150. I'll Manage Somehow - Menswe@r
みんな、恥ずかしがらずに言おうよ。95年当時一度は
Menswe@r のCDを買ったことがあると… 当然その多くは中古屋に売り払われてしまい、各店の中古CDシングルコーナーなどで綺麗な背中を見せて並んでいます。ですがここで敢えて言いたい。「あの頃は確かにカッコよかった」。
しかしここまで見事に消え去ってしまうとなかなかツライ。正直、飲み会で場がモタってきた時に「…メンズウェアっていたよね」とか言って持ち出してウケを狙うくらいの用途しかないかもしれない。
まさしく過剰なまでの Johnny Dean
(vo.)
のナルシズム。細身の身体を、当時最先端ファッションだったタイトなスーツに包み、ステージ上で髪をかき上げる仕草には苦笑したでしょ? Duran
Duran 最盛期の Simon Le Bon より笑えたよ多分。でも、こと楽曲に関して言えば、それほど悪くなかった。いやむしろマジでカッコよかったと思うのです。叩きつけるようなリフで一気に持っていくこの
"I'll Manage Somehow" といい、歪んだリズムが倒錯的な "Daydreamer"(デイドリーマーじゃない。ダイドリーマーです)といい、あるいは颯爽と駈け抜ける
"Stardust" といい、シングルはどれも印象的でした。
既に死語、『Britpop』の徒花。短くも美しく萌え。
149. Love Letters - Ali
98年のR&B界を揺るがした1枚。それは
Ali の "CRUCIAL"。
多くのレビュワーの年間ベストアルバムに選ばれましたが、個人的にはアルバムはいまひとつピンと来なかったんですよね。しばらく前に盛り上がった
New Classic Soul 的な懐古趣味かと思いきや、バックトラックが時として軽かったり新しすぎたり。クレジットを見ると、Family
Stand のメンツがいたりして、ああそういうことねと思ったり。どうも焦点が絞りきれてない感じではありました。
とはいえ、シングルになったこの曲には完全にやられました。これ以上はないっていうくらい、真っ当でオーソドックスなミディアム。HIレコード/HIサウンドを彷彿とさせる、アル・グリーン的なもたり気味の歌声。これをソウルフルと表現せずしてなんと描写する、というくらい声だけで持っていかれます。自然体でこのアル・グリーン声が出せるなら、そりゃ歌唄いになるでしょう普通。もちろん僕の "Let's Stay Together" のリアルタイムはアル・グリーンじゃなくてティナ・ターナーだったわけですけど。
フワフワして何やら幸せげなトラックに乗っかる歌詞もどうやらハッピーげ。
ポジティブなラヴソングには決定的に弱いのです。聴いてるだけでこっちがニヤけてしまうような展開に、至福の時を過ごせることを100%保証。さらにセンター街の恋文食堂でかかったりすると好感度当社比200%増。かからねえよ。
148. If Anyone Falls - Stevie Nicks
まさしく年齢不祥の妖女系キャラ。喜んで毒牙にかかりたいものです。
…そうじゃなくて。1948年生まれで年齢を計算してください。ハイ。
Stevie Nicks にはヒット曲が多過ぎて、どれを選ぶか迷うところなのですが、ここでは敢えて、決してメジャーとはいい難いこの曲にひねくれた愛情を感じてみましょう。。リアルタイムで初めて出会ったのは "Stand Back" (US#5/83) ですから、これは2曲目ということになります。83年の夏にはいい曲にたくさん出会った印象があって、その後の音楽の聴き方にも少なからず影響を与えていると自分でも思うのですが、これなども地味めながら忘れ難い1曲。
とにかく他を圧倒する分厚いシンセサイザーのリフ。その音圧に飛ばされます。
そしてシンセを押しのけて飛び出してくる
Stevie の踏み潰されたヒキガエルの如き御声! いや別に。誉めてるつもりなんですけど。でもあのルックスにこの声ですから。やっぱりそこは。ああん。
歌詞的にはこの人、謎めいたファンタジー系の描写が多くて、どうにもこうにも具体的でありません。見てくれのとおり、白くてヒラヒラした衣装をまとってクルクル踊ってるような世界に陶酔しきってる様子。よっぽどしっかり自分のキャラ作りこんでるのか、あるいはちょっとイッちゃってるのか、気を揉ませるあたりで既に彼女の術中にハマってるという説もあり。
♪If anyone falls in love
Somewhere...in the twilight...dreamtime
Somewhere...in the back of your mind
If anyone falls...
誰かが恋に落ちるとすれば、それはきっと私かあなたのどちらかよ、というわけで。
願わくば相思相愛、ですよね。
147. Crush - Jennifer Paige
98年、女性 vocal ファンの心を熱く焦がした1曲。
オープニングの "♪Ahhhh, crush, ahhhh..." だけでイケる人もいるでしょう。しかしこの鬼キャッチーなプチ哀愁ナンバー、まだまだ聴かせどころ満載です。良くできた楽曲で、ポップソングとしては満点に近いのでは。リズムに絡みつくように乗っかっていくヴァースから、高音部にフッと抜けていく印象的なコーラスへ。聴いたら2度と忘れないフックだと思いませんか?
♪It's just (a), a little crush (crush)
not like I faint, every time we touch
It's just (a) some little thing (crush)
Not like every thing I do
ooh depends on you ooh
sha la la la
sha la la la
本当はドキドキしている恋心を無理に押し隠して、「どうってことないのよ」とカッコつけて見せる感じがまたいいじゃないですか。しかし実は本当に気にしてなくって、男の子の側の気持ちが勝手に走っちゃってるだけなのかもしれない訳です。そりゃまた悩ましいシチュエーション。だって、すごく好きになってしまった相手が自分のことを気にもかけてくれないことほどツライこともないでしょ? …こんなポップソングに何をこんなに熱くなってるんだオレは(笑)。
この曲がヒットした頃、HMV渋谷店にプロモ来日した彼女を見に行ってきました。ちょっと大柄な感じで動きもこなれていなかったけれど、そこがウブっぽくて可愛くもあり。生の歌声もまずまずでしたが、シングルやアルバムのジャケ写と実物のルックスはちょっと違うぞという感じでした。シャラ、ラ、ラ。
146. Sugar Walls - Sheena Easton
「私の甘〜い壁の内側に入ってみたくない?」
オーマイガッ! いいんですか貴女そんなこと言っちゃって!
だって天下の Sheena Easton ですよ。清楚さで売った彼女がいきなり濡れ場を演じるが如きその展開に、世の女性
vocal ファンたちは嘆き悲しむフリをしつつ、一方でこの曲収録のアルバム
"A PRIVATE HEAVEN" を愛聴したといいます。
確かにイメージチェンジを図りたい時期にきていたのでしょう。Alexander
Nevermind なるソングライターが手がけたこの楽曲は、清楚で爽やかな
Sheena のイメージを根底から覆す激セクシーな歌詞。はっきり言って萌え萌えです。しかもそのソングライターがあの
Prince の変名であることが判明したから大騒ぎ。まさしくスキャンダラス、アブナすぎる関係。2人のコラボレーションはその後も続き、ヒットチャート上には
Prince 名義で US#2/87 の大ヒット "U Got The Look" まで残してくれました。バックコーラス、というよりほとんどデュエット状態でフィーチャーされた
Sheena の悩殺ヴォイスがたまりませんでしたね。ね。ね。
確かにいかにも Prince 作らしい軽めのファンクで、キューッと盛り上げたあとコーラス最終行でぐっと落とす手法なんかは、言わば彼の十八番。ヴォーカルアレンジもよほど手取り足取り
Sheena を指導したのか、Prince 的な
breath
の使い方や喘ぎ、絶頂スクリーム気味のハイトーンが随所で効果的に挿入されてます。
今でもこっそり独りで聴きたい1曲。
みんなと聴きたいオススメは例えば
"For Your Eyes Only"(US#4/81) と "Almost Over You"(US#25/84) などなど。
145. Say You'll Be There - Spice Girls
"Wannabe" のある意味プログレッシヴな仰天アレンジも捨て難いのですが、キャッチーなポップソングとしての完成度の高さを買ってこちらをピックアップ。
96年は完全に Spice Girls にやられました。でもどんなに面白かったと言っても、まさか97年が明けて全米チャートでもヒットするとは夢にも思わなかったんですよね。アメリカじゃ絶対キワモノ扱いされるだろうと高を括っていたので、"Wannabe"
が上位に飛び込んできた時はもうびっくりしちゃいました。
Spice Girls 成功の要因は当然5人のキャラ立ち具合。ブロンドあり赤毛ありブラックあり。シックありスポーティありロリあり。あらゆる角度から綿密に計算されたマーケティングがこれほど的確にヒットすると、仕掛け屋サイドとしても笑いが止まらんことでしょう。
ですが、少なくとも初期についてはいい楽曲を揃えていたことも見逃せない事実。特にこのナンバーにおいては、"Wannabe" の意表を突いたプロダクションとは打って変わって、正統派ポップスタイルを究めてみせました。友達でいよう、って決めていた相手から告られて、戸惑い揺れる心。素人っぽいヴォーカルを順番に回しながら、次第に惹かれる様子を微妙に表現。
♪I'm giving you everything all that
joy
can bring this I swear
(I give you everything)
And all that I want from you is a
promise
you will be there
Say you will be there (Say you will
be
there)
何てことないメロディに何てことない歌詞。でもつい口ずさんでしまいませんか?
144. Der Kommisar - After The Fire
邦題 『秘密警察』。
全米トップ40ヒットはこれだけ、だのに強烈な印象を残す一発屋。
この曲はエレポップ的なダンスビートの利いたアレンジなので本質を見誤りがちですが、70年代にリリースされた諸作は結構プログレッシヴらしいです。しかしこの英国出身バンドに
Peter Banks というメンバーを見つけて「Yes
や Flash にいた彼か!」と騒ぐのはどうやら誤りで、同名異人だというのが通説のようです。Yes
の彼はギタリストで、Atter The Fire
の彼はキーボーディストだから、そりゃ違うわね。
Epic がどうした訳か83年に大ヒットさせたこの
『秘密警察』、オリジナルはご存知 Falco です。"Rock Me Amadeus" の全米1位ヒットで知られる故ファルコ。惜しい人を亡くしました。"Rock Me Amadeus" と言えばあの硬質なドイツ語風ラッピンが印象的だったわけですが、この
『秘密警察』 においても見事にそのヴォーカルアレンジが継承されてます。子音が多過ぎて音符に乗っかりきらない感じで無理矢理押しこめるゲルマン系の力技。みたいな。
要するに、『チャッ! チャッ!』
と唾が飛んで来そうな訳ですよ。スピーカーネットを通して。
ベストヒットUSAでかかってた秘密警察チックなビデオクリップもまた忘れ難し。
143. One Thing Leads To Another - The Fixx
The Fixx。ザ・フィクスと読みます。恐らく、洋楽を聴き始めてから一番最初に「バンド」単位で好きになったアーティスト。思い入れありすぎて何から書いていいか分からないくらい。
ブリティッシュ・インヴェイジョンで盛り上がる80年代初頭でしたが、しばらく聴き進んでいくと、どれもこれも陳腐なラヴソングばかり、薄っぺらいムーヴメントだなぁという思いが強くなってきました。例えば太宰や三島やカフカを読んで熱くなる多感な季節、硬派なスタイルに憧れる時期もあるわけです。
そんな時にベストヒットUSAで小林克也さんが紹介した "Saved By Zero" (US#20/83) のビデオクリップの鮮やかな色使いにやられ、The
Fixx の観念的で高い精神性を持った歌詞の世界に惹かれたのです。続いて83年8月だったと思いますが、NHK-FMのクロスオーバー・イレブンでオンエアされたこの
"One Thing Leads To Another" をたまたまエアチェックしていてその場に凍り付きました。鋭く研いだナイフの如く切り刻む、シャープなカッティングのリズムギター。淡々と叩き続けるドラムスと、隙間だらけなのに緊張感溢れるシンセサイザー。そこに乗っかる力強い
Cy Curnin のヴォーカルの説得力。
「凄すぎる…」
翌日レコード屋でアルバム "REACH THE BEACH" を購入、まさにどっぷり漬かるように聴き込みました。当時全米のラジオ局でも圧倒的な支持を得ていたこのアルバムは、シングルヒット以外の曲の奥深さも相当なもので、政治的な姿勢を知的なセンスでくるんでポピュラー音楽の形態にパッケージする手法に、目と耳からウロコがポロポロ落ちたものです。洋楽体験初期にこのようなハイセンスなアルバム、アーティストに出会えたことは本当に幸運でした。
この曲、シングルテイクはアルバムヴァージョンよりイントロの音数が4音多いので要注意。
142. Is This Love - Whitesnake
漢(おとこ)。まさに David Coverdale
のためにある言葉といっても過言ではないでしょう。彼がステージでマイクスタンドを持ち上げ、小さく振り下ろしてポーズをとる時、婦女子の皆様はきっと熱く濡れるのです。
遅れてきたハードロック聴きとしては、リアルタイム経験はやっぱり1987年の『サーペンス・アルバス(白蛇の紋章)』。ボロボロの状態で "Still of The Night" (US#79/87) のビデオクリップ1本だけを携え、単身アメリカ市場に乗り込んだ彼の心中は察するに余りあります。しかしMTVの強力な支持を取り付けた彼は
"Here I Go Again" のリメイク版(US#1/87)で一気にブレイク、続くこの名バラッドで僕らのハートを完全に鷲掴みです。
John Sykes の色が濃く出た楽曲・演奏であることは今更指摘するまでもないでしょう。例えば
John が脱退後に結成した Blue Murder
にも "Out of Love" という続編めいた泣き泣きバラッドが収録されてます。離れてみて初めて分かる独りで過ごす時間の辛さ。彼女を想って眠れぬ夜。漢(おとこ)はその時、彼女こそが探し求めていた相手であったこと、これこそ真の愛だと悟るのです。Don
Airey の地味なキーボードが何気に曲を引き立ててます。
Coverdale / Page のことは… もう忘れてあげるとするかな。
141. Ride Like The Wind - Christopher Cross
『風立ちぬ』。今は秋… って松田聖子じゃなくて。かといって堀辰雄でもなく。
Christopher Cross で1曲、というのもなかなか難しいですね。当然『ニューヨーク・シティ・セレナーデ』(名邦題!)こと "Arthur's Theme (Best That You Can Do)" (US#1/81) には、まだ小学生ながらもラジオでかかる度に「これぞ名曲!」と興奮してましたし、その後も "All Right"(US#12/83) や "Think of Laura"(US#9/84) などいいヒット曲が続いたものです。
聴き始めが遅くて彼のデビュー当時に立ち会えなかったのはちょっと残念。AOR界に衝撃を与えた驚異のデビュー作『南から来た男』は、凄腕スタジオミュージシャン総動員によるクオリティの高さとともに、ジャケットやプレス資料に一切本人の姿がないという謎めいた広告戦略で評判を煽ったと言われています。透き通った美しいハイトーンヴォイスに、楽園を思わせる美しいピンクのフラミンゴのアートワーク。それもこれも、本人のルックスがあまりにもサウンドとかけ離れていたが故のことだったわけですが…。今となっては昔話。
やはり良い音楽は時を越えていつまでも僕らの記憶に残ります。海岸のハイウェイを飛ばしていたら急に視界が暗くなり、真っ青だった空が黒雲に覆われて雷鳴が鳴り響くが如き緊張感あふれるイントロ。不安を煽るストリングスに、すっと切り込んでくる逃亡者のストーリィ。バックに配置されたさりげないパーカッションに、メキシコ国境地帯をイメージ。そして、高まった緊張感を十分に受けて、Christopher
Cross のコーラスと掛け合う Michael
McDonald
のパートは、AOR史上最もスリリングな瞬間の一つでしょう。一聴してMichael
のそれと分かるハスキーでソウルフルなその声は、まさに「ブランド」として存在しうる強烈な存在感を放っています。
やっぱり行っとけば良かった。99年他の
Christopher
Cross & Michael McDonald 来日公演。この曲当然の如くラストあたりで歌ったんですってね。あの掛け合いを生で聴く機会があったのにみすみす聴き逃すなんて。ああ馬鹿馬鹿。俺の馬鹿。
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