170. Summer of '69 - Bryan Adams
ブライアン・アダムスのコンサートが素晴らしいものであることに反対する人は少ないでしょう。ヒット曲満載、お客さんも参加している気分を十分に味わえるその構成は、さすがライヴで叩き上げてきた人だけのことはあります。そんなブライアンのコンサートの中でひときわ盛り上がり、会場全体が大合唱するのがこの曲。イントロのギターリフのあと、アカペラで1番を合唱する武道館の様子、想像できるでしょ?
誰だって忘れられない夏の想い出を抱えて生きているもの。素晴らしい出会いや、燃え上がる恋愛や、切ない別れの想い出は、どういうわけだか夏場に集中しているのです。時にはその3つの想い出がひと夏の中に凝縮されていたり。…しないか。
そこに気付きさえすればマーケティングは完了、大ヒットはもらったも同然。聴き手ひとりひとりがこの曲にそれぞれの想い出を勝手に重ね、コンサート会場の熱気は最高潮に達します。聴く側のさまざまな想いを深く包み込む、大きくて柔軟な容器、それこそ
『69年の夏の想ひ出』。嗚呼なんて罪作りなブライアン。
歌詞はといえば、初めてギターを買ったこと、バンド組んで指に血が滲むまで練習したこと(でもメンバーが抜けたり結婚したりして空中分解したこと)、そして何より「君」と出会って恋したことなど、考えうる限りの青春残像が語られます。その「君」との愛も、ポーチに立って「僕」の手を握り、「♪いつまでも待ってるわ」と言った彼女を回想しながら、「♪いつまでも続くモノなんて、どうやらありはしないみたいだ」とつぶやくフレーズが2度繰り返されることでその結末を暗示するという次第。
そんな夏の想い出を80年代半ばに振り返り、"♪Those were the best days of my life." (人生最良の日々だった)と断言しつつ、帰れるものならあの69年の夏に帰りたいと歌うホロ苦さ。うーん、やっぱりよく出来た1曲っすね。
169. Monkey - George Michael
George Michael という人は100年に1人出るかどうかの天才だと思うのですが、決して世渡りが上手な人ではないようです。だからこそ惹かれる、というファンも多いのかもしれませんが。やっぱりアンドリュー・リッジリーと一緒にやってたほうが…(以下省略)。
アルバム "FAITH" はすごい作品で、例えば "I Want Your Sex" (US#2/87) で性愛路線を究めたかと思えば、"One More Try" (US#1/88) では女教師との禁じられた関係、"Father Figure" (US#1/88) ではロリータ趣味の極限に迫ってみたりしております。"Kissing A Fool" (US#5/88) でのジャズ風味の消化ぶりにはもう降参するほかないくらい。
そこになぜこの "Monkey"?というのが実は最大の謎なわけでして、しかもこれが全米1位まで駆け上ってしまったから始末が悪い。いや確かに粘りつくようなファンキーでカッコいいトラックだとは思いますが、決して全米の皆さまが肩を組んで合唱すべきテーマの曲というわけではなく(ご存知のとおり
monkey はドラッグを指すコトバ)、ある意味シリアスでお説教的な歌詞であるにも関わらず大ヒットしてしまったわけです。全国のお猿さんたち大喜び。チャートファンの間でも
Janet Jackson "Black Cat" 等と並ぶ貴重な動物タイトルの全米1位ヒットとして珍重されているといかいないとか。
それはそうと、この曲はアルバムとシングルでヴァージョンが相当異なり、イントロからして全然違ってます。噂では21世紀に入ってしまった現在でも、シングルヴァージョンを必死に探している人がいるらしいです。例えばこれを書いてる人とか…
168. Boogie Nights - Heatwave
Rod Temperton の凄さに気付くのが遅すぎました。天才作曲家と呼ぶに相応しい。Quincy
Jones の人脈で数々の名曲を書いた彼の作品に最初に触れたのは、やっぱり
Michael Jackson の "THRILLER" かな。真に名曲だと感じ入ったのはその前の "Rock With You" (US#1/80) だったと思います。George Benson
の "Give Me The Night" (US#4/80) その他多くのヒット曲を書いていたと知ったのはかなり後のこと。
この "Boogie Nights" について言えば、むしろ Michael の "OFF THE WALL" タイトル曲 (US#10/80) に近い印象。ていうかソックリです。良くも悪くもディスコ時代のヒットなのでひと括りにされてしまいがちですが、この曲での
Rod Temperton の仕事ぶりは素晴らしいものがあります。フュージョンっぽい幻想的なイントロから、思いっきりうねりまくるリズムへと展開。"♪Boogie nights" というフレーズが織り込まれたリフはつい一緒に歌ってしまいますし、重層的なコーラスワークを聴かせるサビの作りもお見事。
そして何といっても後半で満を持してフェードインしてくるカッコいいシンセサイザー・ソロ! オリエンタルな味付けで、Rod
Temperton の見事なアレンジが冴えるよく練られたフレージング。完璧に近い1曲。
167. Never - Heart
Heart といったら "Barracuda" (US#11/77) でしょ? いや百歩譲って Capitol
時代から選ぶとしても、例えば全米#1ヒットの
"These Dreams" であり "Alone" でしょ?
…ノンノン。Ann Wilson のパワフルなヴォーカルの魅力は認めます。しかしやっぱりヴィジュアル的には
誰がどう見ても Nancy の脚蹴り上げにセクシーな色目遣いでこの曲に決まりです。問答無用、返品不可。
確かにシンセの多用や、「産業ハードポップ」と揶揄されるそのサウンドの変化に戸惑ったファンも多かったことでしょうが、そうした装飾を全部剥ぎ取ったところでも、やっぱりこの曲はカッコいいし、Ann
と Nancy は可愛かった(過去形!)と思うのです。何よりポジティブな歌詞が、落ち込んだ時に元気付けてくれます。
♪逃げているだけじゃ 何も進まない
これ以上立ち止まっていても 絶対に抜け出せない
その気になれば 何でもできる
立ち上がって しっかりとしなきゃ
絶対に音をあげちゃいけない
絶対に 絶対に 絶対に
逃げちゃいけない
人間ですからモロい部分もあります。打たれて凹む時もあるわけですけれど、そんな時はやっぱり好きな音楽を聴いて、前向きな気持ちになりたいなって思います。Nancy
に蹴り上げられて喝入れてもらいたい人もいるらしいですけど(笑)。
166. Give Me A Little More Time - Gabrielle
1996年、UKからこんなにも無防備なヒット曲が出るとは予想もしませんでした。
Gabrielle といえば "Dreams" (UK#1・US#26/93) で鮮烈なデビューを飾ったイーストロンドン出身のブラック女性ヴォーカリスト。黒のアイパッチが印象的でしたが、あれは単にプロモ写真撮影時に眼を患っていたためらしく、そのイメージがついて回って困るわ、というインタビューを読んだことがあるような。とにかく一発屋で終わるかと思ったところに飛び出したのがこの
"Give Me A Little More Time" の大ヒットだったのです。
決して声量のある人じゃありませんし、音域もむしろ狭い方でしょう。そこを逆手にとり、モータウン風の懐かしいトラックに古ぼけたホーンセクションを鳴らしたりして、全体にモノラル録音のような雰囲気を醸し出したアレンジの妙にまずは感心。この音の上なら、Gabrielle
のヴォーカルもむしろイイ感じにかすれてくれるわけです。結果、極めて好印象の可愛らしい1曲ができあがりました。
歌詞だって可愛さ炸裂。いわゆる「いい友達関係にある男女が、もう1歩踏み出そうとする時の揺れる気持ち」テーマです。
♪Give me a little more time
I need to make up my mind
Cos you know I'm in two minds
I wanna be more than your friend
Ooh I just can't pretend any longer
Feelings getting stronger
こういうフレーズを嫌味なく歌えるかどうかが、同性からも好かれるかどうかの分かれ目。実際のところ
Gabrielle は女性ファンからもずいぶん支持されているみたいです。
165. Super Freak (Part I) - Rick James
猫も杓子も M.C. Hammer に大騒ぎしていた頃がありました。そう遠い昔のことではありません。
あの "U Can't Touch This" (US#8/90) でサンプリングされたこの曲、もちろん自分もそれまで知りませんでした。とにかく一度聴いたら忘れられない強烈なフックを持ったベースライン。もうこれだけで勝負あり!と言いたくなります。歌詞はどうやらかなりイヤラシイ女の子のお話のようで、若い婦女子には到底オススメできません。
Rick James のファンクは実はとてもカッコよくて、既成の枠に囚われない音楽志向やそのカリスマぶりからも、ひょっとすると
Prince の座を狙えた人なのかもしれません。所属していた
Motown レーベルとはずいぶん衝突したようです。ゴタゴタ続きで私生活も荒れ、婦女暴行だかで刑務所入りした時期もあり、大事な年月を棒に振った感は否めません。残念なことです。
164. Driving - Everything But The Girl
Tracey Thorn と Ben Watt の2人組です。その昔、某音楽誌で見つけた誤植が忘れられません。…
「トレイシー・ゾーン」。トワイライトゾーンじゃないんだから。
それはさておき、この曲は1990年のアルバム
"LANGUAGE OF LIFE" からのシングルヒット。といってもかなりマイナーなヒットになります。自分自身は
J-WAVE なんかで結構聴いたような気がするのですが、どうだったのかな。アルバムの制作にはスタン・ゲッツやジョー・サンプルらを揃えて、徹底的にAOR/フュージョン路線を究めます。この曲に関して言えば、淡々とした静かな決意表明みたいなところがとてもお気に入り。
♪私を呼んでくれさえすれば、何時だって車を飛ばして貴方のもとに駈けつけるわ、といった主旨の歌詞を、静かに、しかし迷いなく歌い切る
Tracey Thorn の澄みきった歌声。まさかこの数年後に "Missing" の Todd Terry ミックスで全米チャートを事実上制覇することになろうとは…
163. Tenderness - General Public
遅れてきたブリティッシュ・インヴェイジョンみたいなノリでこの曲が爽やかにMTVでかかりまくっていたのを、ちょっと懐かしく思い出します。「一般大衆」なんて人を食ったようなグループ名も気に入ったし、この曲のスピーディなビートの中に、ちょいとホロリとさせる歌詞も大好きでした。
中心メンバーの Dave Wakeling と Ranking
Roger はもともと English Beat というスカバンドの仲間。Specials
からベーシストを、Dexy's Midnight Runners
からキーボーディストを連れてきて結成した、人種混成の言わばスーパースカバンドがこの
General Public。で、I.R.S.レーベルからリリースしたこの曲で一気に全米でブレイク(全英ではヒットせず)。アルバム
"ALL THE RAGE" も割と高い評価を受けますが、シングルヒットが続かずバンドはこの後空中分解してしまいます。個人的にはセカンドシングルとしてMTVでヘヴィローテーションされていた
"Never You Done That" なんて大好きだったのですが…
94年に映画 "THREESOME"
の挿入歌として "I'll Take You There" (US#22/94) がヒットして再結成したのも記憶に新しいところですね。
162. Who Can I Run To - Xscape
歌を歌うのにルックスなんて関係ありません。大事なのは声です。心です。見栄えなんてどうだってよいのです。気にしない、気にしない。
…と強調すればするほど、却って墓穴を掘るばかりの彼女たち。2nd,
3rd とアルバムを重ねるごとにやや垢抜けましたが、デビュー当時はそのヴィジュアルにビックリしたものです。だがもちろん、可愛いだけで全然歌えん女の子たちより、多少ブサイクでも歌が上手い子たちの方がよい。これは定説。そしてまた、圧倒的に可愛くないルックスが強烈に彼女らのキャラを立たせ、ブサイクの王道を突き進んだことでブサイク予備軍の女の子たちからの断固たる支持を得た。これは深読み。
この曲はカヴァーです。オリジナルは "You Gonna Make Me Love Somebody Else" (US#38/79) のトップ40ヒットで知られる The
Jones Girls。そのシングルのB面にも収録されていたこの
"Who Can I Run To"、これがまた実に切ないバラードなのですよ。
♪Who can I run to / to share this empty
space
Who can I run to / when I need love
Who can I run to / to fill this empty
space
Who can I run to / when I need love
と、まさに恋を見つけようとしている女性の心境が歌われます。女性は恋をすることで美しくなる。そんな女性誌的フレーズを思い浮かべながら、一方で
Xscape のルックスを思い浮かべながらこの詞を読むならば、また違ったイメージが立ち上ってくることでしょう。愛すべき4人の女の子たちによる、何度聴いても味わい深い1曲。
161. Time Will Reveal - DeBarge
DeBarge はもちろんリアルタイムで体験していて、数々のヒット曲を聴いていたはずなのですがどうにも印象が薄い。Jacksons
あたりを意識した超大型ファミリー・グループとして、Motown
レーベルがあまりにも肩に力の入ったプロモをしてしまったせいか、なぜかいきなり映画界に進出("THE
LAST DRAGON" でしたっけ?)してしまったりしたせいか、各メンバーのキャラがイマイチ立ってなかったせいか、などなどいろいろな要因が考えられます。が、最大の理由は
El DeBarge のあの胡散臭い口ヒゲにあったのではないでしょうか? なんて、後になってからは何とでも言えるわけです(笑)。
近年サンプリングソースにも多用されて
DeBarge
の復権もかなり進んでおりますが、例えばこのバラードは本当に素晴らしい。美しいファルセットを聴かせながら、ハッとさせるような巧みな転調。メロディーラインがかなりダイナミックに展開する、ある種技巧的な逸品だと思います。静かに、しかしどこまでも盛り上がる神聖なコーラスは、できれば深夜に灯りを消してじっくり聴きたいところ。
"I Like It" (US#31/83)、 "All This Love" (US#17/83) など、ミドル/スロウを中心によくできた楽曲がたくさんあるグループでした。アップものでは線の細さが気になりましたけど。でも口ヒゲは禁止。
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