期RATTの理想的なコラボレーションだったと言えるでしょう。"DETONATOR"
アルバムの来日公演で、それまで虚ろな目つきで演奏していた Robbin がこの曲のギターソロに差し掛かるや、突然ステージ中央に歩み寄って
Warren
とギターを寄せ合い、ぴったりと息の合ったツインギターのハモりを聴かせてくれました。長いライヴの中でほんの一瞬だけ輝いた瞬間だった。その彼も今やこ
の世を去り、"CELLAR" の中へと戻っていきました。Rest In Peace。
12. Eternal Flame - The Bangles
『胸いっぱいの愛』。彼女たちにとって2曲目の全米1位というだけでなく、80年代を通しても屈指の名曲だと思います。Susanna Hoffs
と共に作者に名を連ねる Billy Steinberg & Tom Kelly
は、ソングライターチームとして数々の大ヒットを飛ばしてきましたが、個人的にはこれがベストかな。あ、Divinyls の "I Touch
Myself" とかも大好きですけど。
シンプルなものほど美しい。この曲にはメロディが大きく分けて2つしかありません。 Susanna のロリ声が歌い出す"♪Close your eyes, give me your hand..."
というAメロは、実は最終的な大サビになるもの。これを受けて "♪Say
my name, sun shines through the rain..."
と展開するBメロはちょっと捻ったいいスパイス。ひととおりしっとりと歌い終わったところでAメロに戻り、いよいよグループ全員が素晴らしい歌声を重ねる
分厚いコーラスパートに突入していきます。
ボリューム最大にして4人の声に包まれれば、他にはもう何も要りません。ただ目を閉じて、Susanna
が歌うとおりに目を閉じ、彼女の胸に手を当ててその熱い鼓動を感じるだけ。これはただの夢なのか、それとも、永遠の炎が燃えているのか。彼女の問いかけに
答えを出そうとするとき、僕はふと、「永遠/Eternal」という概念が有効なのはこの世でただひとつ、ポップソングという世界だけだったことを思い出
すのです。
11. Why Can't This Be
Love - Van Halen
正直に言えば当時はソロシンガーとしての Sammy Hagar にもそれほど興味はなかったし、Dave Lee Roth
の抜けた Van Halen なんてどうでもいいやと思っていました。しかしアルバム "5150"
がリリースされるや大ヒットを連発し、しかもいちいち分かりやすくてカッコいい曲ばかりだったものだから驚いちゃって。Sammy が元
Montrose の伝説的なシンガーで、当時既に約10枚ものソロアルバムをリリースしていた大ベテランだと知ったのはそれからです。
ハチャメチャが売りだった Dave
時代のVHと比べると、ぐっと大人っぽく洗練されたハードロックを演奏するようになりました。子供が新しい玩具を手に入れて大騒ぎしていたような
"1984" での Eddie のシンセも、ようやくギターや Sammy
のヴォーカルと拮抗してきて、この曲に深みを与えていますよね。海の底からゆっくり浮上して、海面で激しく波しぶきをあげるようなイントロは聴く度にドキ
ドキします。
恋愛初期の衝動を綴った歌詞は他愛もないものですが、逆に言えば誰にでも経験のあるテーマでしょう。誰かを好きになって、どうしようもなく煩悶する気持
ちが、劇的に展開する中間部のソロにうまく表現されていると思います。コーラス部分で長調になって、爽やかな気持ちのままフェードアウトしてくれるところ
も好き。
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